クリスマスプレゼント




                                                             
宗岡&小田切






 先月24歳になったばかりの宗岡哲生(むねおか てつお)は、浮かれた気分でキッチンに立っていた。
ゆったりとした3LDKの豪奢なマンションは当然の事ながら宗岡の家ではない。
幸運にもクリスマスイブのこの日に休みが取れ、さっそく愛しい恋人のマンションに来ていたのだ。
いや、恋人というのとは少し違うかもしれない。
相手は自分の事を犬といい、自分もそう呼ばれることを甘んじて受けている。



 出会った切っ掛けは、警察の白バイ隊員の自分と、違反者の車の同乗者として出会った。
こんなに美しい男がいるのかと驚いたくらいだったが、職務中の為に何とか平気な顔をしてやり過ごした。
そんな彼と、男に心が動かされたのが本当かどうか、確かめに行った男同士が出会う特別な店で出会ったのは・・・・・それこそ
運命だと思う。その場にいた誰よりも綺麗で魅力的で、自分が誘われて有頂天になった。
セックスも、今までの女との経験など消し飛んでしまうほどに刺激的で、官能的で、宗岡が恋に落ちたと自覚したのはもう直ぐ
だった。
 自分よりも10歳年上で、男で、おまけに・・・・・ヤクザ。
本来ならばけして近付いてはならない存在だとは分かっているが、傾いてしまった気持ちをどうすることも出来なかった。
 だから、宗岡は小田切の傍にいる。
小田切のヤクザとしての言動には目を瞑り、ただの愛しい恋人だと思って、傍にいることに決めたのだ。



 インターホンが鳴った。
宗岡は小田切のスケジュールを知ることはないが、小田切は宗岡のシフトは全て把握している。
今日も、宗岡が来ているだろうということは知っているだろう。
 「お帰りなさい」
 機嫌がいいのか悪いのか、少しドキドキしながらドアを開くと、綺麗な笑みを浮かべた小田切がすっと手を伸ばして宗岡の首
を引き寄せ、そのまま軽く頬にキスした。
 「ただいま、テツオ」
 「あ、う、うん、お帰りなさい」
 「料理を作ってくれていたのか?」
 「あ、うん」
 「続きは私が作る。お前は少しゆっくりしたらどうだ?」
 「裕さん?」
(な、何がどうなってるんだ?)
 普段ならばあり得ない(それも寂しいが)小田切の言葉。優しい言葉なのに怖いと思うのはなぜなのだろうか。
途惑う宗岡を玄関に置いたまま、小田切はさっさと中に入り、キッチンに足を踏み入れる。
 「ゆ、裕さん!」
 「ん?」
 スーツの上着を脱ぎ、シャツを肘までめくり上げて、ネクタイをポケットに入れる。
そしてその上から壁に掛けていたグリーンのエプロンをした。
それは宗岡がプレゼントしたもので、してもらえるとは思っていないながらも、これを身に着けた小田切を妄想しては楽しんでいた
ものだ。
それが、今目の前で現実に小田切が付けてくれている。
思わず鼻血が出てしまいそうで、宗岡は慌てて鼻を摘んで上を向いた。
 「何をやってるんだ?」
 「う、ううん、何でもないっ」
 「・・・・・」
焦ったように首を振る宗岡に、小田切はふっと微笑んだ。
 「大人しく待っていろ」



 キッチンに立つ小田切の色っぽい後ろ姿を見ながら、始めはドキドキと胸を弾ませていた宗岡は次第に不安になってきた。
何時もの意地悪な小田切の姿が全く見れず、怖いほど優しい。
(・・・・・もしかして、今日で最後ってことじゃ・・・・・)
別れる前の優しさかもしれない・・・・・そう考え始めると不安は止まらなくなった。
 「裕さん!」
 堪らずにキッチンに駆け込むと、宗岡の作りかけのビーフシチューの味見をしていた小田切が振り返った。
 「テツオ?」
 「お、俺!別れないから!」
 「え?」
 「裕さんが俺を要らないって言っても、俺はくっついてるよ!今更他の奴にあなたを渡せないよ!」
急にそう叫んだ宗岡を目を見張って見つめていた小田切は呆れたように言った。
 「いったい、どうしてそんな発想になったんだ?」
 「だっ、だって!裕さんが優しいから!」
 真剣にそう叫んだのに、次の瞬間小田切の口から零れたのは笑い声だった。
珍しく声を上げて笑っていた小田切は、しばらくそのまま笑い続けて・・・・・やがて、まだ笑みを含んだような声で言った。
 「プレゼント」
 「え?」
 「お前が言ったんだろう?プレゼントは要らないから、優しくして欲しいって」
 「・・・・・あ」



 「クリスマスプレゼントは何がいい?」
 一週間ほど前、セックスが終り、何時ものようにギュッと小田切を抱きしめて余韻に浸っていた宗岡は、当の小田切に突然そ
う聞かれた。
 「プレゼント?」
 「一応、お前の希望を聞いてやろう。何がいい?財布か?スーツか?」
 「い、いらないよ。一応俺だって働いているんだし」
 「何も要らないのか?」
 「物は別に欲しいものはないけど・・・・・出来れば、少しだけでも優しくして欲しかったり・・・・・なんて」



 「・・・・・言った」
 宗岡にしてみれば、本気でそう思ったわけではなかった。
小田切の意地が悪いところも可愛いと思っていたし、何より一緒にいてくれるだけで満足だった。
だからこそ欲しいものと言われても何も思いつくものがなく、何気なく言ってみただけだったのだが・・・・・。
(裕さん、ちゃんと覚えてくれていたんだ・・・・・)
 ちゃんと、自分の言葉を聞いてくれているということが嬉しい。
その言葉を真に受けて、本当に優しくしてくれようとするところが可愛い。
宗岡の事を、当人が想像しているよりも遥かに大切に思ってくれていることが泣きたいほど嬉しかった。
 「ありがとう、裕さん!すっごく、嬉しいプレゼントだよ!」
 「ふふ、感激はしなくていいから。ほら、もう3時間でイブは終わってしまうぞ」
 「うん!俺も一緒に手伝うよ!」
 「ああ、ありがとう、哲生」
小田切に軽くキスをされ、宗岡は最高のイブになりそうな気がしていた。





 嬉しそうに表情を崩して、料理を手伝い始める宗岡を、小田切は横目で見つめながら口元を緩める。
(後2時間55分だ)
・・・・・ずっと優しくという約束はしていない。
優しくするのはプレゼントとして・・・・・今日が終わるまでのつもりだ。
日付が変わった瞬間にどんなふうに宗岡を苛めてやろうか・・・・・そう考えるだけでも楽しくて、小田切は頭の中でカウントダウン
をしながら、ずっと綺麗な微笑を浮かべていた。




                                                                     end






彼こそ最高の女王様キャラです。小田切様バンザ〜イ!!

この後、哲生がどんな風に苛められるか、楽しく妄想してください。