見られる快感
「・・・・・んっ」
年上にしか興味の持てない上代由宇(かみしろ ゆう)の今の相手は、勤め先の会社のビルが一緒の、広告代理店の
部長だ。
今年48歳になる愛人は何時でも由宇を甘やかしてくれ、セックスもガツガツしたものではなく、由宇の快感を一番に考えて
くれている。
一週間に一度の逢瀬は少し物足りないが、頻繁に会うようになればうっとうしく感じてしまうだろう。
我侭な子供がそのまま大きくなった様な由宇を上手に甘えさせてくれるのは、年上の愛人が最適だった。
時刻は既に午後10時を回った頃だ。
週末の今日は、もうビルの中に残っている者もおらず、由宇は少し大胆になって、エレベーターの中で愛人の首に手を回し
た。
「こら、由宇」
「キスだけ」
悪戯っぽく笑う由宇はとても27歳の青年には見えない。
魅力的な誘惑に勝てるはずもなく、男は由宇の腰を抱き寄せ、そのまま唇を重ねる。
触れるだけのものには治まらず、舌を絡ませ唾液を貪りあう激しいキスにうっとりと目を閉じかけた由宇は、のしかかって来
る男の身体に押されて、エレベーターの壁にぶつかった。
その拍子にボタンを押してしまったのか、動いていたエレベーターが止まる。
「開くぞ」
「大丈夫。誰もいるはずないよ」
離れようとする男を引き戻し、由宇はもう一度唇を重ねる。
男が苦笑する気配を感じたが、由宇は自分の意見が却下されるとは微塵も思わない。
その通り、男は背中で扉が開くのを感じたが、由宇を離そうとはしなかった。
「あ・・・・・ふ・・・・・あん・・・・・」
薄く目を開いた由宇は、エレベーターの止まったのが、1階のホールだと気付く。既に照明は最小限に抑えられ、人影は
全く・・・・・。
「!!」
男が立っていた。
ネクタイを少し緩めた姿で、いかにも営業帰りだといった感じの背の高い男。驚いたように自分達を見つめる男を、由宇は
嫌というほど知っていた。
(須藤・・・・・)
今年入社したばかりの由宇と同じ会社の新人だ。
教育係ではなかったが、同じ部署なので毎日顔を合わせている。そして・・・・・。
『好きです、上代さん。俺と付き合ってください』
入社して1ヶ月も経たないある日、残業していた会議室で須藤は由宇に告白した。
告白された由宇は内心驚いた。
一流大学出で、性格もよく、外見の申し分のないほど恵まれた須藤は、社内の女子社員だけでなく、同じビルの他の会
社の女達からも、数え切れないほどの好意を寄せられていることを知っていたからだ。
男など相手にしなくてもよりどりみどりな須藤がなぜ自分を選んだのかは解らなかったが、年下は眼中にない由宇はそっけ
なく断った。
そして・・・・・。
(「須藤?!何を・・・・・!」)
その日、由宇は須藤にレイプされた。
下半身だけを裸にし、ただ欲情のまま、須藤は由宇の身体にペニスを突き刺した。
抱かれることに慣れているはずの由宇でも、慣らしもしないまま抱かれれば傷付くだけだ。
テーブルの上に寝かされ、正面からも貫かれた。ユラユラ揺れる自分の足が視界に入る。ギシギシと内壁を擦りあげる須藤
のペニスは長く太く、セックスという行為に慣れているようで、悔しいほど容易く由宇の快感を見つけ出す。
(「あん、あっ、はっ、ああ!」)
何時の間にか、由宇の腰も須藤の動きに合わせて揺れていた。
その無垢な媚態と、誘い込む熱い身体に、須藤はさらに夢中になって両足を抱え上げ、ほとんど真上からペニスを挿入さ
せた。
噛み付くようにキスをし、勢いのまま首筋や鎖骨に歯形を付けていく。由宇の白い肌につく赤紫色の歯形は痛々しかった
が、須藤にとってそれは所有の証のように見えた。
(「か、上代さんっ、俺っ、もうっ」)
どれ程揺さぶられていたのか、由宇の下半身の感覚が無くなった頃、須藤は低く呻いた後、由宇の最奥に精液を吐き
出した。
いつもなら、愛人達はセーフセックスでコンドームをきちんと付けてくれている。
初めて感じる精液は熱く、由宇の身体を侵食するように広がっていった。
あの後須藤は床に土下座して謝った。そして、改めて付き合って欲しいと言った。
由宇は・・・・・無視した。
怒ることもせず、意識することもせず、ただそこにいないかのように無視し続けた。
あれからまだ2ヶ月と経っていない。
「・・・・・」
由宇は微かに笑みを浮かべたまま、更に深く愛人と口付けを交わす。
須藤の顔が歪み、ギュッと拳を握り締めるのが見えた。
(そこから動くなよ・・・・・)
熱い視線は、須藤が今だ由宇を想っている証拠だ。自分ではない男に自ら抱かれる由宇を、嫉妬という視線で犯し続
けている。
しかし、須藤はもう自分から由宇に手を伸ばすことは出来ないのだ。
ただ、見るだけ・・・・・それが須藤への由宇の罰だ。
「どうした、今日は積極的だな。見られてるかもしれないから?」
「ふふ」
愛人が耳元で囁くのがくすぐったかった。
「そうかもね」
嫉妬の視線に見られること・・・・・それが新たな由宇の快感なのだ。
end