「じゃあ、行ってくるね!」
 「気をつけて。レンによろしくね」
 「うん」
 少し恥ずかしそうに、それでもそれ以上に嬉しそうに笑う弟のキアはとても可愛い。
7匹兄弟の6番目である自分にとっては唯一の弟、キア。大切で、可愛い弟の幸せそうな姿を見るのは楽しくて、ルカは弾む足
取りで家を出て行くキアの後ろ姿を見送ったが・・・・・その後に、はあと深い溜め息を付く。
 「僕も・・・・・出掛けようかな」
 少し前までの自分ならば、気持ちいいことを探しによく外を歩いていた。
しかし、最近は部屋にこもりがちだ。それにはもちろん理由があって・・・・・。
 「あ〜あ、どうして厄介な奴に手を出しちゃったんだろ」
今更考えても仕方ないのに、どうしても出てしまう後悔の言葉。ルカは窓辺の椅子に腰掛けると、最近自分を煩わしている出来
事をぼんやりと考えた。





 仲良しのウサギ7兄弟。
不幸にも両親は揃って早くに亡くなったものの、数多い兄弟のおかげで寂しいと思う暇も無かった。

 それには兎族特有の性質も関係あるのかもしれない。
淫乱で、享楽的な兎族は、性に対して随分と開放的で、積極的だった。比較的どの種族とも快楽を分け合うことが出来、それ
は男女の区別もなかった。
 付け加え、兎族の身体は、一度抱いた者にとっては他にいないかのように素晴らしく、言い寄ってくる相手には苦労することはな
くて、寂しいと感じる暇も無かった。

 そんな、仲良し兄弟は、ある流れ者の狼の噂を耳にした。
禁欲的で、野性的で、それでいて滴るような雄の魅力がある狼。彼は交尾を金を作る手段としているようで、一度寝た相手とは
再び寝ることはないという噂だった。
 それでもいいと、6匹の兄弟達は次々に狼・・・・・レンに抱かれ、思った以上の快感をその身体に刻み込まれて満足したが、末
の弟、キアだけは、レンに抱かれようとはしなかった。

 元々、まだ初交尾もしていないキアだったが、魅力的なレンに恋心を抱いたらしく、一度抱いた相手を二度は相手にしないとい
うレンの言葉を怖がり、身体を許すことが出来なかった。

 そこに現れたのが、虎族のコードだ。
彼は素晴らしい身体の持ち主であるという噂の兎族との交尾を目的にやってきたらしいが、偶然出会ったキアを気に入り、そのま
ま初々しい身体を味わおうとしたが・・・・・そこにレンがやってきて、2匹はようやくお互いの気持ちを知り、結ばれた。



 恋人同士となった2匹だが、キアから一連の話を聞いたルカは、コードの動向が気になった。
可愛い弟の初恋を邪魔されても困る・・・・・そう思ったルカは、一度でも兎族の身体を抱けばコードの興味も薄れるだろうと、自
ら誘いをかけ、そのオスを身体の中に受け入れた。

 レンと同じ肉食獣のコードの交尾は凄まじく力強くて、気持ちが良くて、弟の為だというのにルカ自身十分満足させてもらい、そ
れで全ては終わったのだと思っていたが・・・・・。






 「あら?ルカ、今日も出掛けないの?」
 姉に声を掛けられたルカは、ゆっくりと振り向いた。
 「最近、交尾した気配もないけど・・・・・欲求不満?誰か紹介しようか?」
 「・・・・・間に合ってる」
 「そう?」
 「・・・・・出掛けて来るよ」
欲求不満。姉の言葉は、ある意味当たっているかもしれない。ある原因で簡単に誰とも交尾が出来なくなっているルカは、自分
自身が苛立っていることも分かっていたし、本来なら一声掛ければどんな相手でも誘えるはずなのに・・・・・。
(・・・・・今日こそ、絶対交尾してやろう)



 家を出てしばらく、ルカは森の中を歩いていた。
この森の中にはルカたち兄弟との交尾を望む者達が潜んでいることが多く、柔らかな草叢も、泉もあるので、気持ちの良い交尾
をしやすい場所でもあった。
 「ルカ!」
 案の定、それほど歩くこともなく、ルカは名前を呼ばれて振り向いた。
 「アッサム、久し振り」
そこにいたのは、二度ほど交尾をしたことがある熊族の雄だ。縦も横も大きな彼との交尾は、技巧ではなく回数勝負といった感じ
だったが、真面目で大人しい彼は常にルカを崇めるように扱ってくれた。
 「あ、あのさ、美味しい果物、持って来た」
 彼が差し出したのは、ルカの手には持てないだろうと思えるほどの大きな籠で、その中には様々な果物が山のように入っていた。
ルカは自分の口から何かが欲しいと言ったことは無いが、交尾を求める者達は色んな貢物を持ってきてその関心を買おうとする。
それはルカだけではなく他の兄弟も同様で、家の中は常に貢がれた品々が溢れているような状態だった。
 「ありがとう、アッサム」
 にっこりと笑って言うと、大きな身体のアッサムが、もじもじと切り出してきた。
 「きょ、今日は、他に約束・・・・・」
 「ないよ」
 「じゃっ、俺っと!」
 「・・・・・いいよ」
随分久し振りの交尾だ。気を失うほどにたっぷりと、それでいて優しく抱いてもらいたい。
その相手にはこの目の前の男が最適だろうと、ルカは手を伸ばしてその腕を掴んだ。



