風呂から上がった苑江太朗(そのえ たろう)は、洗った髪をタオルでガシガシと拭きながら、にへっと顔を綻ばせた。
(明日かあ〜)
ここ一週間ほど、自分と恋人の時間が合わず、ずっと会えない日が続いていた。電話では毎日のように声は聞いていたが、やは
り顔が見れないと寂しいなと思ってしまう。
社会人である(普通の社会人とは少し違うが)恋人と、学生である自分の時間が合わないのは仕方が無く、その上太朗は家
族や友人との約束も大事にしていたので、放課後や休みの時間を恋人の為だけに割くことが出来なかった。会えなかったのはそ
んな自分のせいもあるので、寂しかったなどと甘い言葉は言えないかもしれない。
それでもやはり、久し振りに会えるのは嬉しくて、太朗は明日の土曜日を心待ちにしていた。
「あ、アイス食べちゃったりして〜、歯を磨いたんじゃないの?」
「寝る前に磨く」
「伍朗(ごろう)に見せないでよ、欲しがるから」
「分かってる」
「それと、食べるんならちゃんとテーブルの上で食べなさい。寝ながら食べないのよ」
「は〜い」
(この姿勢がいいんだけどな〜)
小学生の弟は、兄である太朗の真似をよくしたがる。可愛いとは思うが、時折困ってしまうことも事実で、茶の間の畳の上で腹
這いになってアイスを食べていた太朗は、母の言葉に慌てて起き上がろうとした。一度で言うことを聞かないと、後でどれ程叱られ
るのかは・・・・・もう経験済みだからだ。
「ゴロ、どこにいるの?」
「さっき、トイレに行くって言ってたけど・・・・・」
「あー!!」
そんな母の言葉に重なるように声が聞こえてきたかと思うと、
「兄ちゃん、ずるい!カンチョー!!」
「うわあ!」
いきなり、尻に強い衝撃が襲ってきた。
「・・・・・ったく、ゴロの奴!」
悪戯と笑って許すにはかなり激しい衝撃に、太朗は思わず弟の頭を叩いてしまった。
伍朗はワアワア泣き出すし、母は大人気ない(こういう時だけ大人扱いをされる)と叱るしで、太朗は面白くない気分で自分の部
屋に戻ってきた。
「俺は小学生じゃないってーの!」
(カンチョー遊びなんかとっくに卒業してるんだよっ)
時刻はまだ午後9時にもなっていなかったが、面白くないと思った太朗はそのまま寝てしまおうと思う。
プンッと、頬を膨らませたまま、ベッドにドスンと腰掛けた太朗だったが、
「・・・・・っ」
いきなり、尻にピシッと痛みが走った。
「・・・・・え?」
(な、何だ?)
反射的に立ち上がった太朗は、今の痛みがどこから来るのか一瞬分からなかった。
意味も無くキョロキョロと部屋の中を見回した太朗は、今度はもっとゆっくりとベッドの端に浅く腰を下ろそうとしたが、
「・・・・・っ」
やはり、ピリッとした痛みが走って、太朗はそのまま呆然とその場に立っているしか出来なくなった。
いったい、これはどういうことなのだろうか?風呂から上がるまでは何とも無かったはずで、部屋に上がってきた時から急にこうなっ
てしまった。
(・・・・・カンチョーのせい、か?)
弟のカンチョーのせいかとも思ったが、小学生の、それも、弟にされた悪戯でこんな風に痛むだろうか?
それよりは、元々太朗が気付かなかった傷か何かがあって、今のカンチョーで更にその傷か何かが深くなったと思う方が自然では
ないだろうか?
「で、でも、尻って怪我なんかするか?最近、絶対にそんなことは無かったよな?」
学校や家での生活を思い浮かべても、確かに良く遊んで動き回っていたが、傷になるような怪我をすればさすがに覚えているだ
ろう。
「・・・・・じゃあ、なにか、デキモノ・・・・・とか」
(でも、デキモノって、俺、ちゃんと清潔に・・・・・っ)
「!ま、まさか・・・・・?」
(ジローさんとのエッチのせいとかあっ?)
