「ほう・・・・・ここがオンセンというものか」
 「アシュラフは初めて?」
 「スパには行った事はあるが、日本のホテルは初めてだな」
 「りょ、旅館なんだけど・・・・・」
 永瀬悠真(ながせ ゆうま)は恋人のアシュラフ・ガーディブ・イズディハールの言葉に小さな声で突っ込みながらも、久し振りに
会えた喜びの方が勝っているせいか笑顔は消えずに続けた。
 「アシュラフが喜んでくれるようにって、父さんが知り合いのつてを辿って予約を取ってくれたんだ。気に入ってくれたんなら嬉しい
けど」
 「ユーマと共にいるのならどこでも楽しいが」
控えめな恋人の言葉に笑ったアシュラフは、そのまま細い肩を抱き寄せて身を屈めると、まだ柔らかな丸みの残っている頬に唇を
寄せる。外国ならまだしも日本で堂々とキスされるはとても恥ずかしくて、悠真は小声でアシュラフに抗議をした。
 「に、日本では人前でキスはしないんですっ」
 「そうなのか?それならば愛する者に向かって何と言えばいいのだ?」
 「な、何とって・・・・・言わなくてもいいんじゃない?」
 「馬鹿な!愛しい相手には態度だけでなく言葉を惜しんではならないだろう!」
 「そ、そうかな」
(それが普通だと思うんだけど・・・・・)
そうは思うものの、悠真は賢明にも口には出さなかった。





 今年の春高校を卒業予定の悠真は、名前の通りれっきとした男子高校生だ。
石油卸会社を営んでいた父親の関係で、かなり豊富な油田を有している中近東の小国、ガッサーラ国という国を訪れた悠真
は、そこでその国の皇太子である28歳のアシュラフと知り合った。
アシュラフの妾妃を選ぶという、本来なら男である悠真には全く関係のない話だったのだが・・・・・漠然とした憧れをアシュラフに
抱いた悠真と、悠真に目を止めたアシュラフと。
 2人の思いが通じ合い、何も知らない悠真にとっては多少強引な感はあったものの身体も結ばれ、2人はめでたく恋人という
形になった(アシュラフにとっては婚約者という形だが)。

 高校生の悠真は長い休み以外は日本を離れる事が出来ない為、アシュラフの方が頻繁に日本に訊ねて来てくれた。
もちろん、遊びに来るだけではなく、濃厚に愛を確かめる為だ。
アシュラフの強引な勧めと、悠真自身の希望もあって、悠真は高校を卒業するとガッサーラ国の大学に留学する事が決まって
おり、今はもう卒業式を待つという段階だった。

 空いた時間をどうしようか・・・・・迷っていた悠真に、父はこれから世話になるアシュラフを日本ならではの温泉旅行に招待した
らどうかと提案してくれた。
当初は息子である悠真とアシュラフの関係を面白くはないと思っていた父も、悠真が本当にアシュラフを想い、アシュラフも妾妃
などではなく正式な妃として悠真を迎えると約束してくれたので、何とか2人の仲を認めてくれた。
 そうなると、会社の社長としてもこれからの自分の会社とガッサーラ国の関係を考えて、アシュラフにも居心地の良い時間を過
ごしてもらおうと考え、今回の温泉旅行を2人にプレゼントしたのだ。

 悠真が空港でアシュラフの到着を待っていると、自家用機で到着した彼は民族衣装のまま悠真を抱きしめ、いきなり空港の
ロビーで熱い口付けをされた。
当初は空港でキスをされるたびに顔から火が出るほどに恥ずかしく、日本では止めてくれと遠回しな言葉で伝えたのだが、アシュ
ラフは愛情表現を隠す事を納得はしてくれなかった。
 毎回毎回、悠真は恥ずかしい思いをしたが、それでもキスをされると離れていた時間の寂しさが消える事も実感して、今では
とにかく周りを見ないようにしてそれを受け入れている。

 悠真の父からの温泉旅行のプレゼントをアシュラフはとても喜んでくれて、そのまま北陸のとある温泉地まで飛行機で出向き、
既に雪景色となった旅館に数十分前にようやく辿り着いた。


