800,000キリ番ゲッター、ぴんがも様のリクエスト分です。























 「あの、倉橋さんと綾辻さんも一緒にいいですか?」



 久し振りに真琴を夕食に誘った海藤は、皆での夕食を望む真琴の言葉に頷いた。
2人きりの食事もいいが、はしゃぐ真琴を見るのも楽しい。
海藤は丁度事務所にいた倉橋と綾辻を呼ぶと、そのまま車で赤坂に向かった。
 「創作和食の店でしょ?私も知ってるわ、そこの本店。美味しいって噂だもの」
 倉橋が予約した創作和食の店は今日初めて行く店だったが、綾辻はそこを知っているらしくあれが美味しかった、これが珍し
かったと面白く真琴に話して聞かせている。
真琴も楽しそうにそれに頷いて、
「楽しみですね、海藤さん」
と、可愛らしく言ってきた。
倉橋が選ぶ店には間違いが無いとは思うが、綾辻まで太鼓判を押すのならば絶対に大丈夫だろう。
顔が広く、色んなことを知っている綾辻の情報網には、海藤も関心することが多いくらいだからだ。
 「外、まだ明るいですね」
 「6月ってもう夏なのかしら?」
 綾辻の言葉にじっと窓の外を見ていた真琴は、隣の海藤を振り向いて言った。
 「海藤さん、ここから歩いていくっていうの・・・・・駄目ですか?」
護衛の関係からか、海藤が街中を歩くことはほとんど無いと言っていい。それは真琴が一緒に移動する時も同様で、のんびり
と歩いて・・・・・と、いうことは、無いというよりも出来なかった。
 しかし、滅多に我が儘を言わない真琴の要望には出来るだけ応えてやりたいと思う海藤は、視線を倉橋に向ける。
倉橋は無表情のままで、続いて視線をやった綾辻はニンマリと笑った。
 「ここからなら歩いて30分もないですし、少しくらいならいいんじゃないですか?」
その言葉に海藤は頷いた。



 普通の恋人同士のように手を繋いでということは出来ないが、真琴は十分嬉しそうに海藤の隣を歩いている。
 「楽しみですね〜、料理」
 「そうだな」
 「海藤さんも食べに行ったことないとこなんですか?」
 「ああ」
 「・・・・・」
 後ろから見ても、親密な関係が分かる距離。別に耳をそばだてて聞いているわけではないが、護衛という役目上あまり離れて
もいられない倉橋は、後ろからそんな2人を見つめていると自分も温かな気持ちになっていった。
本当は真琴ももっと海藤と一緒にいたいのだろうが、幾つかの会社の代表の他、開成会というヤクザの会派の代表をしている
海藤はかなり忙しい。
日々のスケジュールを管理している倉橋は、分刻みで動く海藤の大変さを一番身近で見ているのでよく分かるのだ。
だからこそ、海藤が傍にいて一番心地いいと思っている真琴との時間を捻出する手間は苦労とは思わなかった。
 「・・・・・」
 ただ、人混みの中にいるのは護衛の関係上神経を尖らせてしまう。
海藤ほどの名のあるヤクザの頭の命を狙う人間はどこでも転がっているからだ。
 「・・・・・」
(あれは・・・・・)
 そんな時、倉橋の視界に妙な動きをする女が映った。
そろそろ夜の街に出勤する着飾った女達が多くいる中で、その女も綺麗に化粧までしているがこちらを見る目は酷く思いつめた
ような色がする。
 倉橋はチラッと前を歩く海藤の姿を見てから、静かに一行から離れて用心深く女の傍に行った。
 「・・・・・『KARURA』のジュンさんですね」
 「!」
いきなり名前を呼ばれた女は、酷く驚いた顔をして倉橋を仰ぎ見た。
何時も海藤と行動を共にする倉橋の顔は覚えていたのだろう、途端に女は顔を青褪めて立ち去ろうとする。
 「待ちなさい」
 しかし、倉橋はそのまま逃がすことは無く、細い腕を掴んだ。
 「身分不相応な真似はよしなさい。バックの中に何をひそませているのか分かりませんが、彼を傷付けても会長の心があなた
に向くことはありませんよ」
 「わ、私は・・・・・」
 「二度があるとは思わないように」
 接待で案内された店で、女が海藤に熱い視線を向けていたのには気付いていた。
自分以外の事には敏い倉橋はその視線に不穏なものを感じ取り、事務所ビルの近くで何度か女の姿を見掛けた時から、一
応女の身元は調べておいたのだ。
バックの中を検めて女を問い詰めるのは簡単だが、こんなところで騒ぎを起こして真琴に余計な気を遣わせたくないし、女には
政治家のパトロンも居るので、それほど馬鹿な真似をするとは思わなかった。
もちろん、もしも海藤や真琴に危害を及ぼそうとすれば、女だとて容赦はしないつもりだ。
倉橋は眼鏡の奥の切れ長の目で女をねめつける様にして言い放つと、先を行った海藤達に追いつくように少し足を早めた。