男同士のセックス。
女のようにもう1つ受け入れる場所は当然無いので、当然のように尻の穴を使うことになる。
太朗と恋人のセックスも、恋人が大人の男で、キスだけでも満足出来るような男ではなく、エロエロ大魔神なので、今までにたく
さんセックスをしてきた。
初めて受け入れるまでに結構時間を掛けてくれたせいか、一度解禁してしまうと歯止めが効かなくなったのかもしれない。
社会人の恋人と、学生の自分は会う時間は限られていたが、その中でも太朗からすれば結構セックスしている方じゃないかと思
うのだ。
「お、男同士だもんな、なんか、怖い病気とか・・・・・」
太朗は部屋の中をウロウロと歩き回った。
本当は、今直ぐにでも自分の目で確かめたいが、まさか自分で自分のそこを見るのはかなり・・・・・と、いうか、絶対に嫌な気がす
る。
母に見てもらうのだってとんでもないことだし、弟にだって見られたくない。
本やネットで調べたいと思っても、パソコンは父の部屋にあるし、そういう類の本はもともと買っていない。
「どうしよ・・・・・」
どうしたらいいのか、誰に相談したらいいのか。
太朗の中で急速に膨らんでしまった不安は、ますます増幅してしまった。
『はい』
「あっ、こ、こんばんは!突然すみませんっ、寝てましたか?」
『いいえ、まだ事務所にいますので。どうかしたんですか?』
太朗は慌てて部屋の時計を見上げた。
(9時15分・・・・・まだ仕事しているんだ・・・・・)
優しい声が、電話の向こうから聞こえてくる。太朗は携帯を握り締め、周りに誰もいない自分の部屋の中だというのに声を潜め
て言葉を続けた。
「そ、そこに、ジローさん、いますか?」
『今丁度席を離れていますが・・・・・何かあったんですか?』
恋人に用があるのなら、そのまま恋人の携帯に掛ける。それをとっさに理解し、何か恋人に知られたくない大変なことがあったの
だと感付いてくれた相手に、太朗は内緒の話なんですと言った。
『分かりました、部屋を移動しますので』
「す、すみません、小田切(おだぎり)さん」
小田切は恋人の秘書みたいな役割の人で、太朗との関係も知っているし、常に太朗の味方をしてくれる優しくて頭のいい人
だった。
恋人にもまだ言いたくないデリケートな問題を相談するのに、自分達のことを知っている小田切しか思い付かなかった太朗は、彼
と電話が繋がったことに心底安堵していた。
『太朗君、どうしました?』
「あ、あの・・・・・」
『・・・・・』
「・・・・・」
(お、お尻の痛みなんて・・・・・言いにくい・・・・・)
覚悟を決めていたし、頼る人はもう小田切しかいないのに、太朗はなかなか本題を切り出せなかった。さすがに電話越しで、い
きなり尻が痛いとは言えない。
もう風呂に入り、後は寝るだけの自分とは違い、まだ仕事の途中だというのに、それでも小田切は急かさずに、太朗が自分から
口を開くタイミングを待ってくれていた。
(恥ずかしがってなんかいられないってっ!)
無駄な時間を取らせる方が申し訳なかった。
『尻・・・・・ですか?』
「・・・・・尻です」
思い切って、太朗は先程からの尻の痛みを訴えた。
怪我をしているわけではない、ツキッとした痛み。これは何か悪いものなのだろうか?
『確か、一週間ほどうちの会長とは会われていませんよね?』
「は、はい」
『じゃあ、いくらアブノーマルなセックスをしたとしても、傷がそこまで残るのは少し考えにくいですね』
「・・・・・っ、ジ、ジローさんは、変態なことしませんっ」
『ああ、これは失礼。普段の性格から勝手にセックスの様子も想像してしまって・・・・・。さすがに私もあの人のセックスを見たこと
は無いので、これは太朗君の方が正しいでしょうね』
「・・・・・」
(ジローさん・・・・・あんまり信用ないんだな)
自分の上司である恋人にもズケズケと意見を言う小田切。太朗は恋人に少し同情してしまったが、賢明にもそれを口には出さ
なかった。
「・・・・・」
そして、小田切の次の言葉を待つ。
小田切はしばらくして言葉を続けた。
『確かに、本来はセックスをしないはずの男同士では、色々と困った病気があるのは確かです。まあ、女相手でも病気はありま
すけれど』
「・・・・・」
『それも、挿入時ローションなどでよく慣らし、ゴムを着けていればほとんど大丈夫なんですが・・・・・あの人、太朗君相手にゴム
なんか着けてないでしょう?』
「は、はい」
(確か、何時も・・・・・)
恋人とセックスする時、まだまだ慣れない太朗は恋人の愛撫に直ぐに夢中になって、挿入する頃はほとんど我を忘れていること
が多かった。
それでも、中に出される感覚や、その後の後始末という恥ずかしい行為は覚えているので・・・・・小田切の言うように、自分達の
セックスにはゴムは無いように思う。
