洸英&和季編
光華国の現王、洸英(こうえい)は、自室の椅子に座り、ゆったりと酒を口に運んでいた。
傍目には寛いでいるように見えるが、洸英の内心は苛立ちに支配されている。それは、最愛の伴侶が自分の傍にいな
いからだ。
王の影。
支える伴侶となる者や側近がいない王の前に現れ、その命さえも懸けて国と王を守る存在。
代々の影は両性が多く、王とは性的な関係を結んでこなかったが、洸英はその暗黙のしきたりを堂々と破り、自分の
影である和季(わき)の全てを手にした。
それは、もちろん愛情が伴っていたからこそだが、和季はなかなか心を開いてはくれず、自棄になった洸英は見せ付け
るうように様々な女と関係を持った。
その中で、莉洸(りこう)と洸莱(こうらい)が生まれのだ。
長男であり、皇太子である洸聖(こうせい)が花嫁を迎えることになってから、様々なことが起こった。
三男の莉洸は隣国の王に攫われてしまうし、次男は使用人を、四男は皇太子妃の従者を伴侶として選んだ。
全ての子供の相手が同性であることにさすがに苦笑が漏れてしまったが、自身も自由に生きてきた洸英に意見をする
権利など無く、洸聖以降の世継ぎのことも彼ら自身に任せた。
後は、最愛の和季との甘い生活をすることを願っていたのだが・・・・・。
(あれは、何をしておる)
正式に式を挙げていないとはいえ、実質上和季は自分の正妃だ。
政にかかわることはあるかもしれないが、自分の傍にいることを第一に考えて欲しいのに、洸英の思惑に全くそぐわない行
動をする和季にイラついてしまう。
「・・・・・どうしてくれよう・・・・・」
戻ってきたら、どんな風に啼かせてやろうか。
洸英はそんなことを思いながら、なかなか開かない扉へじっと視線を向けていた。
それからまた時間を置いて、ようやく和季が部屋に戻ってきた。
「・・・・・」
酒を飲んでいる洸英に眼差しを向けてくるものの、それで注意や文句を言うわけでもない。
「和季」
「はい」
「どこに行っていた」
夜着に上着を羽織っただけの姿でどこに行ったのだと聞けば、和季は隠すことなくサランの所ですと素直に告白した。
「サランの?」
「はい。少し話をしてきました。ご心配をお掛けしたのならば謝罪致します」
「・・・・・」
既に想いを交し合い、こうして閨を共にする関係になっているというのに、和季の口調や態度はあまり変わらない。王と
しての自分に礼を尽くしてくれるのは悪いことではないが、夫としては物足りない思いもしていた。
それに、サランの所に行っていたということも気になる。
(いったい、どのような用件で・・・・・?)
2人に共通することは、人形のような美しく整った美貌と・・・・・両性ということだ。そこまで考えた時、洸英の頭の中に先
日の洸莱の言葉が蘇った。
「父上、サランは両性ですが、懐妊の可能性があると医師の診断を得ました。光華国の後継者は、私とサランの間で
産まれた子にしてください。そして、どうか兄上達に、子を産むだけの女性を宛がわないで下さい」
自身が妾妃の子供で、母親からさえも愛されなかった洸莱は、両親というものと、不変の愛情というものに特別な思い
を抱いているらしい。
サランが子を産むことが出来るからという理由だけではなく、洸莱自身がサランを愛し、欲しているならと、洸英はその言
葉に鷹揚に頷いた。
第一、妾妃を宛がったとしても、抱くか抱かないかは本人の意思で、成人した子供達にそこまで強制することは出来な
い。
(その件について話が・・・・・ん?)
和季とサランの対面の理由が分かったと同時に、ある可能性も思い当たってしまい、洸英は思わず目を見張って和季
を見つめた。
(何を考えていらっしゃるのか)
建国以来の賢王と呼ばれると同時に、王らしい傲慢な性格も併せ持つ洸英が、なかなか自分の思い通りにならない
和季に苛立っていることは分かっていた。
もちろん、和季は洸英の命令には服従するつもりだし、それにも増しての愛情を抱いている。ただ、甘えさせるだけでは
ならないとも分かっているので、ここぞという時は感情を抑えることを学んでもらうことも大切だと思っていた。
(でも、少し放ってしまっていたか)
自分と同じ身体のサランのことが気懸かりで、頻繁に様子を見、言葉を交わすために、洸英との時間が少なくなってし
まったようだ。
それは申し訳なかったかもしれないと、和季がもう一度謝罪の言葉を言おうとした時だった。
「和季!」
「・・・・・」
いきなり、和季は抱きしめられた。
「洸英様?」
「お前は!まさかっ!」
「・・・・・」
「お前も、サランと同じでは無いのかっ?私の子を産むことが出来るのだろうっ?」
「・・・・・」
(どうやら、気がつかれてしまった)
サランのことで、自分の身体と結びつけて考えられてしまったようだ。
もちろん、和季は嘘をつくつもりは無かった。事実を隠すことはすることもあっても、問われたことには正直に答えるつもり
でいたし、そう遠くも無く、このことに洸英は気付いただろう。
時期が少し早まったと思いながら、和季は愛しい男を真っ直ぐに見つめて微笑んだ。
「可能性は、否定致しません」
「・・・・・!」
胸に込みあげてくる感情を、どう表現していいのか分からなかった。
もちろん、子供達は愛している。大切で、可愛くて、産んでもらって良かったと、心から感謝をしている。
それでも、最愛の、多分、これまでも、これからも、ただ1人の愛しい相手である和季が自分の子を産むということは、ま
た特別な意味があるのだ。
「和季っ、今宵からは昼夜構わずお前を抱くぞ!一刻も早くお前を孕ませる!」
「昼夜は無理でしょう。あなたには政を行う義務がある」
「そのようなものっ、洸聖や洸竣に任せておけばいい!私にはもっと重大な任務があるからな!」
早く、和季を懐妊させたい。
和季の子供を早く見たいということもあるが、自分の子を産めば絶対に和季が離れていかない・・・・・そんな確信がある
からだ。
子供を和季を繋ぎとめるための手段にするのは申し訳ないが、今の洸英にとって一番大切なのは和季で、失いたくない
ものも和季だった。
「・・・・・洸英様。そのような我が儘をおっしゃられると、私は今の生活を改めなければなりません」
「何っ?」
「王の御勤めを邪魔するような伴侶が傍にいることは許されません。私がまた里に戻るようなことがあっても・・・・・」
「ならぬ!」
二度と、自分の傍を離れようとするのは、いや、そう考えることも許さない。
しかし、和季が頑固だということも十二分に分かっている洸英は、ううむと唸りながらも、提案をした。
「ならば、昼間は仕方が無いが、毎夜その身体を抱くことは承知しろ。そうでなくても、お前はなかなか私と共に居ようと
しないからな、それくらいならばいいだろう」
許しを得るというよりも、既に決定事項とでもいうように言い放つ洸英に、和季は少しだけ困ったように・・・・・それでも、
ゆっくりと頷いてくれた。
「くれぐれも、私の身体を壊さないでくださいね」
「当たり前だ!」
愛しいこの身体を愛しこそすれ、壊すはずが無い。
和季の許可も強引にだが奪えた洸英は、早速今夜から子作りを始めるために、綻んでいる和季の唇を奪った。
(洸莱には負けられぬっ)
end