500,000キリ番ゲッター、もうお一方、ひまわり様のリクエスト分です。












小さな嫉妬は愛の唄










 「ん?マコちゃん、どうかした?」
 「え?」
 ぼんやりとしていた真琴が慌てて顔を上げると、目の前ではモデルのように足を組んでいた綾辻がからかうように笑っている。
真琴はやっと今自分が赤坂の甘味屋にいることを思い出した。
注文したぜんざいは手の中で既に温くなっていて、真琴はあ~あと残念そうに眉を下げる。
 「ぼんやりしてた。私といるの、つまらない?」
 「そ、そんな事ないですよ!凄く楽しいし、でも、つき合わせちゃって申し訳ないし・・・・・」
 「私がしたくてしてるのよ。克己にも羨ましがられちゃって、優越感に浸ってるくらいだもの」
 「・・・・・そう、思ってもらえてたらいいけど・・・・・」
(まだ2日もあるのかあ・・・・・)



 西原真琴の恋人は、関東最大の暴力団『大東(だいとう)組』の傘下、『開成(かいせい)会』の3代目組長、海藤貴士(か
いどう たかし)だ。
大学生の真琴とヤクザの組長である海藤が恋人同士になるには紆余曲折はあったが、今は相思相愛の、傍から見ても幸せそ
うなカップルだ。
 そんな海藤が、2日前からマンションに戻っていなかった。
それはもちろん理由があり、母体組織の大東組の地方の傘下の組長達が、3年に1度東京に集まって様々な協議をする会合
が今年あり、その世話係の1人に海藤が指名されたのだ。
 東京で行われる会合なので、本来はマンションで寝起きしてもいいのだが、24時間昼夜関係ない呼び出しに対応せねばな
らず、真琴に気を遣わせたくないと思った海藤は、その間都心のホテル暮らしをすることになった。

 「終り次第、直ぐに戻る」

 もちろん、海藤の仕事に口を挟むことなど出来ず、たった5日だからと思っていた真琴も、たった2日でもう寂しくなっていた。
今までも海藤の帰宅が遅くなることもあったし、出張で帰らない時もあった。
しかし、帰宅が遅くても翌朝必ず顔を合わせることが出来たし、出張は長くても2、3日だ。
 忙しいのかあまり電話も無く、顔も見れないのがこんなに寂しいのかと思った真琴を気遣ったのか、綾辻が頻繁に真琴を連れ
出しに来てくれた。
趣味が多く、顔の広い綾辻が連れて行ってくれる店や遊び場はどこも楽しく美味しく、その間は真琴は海藤の不在を忘れて楽
しむことが出来た。
本来なら、海藤が不在の間の開成会を守らなければならないはずが、綾辻はそれを倉橋1人に任せて自分は真琴に付きっ切
りになってくれている。
自分ではサボりだといって笑っているが、それが真琴の為を思ってしてくれているということはよく分かった。
 ただ・・・・・やはり、寂しい気持ちが消えることはない。
真琴は綾辻には申し訳ないが、はあ~と溜め息をついた。