いよいよこれから二泊三日の、2人きりの旅行が始まるのだ。





 「わあ〜、すごく似合う!」
 「そうか?」
 悠真の褒め言葉にアシュラフは頬を緩めている。
(本当は日本人の俺の方が着こなさないといけないんだけど・・・・・)
民族衣装から普通のシャツとジーパンにコートというラフな格好に着替えていたアシュラフは、特別室という離れに案内されてから
直ぐに浴衣に着替えた。
 背が高く、肩幅があり、腰の位置も高いアシュラフ。
褐色の肌に、意思の強い深い海の色の瞳。 中東の男にしては珍しく髭は蓄えておらず、その容貌は若々しく、そしてエキゾチッ
クな美貌の彼は、案外に浴衣を綺麗に着こなしていた。
 「ユーマも愛らしいぞ」
 「あ、愛らしいとか、ちょっと変」
 「本当の事だ」
そう言うと、アシュラフは悠真の腰を抱き寄せた。
 「日本に来て直ぐにユーマを抱きしめる事が出来ると思ったんだが、思いがけずこうするのに時間が掛かってしまったな」
 「アシュラフ・・・・・」
 「クリスマス以来だ」
 「・・・・・会いたかった」
 「私もだ」
 寂しいのは自分のせいだというのは分かっていた。
直ぐにでも一緒に暮らしたいと言ってくれているアシュラフに、学校を卒業するまではと長い時間待たせているのは自分の方で、
本来は寂しいなどというのもおかしな事だった。
それでも、アシュラフはそんな自分の我が儘も受け止めてくれる。悠真は甘えるようにアシュラフに抱きついた。
 「アシュラフ」
 「日本ではこういうことをしないと言っていたはずだが?」
 悠真の言葉を逆手に取り、アシュラフがからかうように言う。その言葉に悠真は首を振った。
 「ここには2人しかいないから」
 「・・・・・それならユーマ、もっとお前を味わってもいいな?」
 「え?」
そう言うなり、アシュラフは悠真を抱き上げた。



 スパというものには何度も行ったが、大体の場所は水着や下着を着て入る温泉だった。しかし、日本のオンセンという場所は、
裸で湯に浸かるという。それも、それぞれの部屋に外にも専用の風呂があるらしい。
それならば、誰にも見せたくない悠真の可愛らしい身体を、じっくりと湯の中で弄る事が出来そうだと、アシュラフは悠真を抱き上
げたまま先ほど案内してもらった部屋から続く露天風呂へと向かった。
 「ア、アシュラフ?」
 悠真は戸惑ったように、それ以上に不安そうな目線を向けてきたが、自分が側にいるのだ何の心配も要らない。大丈夫だと
いう言葉の代わりに軽くキスをしたアシュラフは岩で出来た露天風呂の中へと浴衣のまま入った。
 「アシュラフ、まだ早いよっ」
アシュラフが何をしようとしているのかさすがに分かったらしい悠真は、まだ午後4時を回ったばかりだと言ってきた。しかし、愛する
者を抱きしめるのに時間を気にする男はいないだろう。
その場に悠真を下ろしたアシュラフは、笑みを浮かべたまま浴衣の帯を解いてしまった。
 「あっ」
 「お前も期待していたんじゃないか、ユーマ」
 浴衣の下に着ていた悠真の下着が僅かに膨らんでいるのが見える。
口では否定しているが、悠真も自分を欲しいと思ってくれていることが分かって、アシュラフは目を細めながら自分の浴衣も脱ぎ
捨てた。
 「あ・・・・・っ」
悠真とは違い、下着を着けていなかったアシュラフのペニスは既に期待で勃ち上がっている。
直ぐにそれが視界に入ったらしい悠真の顔は真っ赤になって、慌てたようにそこから視線を逸らした。
 「ユーマ」
 「な、何?」
 「私がお前を欲しがっているのが分かるか?」
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 「・・・・・分かる、よ」
 「それなら、お前も私を欲しがっているのかどうか、この目で分かるように確かめさせてくれ」
 「え・・・・・えっと・・・・・」
 「今纏っているものを全て取って、お前の生まれたままの姿を見せてほしい」
全裸になってペニスを見せて欲しい。はっきりとは言わなかったが、そのニュアンスは十分に感じ取れたはずだろう。
後はただ、アシュラフは悠真が動くのを待てばよかった。



