(うわ〜、見てるよ〜)
ゾクゾクッと背筋がくすぐったくなる。
「名前、教えて!」
『おれ、新田薫っ』
これ以上遅れてなるものかと、慌てて駈け寄ってきた薫を見る3人三様の瞳。
「俺は椎名克彦。よろしく」
薫を出し抜いた大人しそうな、しかし独特の存在感を持つ少年が笑いながら言う。
「俺は小林芳樹。美原一中だよ」
背の高いハンサムな少年はそう言うと、1人我関せずといった感じで机に頬杖を付いている少年を肘で小突いた。
「茅野、ちゃんと挨拶してくれてるんだから」
(そうそう、そうなんだよ、お前と友達になりたいんだよ!)
「お前と知り合いたい奴らだろ」
「違うって!」
「違うよ」
ほとんど同時に叫んだ薫と椎名。薫は椎名の目的が自分と同じだと気付き、今度は先を越されまいと身を乗り出すよう
に言った。
「俺っ、お前と友達になりたいんだよ!もちろん小林だっけ?とも友達になるつもりだけどさ!」
ついでのように名前を出された小林は苦笑するが、その瞳は面白そうに笑みを浮かべたままだ。
「俺も同じ。2人の仲間に入れて欲しいと思ったんだ。駄目かな?」
(うわ、こいつ、いいこと言うじゃんか〜っ)
友達になりたいと言った自分が急に子供っぽく思えてしまったが、自分のボキャブラリーではそれがいっぱいいっぱいの表現
だった。
しかし、確かに椎名の言ったとおり、仲間になりたいというのが正解かもしれない。友達は誰でもなれるが、仲間は何か
特別な響きを感じるからだ。
2人の間に確かに感じる絆に入ってみたら・・・・・そう考えると楽しくてワクワクしてしまう。
二人の熱烈ラブコールに、小林がプッと吹き出した。
「モテモテじゃない、茅野」
「うるさいっ」
そう言うものの、寄せ付けないオーラが急激に薄れていくのを感じる。
そして、茅野と呼ばれた少年が、真っ直ぐに薫を見た。
(うわ〜見てるよ〜。でっかい目だよな〜)
猫のように少しつり上がったアーモンドアイ。あらかじめ覚悟を決めていないと、普通なら目を逸らしてしまう程の視線の強さ
だ。
「名前、教えて」
しかし、咳き込むように言った薫を見つめていた少年が次の瞬間見せたテレ隠しの笑顔は、まだ子供のように無垢で、向
けられた薫の方が赤面してしまう位魅力的なものだった。
「茅野広海。・・・・・よろしくな」
その言葉の響きに共感するものがある。
(女みたいな名前)
自分の薫という名前と同じで、響きはまるで女名だ。
からかうつもりではなかったが、薫は思わず自分が何時も呼ばれている呼び方で言ってみた。
「ヒロミ・・・・・ヒロミチャン?」
案の定ムッとした顔で茅野は薫を睨んだ。
「名前で呼ぶなっ」
拳骨で薫の頭を殴った茅野に、息を潜めてこちらを伺っていた周りがざわめく。
かわいそうと言う女生徒の声が聞こえたが、薫の気持ちは全く正反対だった。
(なんだ、茅野ってかわい〜じゃん)
遠慮のないその一発は仲間に対するものだ。
薫は嬉しくてへへっと笑った。
「一年間よろしくな!」
おわり