 ルカのお気に入りの場所。
森の奥の、そこだけポツンと日の光があたる場所は、草も柔らかで、寝心地が良かった。少し離れた場所には、身体を洗える小
さな泉があるので、後始末も安心だ。
 「アッサム」
 ルカは手を伸ばし、背の高いアッサムの首にしがみ付き(ぶら下がっているように見える)ながら、その肉厚の唇に自分の唇を寄
せた。
性急にその唇を割って入ってきた舌は、まるで食べるかのようにルカの舌を味わってきて、久し振りの感触にルカは笑ってしまった。
(そう・・・・・交尾って、こんなもんだよ)
お互いが気持ちよくなるための手段。そのために言葉を使うのは構わないが、真摯な思いを告げてくることなど必要ない。

 「お前が欲しい」
 「俺だけを見ろ」
 「その身体を他の奴に触れさせたら、そいつの命は無いと思えよ」

(・・・・・暴力的。これに、そんな思い入れなんて必要ないよ)
 今は身体だけの快感を追っているものの、いずれは自分も同じ兎族とつがいになり、子をつくっていくつもりだ。異種族との交尾
は、快感以外必要なかった。
(キアだけは、別。甘えっ子のあの子には、レンみたいな雄が傍にいてくれる方が安心だし)
 「ルカ?」
 口付けをしながら全然別のことを考えていることを感じたのか、アッサムが不満そうに名前を呼んでくる。
 「ごめん、ちゃんとするから」
せっかくの交尾だ、楽しまなくては損だと思い直したルカは、笑いながら既に自分の足に押し当てられていたアッサムの勃起したペ
ニスを手に掴んだ。
 「・・・・・くっ」
 ルカの小さな片手では、とても回りきらないような大きなペニス。しかし、これほどの大きなペニスも、自分の下の口は柔軟に受
け入れることが出来るのだ。
 「ね、一度出す?」
 余裕の無いアッサムの耳元で、ルカが笑いながら囁いた時だった。

 シュッ

 「・・・・・え?」
 「うわっ!」
直ぐ傍で風が鳴る音が聞こえたかと思うと、自分に覆い被さるように抱きしめていたアッサムの手が空を切り、ルカはその場に情け
なく尻餅をついたアッサムの姿を見てしまう。
 「ア、アッサム?」
 いったいどうしたのだと駆け寄ろうとしたルカは、
 「この淫乱め。もう俺の言葉を忘れたのか?」
 「・・・・・っ」
貶しているはずのその言葉は妙に官能的で・・・・・ルカは首を竦めると、思わず目をギュッと閉じてしまった。



 「な、なんだっ、お前!ルカは先に俺とっ」
 「悪いが、こいつの身体は全部俺のものなんだ。兎が抱きたいなら他を捜せ。それが嫌なら、ここで俺と勝負するか?」
 「ル、ルカ!」
 「・・・・・ごめん、アッサム。この人、本気だから」
 ルカはそう言うしかなかった。
下手にアッサムを庇うと、それだけでこの男・・・・・コードの機嫌は悪くなってしまう。そうでなくても、コードにもかなりの間この身体を
許していないのだ、耳元に聞こえる喉鳴りは、相当に男も欲求不満なのだろうと思えた。
それは、アッサムの腕を切り裂いた傷からも良く分かる。
 「本当に、ごめんね、アッサム。また改めて・・・・・」
 「またはない」
 ルカの言葉をあっさりと否定し、背中から強く抱きしめてくる腕。鋭い爪でつっと頬から顎を撫でられ・・・・・ルカは恐怖と共に身
体が痺れるような快感も同時に味わっていた。



