瑛+和希&朋編
「待っててね、少しだけ・・・・・」
そう言ってから、石川朋(いしかわ とも)の日常は変わった。
いや、今までも他人の目から見ればかなり変わっていたのかもしれないが、それが数倍にもパワーアップした感じだった。
それは・・・・・。
「ち、ちょっと、アキちゃん、カズ君、くっ付き過ぎじゃない?」
「そうか?まあ、兄さんの手がスケベっぽいから目立つのかな?」
「お〜、よく言うな、ムッツリの和希。お前の方こそ視線が意味深過ぎるんだ」
「兄さんに言われたくないけどね」
「俺の方こそ」
「もうっ、こんなに人がいっぱいいるとこで変なこと言わないでよ!」
中学3年生の石川 朋(いしかわ とも)には二人の兄がいる。
上の兄、瑛(あきら)は大学2年生。父親に良く似た男らしい容貌で、常に女の子に囲まれているほどにモテていて、下
の兄、高校3年生の和希(かずき)は母親に良く似た美貌の持ち主で、信奉者が後を絶たないくらいだった。
そんな2人の兄から愛を告白された朋は、両親にも兄達にも似ない平凡な容姿で、なぜこんな自分にと兄達の気持ち
が不思議だった。
実は、朋は母親の妹の産んだ子で、兄弟達にとっては従兄弟にあたる。
だから、容姿がそれほどに似ていなくてもおかしくは無いのだが、その秘密を知っているのは今のところ次男の和希だけだっ
た。
和希はそれを知った頃、小学生の頃から朋を特別な目で見ていたが、それは瑛も同様だった。
瑛は朋を実の弟と信じていてなお、特別な思いを抱いたらしい。
2人の目が自分を特別に見ていると気付かなかった朋は、自分の方が2人を特別に見ていると勘違いをした。
それなりの意図を持って朋に触れていた2人の手に、感じてしまいそうになる自分の方が変だと思ってしまったのだ。
だから、思い切って自分の気持ちを伝えたのだが・・・・・返ってきたのは2人の熱烈な告白だった。
「手、おかしいんじゃないかな?」
「何が?」
「男が3人で手を繋いで歩いてるの・・・・・あ、ほら、また女の子が見た」
デートをしようと言ってきた瑛に、抜け駆けは許さないと和希が言い、結局3人でやってきた遊園地。
日曜日のそこはかなりの人出だったが、瑛も和希も実に堂々と朋に触れてくる。
今も、両手を2人に繋がれた状態で、若い女の子のグループなどはあからさまに3人を見ていた。
「朋が可愛いからだって」
「嘘だ!」
楽しそうに笑う瑛の言葉には反論したが、
「気にするなよ、はぐれたらいけないだろう」
「・・・・・そうかなあ」
理路整然とした和希の言葉には自然と頷いてしまう。
それは普段の2人の生活態度のせいだったが、瑛は面白くないように口を尖らせた。
「朋は和希の言葉は信じるよなあ。俺より和希が好きなんだ?」
「え?」
「ガキだね、兄さん」
「お前は煩い。な、朋、俺より和希の方が好きなのか?」
「ど、どっちも好きだよ?」
「・・・・・ふ〜ん」
「だって・・・・・本当にそうなんだもん」
2人にドキドキしている気持ちは本物だ。
普通の兄弟でそんな事を思うことは無いだろうから、その気持ちはちゃんと恋愛対象としてなんだと朋も自覚はしている。
ただ、相手が2人なので、なかなか気持ちが定まってくれないのだ。
「アキちゃん・・・・・」
男らしくて、明るくて、向けてくる視線がやけに艶っぽい瑛が・・・・・好きだ。
「朋、兄さんの言葉は気にしなくていいよ」
「カズ君・・・・・」
綺麗で、優しくて、触れてくる和希の指先に・・・・・ドキドキする。
一度に2人を、それも兄達を好きになるなんておかしいと思うが、朋はその気持ちはどうしても消すことは出来なかったし、
嬉しいことに兄達も同じ様に想いを寄せてくれているという。
(選ばなきゃいけないのかな・・・・・)
どうして2人共好きでいてはいけないのだろうか。
「朋、常識なんかくそくらえだ」
そんな朋の心がまるで見えているかのように、瑛はギュッと朋の手を握り締めて言った。
「アキちゃん?」
「朋の気持ちが一番大事だから」
「カズ君・・・・・」
和希も、綺麗な笑顔を浮かべて、軽く朋の頬に唇を寄せる。
「あ〜!抜け駆けだぞ!」
「兄さんもすればいいだろ」
「よし!朋、ちゅーだ、ちゅー!」
「もうっ、変なことしないでってば!」
朋は笑いながらするりと2人の手の中から抜け出した。
「ほらっ、早く行こうよ!」
そして、振り返って2人を交互に見つめると、ガシッと2人の両腕を捕まえる。
「どっちも俺のだもん!」
選べなければ選ばなかったらいい・・・・・その選択に朋が気付くのもそう遠くはなさそうだった。
end