アレッシオ&友春編





 高塚友春(たかつか ともはる)は隣を歩く背の高い男をチラッと見上げた。
いったい何センチなのか・・・・・あまりに長身だと圧迫感を感じるはずなのに、物腰が優雅なその男は少しもそんな気配は
感じさせない。
(それどころか・・・・・目立ち過ぎ・・・・・)
 サングラスを掛け、隙無いイタリアのブランドスーツを着こなしたその男は、この暑さだというのに汗の一つもかいていない。
それどころか、彫りの深い・・・・・しかし、くど過ぎないその美貌に、擦れ違う女はもちろん、男までもわざわざ振り返ってそ
の姿を見ていた。
 「どうした、トモ」
 「・・・・・え?」
 「さっきから、私の顔をずっと見てる」
 「・・・・・っ、そ、そんなこと・・・・・」
友春は慌てて視線を逸らす。
 「・・・・・」
そんな友春の横顔を、今度は男がじっと見下ろして・・・・・笑んだ。



 アレッシオ・ケイ・カッサーノ・・・・・。
イタリアの富豪であると同時に、イタリアマフィア、カッサーノ家の首領である男。
強引に友春の身体を奪い、そのままイタリアまで攫ってしまった男は、一生友春を縛り付けることが出来るほどの権力と
財力を持ち合わせていた。

 しかし、アレッシオは友春を日本に帰してくれた。
初めからやり直したいという友春の言葉を聞き入れ、自分達の関係も初めからやり直す為にと、こうして忙しい時間を割
いてまで日本に来ているのだ。

 正直に言えば、友春はまだ迷っているし、分からない。
自分がアレッシオのことをどう思っているのか、これから彼とどういう関係を築きたいのか、自分自身が分からないのだ。
それでも、抱かれるたびにどんどん身体だけでなく心も、アレッシオを受け入れ始めている自分がいる。
怖いと思っているセックスも、気持ちがいいものと思い始めている。
会えない時間を・・・・・淋しいと思い始めている・・・・・。





 「トモ?」

 今日も、昼食を食べ終えた頃に、アレッシオはいきなり連絡を寄越してきた。

 「今空港にいる。トモ、可愛い顔を見せにきてくれ」

そんな言葉に、友春は大学の講義をすっぽかして、ノコノコ空港まで来てしまった。
自家用機で来るアレッシオには時間など関係ないようだが、今日はもう明日の昼過ぎには戻らないといけないという。
1日も無い滞在時間・・・・・。こんなに慌しいのならば来ない方がいいはずなのに、アレッシオは例え1時間しかなかったと
しても、時間が空けば友春の顔を見たいと言ってくれる。
分単位でスケジュールが決まっているアレッシオのその無茶ぶりに、振り回されている周りが気の毒と思う反面、それ程に
自分を想ってくれいているのは・・・・・少し、嬉しいと思ってしまう。

 「トモ、どうした?」
 「あ、あの・・・・・今からどこに?」
 またホテルに直行なのだろうか。
しかし、友春の問いにアレッシオは事も無げに答えた。
 「お前の家に行きたい」
 「ぼ、僕の?」
いきなり何を言うのかと友春は驚いた。
今までアレッシオは友春自身には興味があるものの、友春の実家のことは全く話題に出したことも無いのだ。
(そんな・・・・・家に来られたりしたら、もしも両親に・・・・・)
 不自然なイタリア留学の件について、両親は今まで友春を問い詰めたことは無い。
しかし、戻ってきた友春の様子が、どこか変わってしまった事には気が付いていて、そこにイタリア人のアレッシオが現われた
としたら・・・・・。
直ぐに肉体関係があるなどとは思わないかもしれないが、自分のごく身近な人間・・・・・それも、両親にアレッシオを会わ
せるのは怖い。
 「ケ、ケイ、あの・・・・・」
 「何が心配だ?」
 「何って・・・・・」
 「トモの両親は私のファミリーだ。会いたいと思ってもおかしくは無いだろう?」
 「・・・・・」
 アレッシオが友春の肩を抱き寄せた。
アレッシオが何時もつけているコロンの匂いが更に強く感じる。
 「お前が嫌がることはしないと誓った」
 「ケイ・・・・・」
 「トモの普通の生活が見たい。駄目だろうか?」
 「・・・・・」
イタリアにいた時はあれほどに威圧的で自己中心だったアレッシオは、日本に訪れるたびに酷く甘く優しくなっていくような
気がする。
そして、友春も、イタリアにいた頃とはまた別の意味で、アレッシオに逆らえきれなくて。
 「トモ」
 「・・・・・」
 「可愛いトモ、イエスの返事をくれないか?」
その言葉に、友春が頷くのも時間の問題だった。





                                                                  end