何を考えているのだろう。
上杉にとって太朗は謎の生物だった。
まだまだ子供であることは間違いがないのに、時々驚くほど懐の深さを感じさせる。
大体、ヤクザの、それも自分よりも20歳も年上の男と付き合うなど、本当ならばかなりの勇気と度胸が必要だろう。
「大好きだよ!」
照れくさそうに、恥ずかしそうに、それでも真っ直ぐな言葉を投げかけてくれる。そんな彼をこの手に掴むことが出来たのは
・・・・・自分はどれだけ運のいい男だろうか。
「美味かった、ごちそうさん」
甘い甘い、誕生日のご馳走。
甘い物自体、上杉は嫌いではない。ケーキも、和菓子も、果物も、チョコも、アイスも、好んで口の中に入れる事はない
が、食べれないことはない。
ただ、甘い野菜だけは、どうしても苦手だった。
大学芋は食べられるのに、サツマイモの天ぷらは駄目だ。
カボチャのパイは食べられるのに、煮物は受け付けられない。
野菜のくせに何で甘いんだと何度も口にし、その度に傍にいた小田切は食わず嫌いですと呆れていた。
それなのに、今太朗が作ってくれた物は全部美味かった。
甘いサツマイモの天ぷらも、カボチャのスープも、甘いトウモロコシのサラダも、全部が全部自分の味覚ピッタリに合って美
味しかった。
「本当に食べれたんだ・・・・・」
上杉以上に食べていた太朗は、面白くなさそうに口を尖らせた。
食べている間に巧妙に誘導して聞いてみると、どうやら自分の嫌いな食べ物を教えたのは小田切らしい。
やっぱりとは思ったが、本当に奴は人の嫌がることが好きなようだ。
「タロが作ったものなら、何でも食べれるぞ」
「それは嬉しいけど〜」
目の前に座っている太朗は、今だ割烹着を着たままだ。
どうやら本人は着ていることも忘れているようだが、まるで小学生の調理実習のような感じで見ているだけで楽しかった。
「よく1人で作れたな」
「母ちゃんに教えてもらったんだ」
「俺の為に?」
「他にいないだろっ」
簡単にこう言えることがどんなに大変か。
そして、それを聞く自分がどんなに幸せか、太朗はきっと気付きもしないだろう。
もちろん上杉は教えてやるつもりはない。これ以上太朗を最強にしてどうするのだ。
「それで?」
「それで?」
「今日は泊まってくれるのか?」
「・・・・・」
目を細めて太朗の顔を見ると、その表情は見る間に赤く染まっていく。
身体もかなり大人になった恋人は、ちゃんと自分の言葉の意味を分かってくれたらしい。
「だって」
「だって?」
「・・・・・ジローさん、後片付け出来ないだろ?汚したらちゃんと片付けて帰らないといけないし・・・・・母ちゃんにもちゃ
んと言ってきた」
「上出来」
「何だよ!その上から目線!」
その反発が、照れ隠しだということは十分分かっている。
その可愛い顔が見たくてからかっているのだが、何時まで経ってもその初々しい反応が変わらないのが嬉しい。
「よし、じゃあ、一緒に風呂入るか?」
「きゃ、却下!」
「なんだ、サービス足りないんじゃないのか?」
「そ、そーいうサービスはないんだよ!俺、先に入るからな!」
小走りにリビングから出て行った太朗の後ろ姿を見ながら、上杉はテーブルの上を見た。
後片付けをする為に泊まるといった割には、今の上杉の言葉で動揺したのか皿も下げないままだ。
「仕方ね〜な」
上杉はシャツの袖を捲くると、そのままテーブルの上を片付け始めた。
律儀な太朗は風呂から上がれば、きっと食器を片付けようとクルクル小動物のように働くだろう。料理を作っただけでも
たいした苦労だったろうに、これ以上働かせてもかわいそうだ。
それに、チラッと見た太朗の指先の幾つかには絆創膏が貼ってあった。切ったか、火傷か、それは分からないが、これ以
上あの身体に掠り傷も付けたくない。
「・・・・・あれは俺のだしな」
誕生日にこうして食べた皿の後片付けなど、去年までの自分ならばとても考えられないことだ。
だが、不思議とそれが楽しく思えるとは・・・・・。
誰かと2人で食卓を囲む。
2人分の食器を洗う。
そんなごく普通の光景を過ごせる自分が嬉しかった。
「あああ〜〜〜っ!後片付け!!」
綺麗に片付けられたキッチンを見て、太朗は大きく叫んでいた。
