永澤&真樹編





 「・・・・・永澤君と一緒だ」
 里山真樹(さとやま まさき)は下駄箱の横に広げられていたボードを見て呆然と呟いた。
4月・・・・・無事高校に入学した真樹は、ドキドキしながら登校した。引っ込み思案の真樹にとって、一番最初のクラス
分けはかなり重要なことだったからだ。
そして、そのドキドキには別の意味もあった。それは・・・・・。
 「おっ、真樹一緒のクラスやな!」
 「う、うん」
 「俺、絶対一緒だって思ってたんや!」
 「・・・・・」
 「中学と違うて男子高やからな。俺がしっかりお前を守ってやらんと」
 「・・・・・」
 永澤明良(ながさわ あきら)は真樹が大阪に引っ越してきた時、同じマンションに住んでいた同い年の少年だった。
同じ中学に通うことになった真樹を、大人しいからと何時も引っ張ってくれていた彼は、頼もしくも真樹のコンプレックスを
刺激する人物だったが、今年の正月に2人きりで初詣に行って以来、真樹の中で永澤の存在は少し意味が変わって
しまった。
永澤が一緒の高校に行こうと言ったから、本当は祖父母がいる東京の高校を受けようとしたのを止めた。
目立つ永澤の隣に立つことにも今だ躊躇いが無いわけではないが、それでも一緒にいることの心地良さも手放すことが
出来なくなった。
 「永澤君の言った通りになったね、本当に同じクラスになったっ」
 「せやろ?神様ってほんまにおるんやな」
 「神様?」
 「日頃の行いってやつ」
 見掛けは今風のモテそうな容姿ながら、永澤は時々古めかしい言い回しをして真樹を驚かせてくれる。
真樹の前ではカッコつけないその自然な態度を、昔は少し強引に感じてあまりいい気持ちがしなかった。
しかし、今はそれが気を許してくれている証のような気がして、真樹は少し恥ずかしくなって笑ってしまう。
 「・・・・・」
そんな自分の顔を見て永澤が顔を僅かに赤くしたことに、鈍感な真樹は全く気が付かなかった。
 「新しい友達もいっぱい作らないとね」
 「なんで?」
 「なんでって、だって、何時までも永澤君にくっ付いてばかりいられないし」
 「いいやん、それで」
 「え?」
 「俺は真樹に傍におって欲しいし、俺も傍におりたいし」
 「・・・・・」
 何時からだろうか、永澤がこんな風にはっきりと自分への気持ちを言葉にしてくれるようになったのは。
 「真樹は?違うん?」
言葉に詰まった真樹は視線を逸らしたが、その時同時に周りの人間が自分達の事を見ているのに気付いた。ここには当
然真樹達の他にも新入生の姿がたくさんあり、なぜだか分からないがチラチラとこちらを見ている。
真樹の途惑った様子に永澤は素早く周りを見、チッと舌打ちを打つと、
 「こいつは俺のもんやから!誰も手え出すなよ!」
いきなり、そう叫んだ。
 「な、永澤君っ?」
 生徒達はもちろん、真樹も驚いたように永澤を見るが、永澤は全然おかしなことを言ったという気はないらしく、そのまま
真樹の肩を抱いて校舎に入っていく。
 「み、みんな見てるよっ」
さすがに真樹はその手から逃れようと体を捻ろうとするが、永澤の力は少しも緩まなかった。
 「永澤君っ、見られてるってば!」
 「それは真樹が可愛いから」
 「・・・・・あのねえ」
 「思った以上にお前を見てる奴多いし、しっかり所有権主張しとかんと取られるやろ」
 「・・・・・何、それ」
 「お前は知らんでもええ」
 「永澤君」
 「またよろしくな、真樹」
真樹の中で永澤の存在の意味が少しずつ変わってきたように、永澤の中でも彼なりに変化はあったらしい。
口調はそれまでと変わらなくても、その眼差しはどこか熱いのだ。
 「真樹」
手を差し出した永澤は真樹の気持ちを少しも疑っていないように自信たっぷりで。
 「うん、よろしく」
その熱に引きずられているのかは分からないが・・・・・真樹はそのまま手を伸ばすと、躊躇いながらもしっかりと永澤の手を
握り返した。





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