インターホンが鳴った。
キッチンにいた芳野聖(よしの ひじり)は、その瞬間ビクッと身体を揺らす。
 「もう・・・・・時間なんだ」
 部屋の時計を見上げればそろそろ午後7時だ。
ここで色々考えていても時間は戻ることはない。聖は諦めたような溜め息をつきそうになるのを・・・・・飲み込むと、そのまま玄関
に向かい、一度ゆっくり深呼吸をしてからその場に正座をする。
 防犯の為に鍵は開けなくていいからと言われている通り、外からは鍵を開ける音がする。

 カチャ

小さな音と共にドアが開かれた途端、聖は床に手を付いて深々と頭を下げた。
 「おかえりなさい」
 「ただいま、可愛い奥さん」
 笑みを含んだ声が直ぐ耳元で聞こえたかと思うと、聖はいきなり顎を取られ、帰宅の挨拶にしてはかなり濃厚な・・・・・キスをさ
れてしまった。
(どう、どうしてこんな〜)





 聖はこの春高校に進学したばかりの少年だ。
母1人子1人で育ってきた聖は物静かで大人しい少年だが、母親に似た色白の肌と柔らかな面差し、そして片頬に出来るエ
クボのせいで、昔はよく女の子に間違われ、今も年より若く見られがちであった。
 恋多き人であった母がいきなり結婚をすると言った相手は、母が勤めていた会社の取引相手の社長で、妻を5年前に亡くし
た高須賀圭史(たかすが けいし)。まだ42歳の若さで、20代後半に立ち上げたIT関係の事業が当たり、そこから飲食店など
にも手を広げて、今や年収は数十億をくだらないほどのトップ企業だ。
 その高須賀が20歳の時に出来た子供が、今年大学4年生になる亘(わたる)。日本の最高学府に通っている亘は、いずれ
は高須賀の事業を引き継ぐ身なのだが、自分でも大学に入ってから友人達とコンピューターソフト会社を作って、今やそれなり
の稼ぎがあった。

 2人共、聖を優しく受け入れてくれ、聖も新しい父と兄が出来ることを心から喜んだが、肝心の花嫁である母は式の当日、好
きな相手が出来たからとドタキャンした上、聖自身置いていかれた形になってしまった。
 どうしたら良いのか分からないまま、とりあえず聖が母の代わりに花嫁として出たが、なぜか高須賀親子にその姿を気に入られ
てしまい、未成年を保護するという名目で、今聖は高須賀家に身を寄せていた。



 もちろん、1人で生活出来ない(金銭面で)聖は、生活の面倒を見てもらうだけでも助かる。本来なら、式をドタキャンした母
のせいで、慰謝料を請求されたっておかしくは無いくらいなのだ。
 母の代わりに料理、洗濯、掃除と、一通りの家事はこなせる聖にとって、それをして欲しいと言われるのは構わなかったが、そ
の条件として聖は高須賀家の嫁として生活することには参った。
 家事はいい。
だが・・・・・。
 「・・・・んあっ」
 激し過ぎるキスからようやく解放された聖は、目尻に涙を浮かべながら目の前の人物を見上げた。
 「・・・・・ただいま、聖」
 「・・・・・」
 「ただいま」
何かを要求するかのように再度言われ、聖はコクンと唾を飲み込んでから小さな声で言った。
 「・・・・・お、おかえりなさい・・・・・あなた」
 その言葉に満足気に笑っているのが、この家の主で、本当なら聖の義父になるはずだった男、高須賀だ。
母親の代わりに結婚式を挙げた聖を、冗談か本気なのか分からないままに妻だと言う高須賀は、顎髭を蓄え、がっしりとした体
付きの、ちょい悪オヤジ風だった。
 父を知らない聖にとって、高須賀はとても想像していた父親像とは違う。いや、今までに会ったことの無い大人の男で、何時も
翻弄されていた。
そんな高須賀が聖に提示した条件は、

