コード&ルカ編





 「レンさん、僕のこと好きだって!」

 家に戻ってくるなり、自分に抱き付いて嬉しそうに言うキアに、ルカは一瞬眉を顰めてしまった。
(彼がキアを好きなことは、もうとっくに知っているけど・・・・・)
それでも、可愛い唯一の弟であるキアを言葉で問い詰めることはせず、優しい笑みを湛えながら訊ねてみる。
 「レン、今まで言ってくれなかったの?」
 「ううん、数は少ないけど、ちゃんと言ってくれてたよ?でもね、今日は、これからも僕だけとしか交尾をしないって、ちゃ
んと約束してくれたんだ!その後、いっぱい愛してくれて、僕、死にそうなほど幸せだった!」
 「キア・・・・・」
 ルカはキアの首筋に顔を埋めた。すると、何時も以上に甘い香りがしている。たっぷり愛され、たっぷりと精を注ぎ込ま
れた証のそれに、ルカは良かったねと言うしかなかった。



 「ねえ、キア。キアはレンとしか交尾をしたことが無いよね?だったら、それが一番気持ちいいものかどうか、分からない
だろう?僕達、せっかく交尾を楽しめる身体をしているし、みんなからも欲しがられているのに、レンだけにしか抱かれな
いって寂しくない?」

 そう、キアに言ったのは、少しだけやっかみもあったかもしれない。
自分にはまだ大切な相手というのがいないのに、弟であるキアの方が先に見付け、しかもその相手・・・・・レンとしか身
体を重ねたことが無いなんて、あまりにも綺麗事過ぎるように思ったのだ。
 自分も、そして他の兄弟達も、数多くの雄や雌と交尾をしてきた。
そのどの相手もちゃんと愛してくれたし、気持ちよい交尾だった。
だから、そのことについて今更後悔することは無かったが、心の中のどこかで負けたような気がして・・・・・少しだけ、可
愛い弟を苛めたくなってしまったのだ。

 「今日も、すっごく幸せな日だった!」
 「そっか・・・・・良かったね、キア」
 「うん!ありがとう、ルカ兄さん。ルカ兄さんが言ってくれなかったら、僕、何時まで経っても自分の足りないものに気づ
かなかったかもしれなかった!妬きもちもやいちゃったけど、レンさん、嫌だって言わなかったよ?」
 「・・・・・レンは、キアには甘いもんね」
 「ふふ、そうかなあ」
 幸せそうに笑う弟を抱きしめながら、ルカはいいなあと胸の中で呟く。
キアよりも遥かにいろんな相手と知り合ってきたのに、まだこの相手だというような存在に知り合えていないということが
妙に寂しく感じてしまった。
(誰か、僕を愛してくれないかな)



 「行ってきま〜す!」
 「いってらっしゃい。ちゃんと帰ってくるんだよ?」
 「は〜い!」
 今日も、キアは元気に家を出て行った。
どうやら今日は2人で少し遠出をするらしく、レンに食べてもらうんだと一生懸命弁当を作っていた。しかし、野菜サラダ
なんて、肉食獣のレンは食べるのかと心配になってしまう。
(まあ、レンならキアの作ったものは全て食べるだろうけど)
 「・・・・・僕も、出掛けようかな」
 キアが出掛け、他の兄弟達もそれぞれ恋人や遊びの相手に会うために出掛けてしまった。1人きりで家にいるのは寂
しくて、取り合えず外へ出掛けることにした。

 外は、いい天気だ。
ルカは歩いて行くうちに、口から鼻歌が漏れてしまうくらいに上機嫌になって、どんどんと森の中へと向かう。
(多分、いる)
 自分がこんな風に考えているのだ、きっと・・・・・。
 「ルカ」
 「・・・・・」
(やっぱり、いた)
毎日この森に来るわけではないのに、必ずと言っていいほど出会うのは、きっと毎日ここで自分が来るのを待っている
からだろう。
申し訳ないとか、可哀想とかは思わなかった。
この男がここにいるのは当然なのだ。
 「こんにちは、コード」
そう思ったルカは、にっこりと笑みを浮かべた。



 何時もは自分の顔を見た瞬間に眉をひそめるのに、今日は可愛らしい笑みを向けてくれる。いったいどういう心境の
変化なんだと思いながらも、コードはその笑顔を嬉しく感じた。
 「今日はどこに行くんだ?」
 「今日は、って?」
 「何時も言ってるじゃないか、ここを通るのは途中だって」
 「・・・・・今日は、違うかも」
 ルカの楽しそうな表情は変わらない。
コードはゆっくりとルカに近付いて行ったが、手が届くほど傍に寄っても、実際にその肩を掴んで抱き寄せても、ルカは
何時ものように文句を言ったり逃げたりしようとはせず、大人しくコードのなすがままになっていた。
(・・・・・まさか、これで最後とでも思っているのか?)
 なんだかんだと言って、結局はコードに抱かれてきたルカだが、今日を最後にそんな中途半端な関係も止めようとし
ているのだろうか。
そう思うと、今日のルカの態度が全て納得が出来てしまい、コードはキリッと奥歯を噛みしめてしまった。
(そんなこと、許さないっ)
 どんな理由があろうと、自分から逃げようと思うなんて許さないと、コードはそのまま強引にルカの顔を仰向けにさせ
ると唇を奪った。



 「んっ」
 いきなり口づけをしてきたコードに、さすがに驚いたルカがバンバンと背中や肩を叩く。
もちろん、それくらいではビクともしない彼のたくましい身体は、ますます強くルカの身体を抱き込んでいった。

 クチュ

 濃厚な、まるで交尾の前のような口づけ。
ルカの身体はどんどんと熱くなってきて、無意識のうちにコードの身体にすり寄ってしまう。すると、さらにコードは口づけ
を深めながら、意味深に小さな尻を撫でてきた。
 「・・・・・っ」
 ふわふわの尻尾を掴まれ、揉まれ、急激にキュンと下半身が痺れて、ルカはくったりとコードの腕の中に完全に身体
を預けてしまった。



 口づけをほどいた時、ルカの身体は完全に自分の手の中にあった。
今までのこともあり、それが信じられずに、コードはルカを抱きしめたその耳元で訊ねる。
 「ルカ、本当に今日はどうしたんだ?何かあったのか?」
 「・・・・・何か?・・・・・そうだなあ、少し・・・・・寂しくなったのかも」
 「え?」
 「大好きな兄弟達に、次々と大切な誰かが現われ、僕だけ1人なのが・・・・・寂しくて」
 そう言ったルカは、ゆっくりと顔をあげてコードを見つめてきた。
少しだけ釣り上った綺麗な目が、明らかな欲情に濡れている。この後の何かを想像させるような色に、コードの中の疑
問はどんどん隅の方へと追いやられていった。
(理由など、いいか)
 今、ルカが自分を必要としてくれるのなら、その気持ちに付け込んで抱こうと思う。やがて何時の日か、本当にルカが
自分のことを欲しがるまで、こうしてこの腕の中に抱きしめていよう。
 「慰めてやるぞ、ルカ、俺のやり方で」
 わざと意味を含んで言えば、ルカの眼差しも少し細められる。
まだ好きだとは言ってもらえないようだが、この身体を味あわせてもらうだけ、自分は特別なのだろうとコードは思えた。





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