伸明&颯太編





 「おっはよー!!」
 何時もと全く変わらない元気な声に、伸明(のぶあきあ)は振り向いた。
 「おはよ」
 「やっと晴れたよな〜。ずっと雨ばっかで体育も外で出来なかったろ?俺身体にカビが生えちゃうかと思ったよ」
 「颯太(そうた)は動き回るのが好きだからね」
 「伸明は違うのか?」
何気なく交わされる言葉は日々内容は変わるものの雰囲気は変わらない。
伸明は口元に苦笑を浮かべてしまった。
(ほんと・・・・・颯太はガキだから)
中学二年生という実際の歳とは別に、颯太は驚くほど子供だと思う。現に、街中で小学校時代の友達に会っても、誰
一人として颯太を間違う者はいない。
 その反対に、伸明は変わったと驚かれる方が多かった。
小学校の頃はどこか少女っぽい女顔だったのが、中学に入ってから急に頬が削がれ、身長も伸び、明らかに女の子には
間違われなくなった。
 それと同時に周りに女の子達も寄って来るようになったが、伸明は少しも嬉しいとは思わない。
返って、ベタベタと身体に触ってきたり、人がいなければキスを催促してくる女の子には辟易していた。
(あの子達よりも颯太の方がよっぽど可愛いし)
 「・・・・・き」
 「・・・・・」
 「伸明って!俺の話聞いてるっ?」
 「今度の日曜のことだろ?大丈夫、ちゃんと空けてるから」
 「そっか、ならいいけどさ」
今度の日曜日は、2人で隣町の遊園地に遊びに行くことになっている。そこは動物園も隣り合わせで、絶叫物の乗り物
に乗りたくて動物も見たいという颯太の我が儘が通る場所なのだ。
(それに、颯太はどう思ってるかは分からないけど、俺はデートだと思ってるし)
そう、これは立派なデートだと伸明は思っている。
一ヶ月間前に颯太に強引にキスして、颯太からもキスしてもらって・・・・・告白らしいことも言い合った。
多分、自分達は付き合っているはずなのだが・・・・・。



 「昨日さあ、近藤の奴から電話があってさ」
 学校へ向かって歩きながら、颯太の口は少しも休むことは無い。
伸明はそれに頷きを返す事が多いが、時折颯太の口からクラスメイトの名前が出ると自然と口元が歪んでしまう。
颯太が自分以外の男の名前を言うのは面白くないのだ。
 「あいつ、ドアに指挟んだって・・・・・ばっかだよな〜」
 「・・・・・」
 「伸明?」
 「ねえ、颯太」
 ふと、伸明は颯太の腕を掴んで立ち止まった。
何だかまた身長差が広がったような気がする。もちろん、伸明の方が高くなったようだが。
 「キスしない?」
 「・・・・・っ」
いきなりそう切り出すと、颯太の顔は面白いほど直ぐに真っ赤になった。
 「な、何言ってんだよ!こんなとこで!」
 「誰もいないよ」
 「が、学校に行くんだぞっ、これから!」
 「それが?」
 「・・・・・チューした後で、お前と平気な顔して話せないだろ!」
 「颯太・・・・・」
(少しは意識してくれてたって事?)
 伸明はマジマジと颯太を見つめた。
伸明からすれば少しも変わっていないように見えた颯太だが、その心の中は思ったよりも変化をしていたようだ。
いや、もしかしたら学校の行き帰りも、教室でも、伸明とは途切れが無いほどに何時も話し続けていたのは、颯太らしい
照れ隠しだったのかもしれない。
 「好きだよ、颯太」
 「バカ!」
 伸明は笑った。
(なんだ、颯太も僕と同じなんだ・・・・・)
友達から恋人に。
伸明はもうだいぶ前から自分の気持ちを自覚していたが、颯太の心は現在進行形で変化をしていっている。
慌てさせては可哀想かもしれないと思った。
 「ごめん、行こうか」
 「早く行くぞっ」
今はなかなかキスも出来ないが、いずれはきっとそれ以上のことも出来るようになるはずだ。
伸明は耳まで真っ赤になって先に歩き始めた颯太を見つめながら笑った。





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