 《本当の妻のように接する》

だ。
名前を呼ぶ時も、『高須賀さん』ではなく、『あなた』と呼ばなければならない。
 「いいな、若妻が家で待ってくれているのは」
多分、それがおかしいことだとは思うものの、今の聖に高須賀の要求を拒むことはとても出来なかった。
 「・・・・・」
(わ、若妻・・・・・)
 その言葉に何と言っていいのか分からない聖に獰猛に笑い掛け、高須賀はその腕を掴んで立ち上がらせようとした。
 「さあ、中に・・・・・」
 「ちょっと、父さん、どいてくれる?僕も聖君に挨拶したいんだけど」
聖がそれにつられて立ち上がる前に、いきなり聞こえてきた声。呆れたように言うその言葉に、高須賀の眉が顰められたのが聖に
も分かる。
 「いたのか、お前」
 「玄関先で会っただろ」
 「・・・・・」
 「ほら」
 聖の腕を掴んだ高須賀を強引に横へとどけると、その後ろから現れたまだ若い男が身を屈めてにっこりと笑みを向けてきた。
 「ただいま、聖君」



 「お、おかえりなさい、亘さん」
亘の提示した条件は、

 《恋人のように甘える》

ことだ。
義兄ではなく、世話になっている相手というわけでもなく、本当の恋人同士のように甘え、頼ること。
どうしてそれが義兄のようにではいけないのかは分からないが、高須賀の条件だけを聞いて亘の条件は拒否するということも出
来ない。
 ただ、恋人というものがどんな風に接するのかは分からなくて、聖はとりあえず名前を呼んで、強張ってはいるものの笑顔を向
けることだけしか出来なかった。
 「いいね、可愛い子が出迎えてくれるのは」
まるで先程の高須賀と同じ様なことを言って唇を近づけてくる亘は、本来なら義兄になった人物だ。
父親の高須賀とは違い、切れ長の目の、甘い顔立ちの亘は、言葉遣いも物腰も柔らかいが、やっていることは父親と同じに強
引だった。
聖は男2人に続けてキスをされる自分が情けなくて、ギュッと閉じた目に何も映したくないと思ってしまった。





 「お前がいるから、俺は聖と新婚生活が送れないんだろうが」
 「・・・・・」
 聖は、高須賀の脱ぐスーツの上着を黙って受け取る。
 「何言ってるんだよ、父さんの相手は莉子(りこ)さんだろ?」
そう言い返す亘の鞄を受け取った。
 「あ〜、うるせー。お前、1人で生活していけるくらいなんだから、さっさと家を出て行ったらどうだ?大体、俺が再婚するって言っ
た時は自立するとか言ってたくせに」
解いたネクタイを受け取り。
 「あれは聖君と顔合わせする前。あげ足を取らないでよ、大人気ない」
そう言う亘から差し出された袋(焼きたてパン入り)を受け取る。
 「聖、今日の夕飯は?」
 「ビーフシチューです」
 「へえ、美味そうだ」
 「デザートは何?」
 「プリン、作りました」
 「僕の好物だ、ありがとう」
 「俺、食事の用意をしますから」
 リビングにいる2人を置いて、聖はキッチンにと戻った。何だかここで1人でいるのが一番ホッと出来る。
(仲がいいのか悪いのか、分かんないよ)
一緒に暮らし始めた当初、ポンポンと言い合う2人が何時喧嘩をするのか、聖はビクビクと気配を伺っているしか出来なかった。
しかし、やがてそれがこの親子には普通の会話と同じなのだと分かった時、自分も気を揉むのを止めてしまった。
そうでなくても、聖自身、何時自分が襲われるのか油断がならないというのに、それ以外で神経を疲弊するなんてとても出来な
かった。



 いい匂いがキッチンに広がっていく。
白のフリフリレース付きという、本当に新婚の新妻が身に着けそうなエプロン(高須賀のプレゼント)を身に着けた聖は、ここ2ヶ
月あまりの生活を改めて考えた。
(母さん、早く連絡してきてよ・・・・・)
 駆け落ちという形で姿を消してしまった母からはいまだ連絡はなく、それなのにまるで今回のことを予測していたかのように聖の
学校の手続きなど、一切高須賀に任せて行ったらしい母。そこまで考えていたのなら、もっと早くこの結婚を解消してくれていた
ら良かったのにと思う。
それならば今頃、母の好きになったという男と母と自分と、また違った家族になれたかもしれないのに・・・・・。
(今更だけど・・・・・)
 はあ〜と溜め息をつきながらトマトを洗っていた聖は、不意に首筋に湿った感触を感じてビクッと振り返ろうとした。
しかし、その身体は逞しく大きな身体にすっぽりと包まれる。
 「た、高須賀さん?」
 「あ・な・た」
 「あ・・・・・あ、あなた、止めてください」
 「キッチンで新妻を可愛がるのは夫の務めだろ」
 「・・・・・っ」
(だ、だから、その考え方がおかしいんだって〜)
 妻のようにという条件を自分で出した高須賀は、本当に聖を自分の妻のように扱う。隙があれば身体に触れてくるし、キスだっ
てしてくる。
男の自分にそんなことをしたって面白いとは思わないのに、いや、そもそも男にそんなことをするのはおかしいだろうが、どうして高
須賀は楽しそうに自分を抱きしめてくるのだろう。
 「聖の後ろ姿はそそるんだよ」
 「そ、そそる?」
 「あ〜、早く5月が来ねえかな」
 「・・・・・」
(お、俺は、永遠に5月が来て欲しくないんだけど・・・・・)