 「今夜は何が食べたい?」
 「え~と・・・・・」
 甘味屋を出た2人は、のんびりと歩きながら話し始める。
どこがいいだろうかと考えながらふと視線を反対側の歩道に向けた真琴は、パタッと足を止めてしまった。
 「マコちゃん?」
 「海藤さんだっ」
 「え?」
 丁度、向かいに立ち並ぶブランドショップの前に止まった黒塗りのリムジンから、見惚れるほどに整った容姿の愛しい人、海藤
が降り立ったところだった。
こんな街中で偶然会えたことに嬉しくなった真琴だが・・・・・。
 「マコちゃん、行きましょうか」
 「・・・・・」
 「マコちゃん」
海藤がわざわざ開けた後部座席のドアから出てきたのは2人の女だった。
年の差と顔立ちから見れば親子だろうか、遠目からもなかなか綺麗な2人の女達はまるで左右から海藤の両腕に縋るように身
体を寄せ、嬉しそうに頬を綻ばせて話し掛けていた。
特に、若い女の方は、明らかに海藤に好意を抱いているような視線を向けている。
 「・・・・・」
 3人は真琴の存在に気付くことはなく、そのまま店に入っていった。
 「・・・・・行こ」
 「・・・・・海藤さん、組長さん達のお世話してるんじゃないんですか?」
 「・・・・・」
 「綾辻さん」
縋るような真琴の視線に、綾辻はハア~と深い溜め息をついた。
 「上京してくるのは親分連中だけじゃないのよ。その奥さんとか子供とか、観光気分で付いて来る人達も多くてね。うちの社長
は見栄えするから、その人達の人気が高くって・・・・・」
 実を言えば綾辻もその為に指名されそうになったのを逃げた口なのだ。
しかし、海藤は当然避けることなど出来ずに、ああして姐さん達の世話もしているのだろう。
 「後から知って嫌な気分にしたくないから言うけど、うちの社長はまだ独身で、その上将来性が有望だから自分の娘とっていう
人達は多いの。多分、今の2人連れもそうじゃないかしら」
 「・・・・・」
 「大丈夫、社長は女の家を頼るような人じゃないし、何よりマコちゃんがいるんですもの、余所見をするわけないわ」
 「・・・・・そうなんですか」



 以前、海藤の伯父である菱沼の還暦の祝いに行った時も、菱沼の妻涼子が海藤の花嫁候補との見合いを計画していたこ
とがあった。
その時は真琴自身相手の女達を見たわけではなく、言葉だけでその事実を聞いたからか、なかなかピンとこなくて涼子に対して
もきっぱりとした対応が出来た。
何より、その時海藤が傍にいてくれて、自分への愛情をしっかりと示してくれた。
 ただ・・・・・今の光景は、あまりにも不意に飛び込んできたもので、真琴は動揺を鎮めることが出来ない。
海藤が自分以外の誰かに、それも女に笑みを向ける場面を直接目にし、真琴は自分で自覚しているよりもかなりショックを受
けていた。



 「ねえ、海藤、どちらの色が似合うと思う?」
 「どちらもお似合いと思いますが」
 「やだっ、ママ、海藤さんは今は私の服を見立ててくれているのよっ。ね、海藤さん、どっちの服が可愛い?海藤さんはどっちが
好き?」
 「私のような男の意見よりも、店の者に聞いた方が確かですよ」
 「やだ!あなたの好みが聞きたいのよ!」
 もう、何度目かも分からない我が儘に、海藤は貼り付けた笑みを向けた。
(全く・・・・・騙されたな)
今回の世話役の話があった時、後々面倒な話になったら困るので、家族同伴の(それも娘が一緒の)組長には付けないで欲
しいとくれぐれも伝えたのだが、若手の出世頭である海藤の手腕を買っている人間はかなりいるらしく、それには縁を結ぶことが
一番手っ取り早いので、海藤は嫌々ながらも数人の組長一家の世話をすることになってしまった。
 世間からは異質な存在でも、身内からはかなり甘やかされて育ってきた娘達は、俳優など足元にも及ばないほどの海藤の美
貌に目を奪われ、必死にアプローチを仕掛けてくる。
それら一つ一つをやんわりと断わるだけでも気苦労が絶えず、その上真琴にも会えない日々が続いて、表面上は分からないが
海藤はかなりイライラとしていた。
 「ねえ、海藤さん」
 そんな海藤の様子など少しも気にすることもなく話し掛けて娘に視線を向けようとした時、丁度携帯のバイブが鳴った。
あからさまにホッとした海藤は、
 「すみません」
一言断わり、2人から少し離れて電話に出る。
 『お疲れ様です』
 「何かあったか」
 相手は綾辻だった。
 『お忙しいと思うので用件だけ。先程会長を見掛けました、マコちゃんと一緒に』
 「・・・・・」
それだけで、海藤はどういったことか予想がついた。
 『出来れば電話ででもフォローをお願いします』
 「分かった」
海藤は電話を切って少し考えるように宙を見つめる。
しかし、直ぐに、
 「海藤さん!」
娘の弾んだ声が自分の名前を呼んだ。
溜め息をつきたくなるのをなんとか堪え、海藤は再び2人の傍に歩み寄った。



