ささやかな贈り物




                                                        
アルティウス&有希


                                                        ※ ここでの『』の中は日本語です





 エディエスは目の前で笑う継母に途惑った視線を向けた。
 「皆の欲しいものですか?」
 「うん。エディエスなら知っているかと思って」



 杜沢有希(もりさわ ゆき)が異世界であるエクテシアに来て、もう半年以上経った。
エクテシアの王であるアルティウスとの、男同士での結婚という信じられない経験もしたが、今は自分でも度胸が付いてきたと
思えるくらいここの生活に馴染んできた。



 そんな時、ふと思い出したのはクリスマスのこと。
暑いこの世界ではクリスマスという言葉は似合わないが、せっかく出来た子供達に初めて何かしてやるいい機会なのではと思
い立ったのだ。
そして、子供達の中で一番年上の、第一皇子であるエディエスを呼び、それぞれが一番欲しいものは何かを聞いたのだが。
 「・・・・・ないと思います」
 エディエスの答えは簡潔だった。
 「欲しいもの、ないの?」
 「アセットとシェステは、多分母親が欲しかったと思います。ユキ様が母上になられてとても喜んでいるし」
 「レスターは?」
 「レスターは父上の愛情でしょう。母親のことがあって、父上から疎まれているのではと怖がっていましたから。でも、今は父上
もレスターを気に掛けてくださっているし、他には思いつきません」
 「ファノスは、何かあるんじゃない?」
 「あいつは私達が相手をしてやれば喜ぶんです。まだ子供ですから」
 「・・・・・そうなんだ」
(僕達の世界とはやっぱり違うんだな)
 欲しいものといって、物を想像しない子供達。
父親や母親の愛情で満足している事が羨ましくて・・・・・哀しい。
 有希はふと顔を上げてエディエスを見つめた。
 「エディエスは?何かない?」
 「・・・・・わたしは・・・・・」



 綺麗な継母の真っ直ぐな視線に、エディエスは僅かに視線をそらした。
反発していた時は気付かなかったが、改めて見ると有希は整った綺麗な顔をしているし、その気持ちはとても優しい。
実の子供ではない自分達にも出来る限り愛情を注いでくれようとしているし、実際に行動で示してくれる。
だからこそ弟達や妹達も有希を慕っていた。
 エディエスの気持ちも・・・・・変わった。
もう数ヶ月もすれば11歳になるエディエスは、心も身体もかなり大人に近付いている。
自分より6歳だけ年上の、自分よりも華奢な身体付きの、尊敬する父親の新しい妃。
綺麗で優しいその人は、間違いなく自分と同じ男だが・・・・・。
 「エディエス?」
 黙ってしまったエディエスに、有希は気遣うように声を掛ける。
エディエスはハッとして顔を上げた。
 「私も欲しいものは特にありません。父上の後を継いで立派な王になるのが夢ですから」



 エディエスから情報を貰えなかった有希は、とにかく自分が出来ることを考えた。
何かを買うにしても、有希は自分のお金は持っておらず、体力的にも自信があるわけではない。
それでも、出来ることは何かあるはずだ。



