600,000キリ番ゲッター、Grace様のリクエスト分です。

「うわあ!ホントに赤ちゃんいるよ!!」
日当たりのいいリビングに置かれたベビーベットを覗き込んだ苑江太朗(そのえ たろう)は、文字通り目を丸くして大声で叫
んだ。
「タロ、煩い。出産祝いで来たんだから当たり前だろ」
そんな太朗を、年上の威厳でたしなめる日向楓(ひゅうが かえで)も、じっとベビーベットを覗いている。
眠っている貴央の足元には、2人からの祝いの品の、大きな熊のぬいぐるみが置いてあった。
「で、でもさあ、お腹がおっきい時にも会ったけど、やっぱり風船入れてたのかなって思ったりして、この目で見るまで信じられな
かったっていうか・・・・・」
「・・・・・馬鹿」
「馬鹿っていうな!馬鹿!」
賑やかな声が明るいリビングの中に響く。
真琴は土産にと貰ったケーキを早速取り出し、クスクス笑いながら言った。
「仕方ないよ、楓君。生んだ俺でも、やっぱり時々信じられないって思う時があるんだから」
開成会というヤクザの会長、海藤貴士(かいどう たかし)と、普通の大学生だった西原真琴(にしはら まこと)は、紆余曲
折ありながらも結ばれた恋人同士だった。
仲睦まじく暮らしていた2人に、男同士という関係ながらも子供が出来たのは神様の気紛れとしか思えない。
だが、世界中では特異な例ながらも男の妊娠出産は確かに例があり、日本国内にも確かにいた。
リスクが全く無いわけではなかったが、真琴はせっかく授かった命・・・・・初めて愛した海藤との子供を絶対に産むと決め、周
りの理解も得て無事出産した。
少し小さめに生まれてしまった2人の子供、貴央(たかお)は通常よりは長い入院期間になってしまったが、生後50日目に
やっと無事退院することとなった。
退院してしばらくはバタバタした時間が過ぎていた。
何もかもが初めてで、真琴は朝起きてから夜寝るまで、少しの余裕も無いほどに神経を尖らせていた。
「上杉さん達が祝いに来たいと言ってるが、いいか?」
そんな、頑張り続けている真琴に一息つかせてやりたいと思った海藤は、以前から真琴と親しくしていた年若い友人達をマン
ションに連れてくることを提案してくれ、実際にやってきたのは、友人の太朗と楓だけでなく、その恋人である羽生会会長、上
杉滋郎(うえすぎ じろう)と、日向組若頭、伊崎恭祐(いさき きょうすけ)も同行という、思いがけず賑やかものとなった。
太朗は本当に驚いていた。
お腹が大きい時も実際に会い、あの時も実感はわかなかったが、こうして現実に1人の人間として目の前に存在してもやっぱ
りまだ信じられなかった。
「・・・・・なんか、すごいね、真琴さん」
「え?」
「ちゃんとこうして産んだのが凄い」
「そんなこと無いよ。周りのみんなが協力してくれたし、何よりたかちゃんが頑張って生まれてきてくれたからだよ」
「・・・・・へえ」
太朗はツンとピンク色の頬を突いてみた。
むずかるように眉を顰めるが直ぐににこりと笑っている。
「真琴さんに似てるね」
「そう?」
嬉しそうな真琴に頷いてみせながら、太朗はふ〜んと考え込んだ。
(ホントに男同士でも子供が出来るんだなあ)
物語でも出てきそうにないその事実を思い・・・・・太朗はふと気付いてしまった。
(あれ?真琴さんが海藤さんの赤ちゃん産めるんなら、俺もジローさんの赤ちゃんが産めるってこと?)