(モテル男も辛いわよね〜)
 綾辻は見た目のんびりと歩きながらも、周囲にくまなく警戒のアンテナを張っていた。
先程まで感じていた少し重そうな視線は今は外れている。きっと倉橋が女ということなど容赦せずに引導を渡しているのだろう。
 海藤を狙っているのは何も敵対する組織の人間ばかりではなく、その容姿と金と地位と、海藤自身をモノにしたいという女も
星の数ほど居るだろう。
海藤自身はどんな女でも手を出すといったわけではなく、分をわきまえて大人の関係が持てる、玄人の中でも最上級な女達し
か相手にしなかった。
それも、真琴と知り合ってからは一度も足を運んでいない。
けして手に届かないという感じが、更に女達の飢餓感を誘っているとも言えるだろうが。
 「綾辻さんは卵焼きに砂糖入れますか?」
 「私は出汁巻きが好きよ。ふわふわのトロトロ」
 「あ、出汁巻きは海藤さん上手ですよね?」
 「そうか?」
 「他の料理も凄く美味しいけど、卵焼きは特別」
 「ふふ、羨ましいわ、マコちゃん、社長の手料理を食べられるなんて」
(ホント、この世の中できっと1人だけよ)
 男達から見れば孤高で畏怖の対象であり、女達から見れば憧れの最高級の男である海藤に料理を作らせるなど、真琴に
しか出来ないことだろう。
いや、海藤自らが腕を振るいたくなるのが真琴だけという言い方もあるが、どちらにせよ男として完璧な海藤を唯一笑わせ、動
揺させることが出来るのが普通の青年だということが面白い。
(・・・・・)
 不意に、綾辻は立ち止まった。
 「綾辻さん?」
 「ちょっと、生理的欲求が・・・・・克己、いい?」
 「早くしてください」
何時の間にか追いついていた倉橋が、非難することも無く言う。
説明の手間を省く阿吽の呼吸は心地良いし、楽だ。
 「行っててください、直ぐに追いつくから」



 歩いていた道から入れる小さな脇道。
突然現われた綾辻に男達は動揺したようだった。
 「ねえ、用があるのは社長?それとも私?」
 「・・・・・っ、オカマなんかに用があるかっ!」
 「あら、酷〜い。せっかくこっちから出向いてきたのに〜」
 「何を、お前・・・・・」
 「分かり易過ぎる殺気だもの。こんな街中で命(タマ)狙おうとしてる馬鹿の顔、よく見せてくれない?あら、もしかして本間組
の人じゃない?この間うちに来た組長さんに付いてきてたでしょ?」
 「・・・・・っ」
まさか面が割れているとは思わなかったらしい男が動揺したように後ずさった。それにつられるように、後ろにいた3人も顔を青くし
ている。
 「確か、うちの社長に債権を買い取って欲しいって用件だったわよね?でも、書類に不備があるからって丁寧にお引取り願っ
たはずだけど?」
不備というよりも、何十もの抵当に入ったそれには全く価値が無かっただけなのだが。
しかし、それを面白くないと思ったのか、海藤の行動を監視してこんなところまで付いてくるとは・・・・・。
 「まさか、逆恨み?」
 綾辻の唇がうっすらと笑みの形に変わる。
それに頭にきたらしい男が1人、そのまま飛び掛ってきた。
 「うぐぁっ!」
最小限に身体を動かしてその一撃を避けた綾辻は、長い足で体勢を崩した男の腹を容赦なく蹴り上げた。
鈍い声と共に吐しゃ物を吐き出した男を一瞥し、綾辻は残り3人を目を眇めて見つめた。
(命令か暴走かは分からないが)
 「遊んでやる時間はないんだ。さっさと掛かって来い、直ぐに寝かせてやるよ」



