拍手ありがとうございます。短いお話ですが、どうぞ楽しんで下さい。
兎族は1年中発情期の淫乱な種族で、同じ種族間だけでは相手が足りず、他の民族とも交わることが多い。
可愛らしい容姿と、性交渉に慣れた身体は抱き心地がいいらしく、1匹のウサギを取り合うという光景も森の中では日常茶飯
事だった。
ある森に、仲良しの7人兄妹の兎がいた。
7匹目の弟のキアは、とても幼くて純情で、兄弟達皆に可愛がられて愛されていた。
オス、メスも関係なく、快楽を素直に貪る種族の一員でもあるキアだが、なぜか交尾が出来る歳になっても誰とも交わること
が無かった。キアには好きな相手がいたからだ。
それは、兄弟達皆と交尾をした狼族のレンで、キアは身体を重ねる愛情ではなく、ただ見つめているだけで満足するような恋を
していた。
しかし、2人の間に割り込んできた存在のせいで、お互いがお互いを大切に想っていることを改めて知り、誰とも深い関係を持
たないようにしてきたレンもキアを愛するようになり、今2人は見ているものが恥ずかしいほどの甘い蜜月を過ごしている。
6匹目の弟のルカは、兎族特有の淫乱な快楽主義者だった。
今はキアだけしか抱かないレンとも身体を合わせたことがあり、じれったかった2人を見てやきもきするほどに弟思いだった。
そんなルカも虎族のコードと出会って変わった。
コードは最初キアのことを気に入っていて、レンとの恋を応援していたルカはコードの気を逸らせるために近付いただけなのに、
何時の間にかコードの暑苦しいほどの愛情はルカへと向けられるようになった。
今は辛うじてルカの矜持で恋人という関係にはなっていないが、2人はもうお互いとだけしか抱き合っていない。
そして、ここに7匹兄妹の2番目のウサギがいる。
彼ももちろん快楽主義者で、誰とでも身体を合わせてきたが、最近そんな楽しい日々が崩れていた。
それは・・・・・。
「楽しそうだな、テオ」
「・・・・・っ」
突然聞こえてきた声に驚いたのはテオだけではない。
今まさにテオの中に入ろうとペニスを押し当てていた熊族の男も驚き、慌てて身を離した。
「どうしたんだ?そのまま交尾をすればいいのに」
「・・・・・っ、テオッ、また今度な!」
どうやら、身体の大きさと反比例して男は気が弱かったらしい。
テオの服が半分乱れている状態のままさっさと自分だけ逃げ出してしまった。
「・・・・・なんだよ、あいつ」
何度も抱かせてくれと煩く言ってきたので相手をしてやろうと思ったのに、外野のたった一言で怖気づいて逃げるなんてどんなに
ビビりなのだろうか。
テオはハァと大きな溜め息をついてから草むらから身体を起こすと、乱れた服を整えながら目の前にいる男を睨んだ。
身長は高い方だが、茶色の髪に茶色の瞳というのはとても凡庸だ。その反面、少しつり上がり気味の目元が何だが男らしいと
言える顔立ちだった。
それでも、キアの恋人レンのような孤高の存在の狼族とも、ルカにまとわり付いているような綺麗で強い虎族とも違う、森の中
では狡猾で嘘吐きな厄介者の種族だ。
「・・・・・どういうつもりなんだよ、ラルフ」
「俺はただ、こんな場所で恥ずかしげもなくおっぱじめようとした馬鹿な奴らの顔を見に来ただけだけど?」
「・・・・・」
「相手は逃げたぜ、テオ。今から他の男を捜すのか?」
「あんたに関係ないだろ」
ここ最近、誰かと交尾しようとする時に限って出てくる男。こいつのせいで、テオは最近欲求不満気味だ。
(まともに交尾出来ないばかりか、半分は僕だって萎えちゃうし)
いくら快楽主義者だとはいえ、第三者に交尾する姿を好んで見せるほど破廉恥ではないつもりだ。
「・・・・・」
「ほら」
立ち上がろうとしたテオに、男が手を差し出す。
遠慮などするつもりもないのでその手を使って立ち上がったテオは、まだニヤニヤと笑っているラルフを睨み上げた。
「今度、たまたま僕の交尾の様子を見掛けたら、そのまま見逃して立ち去ってくれる?僕は最近あんたのせいでちゃんと交尾