 真琴は風呂から上がり、濡れた頭にタオルを巻いた姿のままでソファに座っていた。
テレビをつけているものの視線はそれには向いておらず、真琴はゴシゴシと髪を拭きながら昼間の事を思い浮かべる。

 「あれは仕事なんだから、気にすることなんて全然ないのよ?」

 夕食を済ませ、マンションの前まで送ってくれた綾辻はそう言ってくれたが、頭の中から女と一緒にいた海藤の姿が消えること
はない。
(・・・・・美人だったしなあ)
モヤモヤとするその気持ちが嫉妬からだということは分かっている。
真琴は自分がそんなに妬きもちやきだとは思っていなかったが、実際に見てしまうと・・・・・。
(イメージ出来ちゃうと違うのかな・・・・・)
そんな自分の気持ちにも混乱して、真琴は何もしたくなくてただぼんやりとしていた。
 そして・・・・・そのままどれぐらいぼんやりとしていたのか、真琴は突然背中から抱きしめられた。
 「!!」
ビクッと全身を硬くした真琴の耳元に、聞き慣れた優しい響きの声が届く。
 「そんな姿のままだと風邪をひくぞ」
 「!」
恐る恐る背後を振り返った真琴は、そこにいるはずの無い海藤の姿を見つけた。



 海藤がマンションに入った時、真琴はその物音に全然気付かずにソファに座っていた。
その横顔があまりにも寂しそうで、いとけなくて・・・・・海藤はその思いのまま強く真琴を抱きしめたのだ。
 「・・・・・かいど・・・・・さ?」
 ゆっくりと振り向いた真琴は、海藤の顔を見た瞬間に子供のような無防備な泣き顔になって、まるで急きたてられるように海藤
の胸に飛び込んできた。
 「・・・・・お帰りなさいっ」
 「・・・・・ただいま」
まだ濡れている真琴の髪をゆっくりとすき、海藤はやはり帰ってきて良かったと思った。
電話などで声だけを聞いたなら、真琴がこんな顔をしていたとは分からないままだったはずだ。
 「今日からはマンションから行くことにした。俺もお前の顔が1日中見られないのは寂しいからな」
 「・・・・・ほんとに?」
 「少しバタバタするが」
 「そんなのっ、全然大丈夫です!お、俺だって、海藤さんと一緒にいたいし!」
 「・・・・・今日は何かあったか?」
 「・・・・・何も、何も無かったです。綾辻さんと食べたぜんざいは美味しかったし、夕ご飯も美味しいラーメン屋さんに連れて行っ
てもらって・・・・・ただ・・・・・」
 「ん?」
 「・・・・・ただ、やっぱり寂しかった・・・・・」
 女連れの自分を見てどんな風に思ったのか、真琴は海藤を責めることも問い詰めることもしない。
ただ、寂しかった・・・・・それだけを伝えてきた。
そんな真琴が可愛くて愛しくて、海藤はそのまま真琴の唇を優しく奪う。
その口付けが全然足りないとでもいう風に、真琴は自分から強く唇を押し付けてきた。
明日も朝から再びくだらないお守が待ち構えているが、今この瞬間は愛しい者の存在だけを腕の中に感じていたい・・・・・そう
思った海藤はキスをしたまま真琴の身体を抱き上げた。
 「・・・・・っぁっ」
 「今日は一晩中抱きしめているから」
その言葉に、真琴は泣き笑いの顔のまま小さく頷いてくれた。




                                                                     end





500,000hit、もうお一方、ひまわりさん、何時もご訪問ありがとうございます。

遅くなりましたが、リクエストの海藤×真琴はいかがでしたか?

うちの看板カップルですので力も入りました(笑)。

真琴の妬きもち・・・・・にはすこし足りなかったかもしれませんが、女性にモテル海藤を思って焦れ焦れするマコちゃんを書けたんじゃないかなと思うんですが・・・・・。

海藤さんはやっぱりカッコいいままで、ニヤケることが出来ませんでした(笑)。

これからもどうかこの2人の応援よろしくお願いします。






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