 「綾辻さん、お腹壊したのかな」
 心配そうに振り返ろうとした真琴の肩をさりげなく抱き寄せた海藤は、そのまま足を止めずにゆっくりと歩き続けた。
 「場所は分かってるんだ、直ぐに追いつくだろう」
 「・・・・・そうですよね」
真琴の知らぬ間に、見えない場所で、何があったかなど知らせる必要は無かった。
倉橋も綾辻も、海藤と真琴にとっての最善を、先回りしてくれているに違いない。
海藤にすればごく当たり前のことでも、一般人の真琴にすればかなり気を遣ってしまうのは分かりきっているので、2人共真琴に
は気付かれないようにしてくれている。
それは海藤が命令したわけではなく2人の意思で、それだけ2人が真琴を大切に思ってくれている証だろう。
 「お待たせ〜」
 それほど時間を置くことなく、綾辻は直ぐに戻ってきた。
スーツに全く乱れは無く、息さえも弾んでいない。海藤には万事が上手くいったことが分かった。
 「綾辻さん、大丈夫ですか?」
 「やだ、マコちゃん、大の方じゃないわよ?」
 「す、すみませんっ」
 顔を真っ赤にする真琴を、海藤は笑いながら見下ろす。
その時、
 「痛っ」
 「いってえ〜!」
道一杯に広がって騒ぎながら歩いていた男が真琴にぶつかった。
明らかに自分の方が悪いのは分かっているはずなのに、男は真琴の顔を見ておいと威嚇してきた。
 「何ぶつかってんだよ!慰謝料払うかっ?」
 「す、すみま・・・・・」
 海藤は真琴に最後まで言わせず、そのまま自分の後ろへと身体をやった。
若い男はいきなり現われた背の高い海藤をうさんくさげに見上げてきたが、震えがきそうなほどの冷たく鋭い視線に、声無き声を
上げて身体を硬直させた。
 「人にぶつかったのなら何と言うんだ」
 荒げない声がこれ程恐ろしいことを、男は今初めて知っただろう。
 「そーそー、早めに謝った方がいいんじゃない?」
 「このまま帰すんですか」
いずれも180を越す美貌の男達。その存在感は恐ろしいほど大きい。
 「おい」
 「す、すみません!」
情けない声を上げて、男は慌てて走り去った。



 男を見送り、綾辻はプッとふき出した。
 「何、あれ」
 「謝罪の仕方も知らないなんて、今時の子供は・・・・・」
 「克己、ジジくさいわよ」
綾辻と倉橋の掛け合いの声を聞きながら、真琴はほっと安堵の溜め息を付いた。
街で絡まれることなど滅多にないことに驚いたが、その男をあっという間に撃退してしまった海藤達を尊敬してしまった。
世の中にはヤクザというだけで怖がる人間もいるが、海藤達は一般人には手を出すようなことはせず、こんな風にちゃんと話し合
いで収めようとする。
怖くて暴力的なのは、もしかしたら『一般人』という名前に守られた方側の人間かもしれない。
 「行こうか」
 「はい」
 真琴は海藤の言葉に頷いて、倉橋と綾辻にも視線を向ける。
優しい眼差しが頷き返すのを見て、真琴の口元には押さえきれない笑みが浮かんだ。





 見守ってくれる六つの瞳。
振り返らなくても感じる溢れる優しさと愛情に、真琴は思われているということの喜びを感じていた。





                                                                      end





ぴんがも様、お待たせいたしました。

リクエスト頂いた、海藤×真琴&綾辻×倉橋。

「海藤と真琴がラブラブなデートをしている一方で、二人を狙う良からぬ奴らを綾辻と倉橋がカッコ良く片付けていく」というリクエスト

でしたがいかがでしょうか。

今回は綾辻&倉橋のラブさは皆無です(笑)。