(こ、こんな場所で脱ぐなんて・・・・・っ)
 今まで何度もアシュラフに抱かれてきて、今更身体を見せられないとは言えないのは分かっている。そして、露天風呂で裸にな
るのもまた、全く不思議な事でも何でもなかった。
ただ、この二つを重ねて考えると妙に恥ずかしく、それに今勃ち上がりかけているアシュラフのペニスと比べると、やはり自分のもの
は小さくて・・・・・何も思わないでさっさと脱ぐ事はなかなか出来なかった。
 「・・・・・アシュラフ」
 「どうした?」
 「へ、部屋に戻ろう?中でなら、俺・・・・・」
 ここまできてセックスをしないで欲しいと言うことはとても出来ず、それならばせめて部屋の中でと思ったのだが、アシュラフはそん
な悠真の逃げを許さなかった。
 「ここで」
 「で、でも・・・・・」
 「ユーマ」
 「・・・・・」
アシュラフの手が伸びてきて、前を肌蹴られた浴衣から覗いていた乳首を掴む。
 「あっ」
たったそれだけで身体がビクッと震えてしまった悠真は、もぞっと足を動かしてしまった。先程よりも明確に下着を押し上げるペニ
スを見られたくなかったのだが、アシュラフはもう片方の手を伸ばしてきていきなりペニスを布越しに掴むと、悠真の耳元に唇を寄
せて囁いた。
 「どうする?このままでいいのか?」
 「あっ、やっ」
 「どうする?手で出してやろうか?それとも・・・・・」
口でしようか・・・・・そう言われた途端、なまじされた事があるだけにパッと光景が頭の中に浮かんで、快感に弱い悠真は呆気な
くアシュラフの手の中に落ちてしまった。



 クチュ ピチャ グチュ

 生々しい水音をたてながら、アシュラフは岩の上に横たわった悠真のペニスを口で愛撫していた。
アシュラフの手で大人の形にした悠真のペニスはまだまだ愛らしい色で、自分と同じ男の器官だとはいまだに信じられなかった。
 「あっ、や・・・・・だっ」
先端から、竿の部分までを喉の奥まで含んで舐めしゃぶり、根元にある小さな双球も口の中で転がしてやると、悠真はさらに甘
い啼き声を上げる。
(愛らしい・・・・・)
 それまで、奉仕される事の方に慣れていたアシュラフにとって、奉仕する喜びを知ったのは悠真と会ってからだ。同じ男の身体だ
というせいか感じる場所も分かるし、女も知らないまっさらな身体は、どんな些細な愛撫にも敏感に感じてくれて奉仕のし甲斐
があった。
なにより、アシュラフが愛しいと心から思った初めての相手なので、悠真の喜ぶ事、感じる事は何でもしてやりたかったし、出来る
と信じた。
 「気持ちがいいか?」
 ペニスを口から出してふっと息を吹きかけながら聞くと、更にペニスが膨らんだのが分かった。
 「ユーマ」
 「・・・・・っ」
喘ぎ声しか出ない悠真は、何とか頷いて快感を伝えてくれた。
 「そろそろ、私もお前の甘い蜜を味わいたいな」
 「・・・・・やっ」
 「恥ずかしがる事はない。この後、お前にも私の蜜を飲んでもらうのだから」
そう言うと、握り締めている悠真のペニスがビクッと震えた。どうやら自分の言葉だけで感じたらしい。
 「ふふ、可愛いな、ユーマ」
 「ア、アシュ・・・・・」
 「愛してるよ、私の愛しい奥さん」
 もう直ぐ、悠真はガッサーラ国へとやって来る。表向きは留学という事だが、アシュラフ以下王族の者達も召使い達も、皆悠真
がアシュラフの妻として嫁いでくるという認識だ。
(国に来れば、毎夜この甘い身体を味わおう)
まだまだ、これでも手加減している方だ。アシュラフの本気の欲望をぶつけたら、もしかすれば悠真は怖がってしまうかもしれない
が・・・・・もちろん逃がすつもりはない。
 「あっ、あっ」
 シュッシュッと、小振りなペニスを擦る手の動きを早くする。
間もなく、悠真はアシュラフの手の中で蜜を吐き出し、アシュラフは白く濡れた手を悠真の目の前でペロッと舐めながら甘い声で
囁いた。



 「せっかくのオンセンだ。ゆっくりと味わおう、ユーマ」




                                                                      end





「熱砂の恋」の2人の登場です。
温泉エッチ、何だか中途半端なような気が・・・・・(汗)。もっともっと、アシュラフに甘い言葉を言わせたかったんですけどね。