海藤&真琴編





 「みんな、喜んでくれて良かったですね」
 「ああ」
 海藤は何とか気持ちを持ち直した真琴に笑みを向けた。
楽しい時間は過ぎて淋しいと言っていた真琴だが、それぞれのクリスマスを邪魔する気持ちはないようだ。
海藤としては、深いキスをした後に聞くにしては少し拍子抜けの言葉だったが、それも真琴らしいと言えて、海藤はテーブルの上
に残された小さなケーキに視線を向けた。
(じゃんけんで勝ったって喜んでいたな)
競争率の激しかったサンタの飾りを貰ったと、真琴はわざわざ海藤に見せに来たくらいだ。
子供っぽい飾りでもクリスマスは特別なのかと思いながら、海藤は新しく持ってこさせたワインをゆっくりとグラスに注いだ。



 部屋の中はそれほど散らかっているわけではなかったが、海藤はホテルに掃除をするように頼んだ。
素早く片付けていた従業員を真琴も手伝い、最後には、

 「お忙しいところをすみません」

と頭を下げて、かえって恐縮をされていた。
普通の感覚を持つ真琴のそんな様子に、海藤は笑みが止まらなかった。
 こんな豪奢なスイートルームに男が2人宿泊する。それを従業員はどう思ったかは分からないが、海藤はいいだろうと自慢した
い思いだった。
そして、その視線はケーキの隣に置かれた包みに向けられる。
真琴がくれたクリスマスプレゼント、いったい何だろうと海藤は手を伸ばした。



 自分達が汚したものを他人に片付けさせるのはとても申し訳なかったが、それが彼らの仕事なのだと海藤に言われて何とか納
得した真琴だった。
楽しい時間は過ぎて、今からは海藤と2人だけの時間。何時もマンションで2人でいる時とは違い、少しだけ余所行きな気持ち
になって・・・・・ドキドキする。
何時もカッコいいなあと憧れる大人の男である海藤も、こうして見ると仕事中はこんな顔をしているのかなと思って・・・・・。
 「真琴?」
 「・・・・・え?」
 「どうした」
 何時の間にかじっと海藤の顔を見ていたらしく、海藤が苦笑を漏らして自分を振り返っていた。
自分の行動に慌ててしまった真琴だが、ふと海藤の手に自分の渡したプレゼントが持たれているのに気付き、思わずあっと声を
出してしまった。
 「それっ」
 「俺のものだろう?」
 「そ、そうなんですけど・・・・・」
 「・・・・・」
 「あー・・・・・いいです」
 考えて考えて、何とか思いついたと思ったプレゼントだが、こうして海藤を前にするとあれで良かったのかとまた考えてしまう。
高いものは受け取れないと、誕生日の時に言った自分の言葉と同じ言葉を言われ、真琴はそういう条件も案外難しいものだ
なと思った。
海藤の欲しい物・・・・・海藤は食べ物や着る物にもあまり拘らない。
あっても困らない物・・・・・生活に必要な物は既に揃っていて、どれも外国製の長持ちしそうなものばかりだ。
高くなくても、いい物・・・・・安ければそれなりのものしかなく、かといって高過ぎたら手も出ない。
 考えても思い付かなくて、反則だと思ったがこっそりと綾辻や倉橋に相談してみたが、

 「マコちゃんが考えた物が一番いいのよ」
 「真琴さんが渡されるものなら何でも喜ばれるんじゃないでしょうか?」

2人共、そう言って何も教えてくれなかった。
その人のことを想いながら自分で考えるのが一番だとは分かっていたが、これはなかなか解けない難しい宿題となってしまった。
 「・・・・・」
 そして、何とか考えたプレゼントは今海藤の手の中にある。
(どうだろ・・・・・気に入ってくれるかな・・・・・)
真琴は海藤の反応を息を殺して見つめていた。



 真琴の緊張がひしひしと伝わって、開ける海藤の方も少し緊張してしまう。
 「いいのか?」
 「ど、どうぞ」
少し大きめの、軽い箱。
綺麗にラッピングされたリボンを解き、包装を解いて・・・・・海藤は柔らかく表情を崩した。
 「スカーフか」
箱の中に綺麗に収められていたのは男物のスカーフだ。見ただけでカシミアの、かなり良い物ではないかと思えた。
 「それ、榛色なんですって。本当はもう少し明るい色の方がいいかなとも思ったんですけど、綺麗な色だなあって思って、海藤さ
んの着けたとこ想像して・・・・・これしかないって思って」
中に入っていたのはそれだけではない。これも、多分上等の革の手袋。
この2つで、きっと真琴の一ヶ月分、いや、それ以上のバイト代は飛んでしまっただろう。
 「海藤さん、この間気に入った手袋を失くしたって言ってたから」
 「真琴・・・・・」
 こんな高い物をと言うことは出来なかった。
 「・・・・・ありがとう」
 「・・・・・怒って、ないです?」
 「嬉しいよ」
これを選ぶ時、真琴がどれだけ自分のことを思ってくれていたのか。そう考えると嬉しくて嬉しくて・・・・・泣きそうになる。
一生懸命働いたバイト代を自分の為に使ってくれた真琴に、海藤は心からありがとうと言った。



(よ、良かった、怒られなかった)
 高い物を買い過ぎだと怒られるかもしれないと思っていたが、どうやらそのことは海藤は流してくれたようだ。
確かに当初の予算よりも少し高くなってしまったが、それでもこれだけいいものを買ったにしては安い方だろう。それも、プレゼント
を決めてからいい店がないかと訊ねた真琴に、綾辻が内緒だといって店を紹介してくれたからだ。
(でも、あんなに狭い小さな店なのに、本当にいい物ばっかり置いてたよな)
 知る人が知るといった小さなお店。実は他の友人達も綾辻にお勧めの店を聞いていた。
本当に助かったなと思った真琴は、何時の間にか姿を消している海藤に気付いて慌ててあたりを見回した。
 「海藤さんっ?」
 「ここだ」
 「え?あ!」
隣の部屋に行っていたらしい海藤の手には、真っ白いマフラーと手袋が裸のまま持たれていた。
 「そ、それ・・・・・」
 「以心伝心だな」
 「あ・・・・・じゃあ」
 「俺からのプレゼントだ」
コートはもう贈っているからなと笑って言った海藤に、真琴は思わず駆け寄って抱きついた。
 「すっごい!本当にこんな偶然なんてあるんだっ?」
自分が贈った物を海藤も贈り返してくれた。海藤が寒くないように、温かくいて欲しいと思っていた自分と同じように、海藤も自
分をそう思ってくれていたのかと、驚いて、嬉しくて、真琴は海藤が持っている自分へのプレゼントごと、自分よりも大きな海藤の
身体を抱きしめる。
 「大好きっ」
 「俺も、愛してる」
 少し笑ったような海藤の言葉に、真琴も笑ってしまう。
 「今から2人のクリスマスですね」
 「ケーキは遠慮する」
 「はい」
(でも、トナカイは海藤さんにあげよう)
可愛らしいトナカイの飾りを差し出した時に、きっと見せるであろう海藤の困った表情を想像して、真琴は海藤の腕の中でクスク
スと笑い続けた。





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