 そして、ある晴れた日の午後・・・・・。
 「御用はな〜に、母様」
 「なあに?」
有希は中庭に5人の子供達を呼んで、ゆっくりと1人1人の顔を見つめながら言った。
 「あのね、僕の世界では、この時期クリスマスっていうお祝いがあるんだ」
 「くりすます?」
 「大人が子供に、元気に育ってくれてありがとうって思いを込めて、プレゼント・・・・・その子が喜ぶようなものをあげるんだよ。
僕はまだみんなと暮らし始めて間が無いから、本当に喜んでくれるものをあげれるかは分からないけど・・・・・」
 そう言いながら、有希は先ずと綺麗にたたんだ布を差し出した。
 「これは、アセットとシェステに。お料理をする時に、服が汚れないように着けるものだよ。僕と今度、アルティウスに何か美味し
いものを作ってあげようね」
 「わあ!可愛い!」
 「かあさまとおりょーり!」
 少し不恰好ながらも綺麗な布を使って作った前掛けに、2人の王女は喜んで早速身につけた。
 「かあさま、どー?」
 「可愛い?」
 「うん、2人もよく似合ってる」
2人が喜んでくれたことにホッとして、有希は今度はファノスにはいと、弓と矢を渡した。
 「これは、アルティウスが小さい頃使ってたものなんだって。ファノス、最近狩に行ってるでしょう?何時もお兄さん達のを借りて
るって言ってたから、これをファノスのものにして。ほら、この持つところにファノスって、僕が彫ったんだよ」
 いらないものを仕舞ってあるという物置の中を探して、やっと見付けたものだ。もちろん、アルティウスには許可をもらい(何に
使うのかしつこく聞いてきたが)、ぎこちない手付きで名を彫った。
 「私のものっ?母上、ありがとうございます!」
父親のものだったというのも嬉しかったのだろう、ファノスは腕の中に抱きしめて喜んでいる。
 「次はレスター、これ、なんだけど」
 手渡したのは数冊の本。
 「ディーガの蔵書で、レスターにも読めるような本を譲ってもらったんだ。あまり売られてない物だっていうから、まだ読んでないと
思うけど・・・・・どう?」
 「・・・・・はい、初めて目にするものです。でも、本当にいいのですか?こんな貴重なものを・・・・・」
 「譲ってくれる代わりに、時々本の整理に来て欲しいって言われたけど・・・・・」
 「行きます!尊敬するディーガ様のお手伝いが出来るなんて・・・・・嬉しいです」
何時もは控えめなレスターの、目を輝かせた本当に嬉しそうな顔に、有希は良かったと安堵した。
有希も、本の代わりに、自分の世界のことを色々と教えて欲しいと言われたが、そんなことはとても簡単なことだ。
 「それで、最後、エディエスには」
 「私は・・・・・」
 「はい、これ」
 「・・・・・え?」
 差し出されたのは、小さな数枚の紙切れだ。
手渡されたエディエスはじっとそれを見下ろした。
 「・・・・・指南権?」
 「うん。アルティウスとベルークにこれを渡せば、何時でも剣の相手をしてくれるよ」
 「父上が?」
驚いたようにエディエスは呟いた。
 「エディエスが欲しいもの、ずっと考えていたんだけど思い当たらなくて。でも、最近よく兵士の修練場に行ってるんでしょう?
結構強いって聞いたよ」
 「いえ・・・・・」
 「だから、本当は僕が相手を出来ればいいんだけど、ちょっと無理だし・・・・・だから、アルティウスに頼んでみたんだ。そうしたら
いいって言ってくれたから」
 もちろん・・・・・タダというわけではない。それなりの要求をされ、有希は承諾した。
 「・・・・・どうかな」
 「・・・・・ありがとうございます。父上と直接剣を交えることが出来るなんて・・・・・嬉しいです」
言葉は少ないながらも、エディエスの喜びは伝わってくる。
とりあえずと用意したものばかりだが、それぞれの喜ぶ顔が見れて、有希は自分自身も嬉しくなった。



 「子供ではなく、私のことを第一に考えろ」
 その夜、アルティウスは有希を寝台に連れ込むと、怒ったように言い放った。
昼間のことは既に報告を受けており、有希が数日間コソコソ何をしていたかがやっと分かった。
子供を思ってくれるのは悪いことではないが、有希にとっての一番は何時でも自分だと思っているアルティウスは、有希がエディ
エスのことを頼みに来た時、一つの条件を出していた。

 「身体を求めれば必ず受け入れるように」

早速今夜、アルティウスは実行するつもりだ。



(なんだか、変な感じ・・・・・)
 まるで契約の為のようだが、もちろん有希にそんなつもりはない。
アルティウスを想っているからこそ、身体を受け入れることが出来るのだ。
 「アルティウスへのプレゼント、用意する時間なくて・・・・・ごめんなさい」
 「私にはそなたがいれば十分だ」
きつく抱きしめられながら、激しく唇を重ねてくるアルティウス。
彼の存在こそ自分にとってはクリスマスプレゼントだとくすぐったく思いながら、有希はアルティウスの首に腕を回した。




                                                                     end






有希ちゃん、子沢山だと大変です。
今回アルはちゃっかり美味しいとこを貰ってますが、油断していると・・・・・エディエスも直ぐに成長しますよ(笑)。