同性同士のカップルに子供が出来るのならば、それは自分と上杉の間に起こってもおかしくは無い話ではないだろうか。
だとすれば、当然受け入れる方側の太朗が子供を産むことになるはずだ。
「うわあっ?」
「な、何だよ、いきなり大声出すな」
「ご、ごめん」
楓に頭を下げながらも、太朗の頭の中はモヤモヤとお腹が大きくなった自分の姿が浮かんだ。
今の自分の顔で、お腹だけがぷっくりと大きい姿・・・・・。
「うわ〜うわ〜!!」
「煩いって、タロ!」
楓にゴンッと頭を叩かれても、太朗の唸り声はなかなか止まらなかった。
(いったい何を考えてるんだ、こいつは)
楓は太朗をじろっと横目で見ていたが、もう一度ベビーベットに眠る貴央に視線を向けた。
海藤にも真琴にもどことなく似ている可愛い赤ん坊だ。
(結構大変だったって聞いたけど・・・・・)
女の普通の出産とは違い、男の出産はかなり大変だったようだ。
幸いにも真琴の出産はまだ軽い方だったらしいが、赤ん坊の退院までは50日間ほど掛かったという。
「・・・・・いいな」
真琴の妊娠を知った時、楓は驚いたと同時に羨ましいという気持ちが生まれた。
奇跡のようなこの子供が、自分と伊崎の間にも出来たらいいのにと強く思ったのだ。
(俺だって、恭祐の子供なら産みたいのに・・・・・)
自分が伊崎の事を好きな気持ちは、真琴のそれに劣るとは思っていない。いや、自分の方が伊崎を好きな期間はずっと長い。
(抱き合う回数が少ないのか?でも、恭祐忙しいし・・・・・)
同じ屋根の下に暮らしているのに、伊崎とのイチャイチャする時間はかなり少ない。
いや、同じ家だからこそ、父や兄に遠慮しているのかと思えば、伊崎に家を出てもらうことも考えるが、それでは今よりもっと一緒
にいられる時間は少なくなってしまうだろう。
(・・・・・もうっ、恭祐が気が弱いのが悪い!)
そう結論を出してしまった楓は、隣にいる伊崎をキッと睨んだ。
「楓さん?」
「・・・・・」
「楓さん、何か・・・・・」
「なんでもない!」
(鈍感過ぎなんだよ!俺達も欲しいですねの一言ぐらい言えばいいのに!)
フンッと伊崎から顔を逸らした楓は、大きな溜め息を付きながら貴央を見つめた。
(何を怒ってるんだ?)
一瞬前まで笑みを浮かべながら赤ん坊を見つめていた楓の豹変に、伊崎は途惑いながらも側にいることしか出来なかった。
(子供か・・・・・)
海藤と真琴の間に産まれた子供の存在は、伊崎にとっても大きな衝撃となっていた。
今までの常識ならば、男同士のセックスでは子供は出来ないというものだったが、これ程身近に例外が出来たのだ。
(真剣に考えなければいけないな)
楓を抱くのは、もちろん楓を愛しているからだ。もしも、楓に自分との子供が出来たとしたら、もちろん自分には受け入れる覚
悟は有る。
しかし、楓はまだ高校生で、自分の組の御曹司だ。
30も半ばの自分と、まだ17歳の楓と。覚悟をしているといっても、楓だけに負担を強いることは出来ない。
(オヤジや組長にも話さなければならないし・・・・・)
今はとりあえず秘密にはしているが、伊崎は何時までも楓との関係を隠しているつもりは無かった。楓が高校を卒業すれば、
2人の関係は話すつもりだ。
多分・・・・・半殺しの目にあうだろうが、命さえあれば楓を抱きしめることは出来る。
「・・・・・」
「・・・・・」
伊崎は自分の少し前にいる楓の後ろ姿を見つめる。
赤ん坊をじっと見つめるその横顔を見ていても、楓がいったい何を考えているのかは分からなかった。
煙草を吸おうとスーツの内ポケットに手を入れた上杉は、すぐに気が付いてその手を出されたコーヒーカップの方へやった。
さすがに赤ん坊のいる場所で煙草は吸えない。
同時に、内ポケットに入れていた分厚い熨斗袋はなかなか差し出す切っ掛けが掴めなかったが、帰り際でも海藤にそっと渡せ
ばいいだろう。
(それにしても、俺と海藤と、何が違うっていうんだ?)
上杉は不思議でたまらなかった。
海藤から真琴の妊娠の話を聞いた時、なぜ海藤達には子供が出来て自分と太朗の間には出来ないのだろうと思った。
愛情には自信があったし、タネに問題が有るとは思えない。
(・・・・・あれか?タロがまだ子供だからか?)
