綾辻&倉橋編





 この時期だからかもしれないが、綾辻は部屋の中に飾られているツリーに思わず笑ってしまった。
 「やっぱり、今日は特別なのかしらね」
 「・・・・・」
話し掛けた相手からの答えは返ってこない。しかし、ここにこうして、自分といることが、相手にとってどれだけ決意のいることかは
十分に分かっている。
綾辻は太朗に被せられた玩具のトナカイの角を取り、軽く髪をかきあげながら笑みを浮かべた。
 「怖い?」
 「・・・・・」
 「観念したらどう?克己」



 自分がどうしてここにいるのか、倉橋自身も説明が付かなかった。
海藤が用意してくれたカードキーを綾辻が遠慮もなく使うことももちろんだし、そのキーが自分には渡されなかったことも・・・・・何
か意味があるのかと勘繰ってしまう。
(社長は私達のことに・・・・・気付いているのか?)
 とてもそれは聞くことは出来ないし、多分海藤も自分からそれを言うことはないだろう。
倉橋は一瞬目を閉じると、顔を上げて綾辻を振り返った。
 「綾辻さん」
 「だ〜め」
 「え?」
 「帰りたいって言うつもりなんでしょう?駄目よ、克己、今回は私達が恋人同士になって初めてのクリスマスじゃない」
 「・・・・・っ」
(この人は恥ずかしいことを・・・・・っ)
倉橋は自分の耳が熱くなってくるのを自覚したが、綾辻に反論することは出来なかった。
恋人同士云々は少し頷きがたいところもあるが、自分から綾辻に身体を許したのは事実だし、綾辻がはっきりと言葉で想いを
告げてくれているのも事実だ。
他の人間の前で言う、軽い口調の『克己、大好き』という言葉。
2人の時も声の調子は変わらないものの、その眼差しが熱を帯びていることにも・・・・・気付いている。
 「ん?どうしたの?それでも帰りますって言わないの?」
 「・・・・・あなたは卑怯ですね」
 「どうして?」
 「そういう言い方をされると、私が反発したくなることを知っている」
 「ふふ、恋する者はどんな卑怯な手段でも使うものよ」



 黙ったまま隣の部屋に行く倉橋の後ろ姿を見送りながら、綾辻は一言多い自分に苦笑を零した。
臆病な倉橋にはもっと優しく、慎重に接しなければならないと分かっているのに、何も進展しない時間が多くなるとつい意地悪を
したくなってしまうのだ。
自分は倉橋の保護者ではない。
その心も身体も奪いたいと思う捕獲者なのだと、居心地の良い関係につかりそうになる・・・・・いや、そうしたがっている倉橋の気
持ちを、こうして波立たせたくなるのだ。
 「・・・・・なんてね」
(恋愛初心者の克己にはまだ早かったか)
 「克己〜、ねえ、一緒に飲みましょうよ〜。悪戯なんかしないから、ね〜」
 綾辻は何度か声を掛けたが、倉橋は姿を現さない。
(まさか・・・・・お籠り?)
確か隣の部屋にはベッドもシャワールームもあり、鍵だって閉まるようになっている。
 「・・・・・」
 立ち上がった綾辻は、閉じられたドアのノブをそっと握った。軽く回るそれに、どうやら鍵は閉められていないようだとホッとしてドア
を開ける。
 「克己?」
明かりは、ベッドサイドの間接照明だけだ。
ベッドにも気配は無いなと辺りを見回した綾辻の耳に、微かなシャワーの音が聞こえてきた。
 「・・・・・え?」
(・・・・・マジか?)
こんな時に倉橋がシャワーを浴びているとはとても信じられなくて、綾辻はらしくも無く動揺してしまった。



 それからどの位時間が経ったのかは分からない。
だが、シャワールームに続くドアの前で呆然と立っていたらしい綾辻は、いきなり開いたドアに顔面をぶつけてしまった。
 「いてっ」
 「・・・・・何をやってるんですか、あなたは」
 「何って、お前の方こそ・・・・・」
倉橋はバスローブ姿だった。
軽く拭いたのだろうが髪は濡れたままで、こうして額に掛かっている姿は歳よりもかなり若く見える。
普段は青白い肌も、シャワーを浴びたせいか赤みを増して・・・・・。
(それって反則・・・・・)
あまりにも色っぽい倉橋の姿に、綾辻は眉を潜めて視線を背けた。
 「それって同情?」
 「・・・・・」
 「あんまり可哀想だった?」
 「馬鹿ですね、あなた」
 「馬鹿?」
 「なまじ頭の回転が早いから考え過ぎるんでしょう」
 そう言った倉橋は、憮然とした表情の綾辻に向かって小さな笑みを向けた。
 「私がこうしたかったからと・・・・・どうして素直に受け取れないんです?」
 「・・・・・お前が?」
 「私だって、欲しいと思うことくらいあるんですよ」
倉橋の細く華奢な指が自分の頬に触れるのをじっと目で追っていた綾辻は、ほとんど目線の変わらない倉橋の目がごく間近に
あることに今更ながら気付いた。