そうやら風呂の途中で片づけが終わっていないことに気付いたらしく、濡れた髪もまだ十分乾いていない状態で出てきて
いた。
着ているパジャマは、お泊まり用にと太朗が置いているものだ。
「ご、ごめん!ジローさん!俺、すっかり忘れてて!」
「いいって。お前大体片付けてただろ」
「でもっ、ジローさん誕生日なのに・・・・・」
2組の食器を洗うことも楽しかったのだと、太朗に説明してもまだ彼には良く分からないのかもしれない。
「悪いと思ってるんなら、大人しくそこで待ってろ」
シャワーを浴びながら、上杉は太朗がどんな顔で待っているのかと思うと楽しくなった。
いかにもな感じがして居たたまれなくて、既にベットを大の字で占領している可能性もあるし、どうしようかとリビングの中
をうろうろ歩いている可能性もある。
(まあ、逃げることはないだろうがな)
上杉の誕生日。ある程度の覚悟はしているはずだ。
「楽しみだな」
上杉は上半身裸のまま、下半身はシンプルなパジャマを穿いて、首にタオルを掛けたままリビングに向かう。
「・・・・・」
太朗はちょこんと、リビングのソファの上で正座していた。
「足痛くならないか?」
「あ」
声を掛けると、慌てたように太朗の視線が向けられる。
その視線が再び泳いだのは・・・・・この格好のせいか。
「髪、乾かしたか?」
「う、うん」
太朗の隣に腰掛けてその肩を抱き寄せるようにすると、反射的に逃げようと動いた身体は思い止まったかのように動か
なかった。
頬に唇を寄せても。
悪戯っぽく頬を指先でくすぐっても。
今日の太朗は健気を通り越して可哀想になるほど大人しい。
(ここまで硬くならないでいいんだが・・・・・)
上杉は苦笑を零して太朗に言った。
「いくら俺の誕生日でも、嫌なことは嫌だって言っていいんだぞ」
「・・・・・じゃ、ないもん」
「ん?」
「い、嫌じゃないから逃げないんだってば!ふつー、分かるだろっ、そんなこと!」
「・・・・・可愛いなお前は」
「な、なんだよ!」
可愛い。可愛くてたまらない。
外見も可愛い、心も可愛い。とにかく、太朗の存在自体が可愛くてたまらない。
「あー、もったいねーなー」
「え?何が?」
「せっかくお前と一緒にいられる誕生日、もう終わるだろーが。この歳でガキみたいにウキウキして待ってたんだがな」
楽しい時間というものは、本当に過ぎてしまうのは早い。
太朗と知り合ってからはそれが良く分かる。
(このままうちに置いておきたいんだがな〜)
まだ、もう少し、それは我慢しなければならないだろう。それまで上杉は、太朗と会う時を待ち望み、そして会った後は次
の時間を待つということを繰り返さなければならない。
「別にいいじゃん。誕生日なんて来年もあるんだしさ」
「・・・・」
不意に、何が寂しいのだとでもいうように太朗が言った。
「来年はもっと豪華なもの作って見せるから、楽しみにしてて」
「・・・・・ああ」
ごく普通に、来年のことを口に出せる太朗。来年も2人が一緒にいることを少しも疑っていないようだ。
大人の自分は余計なことばかりを考えてしまい、今一緒にいることを大切に思いがちだが、若い太朗はこの先も続く未
来の事を何の疑いもなく言える。
(・・・・・そうだな、この先もずっとお前が傍にいるはずか)
「じゃあ、来年は期待しとくか」
「うんっ」
にっこりと上杉に笑い掛ける太朗は可愛い。
この後、この可愛らしさが驚くほど色っぽく変化する一瞬を、自分だけは知っている。
「今日はありがとな、タロ」
「どういたしまして」
「お礼にたっぷり可愛がってやる」
「え?あっ、んっ」
唇を重ねて舌を入れると、真っ赤になった顔の太朗が必死にしがみ付いてくる。
今日の自分の嬉しさを太朗に伝えるには、多分太朗が失神してもその身体を離すことは出来ないが・・・・・。
(今日はセーブしなくてもいいな・・・・・夏休みだし、俺の誕生日だし)
上杉はほくそ笑むと、そのまま瑞々しい太朗の身体を組み敷いた。
end
タロジロ、ジローさんのお誕生日、「可愛い奴」編です。
エッチもいいのですが、その前のイチャイチャが書きたかったので。
ジローさんの、タロが可愛くて仕方ないという思いが伝わればいいんですけど。