真琴より3歳年下の太朗は、16歳にしてはまだまだ子供っぽい。
最近やっと上杉の愛撫に色っぽい顔をするようになったが、今だ何回も連続しては出来ないし、上杉としてはセーブしているこ
とも多かった。
まだセックスを知ったばかりの子供に濃厚な愛撫を教え込むのは早いかとも思っていたが、こんな例を目の前に見せ付けられる
と事情が違う。
(俺とタロの子か・・・・・面白そうだな)
きっと・・・・・面白くて、可愛い子になるだろう。太朗に似た、可愛い子犬のように元気な子のはずだ。
そんな風に考えると、どうしても欲しくなってしまう気持ちは止まらなかった。
「海藤、お前どうやったんだ?」
「え?」
上杉は身を乗り出すと、口元に笑みを浮かべて言った。
「子供の作り方だよ」
「ジ、ジローさんってばっ、変なこと言うなよ!」
「変なことじゃないだろ?俺達だってやることやって、中に出してやってるのに、なぜ出来ないのか知りたいと思わないか?体
位も関係あるのかどう・・・・・」
「ばかぁ!スケベ!」
「ホント、赤ん坊の前で話すことじゃないよな。汚い大人にはなりたくないね」
真っ赤になって叫ぶ太朗と、嫌そうな視線を向けてくる楓。
しかし、上杉の口は止まらなかった。
「タロ、俺との子が欲しくないか?ボロボロ産んだってみんな引き受けて育ててやるぞ?」
「だからっ、俺は犬じゃないんだってば!」
「照れるなって。大丈夫、何人子供が出来ようと、俺が一番愛しているのはタロだからな」
上杉は太朗の髪をクシャッと撫でると、微妙に視線を逸らしている伊崎にも言った。
「お前も欲しいだろ?姫さんとの子供」
「私は・・・・・」
「いらないなんて言ったら泣くぞ」
「あんたねっ、人のとこはほっといてよ!」
「おかしいよなあ。タロ、子作りの為にもっと頻繁にセックスするか?」
「わー!わー!」
「タロ煩いって!赤ちゃん起きるだろ!」
途端に賑やかになった一同に、真琴もおかしくなって笑い出した。
子育ては楽しく遣り甲斐があったのに、どこか張り詰めていた肩の力がストンと抜けたような気がする。
(・・・・・そっか)
海藤はきっと、真琴に一息つけさせる為に、こうして親しい4人を呼んでくれたのだろう。その心遣いが嬉しくて、真琴はキュッと
海藤の服を掴んだ。
「・・・・・来てもらって良かった。ありがとうございます」
素直な感謝の言葉に、海藤も笑みを浮かべている。
「なんだ、この子はこの騒ぎの中でも起きないのか?度胸あるな」
そう言いながら、上杉が大きな手でポンポンと貴央の腹を叩けば。
「あんたとタロが煩過ぎて、呆れてるだけだったりしてね」
楓が口を尖らす。
「伊崎、ちゃんと躾けとけよ」
「俺はペットじゃない!」
「ジローさん、それ失礼だろ!」
「ん?可愛いって褒めてんじゃねえか。そんなにイライラしてると、伊崎の子を孕む余裕が無くなるぞ」
「なっ!」
賑やかな言い合いはエンドレスに続き、そんな中真琴がニコニコ笑いながら爆弾を落とした。
「でも、楓君の赤ちゃんならきっと綺麗だろうし、太朗君の赤ちゃんだったら元気で可愛いだろうな」
その言葉に、太朗は顔を真っ赤にして口をパクパクさせ。
楓は既成事実を作ろうとでもいうように伊崎を睨み。
伊崎は何と楓を宥めようか思案するように眉を顰めて・・・・・。
「じゃあ、作り方を海藤にレクチャーしてもらうか」
上杉の笑みを含んだ言葉に、反論する者はもういなかった。
and
600,000のキリ番踏んで頂いたGrace様、大変お待たせを致しました。
リクエスト頂いたマコママ、出産祝いに来てくれたお子様仲間とその旦那様方の話です。
本編を再開する前に、少しだけマコママの日常を覗いてください。
それにしてもジローさん、露骨なのにエッチく聞こえないのは人徳でしょうか(笑)。