大人のおもわくと子供のりろん
上杉&太朗
「へ?クリスマスならうちでするよ?」
「はあ?」
「だって、クリスマスは家族でお祝いするもんじゃん」
夕方の犬の散歩デートで、早速とクリスマスのデートの約束を取り付けようとした上杉は、あっさりと言い切った太
朗に呆れた視線を向けるしかなかった。
羽生会というヤクザの組のトップである上杉滋郎と(うえすぎ じろう)と、今年高校生になった苑江太朗(そのえ
たろう)は、かなりの歳の差があるものの、これでも立派な恋人同士だ。
偶然太朗と出会い、その存在全てを好ましいものと思った上杉が、彼としてはかなりじっくりと時間を掛けてやっと落
としたのだが、見た目も気持ちもまだまだお子様な太朗には、恋人同士というものがどんなものかは今一分かってい
ないらしく、しょっちゅう上杉はその存在を後回しにされていた。
家族が大事で、ペットが大事で、学校も大事だと言い切る太朗。
そこに自分の名前が出てこないのは面白くないが、そこが太郎らしいと言われればそうで、上杉は幼いこの恋人に、
自分でも馬鹿だなというくらい参っていた。
そんな風に太朗の気持ちを何時も優先しているつもりの上杉だが(結構傍若無人なことをしているのはおいておい
て)、今回の2人で初めて迎えるクリスマスというのはかなり特別に考えていた。
今まで付き合ってきた女達も、誕生日以上の盛り上がりをクリスマスに求めていたくらいだ。
そんな、遊びの女達と太朗を一緒に考えるつもりはなかったが、ある程度の意気込みは当然あり、太朗もそれなり
に楽しみにしているだろうと思っていた。
・・・・・思っていたのだが・・・・・。
「タロ、普通クリスマスは恋人同士のイベントだろ?」
「え〜?だって、俺んちは何時も家族一緒だし」
「・・・・・お前のところが特別なんだよ」
「ジローさんこそ、ちょっとかぶれてない?無理に世間と一緒でなくったっていいんだよ?自分が一番だと思う楽しみ
方でいいと思うんだけど」
(・・・・・タロのくせに生意気だな)
何時もとぼけている太朗のあまりの正論に、上杉は顔を顰めてしまった。
(クリスマスって、恋人同士のもんなの?)
一方、太朗も口では上杉に対抗しながら、言われた事実に内心アタフタしていた。
これまで恋人と言う存在は全くなく、弟も小学生の太朗の家は、昔ながらのホームパーティーが当然の行事だった。
さすがにもうサンタはいないと分かったが、両親のプレゼントをとても楽しみにしていたし、母親の作ってくれるご馳走も
美味しい。
だからこそ、今年も当然家族と過ごすと思っていたが・・・・・。
(そっか・・・・・今年はジローさんもいたんだっけ・・・・・)
あまりにも何時も一緒にいる気がするので、そんなに特別な風には思わなかったが、今年の太朗には上杉という立
派な恋人が出来た。
太朗よりもずっと大人な彼は、もしかしたら大人のクリスマスというものを考えていたのかもしれない。
(・・・・・大人のクリスマスって・・・・・なんだ?)
きっと、太朗にはとても想像がつかないものだろう。
それでも、あっさりと断わって悪いなと思い直した太朗は、チラッと上目遣いに上杉を見た。
(ようやく自覚したか・・・・・)
少し雰囲気の変わった太郎に、上杉はやっと自分との関係に気付いてくれたのだと分かった。
それはそれで情けないが、ずっと気付いてもらえないよりは断然ましだ。
上杉はワザと大きな溜め息をついてみせる。
すると、太朗は慌てたように顔を覗き込んできた。
「ごめん!ジローさんがせっかく誘ってくれたのに、俺・・・・・」
「でも、太朗はやっぱり家族と過ごすんだよな?」
「え、え〜と」
太朗にとっては大学受験よりも難しい質問だったに違いない。
リードを手の中でクシャクシャにしながら、あ〜とか、う〜とか唸り始めた。
(やっぱり、面白いな、タロは)
こんな太朗を見ているのは楽しくて、上杉は先程までの不機嫌さはどこかにいってしまった。
表面上はつれない太朗に文句を言いたいという素振りを見せながらも、心の中では太朗がどんな楽しい答えを出し
てくるかをワクワクしながら考える。
(ホント、退屈しねえ)
(うわ〜・・・・・ジローさん、皴が出来てる・・・・・)
上杉の眉間の皴を見た太朗は、ますます焦ってどうすればいいのかを考える。
家族の時間は大切にしたい。
でも、上杉の存在を無視出来ない
「ジ、ジローさん・・・・・」
もういいよと、笑いながら言ってくれるのを少しは期待するが、上杉は黙り込んだままじっと太朗の顔を見つめている。
太朗本人がきちんと答えを出すまで、あくまでも態度は変わらない・・・・・そんな感じだった。
「・・・・・」
(どうしよ・・・・・)
「・・・・・」
(う〜・・・・・)
「・・・・・」
(2つが1つになる方法・・・・・)
「あ!!」
太朗の頭の中に、飛び切りの名案が浮かんだ。
「あ!!」
大声を出して目を輝かせた太朗に、上杉はどれどれという意地悪な目を向ける。
そんな上杉の気持ちには全く気付かない太朗は、立ち上がって叫んだ。
「ジローさんをウチのパーティーに招待する!!」
「・・・・・はあ?」
「うちで、みんなでクリスマスパーティーしようよ!母ちゃんもジローさん気に入ってたし、父ちゃんも会いたいって言って
たし!紹介するのに丁度いいじゃん!」
「タ、タロ、お前な」
「名案だろっ?」
褒めろと言わんばかりに胸を張る太朗。
上杉は参ったと溜め息をつくしかない。
(タロ・・・・・何も考えちゃいないんだろうなあ)
幾ら傲岸不遜な上杉でも、自分の恋人の親に会うというのはかなり勇気がいる。
おまけに相手は未成年で、男で・・・・・、自分はバツ一で・・・・・ヤクザで。
どう考えても、上杉に分があるわけがなかった。良くて追い出されるか、殴られても、最悪半殺しの目に遭ったとして
も、世間は上杉に同情する事はないだろう。
(・・・・・参ったなあ)
「あのなあ、タロ」
「何?」
上杉の内心などは気付きもせず、太朗は褒めて褒めてと笑いながらこちらを見ている。
「・・・・・あー」
「?」
「・・・・・ご招待、受けるか」
「うん!!」
「俺、母ちゃんにいっぱいご馳走作ってもらうから!ジローさん、また電話するね!
何だか複雑な表情ながらも頷いてくれた上杉に、太朗は早速母親に伝えるからとさっさと踵を返してしまった。
「タ、タロッ?」
引き止めることも出来ないまま、その後ろ姿を呆然と見送ってしまった上杉は、しばらく経って・・・・・今度こそ深い溜
め息をついてしまった。
「・・・・・マジか・・・・・?」
キスの一つもぜず、全く余韻もないままに帰ってしまった太朗に、何かを期待する方が間違いだろう。
「・・・・・しかたねえな」
(少し早いが、オヤジに言うか)
「息子さんはもらった」
このセリフを堂々と言い放った時、太朗はどんな顔をするだろうか。
それはそれで楽しみだと思い直し、上杉は数日後に迫ったクリスマスが少しでも早く来るように願った。
end
こちらの2人は1回経験済みの設定です。(本編で初めては書きます)。
タロ父と対面するジロさんが見たい気がするのは・・・・・私だけでしょうか(笑)。