出来ていないんだよ」
「・・・・・相手が誰でもいい交尾なんて虚しくないのか、兎族のテオ」
「気持ち良いことは制限なんてしなくていいでしょ。そんなことより他人の荒探しをするような趣味の悪いことはよしたら?せっか
く外見はいいのに宝の持ち腐れだよ、狐族のラルフ」
憎たらしい口をきく男にそう言い返すと、テオはフンッと顔を逸らして歩き始めた。
面白くない気持ちを、早く家に帰って可愛い兄妹達の顔を見て癒されたいと思った。
「ふ〜ん」
家に帰ってもほとんどの兄妹達は外出していて、残っていたのは一番上の兄のリィだけしかいなかった。
優しく穏やかな兄にラルフのことを告げたテオは、可哀想だったねと慰めてもらうつもりだったのに、兄はなぜかふふっと笑ってテ
オの頭を撫でてきた。
「その狐族も苦労するね」
「えーっ?どうしてラルフの味方をするんだよっ?あいつは僕の邪魔ばっかりするんだよ?」
「うん。それだけ、テオの行動をよく見ているんだよね?」
「たまたま見付けるって言ってたけど」
「たまたま?そんなに頻繁に会うのに?」
テオはマジマジと兄を見つめる。
「・・・・・」
「この広い森の中でそんな確率で会うなんて奇跡みたいなものだと思わない?」
続く兄の言葉にテオは黙り込んでしまった。
(確かに、何時もタイミングが良過ぎる場面で声を掛けてくるけど・・・・・)
そもそも狐族は他人のことなどどうでもよいと思うような排他的な所もある種族だ。そんなに何度も交尾の場面に出くわせば、い
い加減呆れて声を掛けてこないという方が合っているような気がする。
「・・・・・あいつ、どういうつもりなんだろう」
「分からない?」
「・・・・・うん」
「その答えは、テオ自身で出さないとね」
そう言った兄はテオの身体を抱きしめてくれた。
「僕達は淫乱で享楽主義な種族だけど、だからといって唯一のものが分からないというわけでもない。テオ、お前もそろそろ気
付く時かもしれないね」
何をと聞き返したかったが、兄が少し寂しそうなのでその言葉を飲み込む。
(僕にとって大切なのは兄妹だけだ)
身体を交えることが無いものの、全てを分かってくれ、無条件で愛してくれるのは兄妹だけだと思っていた。
それから数日間はテオは大人しくしていた。
兄の言葉が気になったこともあるし、どうせ交尾をしてもまたラルフが来て邪魔をするだろう。
そう思うと、どんな相手のどんな魅力的な誘いにもその気にならなかったのだ。
しかし・・・・・。
「なあ、テオ、いいだろう?」
4番目の姉に頼まれた買い物をしに村に行くと、唐突に馴れ馴れしく腕を掴まれる。
顔を見ると、これまでも数度交尾をしたことのある犬族の男だった。
「こんにちは、フーゴ。いいって何?」
「交尾」
「あのねえ」
さすがに好き物の兎でも、すれ違った男にそう言われて直ぐに頷くはずもない。
「もう少し言葉を選んだらどう?」
「でも、やることは同じだろう」
「でもねえ」
「今まで抱いた奴の中でもテオが最高だ。もう一度一緒に楽しもうぜ」
「・・・・・」
褒められたら悪い気などしない。テオはフーゴの顔を見上げながら考えた。
(確かに最近欲求不満気味だったし・・・・・)
数度相手をしたということは、テオにとってもフーゴとの交尾は気持ちが良かったということだ。まだ家に戻るには時間も早いし、
少しくらい楽しむ時間はあるだろう。
「・・・・・」
辺りを見回してもラルフの姿は見当たらない。どうやら、今日は邪魔をされないようだ。
「・・・・・いいよ」
「おう」
テオの返事に笑ったフーゴは、そのまま腕を取って村から離れた。
クチュリと口の中で長い舌が口腔を犯す。
それに反応を返しながら、テオは胸を擽る相手の指先に意識を集中しようとした。
かなり遊んでいるらしいフーゴの口付けは巧みだったし、楽しみたいという言葉の通りテオの快感を呼び起こそうとしてくれてい
るのが良く分かる。
それでも、テオの快楽の火はなかなかつかなかった。
(ど・・・・・して?)