『本来はゴムを使う方がいいんですよ。入れる側はともかく、受け入れる側の方にとってはね。妊娠の心配が無いということもあ
るでしょうが、あの人の場合はそれだけ太朗君と深く繋がりたいんでしょうし、お互いに病気が無いことも確信しているんでしょうが
ねえ』
「・・・・・」
生々しい話はとても恥ずかしいが・・・・・太朗は顔を真っ赤にしながらも小田切の言葉に耳を傾けた。
『大事なあなたを抱くんですから、それなりにあの人も気遣ってるでしょうが、もしかしてその時に些細な傷が出来て、オデキみた
いなデキモノが出来た可能性はありますね』
「オデキ?」
『ええ。男同士でセックスをする人間にはママあるようですが』
「ど、どうしよう、小田切さん・・・・・」
『それほど心配する必要はないと思うんですが・・・・・まさか、私が診てあげることも出来ませんし』
「え?」
『そんなことをしたら、あの人に殺されちゃいますよ』
はははと、楽しそうに笑いながら怖いことを言って欲しくない。太朗だって、あんなに綺麗な小田切に自分の尻の際どい場所を
見られたくはなかった。
『心配することはないと思いますよ。その部分は治癒力もあるらしくて、簡単なデキモノなら自然と直ると聞きますし、もしもそれ
でも痛みが残るようなら』
「よ、ようなら?」
『覚悟して、医者に行かなくてはなりませんね。もちろん、当事者も連れて行かないと』
「と、当事者・・・・・」
恋人と自分が、並んで医者に行って・・・・・並んで医者の言葉を聞く。
(うわあっ、それはやだ!)
あまりにリアルな光景に、太朗はブンブンと激しく首を横に振った。
その夜は、ほとんど眠れなかった・・・・・と、言いたいところだったが、何時の間にか眠ってしまったようで、太朗はベッドにうつ伏せ
になっていた自分をぼんやりと見下ろしながら思った。
(お尻・・・・・痛くないような・・・・・痛いような・・・・・)
昨日の夜のようにハッキリとした痛みは感じないが、それでもムズムズとした感じがする。
「・・・・・今日は、ジローさんと会うんだ・・・・・」
待っていたはずの今日が、何だか朝から気が重かった。ただ、それでも、今日恋人と会わないという選択だけはしたくない。自分
がこんなにも楽しみにしていたように、きっと向こうも楽しみにしてくれていると分かっていたからだ。
こっそりと茶の間からタウンページを取ってきた太朗は、その中で病院を・・・・・もっとハッキリ言えば、肛門科の病院を探した。
恋人に会う前に、この要因を調べておきたかった。いくら今は痛みが薄れたとはいえ、また痛みがぶり返すとも分からず、そうなった
時に恋人に心配を掛けたくないと思ってしまったのだ。
「結構あるな・・・・・」
太朗が思ったよりも、肛門科の病院は多かった。
若いお医者さんだったらちょっと嫌かもと思いながら、取りあえず電話で聞いてみようかと思った太朗は、携帯を手にした瞬間にふ
と考えてしまった。
「・・・・・なんて、言えばいいんだろ」
尻が痛いと、抽象的に言ったとしても、医者はその要因を探るべく色々訊ねてくるだろう。
最近、硬い便をしたかと言われれは直ぐに答えられるが、もしも・・・・・もしもだ、
「そこを使ったセックスをしましたか?」
そんなことを聞かれてしまったら、もう何て答えていいのかも分からない。いや、医者だったら、何も聞かなくてもそこを見たら、直ぐに
分かってしまうかもしれない。
「うわあ!ピンチじゃん!!」
思わずそう叫んでしまった太朗は、
「太朗っ、煩いわよ!」
そう、下の階から母に叱られてしまった。
「よう、タロ」
「う、うん」
結局、病院に行く勇気もなく、太朗は昼過ぎに家の近くまで迎えに来てくれた恋人の車に乗り込んだ。
少しだけ尻を斜めにして中心部に刺激を与えないようにしていた太朗は、どこかに遊びに行くかという恋人の言葉にも、直ぐにマン
ションに行って欲しいと言った。
(もう、ジローさんに言うしかないって・・・・・)
医者に行くことも出来ず、自分で見ることも出来ないのなら、もう、恋人に確認してもらうしかない。
太朗は悲壮な思いで覚悟を決めていた。
「どうしたんだ?」
恋人のマンションに着くなり、さすがに元気の無い太朗に、恋人は心配そうに声を掛けてきた。
しかし、太朗は何時話を切り出そうか、それだけを考えていたので、その言葉にも生返事しか返せなかった。
(何て言おう・・・・・お尻に、何か出来たみたいって・・・・・)
「ジ、ジローさん」
「ん?」
「お、俺っ、話があるんだけど!」
何時までもこの張り詰めた緊張感を抱えているのが耐えられず、太朗は思い切って顔を上げた。
「お尻が変なんだ!」
「・・・・・はあ?」
当然というか・・・・・今の言葉は全く恋人には理解出来ていないようで、腕組をしていた手を解き、優しく髪をクシャッと撫でてくれ
ながらどうしたんだと再度聞いてくる。
(言葉で説明なんて・・・・・もう!)