 未練たっぷりのアッサムの背中を見送ったルカは、意地でも後ろを振り向かないつもりだった。
簡単に自分が相手を許しているのだと思われてはしゃくに障るし、第一、せっかくの交尾を邪魔されて自分は怒っているのだと分
からせなければならない。
 「・・・・・全く、お前は目を離せないな」
 それなのに、コードの言葉は、まるでルカの方が悪いのだといわんばかりの声の調子で、それにムッとしてしまったルカは思わず振
り向いてしまった。
 「コード、君はどういうつもりで僕の邪魔をするわけ?」
 「・・・・・」
 「僕は君の恋人じゃないし、将来そうなるつもりもないよ。たかが数回寝ただけで、まるで自分の所有物のように言うのは止めて
くれない?」
 柔らかく、遠回しに言ったとしても、この男には分からないということを骨身に染みて感じているルカは、今日こそと思ってはっきり
とそう言い切った。

 可愛い弟のキアのために、一度だけだと思って交尾をした虎族の男。
思った以上に気持ちがよく、身体の相性も悪くはないと思ったが、無意識の内に、二度は寝てはならない相手だということも感じ
取って別れたつもりだった。
 しかし・・・・・どうやら、相性がいいと思ったのは向こうも同様のようで、それから何度も姿を見せるようになった。しかも、ルカが他
の誰かと交尾をしようとするたびに邪魔をし、その後自分が強引に抱くのだ。
 たった一度だと思っていた相手。
それが、今では指先が触れるだけで、身体が蕩けてしまう自分がいる。
今では自分のそこがコードの形になっているようで、今までの誰との交尾よりも気持ちがよく、深い快感を覚えて・・・・・ルカは、自
分が怖くなっていた。
自分の身体が、コードにしか感じなくなっているのではないか、と。
(そんなこと、あったら駄目だ。僕は、誰かに本気になんかならないんだから)
 それ程の思いを注ぐのは、たった1匹のつがいが出来た時だけだ。
それが、異種族のコードであるはずがない・・・・・ルカは頑なにそう信じ、首筋に触れる熱い唇には感じないのだと目を閉じた。







(・・・・・全く、頑固な奴)
 華奢な首筋に牙を立てないようにしながら、コードは頑なに自分を見ようとしないルカに苦笑を漏らした。
甘い身体を腕に抱いた時から、必ず自分のものにすると決め、それからコードは出来るだけルカの前に姿を現した。
 淫乱な彼は、目を離すと他の雄を誘って交尾をしようとしたが、そのたびに邪魔をし、自分という存在を植えつけるためにその身
体を抱いた。

 今ではもう、かなり自分好みの、いや、それ以上の身体になったルカ。ここ最近は、自分しか抱いていないのは分かっている。
まるで嫉妬をさせるように、わざと雄を誘い、そのたびにコードが邪魔をして少し乱暴に抱くと、ルカは可愛い声で鳴き、しがみ付
いてきた。
 ただ、今だに、好きと言わない。
その頑固ささえ愛しくて、コードは自分がルカに骨抜きになっていることを自覚していた。



 「あっ、はっ、んっ」
 蠢くルカの最奥にペニスを差し込み、ズンズンと力強く律動する。
柔らかで柔軟な身体はどこまでもコードを深く咥え込み、最高の快感を与えてくれる。それでもこれは淫乱な兎族というのではな
く、ルカだから、だと思った。
 「ルカ、ルカ、好きだっ」
 「・・・・・っ」
 口付けの合間にそう言っても、ルカは喘ぎ声しか洩らさない。
そのくせ、目元は潤み、少し嬉しそうな表情になっているのだ。どこから見ても自分のことを愛しているはずだ、いや、少なくともこの
身体を気に入ってはくれているのだと思う。
(堕ちるのは、もう直ぐだ)
 「あっ、コッ、コードッ」
 「ル、カッ」
 ギュウッと強くペニスを絞られ、コードは溜まらずにその最奥に精を吐き出すが、ペニスの硬度も大きさも変わらず、そのままルカを
苛み続ける。
 「あんっ、やっ、もっ」
 どんなに貪っても足らないほど、コードはルカに飢えている。それはこの先どんなにこの甘い身体を喰らっても満たされることはない
だろう。ただ、たった一言、ルカが言ってくれれば・・・・・。

 「好き、コード」

(絶対に、言わせてみせるっ)
 一度でも愛の言葉を言えば、もうルカはあの家に帰さない。自分の住処に連れ帰り、彼が許してくれと泣きだすまでその身体を
味わってやる。
そして二度と、自分以外を見ようとすることを許さない。
それは、多分・・・・・もう直ぐ叶うはずだ。
 「愛してる、ルカ」
 「・・・・・!」
 返事の代わりに、ペニスが強く締め付けられた。
口以上に素直な身体の反応にコードは思わず笑いが零れ、愛しくてたまらないものを抱きしめるように、その華奢な身体を強く抱
きしめた。

 「早く、素直になれよ、ルカ」





                                                                      END






今回は「狼と7匹目の子ウサギ」の番外編、虎と6匹目の子ウサギ登場。