何時もならとっくにペニスも勃ち上がり、受け入れる後ろも濡れてくるはずなのに、今日はなかなか身体が蕩けてくれない。
こうして口付けに酔うふりをして目を閉じていても、長い耳は周りの気配を懸命に探っていて・・・・・。
「どうした、テオ」
そんなテオの様子に気付いたらしいフーゴが顔を離して訊ねてきた。
村外れの草むらの中、テオはフーゴに押し倒された格好のまま彼を見上げる。
「何だかノリ気じゃ無いみたいだが」
「そ、そんなことないよっ?」
これだけ身体が飢えているのだ、交尾はしたくてたまらない。
ただ、どうしても気になってしまうのだ。
「またこんな所で交尾中なのか?」
「!」
その時、何時もの皮肉気な声が掛かった。その瞬間、テオは弾けたように起き上がって視線を向ける。
「・・・・・ラルフ」
「今日は犬族が相手なのか?淫乱な兎さん」
「な、なんだよっ」
あまりの言いざまにテオはラルフを睨んだが、ラルフの方も面白くなさそうな顔をしてこちらを見ていた。
(そ、そんな目で見るなよっ)
何時ものからかうような表情ではなく、明らかに不機嫌な顔。少し荒くなっていた息を整えている様子は、彼がここまで急いで来
たことを教えてくれた。
しかし、どうしてかなどと考えても分かるはずがない。
ラルフはテオのことが嫌いなのだ、わざわざ捜してまでここに来るはずがないし、きっと嫌味を言うネタを探していただけだろう。
「おい」
面白くない思いを抱いたのはどうやらテオだけではないらしく、せっかくの交尾を邪魔されたフーゴは声を落とすとラルフを睨みつ
けた。
「お前、何しにここに来たんだ?」
「何って、淫乱な兎さんがどんな顔をして抱かれるのかなって興味があってさ」
「・・・・・ふ〜ん」
その言い分にフーゴは目を細めた後、不意にニヤッと口元を緩める。
「じゃあ、そこで見ていろ」
「・・・・・」
「テオが俺の愛撫でどんなに可愛い声を上げるか、な。テオ、こいつのことは気にするな。俺だけを見ていればいい」
「フ、フーゴッ」
いきなりそう言いながら再びテオの身体を押し倒してきたフーゴを、テオは目を見張って見つめてしまった。
快感に弱いということは自覚している。
気持ちの良いことは大好きだし、どんな快楽も受け入れる気持ちはあったが、その痴態を好き好んで誰かに見せるということなど
考えたこともなかった。
「フ、フーゴッ!」
そのまま草むらに押し倒されたテオは、本当にするのかと不安になりながらフーゴを見上げる。
そんなテオに、フーゴは笑い掛けた。
「見たい奴には見せたらいい。お前は俺だけを見ていろ」
「フー・・・・・ふんっ」
そのまま、フーゴは口付けをしてきた。深く重なる唇の間から中に入り込んできた長い舌に、テオも目を閉じたまま応える。
じっと見られている視線を感じるが、それを誤魔化すには一刻も早く快感に溺れるしかない。そう思い直すと、テオは手を伸ばし
てフーゴの下半身に触れた。
そこは既に熱く、大きくなっている。
「・・・・・」
服の上から勃ち上がったペニスを撫でさすり、もっと育てるために何度も手を動かした。
フーゴの口から快感を耐えるような息が漏れて頬に当たる。彼も感じているのだと思うと嬉しくて、テオはそのまま快感に流されよ
うとしたのだが。
「・・・・・っ」
うっすらと開いていた目に映ったラルフの表情に、一瞬で身体の熱が引いた。
「・・・・・テオ?」
テオの反応が変わったことに気付いたフーゴが、唇を離して名前を呼んできた。しかし、テオはラルフの顔から目を逸らすことが出
来ない。非難するような、いや、何かを問い掛けるような目。
【お前はそのままでいいのか】
誰かれ構わずに身体を開いて。
一時の快楽だけに身を委ねて。
誰にも・・・・・本当に愛されなくて、いいのか。
「・・・・・」
「テオ・・・・・」
フーゴの手が、そっと頬に触れた。その時まで、テオは自分が泣いていることにまったく気が付かなかった。
しばらくは誰も動かなかった。
