洸莱&サラン編





 その日、光華国第四王子の洸莱(こうらい)は、朝早く兄である第二王子の洸竣(こうしゅん)の部屋を訪れた。
扉を叩くと、まだ寝巻きのままの洸竣が姿を現した。髪が乱れ、少し気だるい雰囲気なのは、王宮の若い召使い達が
騒ぐように、色気がある男という姿なのだろう。
 「どうした?こんなに朝早く」
 「申し訳ありません、兄上。ですが、兄上に時間を取っていただくのはこの時間しかないと思いましたので。少し、お聞
きしたいことがあるのですが、時間はよろしいですか?」
 「お前が、私に?」
 今まで無かったことに、洸竣は少し驚いたようだ。
それでも、洸莱は構わずに口を開いた。
 「閨房術です」
 「けっ・・・・・ちょ、ちょっと、中に入れっ」
誰が通り掛るかも分からない廊下でいきなり際どい話を切り出した洸莱に慌てたように、洸竣はその手を掴んで部屋の
中へと引き入れた。

 「・・・・・」
 扉を閉めた洸竣がほうっと深い溜め息をついている。
しかし、洸莱はその部屋の奥の気配が気になった。明らかに奥の、寝台の方で、誰かの気配がしているのだ。
(・・・・・宮の中にまで引き入れているのか?)
 次兄の派手な女遊びは洸莱も良く知っていたが、それは王宮の外の話だと思っていた。それが、こうして連れ込んでい
るとすればかなり真剣な相手なのだろうか。
(黎は・・・・・どうするつもりだ?)
 黎に真剣な思いを抱いているはずなのに・・・・・そう思った洸莱が眉間に皺を寄せた時、洸竣はようやくその視線に気
付いたようで苦笑を漏らした。
 「お前が心配する相手ではないよ。それで、閨房術というのはどういうことだ?」
話をふってくれた洸竣に、洸莱は意識を戻して口を開いた。

 「夕べ、サランの女性の部分へ挿入を試みました」
 「え・・・・・」
 「私がサランと結ばれたのは、彼の肛孔の部分でした。しかし、懐妊の可能性があると分かり、サランも望んでくれたの
で、私も意を決めたのですが・・・・・」
 サランの女性の部分はまだあまりにも未成熟で、洸莱のペニスの先端が少しだけ入り込んだ瞬間、サランの身体は硬
直してしまったのだ。
 「その様子を見ると、とても可哀想で・・・・・結局、私のものも萎えてしまいました」
 「そ、そうなのか」
 「サランは、女性は初めての時に痛みを感じるもの、次は躊躇わないで欲しいと言ってくれましたが、私はサランが初め
ての相手で、どう身体を愛撫していいのかよく分かりませんし、サランも私が初めての相手なので、どう身体から力を抜い
ていいのか良く分からないようで」
 「・・・・・」
 「これは、洸竣兄上に聞くのが一番よろしいかと。兄上は女性経験が豊富ですし、その中には初めての方も当然いらっ
しゃったでしょう?」
 「あー・・・・・まあ、なるほど、ねえ」
 どんなに難しい技術が必要でも、サランのために習得しなければならない。そうしなければ何時まで経っても自分達は
結ばれないのだと、洸莱は強い決意を込めていた。



 洸竣は内心深い溜め息をついた。
洸莱とサラン。真面目な2人がどういう性交渉をしているのかと野次馬的な興味はあったが、まさかその技術を自分に聞
きに来るとは思わなかった。
(まあ、他に訊ねる相手はいなかっただろうが)
 洸竣は、ちらっと奥に視線を向けた。そこには、後で今の話の言い訳をしなければならない相手がいるが、今はこの可
愛い弟の真剣な質問に答えてやらなければならないだろう。
 「・・・・・いいか、洸莱」
洸竣は真っ直ぐに自分を見つめてくる弟に、噛み砕くように説明を始めた。



 「・・・・・」
 目覚めた時、洸莱の姿が無かった。
夕べ、初めて自分の女性器で彼を受け入れようとしたのだが、痛くてたまらなくて、どうしても身体に力が入ってしまった。
結局、洸莱のペニスも力を失ってしまい、自分達はそのまま休むことになったのだが・・・・・サランは洸莱に申し訳なくてた
まらなかった。
 幾ら懐妊の可能性があったとしても、その精を女性器で受け止めなければ可能性も出てこない。
もう直ぐ新婚旅行から悠羽(ゆうは)が帰る。主人である悠羽が戻ってくれば、サランの自由な時間も極端に減ってしま
うのだが・・・・・。
(・・・・・今夜、もう一度お願いしてみよう)
 自分がどんなに泣き叫んだとしても、最奥まで貫いてもらおう・・・・・そんなことを考えていた時、静かに扉が開き、この
部屋の主が中へと入ってきた。



 「・・・・・洸莱様」
 「サラン」
 まだ眠っていると思っていたサランは起きていて、ゆっくりと自分の傍まで歩いてきた。
その顔色は何時も以上に青白い気がしたが、触れない方がいいだろうと、洸莱はおはようと朝の挨拶をする。
 「・・・・・おはようございます」
 「悪かった。まだ眠っていると思って、少し出掛けていたんだ」
 「どちらに、行かれたのですか?」
 「洸竣兄上のところだ。閨房の術を習いに」
 「閨房、術?」
 サランの顔が複雑そうなものになった。洸莱は、サランに嘘をつくつもりは全く無かった。どんなことでも、2人のことならば
尚更、包み隠さずに話すつもりだった。
 「私があまりにも物慣れないせいで、サランに苦痛だけを与えてしまうと。どうしたらサランに快感を与えられるように出来
るか聞いてみた」
 「・・・・・洸莱様は、何と?」
 「2人で考えろと」
 「・・・・・え?」
 「兄上の閨房術を学んだとしても、それがサランの身体に合うとは限らないと言われた。この先、お互い同士しか求めな
いのならば、お互いが快感を探り、その方法を見つけていくのが最良だと」

 「いいか、洸莱。私の女性への接し方は、万人が好むようなやり方だ。だが、ただ1人の愛しい者が相手ならば、恥ず
かしいほどにがむしゃらに、相手を気持ちよくさせようと必死になるだろう。それは、相手が女でも男でも、同じだ。だから、
私がお前に言えることはただ一つ、愛を込めて抱けと言うことだけだ。痛みも、快楽も、愛する者となら分かち合えるはず
だからな」

(私は、全て頭で考えようとしていた。兄上に教わったようにサランを抱いて、彼が快感を感じてくれたとしても、きっと後で
後悔するだろう)
 「サラン」
 洸莱は目の前に立っているサランを抱きしめた。
 「時間は掛かるかもしれないが、私達は私達の方法で、愛し合っていけばいいと思う。前にも言ったように、私は子供
が欲しくてサランを抱くわけじゃない。サラン自身が欲しいんだ」
そう言うと、自分の背中に回った手が、強く抱きしめ返してくれる。それは、サランも自分と同じ気持ちになってくれたという
ことだ。
 「口付けていいだろうか」
 先ずはそこからと洸莱が言うと、少しだけ笑う気配がして、サランが言った。
 「こういう時は、私の許可を得る前にしていただいてよろしいのですよ」
そういうものかと思った洸莱は頷き、唇を笑みの形にしたままのサランに、合わせるだけのキスをした。





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