レン&キア編
「レンさん、チュウして?」
「・・・・・」
可愛らしく唇を突き出しているキアは、いったいどういうつもりで口付けを求めてきているのか・・・・・。何時もレンには
思いつかない理由から色んなことを考えている幼い恋人に、レンは思い切って訊ねてみた。
「口付けだけで、いいのか?」
「うん!一つ一つしていかないと、僕馬鹿だから覚えられないし!どんなにレンさんが上手なのか、みんなにちゃんと
教えたいんだもん!」
「あー・・・・・分かった」
もしもここで嫌だと言ったら、キアは大きな目にいっぱいの涙を溜めて、どうしてと無言で訊ねてくるはずだ。
キアの涙にはどうしても勝てないレンは、彼が望むまま、その肩を抱きしめた。
「キア」
「レンさん」
どちらにせよ、愛しいキアに口付けするのが嫌なはずは無い。どんな時もキアの柔らかくて甘い身体に触れていたいと
思っているレンは、そのまま嬉しそうに自分のキスを待ち受けているキアの赤い唇に、望みどおりの深く濃厚な口付けを
与えた。
キアがそれを一番最初に言ったのは数日前だった。
「ねえ、レンさんって、交尾上手だよねっ?」
「・・・・・え?」
キア達、兎族が性に奔放なことは知っていたが、まさか自分との交尾を他の兄弟達に話しているとは思わなかった。
第一、まだ子供のキアに愛撫の技巧など、言葉できちんと説明出来ると思えない。
気持ちいい。
キアの交尾の感想は、きっとそんなものだろうと思うのだが。
「いきなりどうしたんだ?」
「あのね、ルカ兄さんが」
「ルカ?・・・・・お前の、6番目の兄弟だな?」
「そう」
「ねえ、キア。キアはレンとしか交尾をしたことが無いよね?だったら、それが一番気持ちいいものかどうか、分からない
だろう?僕達、せっかく交尾を楽しめる身体をしているし、みんなからも欲しがられているのに、レンだけにしか抱かれな
いって寂しくない?」
「・・・・・そんなこと言ったのか、あいつ・・・・・」
レンは眉を顰めた。
何をキアに吹き込んだのかと呆れてしまうと同時に、キアはいったいどういう風に思っているのかというのも気になった。
「・・・・・キア」
「なに?」
「お前、何て答えたんだ?」
「え?もちろん、レンさんはすっごく上手だって言ったよ?僕も何時も気持ち良くしてもらっているし、前にみんなと交尾
しているところも見たけど、みんな気持ちがいいって言ってたし!」
あまりにも想像通りの反応に、レンの頬が少しだけ引き攣る。しかし、キアはそんなレンの表情の変化にも全く気付か
ないようだ。
それ以降、キアは兄弟達に伝えたいからと、それまで以上に積極的にレンの愛撫を望んだ。
キアに触れることは嫌ではないが、それを観察するように見られるのはやはり複雑で、口付けを解いたレンは、ポウッと目
元を赤く染めたキアに聞いてみた。
「なあ、キア。お前は、俺が他の子と交尾していたところを見て、他には何も感じなかったのか?」
「何ともって、いいなあって思ってたよ?僕も早くレンさんに抱いてもらいたいなって。今は、その夢が叶って、本当に幸
せなんだ!」
素直なところがキアの魅力だが、レンとしてはそこでどうして嫉妬しないのかなと複雑な思いがする。レンならば、もしキ
アが他の雄と交尾をしていたら、絶対に許せないからだ。
(いくら子供だからといって、そんな感情がないっていうのも寂しいけどな)
他の雌や雄のように、一度交尾をしただけで自分を縛るようなことを言わないところがいい。そんな風に思っていたくせ
に、あまりにもあっさりし過ぎていると、物足りなくて仕方が無かった。
(レンさん、どうして変な顔してるんだろ?)
キアは、レンとの交尾は気持ちよくて好きだと言っているのに、レンはその言葉では足りないのだろうか?
「あ」
「キア?」
「・・・・・」
(もしかして・・・・・レンさんは気持ち良くないのかもっ)
考えたら、キアがレンにしか抱かれていないということは、キアはレンから教えてもらったこと以外、レンに愛撫を返すことが
出来ないということだ。
あれだけ多くの相手と交尾をしてきたレンが、レンが初めてというキアの拙い交尾を物足りなく思っていても当然かもし
れない。
(そうしたら、レンさんまた、他の人を・・・・・)
今はキアだけしか抱かないと言ってくれているレンだが、いずれはキアの下手さに愛想をつかして、交尾の上手い誰か
をその腕に抱くようになるかもしれない。
「・・・・・っ」
「おい、キア?」
「ふ・・・・・ふぇ〜!」
大好きなレンの腕の中に自分以外がいる。その光景を想像した瞬間、キアはレンの腰にしがみつくと、大きな声で泣
き出してしまった。
「キア?おい、どうしたんだ、キア?」
いきなり泣き始めたキアに、レンは戸惑ったように声を掛けるものの、どうしたらいいのか分からない。泣く奴は面倒だと
思うのだが、もちろん愛しいキアだけは別だった。
しかし、今まで泣いている誰かを慰めるということをしたことがないだけに、レンは自分の胸を涙で熱く濡らす相手をどう
宥めようか考え込んでしまった。
「・・・・・キア」
「えっ、えっ、や、やだあ〜」
「・・・・・」
「レンさんがっ、僕、以外の人と、交尾っ、なん、て、やだあ〜っ」
「え?」
(今のって・・・・・?)
「やだよお〜っ」
どういう考えの結果にそうなったのかは分からないが、今の言葉を考えれば、キアはレンが自分以外を抱いたら嫌だと
泣いているらしい。それはどう考えても、嫉妬というものではないだろうか。
(キアが・・・・・)
泣いているキアは可哀想でたまらない。
それ以上に、自分に独占欲を感じて泣いているキアは可愛い。可愛くて、たまらない。
そんなせめぎ合う気持ちのまま、レンはキアを強く抱きしめた。
「好きだ、キア」
「・・・・・っ」
耳元で囁くレンの声に、キアはビクッと身体を震わせる。
なかなかそういう言葉を言ってくれない言葉数の少ないレン。言われたことに驚いてしまったキアの涙は、ピタリと止まって
しまった。
「レ、レンさん?」
「絶対に無いことを想像するな。これからの俺は、お前しか抱かない。だから、泣くなよ、キア」
「・・・・・っ」
レンは、出来ないことは絶対に言わない。嘘だって、絶対につかない。そんなレンがこんなにもはっきりと伝えてくれたの
だ。信じないはずが無かった。
「・・・・・僕もっ、大好き!」
こんなにも嬉しい言葉を聞けるなんて、今日は最良の日かも知れない。
キアはレンに抱きしめられ、自分も強く抱きしめ返しながら、この後、レンに甘くたっぷり抱いて欲しいなと、もう交尾のこ
とを考えていた。
end