かえでのもの





 「今日から坊っちゃんのお勉強を見て下さる先生ですよ。世話係も兼ねているので、ずっとお傍にいることになりますが」
 「えーたの代わり?」
 「そうです。栄太は今日から若の護衛に付く事になったので」
 「・・・・・そう」
 日向組組長の次男坊である楓は、明日から小学校に入学することになっている。
家が家だけに、今までも子守という護衛が付いていたが、やはりこれからは勉強も大切ということで、組に入ったばかりだが別格に優秀な者
が護衛を兼ねて付くことになった。
 「伊崎恭祐といいます」
 「いさき、きょーすけ?」
 あどけなく繰り返す楓は、これまで2度ほど誘拐されかけたことがあるという、この辺りでは有名な美少年だった。
楓は大きな目でじっと伊崎を見つめ、やがて確かめるように聞いた。
 「きょーすけはパパのもの?」
この場合、パパとは組長である雅治のことだろう。
伊崎は苦笑して首を横に振った。
 「いいえ、違いますよ」
 「じゃあ、ママの?」
 「いいえ」
 「じゃあ、お兄ちゃんのもの?」
 「いいえ、私は坊っちゃんの・・・・・楓さんのものですよ」
 「かえでのもの?」
 「はい」
 「ほんとう?」
 「本当ですよ」
そう言い切った瞬間に見せた楓の笑顔は、その先ずっと伊崎の心の中に残るほど綺麗で無垢なものだった。


 自分の事を『かえで』と可愛らしく言っていた日々は案外に早く終わった。
学校に行き始めると周りの友達の影響からか直ぐに『俺』と言い始め、生意気な言動も目立ち始めた。
しかし、年々成長するにつれて花開くように鮮やかになっていく容貌は眩しいほどで、楓が小学校を卒業する頃には、楓に群がってくる虫を
追い払うことが伊崎の大きな役割になっていた。
 危険なのは外ばかりでなく、若い組員達の中にも楓を特別な目で見る者も出始め、伊崎はそれとなく楓に注意を促した。
 「楓さん、そろそろ大浴場ではなく、母屋の内風呂に入るようにして下さい」
 「どうしてだよ?俺、おっきな風呂が好きなのに」
猫のように少しつり上がった大きな目で睨む楓は、命令されて不満だと訴えている。
伊崎は楓の視線に合わせる様に腰を屈めた。
 住み込みの組員達が入れるようにと、母屋の内風呂とは別に、離れには10人ほどが一度に入れるような大きな風呂がある。
幼い頃から組員達と一緒に大浴場に入ることが多かった楓だが、近頃組員達は楓が入ってくると気まずげに視線を逸らすことが多くなった。
それは、楓の容姿のせいだ。
身長は160センチに届くかどうか、細い手足はすらっと伸び、まだ丸みを残している身体は白くきめ細かい肌で、パッと見ただけではほとん
ど美少女だった。
 男と分かっている組員達でさえ、その身体を正視出来ない程なのだ。
時折甘えたり、ふざけて抱きついたりされると、身体が反応して思わずそのまま犯したくなる・・・・・そう噂し合う組員達の言葉を耳にした伊
崎は(その組員は即刻破門されたが)、身内でも安心できないことを悟った。
 「恭祐っ!」
 「・・・・・もうそろそろ、お1人でも風呂に入れるでしょう?それともまだ子供のように、背中を流してあげないといけませんか?」
 「!1人で大丈夫!」
 プライドを刺激して、楓を意図する方向に向けることはたやすかった。
(楓さんは組員を信じてるからな・・・・・)
聡い子供だった楓は、自分の容姿が人よりも整っていることを幼い頃から自覚していた。
ただ、プライドの高い楓は容姿目当てで寄ってくる者達をことごとくシャットアウトし、容姿を利用するという事を嫌って、どこか臆病になってし
まってもいた。
その為なのかどうか、楓は極端に性的に幼い。


 「恭祐!やっぱり一緒にはいろ!」
 母屋の内風呂もかなり広く、やはり1人では心細いのか楓が呼ぶ。
伊崎は一瞬躊躇ったが、結局無視することは出来ずに、先に入ってしまった楓の後に続いた。
 「恭祐、こっち、こっち」
楓は伊崎の腕を引っ張って湯船の中に座らせると、その足の間にちょこんと座った。
 「か、楓さん?」
 「へへ、人間イス〜」
 「・・・・・」
 柔らかな尻が伊崎の下半身に直接触れる。
 「・・・・・重いですよ」
 「嘘だ〜」
 「ほら、どいてください」
反応しかけるのを誤魔化す様に楓の身体を押しのけると、あしらわれたと思った楓は腰に手を当て、伊崎の前で仁王立ちになった。
 「恭祐のクセに生意気!」
 「・・・・・」
 ほとんど目の前に、楓のペニスがあった。もちろんまだ全然子供のもので、ペニスというよりもおちんちんといった感じだ。
恥毛もまだ全然生えておらず、滑らかな線も丸見えだった。
 「楓さん・・・・・許してください」
これ以上見ていると、伊崎こそ楓を押し倒してしまうだろう。
 そんな伊崎の心の葛藤など全く想像してない楓は、伊崎が素直に謝ったことに気を良くして、今度は伊崎の直ぐ隣に身を沈めた。
 「やっぱり、恭祐の傍は気持ちいい」
 「楓さん」
 「恭祐が俺のものだから・・・・・気持ちいいのかな」
 「・・・・・」
 「大好き、恭祐」
 「・・・・・私も、楓さんが好きですよ」
純粋な気持ちで言ってくれているだろう楓と、欲望を含んだ自分の言葉。
これから先、2人の思いがどう重なり合っていくのか分からないが、どんな結果になろうとも自分は楓のものであることには変わりないだろう。
伊崎は何時の間にか落ち着いた下半身に安堵し、子猫のように擦り寄ってくる愛しい子供の身体を、今度こそそっと抱きしめた。





                                                                            end







人気のある伊崎×楓の番外編です。
こんなに昔から楓は女王様で、伊崎は・・・けしてショタではないのでしょうが、煩悩と戦っていたのです。
まあ、別の角度から見れば、男版源氏物語っぽい気もしますが。