最後に風呂に入った大地が風呂場から出た時、丁度広海が脱衣所に入ってきた。
「あ!」
ほぼ同時に声を上げた2人の行動は全然別のものだった。
当然全裸だった大地は慌ててタオルで股間を隠し、広海はまじまじとそんな大地の身体を見つめる。
「何のようだ?」
焦りを隠すように出来るだけ声を落として聞いた大地に、広海は事も無げに答えた。
「あ〜?タオル取りに来ただけだって。それより、大地、お前成長したよなあ」
いったいどこを見て言っているのか、広海は感心したように言う。大地は何だか背中がムズムズして、股間を押さえるタオル
をギュッと押さえた。
「用が済んだらさっさと出ろ」
「大地、また背が伸びただろ?」
全く大地の言葉を聞き流し、広海はしみじみと言った。
「もう、兄貴も超えたんじゃないのか?」
「ヨーイチと同じ位だ」
「へ〜」
「ヒロミはとっくに抜かしてる」
少し落ち着いてきた大地は、さりげなくバスタオルで腰を巻くと、フンッといった感じで上から広海を見下ろした。
中学に入学してから目に見えて伸び始めた大地の身長は、去年には広海を追い越した。バスケットをしている影響もある
だろうが、陽一も父親も背が高く、遺伝といってもいいだろう。
広海も決して低い方ではないのだが、どうしても兄弟で並ぶと凸凹に見えてしまうのだ。
「腕もぶっとくなりやがって・・・・・もう少し太ってたらブタだって」
「うるせーっ」
大地に身長を抜かされた時、広海は盛大に文句を言ってきた。
その頃にはなかなか取っ組み合いの喧嘩もしなくなっていたのだが、あまりにもうるさい広海に大地も思わず手を出してしま
い、久しぶりの喧嘩となった。
(あの時、初めて気付いたんだよな・・・・・)
組み敷いた広海の手首が、思いのほか細いことに気付いた。
日焼けのあせてしまった肌が白かった。
身体のパーツのどこもかしこも自分より小さく細いと分かった時、大地は広海に対して本気に拳を振るうことが出来なくなっ
た。
(ヒロミは遠慮って言葉を知らなかったけどな)
その後、何発もの拳を腹に受けたのを思い出し、大地は眉を顰めてしまった。
「お前、栄養が身体にしかいってないんだな」
「・・・・・ヒロミは栄養にもなってないだろ」
「今日のスポーツテストじゃ、足の速さは変わってなかったぜ」
「スポーツテスト?50走か」
「あんま運動しなくっても変わんないな」
その声の調子が何かを懐かしむような響きがあるのを感じ取り、大地は思わずその顔をしみじみ見つめてしまった。
「・・・・・」
「あ、風邪ひくと悪いな」
しかし、広海がまとっていた空気は直ぐに何時ものものに戻る。それは意識的にではなく、無意識の行動なのだろう。
広海はやっと大地が風呂上りだということに気付いたのか、当初の目的であったタオルをさっさと取り、そのままドアに手を
掛けて出ようとしたが、あっと言いながら再び振り返った。
「大地、けっこーでかいな」
「あ?」
「中坊にしては、自慢してもいいんじゃねー?」
一瞬、何を言っているのか大地には分からなかった。
しかし、にんまりと笑った広海の視線の先に気付き、さすがの大地もカッと頭に血が上った。
「ヒロミッ!」
「ははは、おやすみ〜」
暢気に笑いながら脱衣所を出て行った広海を見送った大地は、しばらく経ってハァ〜と深い溜め息をついた。
(けっこーとか言いやがって・・・・・自分はどうなんだ)
男として気になる部分の大きさは、自分では身体に似合ったそれなりの大きさだと思っている。
普通に考えれば、大地よりも小柄な広海の方がその部分も小さいはずだ。
「・・・・・強がりか?」
いや、それよりもチラッとしか見ていない可能性の方が高い。多分自分より大きな弟をからかう為にそう言ったのだろう。
「・・・・・ガキ」
吐き出した言葉は、意味とは反対に甘やかな響きになってしまった。
おわり