鬼は内


                                                      
※ ここでの『』の中は日本語です。





 「・・・・・これはどういうことだ?」
 「だから、アルティウスの協力が必要なんだよ」
 「・・・・・」
 アルティウスは目の前で並んでいる愛しい妃と、5人の我が子達を怪訝そうに見つめながら、昨日からそわそわしていた
有希の姿を思い出した。



 「アルティウス!明日、ちょっとだけでいいから時間あけて貰える?」
 可愛らしく首を傾げながら聞いてくる有希に否とは言うつもりも無かったが、こんなことを有希が言ってくる事自体珍しい
ので、アルティウスはその理由を問いただした。
 「何をするのだ?」
 「ふふ、内緒」
楽しそうに笑う有希を見られたことで満足したアルティウスはそれ以上追求することも無かった。
(甘えたいのであれば、明日ではなく今宵からでも十分であろうに・・・・・)



 しかし、2人きりの楽しい時間を(勝手に)想像していたアルティウスは、そこになぜ子供達がいるのか分からない。
本来ならば父親であると同時に国王であるアルティウスの前にいる時は、皇子であってもきちんとした礼をとるのが普通で
あるのに、今日の子供達はなぜかにこやかに笑ったまま立っている。
幼い娘達アセットとシェステなどは、有希の足にしがみつくようにして何時も以上にかしましかった。
 「母様、まだ?」
 「まだ?」
 「もう直ぐだよ、ちょっと待ってね」
 「ユキ」
 「あのね、アルティウスに鬼になって欲しいんだ」
 「・・・・・オニ?なんだ、それは」
 「今日は、僕の世界では《節分》っていう日なんだ。今年1年、家族が健康であるようにっていう・・・・・ん〜、小さなお
祭りみたいなものなんだよ」
 生真面目な有希はこの世界に来てから、元の世界の事を忘れないようにと日々の行事のことを記録していた。
もしかすれば多少のずれがあるかもしれないが、数日前、有希は節分が近いことに気付いたのだ。
暑いこの世界では今がとても2月だとは思えないが、せっかくの健康を願うこの行事を子供達にも教えたいと思った。
 それから数日、有希はウンパに聞いて、マメ代わりの食べられる実を捜したり、鬼に似せる装飾を手作りした。
そして、昨日やっと全ての準備が整ったので、有希は今回一番活躍して欲しいアルティウスにお願いをしたのだ。
 「・・・・・それで、オニというものは何をするのだ?」
 「これと、これをつけてね、僕達が実を投げつけて追いかけるから、そのまま王宮から逃げてもらいたいんだ」
 「王たる私に逃げろと申すのかっ?」
 「だから、それはお祭り上そうするんだよ。これは家族の中でお父さんがする役割なんだから」



 アルティウスは面白くなかった。
有希が元の世界の事を考えていることも面白くなかったし、自分が背を向けて逃げるということ自体不満だった。
しかし・・・・・。
 「ね?お願い」
(・・・・・卑怯な手を使う・・・・・)
自分が有希のその目と言葉に勝てないことを知っていてそう言っている有希が憎らしい。
 「アルティウス」
再度、名前を呼ばれる。
アルティウスはますます眉を顰めた。



 藁で作った鬘とそれに取り付けた角代わりの棒、そして腰巻をつけたアルティウスは、王宮の真ん中で堂々と腕を組んだ
まま立っていた。
 「よし、じゃあ、みんな教えた通りに!」
 「おにわそと!」
 「ふくわうち!」
 口々に叫びながら、年少の子供達は普段は近寄りがたいほど威厳のある父王に向かって小さな実を投げつける。
しかし、アルティウスは逃げることなくその場に立ちふさがったままだ。
 「アルティウスッ、鬼は逃げないと!」
慌てて有希が言っても、アルティウスは不遜に言い放った。
 「私は逃げることなどしない」
 「もうっ」
(これは形だけのものなのに〜)
このままでは鬼は出て行かず、有希が子供達に説明した話とは全く違ってしまう。
有希は慌ててアルティウスの傍に駆け寄って、その耳元に素早く囁いた。
 「お願いだから、言う通りにしてっ。そうしたらアルティウスの言うこと何でも聞くからっ」
 「・・・・・まことか?」
 「うんっ」
 有希の言質をとったアルティウスはニヤッと笑う。
その顔を見て有希は一瞬後悔したが、それでも今日の計画を話した時に楽しそうにしていた子供達を裏切ることは出来
なかった。
 「かあさま、おにとなかよしなの?」
 「ち、違うよ、鬼の弱点を聞いていたんだ。鬼が弱いのはお腹と背中だって!さあ、もう一回始めからしようか。アルティウ
ス、始めるよ!」
 「おお」
 「じゃあ、鬼は外!福はうち!」
 「「オニはそと!」」
賑やかな声が王宮内に響き渡った。



 王宮から追い出された鬼は、そのまま仮の姿を脱ぎ捨てて戻ってくると、唖然としている有希の身体を軽々と腕に抱き
上げた。
 「ア、アルティウスッ、まだ後片付けが!」
 「ユキ様、後は私達が」
父王の意図を正確に組んだ皇太子エディエスが苦笑しながら言い、アルティウスも鷹揚と頷いてみせた。
 「頼むぞ」
 「はい」
 「ちょ、ちょっとっ」
 そのままアルティウスの足が向かっているのは自分達の私室だ。
アルティウスが何をしようとしているのか、さすがに有希も想像がついた。
 「ま、まだ明るいよっ」
 「私の言うことを聞いてくれるのであろう?私は今直ぐそなたが欲しいのだ」
 「・・・・・っ」
 この尊大な暴君が相手では豆まきも容易ではないということを有希は思い知った。
しかし、溜め息をつきながらも、きちんと約束を守った(多分に俺様な鬼役だったが)アルティウスに、自分も約束を守らな
いとと言い訳をしながら、顔を赤くした有希はそのまま落ちないようにとアルティウスの首に手を回した。
 「・・・・・しょうがないなあ、この鬼さんは」
(1人だけだよ、うちに入れるのは)




                                                                 end 





どうしてもアルに鬼をさせたかったのですが・・・・・あくまで彼は変わりませんでした。

有希ちゃん、何時もご苦労様です。