 挙式の後、強引に高須賀家へと連れてこられてしまった聖。
まさかと思いながらも、このまま何かされるのかと思って不安で泣きそうで・・・・・いや、実際に目に涙は溜まっていたのだが、そん
な聖を見ていた高須賀は少し考えてから聞いてきた。
 「確か今中3だったな?」
 「・・・・・は、はい」
 「じゃあ、15歳か」
 そう言った高須賀は、隣に立つ息子の亘を振り返った。
 「どう思う?」
 「さすがに中学生はちょっと幼いかな。せめて・・・・・聖君、誕生日は何時?」
 「た、誕生日?」
 「そう、16歳の誕生日」
 「5、5月です。5月20日」
どうして誕生日を聞かれるのか分からないまま、それでも素直に答えた聖に、亘は頷きながら隣の父親を見た。
 「少なくとも、3ヶ月ちょっとはお預けじゃないかな」
 「仕方ねえなあ」
 「・・・・・あ、あの?」
2人の会話の意味が全く分からない聖は、不安になって2人の顔を交互に見てしまう。
そんな子供っぽい様子に苦笑を浮かべたまま、高須賀が咥えていた煙草をふかしながら言った。
 「今日のお前はそそったし、出来ればこのまま食っても誰も分からないとは思うんだがな。一応、俺もロリコンじゃねえし、中学
生に手を出すのは気が引ける。だから、聖、お前が16になるまでは手を出さねえよ」
 「ちょ、ちょっと、待ってくださいっ。いったい、俺・・・・・っ」
 思わず言い返そうとした聖だったが、そんな聖の顎を掴んだ亘が、まるで聞き分けの無い子供に優しく教えてくれる教師のよ
うな口調で続けて言った。
 「だからね、聖君。僕達は君とセックスしたいけど、15歳の君ではちょっと早いかなと思ったんだよ。だから、16歳の誕生日を
迎えるまではこのまま・・・・・まあ、多少は味見もさせてもらうけど、最後まではしないから」
 「さ、最後・・・・・?」
 「それまで、僕達のこともちゃんと見て知って欲しいな。聖君は高須賀家の大事な花嫁さんなんだから」





 滅茶苦茶な理論だと思うのに、結局聖は行くところもなくこの家に留まっている。
しかし、5月の誕生日はもう直ぐそこに迫っていて、危機感も次第に大きくなってきていた。
(最後まで・・・・・って、どこまでだろ・・・・・?)
 なまじ、キスは毎日されているし、身体にも触れられている。それはそれぞれ1人ずつの時もあるし、2人同時の時もあるが、ど
ちらにせよ性的にまっさらだった聖の身体はその刺激をどんどん受け入れていって、今では怖いほどに敏感になってきていた。
(これ以上は、やっぱり怖いよ・・・・・)
 「とーさん」
 「・・・・・っ」
 項にキスをされていた聖は、聞こえてきた亘の声にホッと安堵した。
どこでも、何時でも、全く構わずに手を出してくる高須賀とは違い、亘は比較的紳士で場所柄を考えてくれる。
今回も止めに入ってくれるのだと思い、聖は助けを求めるように振り返った。
 「わ、亘さん」
 「昨日、僕が遅かった時に散々聖君に悪戯したんだろ?今日は僕に譲ってくれてもいいんじゃない?」
 「そんなの、早いもん勝ちだろ」
 「駄目、平等だよ、父さん」
 「・・・・・」
(亘さん?)
 亘は高須賀の位置に自分が来ると、そのまま聖を抱きしめてくる。そして、高須賀と同じ様に首筋に唇を寄せながら、片方の
腕をエプロンの上から股間へと滑らせてきた。



