Give me a hot kiss








 「愛しいユーマ、早く私の腕の中に来い。お前が息をつく間もないほど愛してやろう」





 空港のロビーに立った永瀬悠真(ながせ ゆうま)はチケットを握り締めたまま不意に立ち止まってしまった。



(本当に・・・・・行ってもいいのかな・・・・・)
高校二年生のごく普通の男子高校生だった悠真は、この夏休み、暑い砂漠に国で信じられないほど情熱的な恋をした。
相手は砂漠の国の王子、アシュラフ・ガーディブ・イズディハール・・・・・そう、次期王になる彼は男だった。
それまで男同士で愛だの恋だの考えたこともなかった悠真だったが、彼の妾妃選びのパーティーに紛れ込んで、なぜか男の悠真
が選ばれてしまった。
 確かに悠真もアシュラフの事をカッコいいと思ったが、まさか会ったその日に身体の関係まで結ぶとは思わなかったが・・・・・。
ただそれは、無理矢理ではなかったと・・・・・思う。

 結局、悠真もアシュラフを受け入れた。
アシュラフはそのまま悠真を国に、というよりハレムに閉じ込めてしまいたかったようだったが、悠真はとてもそのまま見知らぬ国にい
ることは出来ないと思った。
まだ自分は高校生だし、せめて学校は卒業したいと思った。
それを訴えても、アシュラフは最初は全く理解しようとはしてくれず、そのまま日本に帰ることになってしまうかと思ったが・・・・・。
(ちゃんと、追い掛けてくれたもんな・・・・・)

 「ユーマ、お前は私が決めた私の花嫁だ。今しばらくはお前の身体を自由にしてやるが、お前の心は私の元に置く。異存はな
いな、ユーマ」

 その言葉通り、アシュラフはほぼ毎日悠真に電話をくれた。メールでは声が聞けないと、日本との時差を考えて悠真が寝る前
にだ。
その内容は、悠真が赤面するような愛の囁きばかりで。

 「可愛い悠真、今夜は私の夢をみろ」
 「1人で慰める時も、私のことだけを考えるんだ」
 「愛している、悠真。早くお前の中に私を埋めたい」

 日本人の悠真にとって、アシュラフの言葉は赤面せずにはいられないものばかりだった。
それでも、求められる言葉は嬉しい。
冬休みには絶対にアシュラフの元へ行くと何度も何度も約束をさせられて、終業式の日程を聞かれて告げると、その日の航空チ
ケットが送られてきた。
 元々、悠真とアシュラフが知り合う切っ掛けをつくってしまった父も2人の関係には黙認をするしかなく、悠真は二学期の終業
式を終えてそのまま空港に来たのだが・・・・・。



 「・・・・・行ってもいいのかな・・・・・」
 ここに来るまで、アシュラフに会いたくて会いたくて胸がドキドキとしていた。
嬉しさと楽しさだけが頭の中に渦巻いて、早くアシュラフの元に行きたいと、ただそれだけを思っていた。
 しかし、いざ本当に・・・・・この飛行機に乗ればアシュラフに会えるのだと思った時、本当に会いに行ってもいいのかと思ってしまっ
たのだ。
 アシュラフの国で会った時は、東洋人は悠真1人だけだった。
後で電話で聞いたが見合い自体本当は嫌だったらしいアシュラフが、一種の逃げ場として悠真を選んだということも言えなくもな
いはずだ。
愛しているとは言っても、もう4ヶ月近く会っていないアシュラフが、時間を置いて実物の悠真に再会した時、その熱は冷めてしまう
のではないかと突然怖くなってしまったのだ。

 学生の自分とは違い、既に次期国王としての仕事で忙しいアシュラフは、世界中を飛び回ることも多く、出会う人々の数も半
端ではないはずだ。
その中には自分のような平凡な男ではなく、もっと見目のいい・・・・・いや、そもそも面倒な男など選ばなくても、アシュラフならばど
んな女も選び放題だろう。
 一気に盛り上がった恋が冷めた時、なんだお前というような目で見られると・・・・・きっと自分は悲しくて絶望してしまうだろう。
そう思うと、怖くて一歩が踏み出せないのだ。
(どうしよう・・・・・)
 考えれば考えるほど、悪いことしか思い浮かばない。
唇を噛み締めた悠真が下を向いた時・・・・・、
 「ユーマ」
甘い声が、ロビーのざわめきの中に凛と響いた。



(う・・・・・そだ)
 もう、何度も聞いたその心地良く響く声。
『ユーマ』と、独特のイントネーションで呼ぶ時、限りなく甘くなる声が、電話越しにではなく聞こえる。
どうしてとか、なぜとか思う前に、嘘だとしか思えなくて、悠真はなかなか振り向くことが出来なかった。
 「ユーマ、どうしてこちらを向かない?」
 「・・・・・」
(これは、夢?)
 「早く、その可愛らしい顔を見せてくれ」
(う・・・・・そ・・・・・)
 怖くて見たくない。
でも、会いたくて仕方がない。
悠真はかなり長い間心の中で葛藤していたが、
 「ユーマ」
もう一度自分の名を呼ばれた時、思わず振り向いてしまっていた。



 「ア・・・・・シュラ、フ」
 そこには、あの熱い国で会った時のような、グトラ(男がかぶるヘッドスカーフ)とカンドゥーラ(白くて長いシャツドレス)姿ではない、
上品なスーツ姿のアシュラフが微笑んで立っていた。
 「ど、どうし、て?」
 「お前が国に来るまで待てなかったから迎えに来た」
 「・・・・・わざわざ?」
 「わざわざではない。乗った自家用ジェットの時間さえも待てなかった」
 「アシュラフ・・・・・」
 「愛しいユーマ、再会の挨拶がまだだぞ。お前の可愛らしい唇を味あわせてくれ」
 「・・・・・っ!」
悠真はアシュラフに飛びついた。
背の高いアシュラフとでは、まるで悠真がぶら下がっているかのように周りには見えるかもしれない。
それでも、悠真はもうアシュラフ以外は誰も見えなかった。
 「・・・・・会いたかった!」
 搾り出すように叫び、まるでぶつかるようにアシュラフに唇を合わせる。
そんな悠真の子供っぽい行動にアシュラフは唇を合わせたまま笑みを浮かべると、受けていた口付けを自分主導にして舌を絡め
合う激しく熱烈なものに変えた。
男同士のラブシーンにざわめく周りの声など、2人の耳には全く聞こえない。
 「・・・・・んっ」
 やがて口付けを解いたアシュラフは、既に腰が抜けてしまった悠真の身体をしっかり抱きしめると、くったりと自分の胸にもたれる
悠真の耳に誘うように囁いた。





 「可愛いユーマ。今この瞬間から、お前をとけるほど愛してやろう」




                                                                      end





一周年記念企画の1つ、社会人部屋のオムニバス「BAISER」。

第一弾は【熱砂の恋】のアシュラフ&悠真です。