どう説明しようか、考えているだけで頭が爆発しそうだ。
太朗は思い切ってジーパンごとパンツを脱いで、下半身裸になってしまった。
「おいっ、タロ?」
まだ昼間、それも明るいリビングでのいきなりの太朗の行動に、何時も泰然としている恋人も、さすがに慌てたようだ。
もちろん、太朗も恥ずかしいが、精一杯シャツを下に引っ張りながら、半分自棄になって口を開く。
「あ、あのね、昨日から、お尻が何か痛くって・・・・・。でも、自分じゃ怖くて見れないし、病院に行くのも恥ずかしくって・・・・・だか
ら、あの」
「見せろ」
「・・・・・へ?」
「お前の尻を他の男に見せられるわけないだろ」
犯されたらどうするという恋人の言葉はどこか違う気がするが、それでも直ぐに太朗の気持ちを分かってくれたことが嬉しくて仕方
がなかった。
(やっぱり、ジローさんは頼りになるっ)
「え、えっと、こ、ここで?」
「直ぐがいいだろ、ここが一番明るいしな。四つん這いになって、自分で広げて見せろ。それとも、仰向けになって足を開くか?」
・・・・・なんだか、恋人の声が楽しそうなのは、きっと・・・・・多分、気のせいだと思う。
仰向けはさすがに恥ずかしく、太朗はオズオズとその場に四つん這いになるとそのまま後に顔を向けた。
「・・・・・なんか、恥ずかしいんだけど・・・・・」
「俺はただ診るだけだぞ」
その言葉を、信じていいのだろうか?
恥ずかしくてたまらなかったが、それでもここまできてやっぱり止めたと言うのも言いにくくて、太朗はえいっと、思い切って尻を上げ
た。さすがに自分で広げることは出来なかったが、恋人がその役割をしてくれる。
「・・・・・見た感じ、何も出来ていないぞ。強いて言えば、穴の近くに薄い引っ掻き傷みたいなのが見えるが、それも薄いし」
「引っ掻き?・・・・・ああ!ゴロのカンチョーだ!」
あの時、不意打ちを食らってかなりの衝撃だと思ったが、その時の伍朗の爪とパジャマが、上手くというか、運悪く引っ掛かって、
引っ掻き傷を作ったのだ。
「なんだ・・・・・良かったあ」
デキモノが無かったことももちろんだが、原因が分かって本当にホッとした。伍朗には、帰って仕返しのカンチョーをしてやろう。
「ごめん、ありがと、ジローさん」
何時までも尻を丸出しの格好は恥ずかしいと起き上がろうとした太朗は、不意に濡れた感触をそこに感じてしまい、慌てたよう
に振り返った。
「なっ、何してんだよっ?」
「ん〜?舐めてやってんだよ。こんな傷、舐めときゃ直る」
「はっ、恥ずかしいってっ、止めてよ!ちょっと!」
「タ〜ロ、俺の前でこんな美味しい格好をして、このままで済むと思うなよ」
「ひっ」
尻の穴から舌は移動し、丸みのある双丘に辿り着いて、カプッと歯を立てられる。
「ちょ、ちょっと〜っ!」
(どうしてこういうことになっちゃうんだよっ?)
白くて、丸い、甘い甘い桃尻。
恋人が思う存分貪って、解放してくれるのはいったい何時になってしまうのだろうか。
「んっ」
そのまま床のラグの上で組み敷かれてしまいながら、太朗は楽しそうに笑って自分の胸元に顔を埋める恋人の髪を、悔し紛れに
グシャッと強く握り締めてやった。
(次があったら、絶対病院に行ってやる〜!!)
end
人気投票、堂々第一位のタロです。
下ネタになってしまいましたが、いかがでしたか?三位のジローさんも、ここで美味しい思いをしてます。
一位なので、話も少し長めに、そして、画像は「尻」と「桃」を掛けました。タロの尻は「桃尻」ということで(笑)。