 「まっ、ちょ、ちょっと!」
 こんなに明るい、それもキッチンで、亘が自分に何をしようとしているのか分からなかった。
ただ、股間をやんわりと刺激してくるその手の動きには、聖の官能をかき立てるような淫猥さを感じてしまった。
 「・・・・・やっ」
 ジーパンの上から揉まれているのに、その感触はリアルだ。
我慢など知らない聖の快感は急速に高まってしまい、きついジーパンの中でペニスが勃ち上がろうとしていた。
 「感じてる?」
 「!」
 耳元でそう囁かれ、違いますとも言えなくてその場にしゃがみ込もうとしたが、その腰は危なげなく亘が支えた。
 「少し、遊ぶか」
楽しそうに見ていた高須賀が不意にそう言ったかと思うと、聖の身体の前に回ってきてジーパンのボタンを外し、ファスナーを下ろ
す。
それはあまりにも素早くて、聖は抵抗する暇もなかった。
 「あっ!」
 きついジーパンから解放されると、聖のペニスが下着越しにエプロンを押し上げているのが高須賀には良く分かるはずだ。
 「可愛いな」
そこを見て笑った高須賀が下着を下ろしたと同時に、ペニスに4本の手が絡みついてきた。
 「ひっ、あっ!」
 大きいとは言い難い聖のペニス。その先端に、竿の部分に、付け根の双玉に、そして・・・・・そのもっと奥にまで、大きな手が触
れてくる。クチュクチュと濡れた音がするのがなぜなのか、考える余裕など全く無くて、聖はハアハアと荒く息を継いだ。
 「見える?父さん」
 「エプロンでよく見えねえな。でも、それが結構そそる」
 「想像するのも楽しいもんね」
 自分を挟んだ大柄な身体の2人が楽しそうに話している声が遠くに聞こえ、それがどういう意味なのかと思う前に、敏感な身
体はたちまち頂点まで駆け上がった。
 「・・・・・っ!」
 吐き出してしまった精液が、2人の手とエプロンを濡らしてしまい、聖はそのままズルズルとその場にへたり込んでしまった。
その聖の顔を、2人のタイプが違ういい男が覗き込んでくる。
 「頬を上気させて、可愛いね」
 「瞳も潤んで・・・・・生意気にも誘っているのか?」
声は笑っていた。
 「ほら、聖、何て言うんだった?」
 「教えてあげただろう?」
 「あ・・・・・」
 「ん?」
 「何?」
 「か・・・・・可愛・・・・・がって、くれ・・・・・て、嬉しい、です」
 こんな風に身体を弄られ、射精まで導かれた後の言葉は、確かこういえと言われたはずだ。
 「よし、いい子だ」
 「キスしてあげるね」
褒められ、交互にキスをされ、聖の身体はグズグズに蕩けてしまった。
(こんなんじゃ・・・・・駄目、なのに・・・・・)
こんな風に追い詰められていては、いずれ自分は駄目になってしまうような気がする。
それでも、どんな風に抵抗すればいいのか分からなくて、聖はこの先自分がどうなっていくのか・・・・・とても想像出来なかった。







 「これぐらい感じやすかったら、もう食っちまってもいいんじゃないか?」
 「最初に決めただろう?もう1ヶ月も無いんだから我慢したら」
 「目の毒だぜ」
 「始めから感じてくれるかもしれないね。楽しみだなあ」
 結婚式で花嫁に逃げられてしまい、腹は立たなかったが、多少意趣返しのつもりで花嫁の息子にウエディングドレスを着せた。
その姿が想像以上に初々しく、似合っていて、少し、興味がわいて。
一緒に暮らし始めて3ヶ月あまり、聖を知るにつれ、その興味は次第に独占欲に変わっている。

息子に、取られたくない。
父に、渡さない。

 ただ、お互いの気性もよく知っている親子は、自分だけが抜け駆け出来るとは思わなかった。
それならば、自分達の家族の輪の中に聖を閉じ込めてしまおうと思った。自分達は義父でもなく、義兄でもなく、モラルさえも気
にしない性格だ。
 「楽しみだな」
 「楽しみだね」
早く、聖もここまで堕ちて欲しい・・・・・高須賀親子は顔を見合わせて笑った。





                                                                      end