その中で一番最初に動いたのはフーゴで、テオの身体の上から退くとそのまま外していた上着のボタンを留めてくれた。
「フ、ゴ?」
「気が削がれた。俺は泣いている相手を抱く主義じゃないんだ」
自分が交尾の間に泣かせるのは楽しいけどというフーゴに、テオはどう答えていいのか分からない。
大体、どうして自分が泣いたのか、今もテオは分からなかった。フーゴは強引に出たわけではないし、ラルフの視線だって気にす
ることはなかった・・・・・多分。
「・・・・・ごめんなさい、フーゴ」
それでも、このまま交尾を再開することはとても無理で、テオは素直に謝った。
「なんだ、そんなテオも新鮮でいいな」
「え?」
「今度はその顔で俺の下で泣かせてやるか」
「・・・・・」
そう言いながら、一度テオの鼻に軽く口付けを落としたフーゴは立ち上がって歩き始める。股間の膨らみはまだそのままなのが申
し訳ないが、今更呼び止めることは出来なかった。
「・・・・・」
「なに?」
ラルフとすれ違う時、フーゴは意味ありげな眼差しを向け、ラルフは不機嫌そうに訊ね返している。
「・・・・・いや、御苦労だなと思ってな」
「・・・・・大きなお世話」
「手を引くのは今回限りだ。俺も淫乱で可愛い兎を気に入っているからな」
「あんたがどう考えようと俺には関係ないね」
「はははっ、そうやって、後で後悔しても知らないぞ」
何がおかしいのか、フーゴは上機嫌で立ち去っていく。
今の2人の会話の意味がまったく分からなかったテオは、ただ彼が消えるまで見送っていた。
(フーゴに悪いことしちゃったな)
テオはごしごしと目元を手の甲で拭った。
その後立ち上がろうとしたテオは、目の前に差し出された大きな手の平を見て・・・・・すっと視線を辿らせると、首を傾げて聞き返
した。
「何?」
「何って、お手伝い?」
「・・・・・」
前も同じようなことがあったが、あの時はあまり何も考えずにこの手を取ることが出来たが・・・・・今は手を取ってもいいのかどう
か分からない。
「・・・・・」
テオの戸惑いを知ってか知らずか、それともなかなか動かないことに焦れてしまったのかラルフが強引にテオの手を掴んで身体を
起こしてくれた。そう言えば、こんな風にラルフの方から触れてきたのは初めてのことかもしれない。
「残念だったな」
「え?」
「交尾が出来なくて。身体、熱いままなんじゃないか?」
「・・・・・っ、大きなお世話!」
その瞬間、気にならなかった身体の残り火を意識してしまい、テオは慌ててラルフの手を振り払った。
「あんたのせいだろ!いい加減、僕の邪魔をするのはやめてくれるっ?」
「・・・・・」
「それとも、僕と交尾したいわけっ?あんたとは一度も寝たことなかったしねっ」
頻繁に絡んでくるのでしょっちゅう会っている気がするものの、考えたらラルフとは交尾はおろか口付けさえしたことはない。
一度でも抱けば自分の虜になり、今度からは言いなりになるはずだ。そうなったら、テオは胸を張ってラルフを振ってやろうと思った
が、ラルフは
そのテオの言葉にふんっと鼻をならした。
「今のお前を抱く気はないな」
「な、なにそれ!」
「そのままだけど」
「嘘吐きで意地悪な狐族なんて大嫌いだ!」
ラルフの言うことは、いや、やることはまったく分からない。
何だか泣いた自分が馬鹿なような気がして、テオは唇を噛みしめたままラルフの横を通り過ぎた。
「・・・・・本当に分かってないな、テオは」
愚かで淫乱で・・・・・素直で、可愛い。
テオが自分の気持ちに気付くのは何時なのかは分からないが、今はこうしてテオの身体が誰の手にも堕ちないようにするしか出
来ない。
あんなに可愛いテオを守るのは本当に一苦労だと思いながら、ラルフはゆっくりとテオの後を追い掛けた。
end
今回は狼と子ウサギの2番目のお兄ちゃん、テオの話です。
今回のお相手は狐族。なかなかいい男だと思うんですが(笑)。
お気軽に一言どうぞ。お礼はインフォに載せます。
回答がいる方は、その旨書いておいて下さい。 もちろん他の部屋の話でもOKですよ。