 手が震えていることに気付かないだろうか・・・・・倉橋は綾辻に触れながら心配をしていた。
この優しい男は、自分が怖がっていると思えばたとえ自分の欲望が押さえの効かない状態になったとしても止めてしまうだろう。
それほどに想われるのはとてもくすぐったく嬉しいが、同じ男としてのプライドは疼いた。
(私にも、意地があるんですよ、綾辻さん)
 この強く優しい男を自分が抱くことは想像出来ないが、一方的に抱かれるのではなく自分からも求めるように・・・・・。
 「・・・・・」
 「克己」
 「怖いですか?」
倉橋がそう言うと、綾辻の顔にようやく笑みが浮かんだ。
 「いいんだな?」
 「そんな確認の取り方は無粋です」
 「・・・・・俺の負けだ」
いきなり、綾辻は唇を重ねてきた。



 「ふっ・・・・・」
 艶のある声が、甘い吐息を漏らす。
恥ずかしがって唇を噛もうとする倉橋の顎を掴むと、その代わりというように綾辻は濃厚なキスを仕掛けた。
舌を絡め合い、唾液を交換し、喉の奥まで舌で犯す。それだけでまるでセックスのような激しさに倉橋が朦朧としてくるのを冷静
に見下ろしながら、綾辻は硬く閉ざされた倉橋の蕾を丹念に指で解すが・・・・・どうしても滑りが足らないようだった。
(どうするか・・・・・)
 それ用のものがあればいいのだが・・・・・そう考えた綾辻は、ふと思いついて身を起こした。
 「・・・・・ぁ」
 「ちょっと待って」
綾辻の身体が離れて不安そうな眼差しになった倉橋に笑いかけると、綾辻は裸身のまま隣のリビングへと向かう。
そして、再び戻って来た時には、その手にはワインのボトルが握られていた。
 「そ、それ・・・・・」
 「気が利く上司を持って幸せだな、俺達は」
そう言うと、綾辻はそのままワインを口に含み、
 「なっ?」
その口を倉橋の僅かに開いた蕾に押し当て、身体の中へとワインを流し込んだ。
 「少しくらい酔ったって、見てるのは俺だけだ」
白いシーツが赤く染まっていくのを目を細めて見つめていた綾辻は、もう一度とワインをボトルごとあおいだ。



 身体が熱い。
あんな場所からワインを流し込まれるなど、倉橋は正気だったらきっと気絶してしまうかもしれないとぼんやりと思った。
しかし、今はそのアルコールが内壁から吸収されて酔いも回ってきてしまったのか、強張っていた足も綾辻の身体を受け入れるよ
うにと大きく開かれ、そそり立った自分のペニスが揺れるのも人事のように見えている。
 「あ、綾辻さ・・・・・」
 「ん?」
 「も・・・・・」
 「まだ、きついだろう?」
 「あ、熱い、い、から・・・・・、早く!」
 早く、この熱さを、身体の疼きを鎮めて欲しいと、倉橋はグイッと(力は出なかったが)綾辻の腰を抱き寄せる。
綾辻はにやっと笑うと、一度ちゅっと音をたてて唇にキスを落とし、自分のペニスの先端を倉橋の蕾に押し当てた。



 硬くて狭いその蕾は、先端が滑り込むと驚くほど柔軟に綾辻のペニスを飲み込んでいった。
 「・・・・・っ」
(熱い、な)
倉橋の疼きが伝わるほどの熱さと内壁の蠢きに、綾辻もらしくなく直ぐに持っていかれそうになってしまった。
しかし、何とか初めの衝撃をこらえると、そのままゆっくりとペニスの根元まで埋めていく。自分の下生えと倉橋の滑らかな双丘が
密着するまで押し込むと、今度はゆっくりと引き抜いて・・・・・。
 「あっ・・・・・ふっ、んっ」
 「・・・・・っ」
 「あ、あや、あやつ・・・・・っ」
 「克己・・・・・!」
 ねっとりとペニスに絡み付いてくる内壁の動きは、とてもこれが男を迎え入れるのが二度目の身体とは思えなかった。
だが、男を知らなかった倉橋に男を教えたのは自分だし、自分以外にこの身体は抱かせない。
苦痛も感じているはずだろうに、それでも従順に綾辻の全てを受け入れてくれる倉橋。
(俺を・・・・・抱いてくれてるんだな)
受け入れてくれる倉橋が、とても・・・・・愛しい。
 「はっ、はっ」
 「・・・・・っ」
 寝室の中では、濃厚なワインの香りが漂っている。
しかし、綾辻が酔っているのは間違いなく倉橋の身体にだった。










 「あー・・・・・気持ち良かった」
 ワインに酔ってしまったのか、それとも快感に気を失ってしまったのか。
綾辻は死んだように眠っている倉橋の身体を清め、ワインで汚れていないベッドへと寝かせてやった。
倉橋がワインのアルコールで朦朧としているのをいいことに、今夜はかなり無茶な体位も試したし、その最奥に何度も精液を吐
き出した。
きっと明日はかなり叱られるだろうし、ふてくされもされるだろうが、それは今夜の快感で綾辻としては相殺される。
 「それに、お前は嫌いだって言わないだろう?」
 結局、自分は倉橋に甘やかされているのだろう。
綾辻は苦笑を零すと裸体のまま倉橋の隣に身体を滑り込ませ、温かいその身体を抱きこんで自分も目を閉じた。





                                                                     end