廉+壮&大輝編
高校2年生の浅野大輝(あさの だいき)は、学校から帰った途端に、玄関先で待ち受けていた恋人達に腕を取られ
て家の中に入った。
「あら、廉(れん)君に、壮(そう)ちゃん」
「おばさん、お邪魔します」
「おばさん、お邪魔〜」
昔は隣家に住み、大輝にとっては歳の離れた兄弟のようなものだった彼ら。それは大輝の母にとっても同様で、久し
ぶりに会った2人を笑いながら迎え、2人もごく自然に挨拶を交わしている。
わけが分からないまま自室まで上がり、ベッドに座らされた大輝の目の前に仁王立ちになると、いきなり廉が言った。
「大輝、お前は私達のどちらのキスが上手いと思う?」
「はあ?」
「俺だよなあ、ダイ」
「え?」
「私だな?大輝」
いきなり訪ねてきて、いきなりどちらのキスが上手いか訊ねられて、大輝はいったいどう答えたらいいのか全く分から
なかった。
昔隣に住んでいた幼馴染で、10歳も年上の高校教師、高槻廉(たかつき れん)と、もう1人、同じく10歳年上の建
築設計士の高槻壮(たかつき そう)。
一卵性の双子の彼らと、大輝は16歳の誕生日を迎えた日、いきなり告白され、そのまま流されるように関係を持ってし
まった。
いくら大輝が子供でも、2人の恋人を、それも同性の恋人を持つなんておかしいということは分かっている。
それでも、2人同時に好きだと言われ、欲しいと懇願されて、大輝はどちらも選べなかった。それは、どちらをも選ぶとい
う結果にもなって、今大輝と、廉、壮の3人は、正三角形のような同じ距離感の恋人同士になっていた。
どうなるかと思ったが、こんな関係になって数カ月、思った以上に上手くいっていると思う。
昔よりも2人とは頻繁に会うことが出来るし、その年頃で当然のように興味のあるエッチなことも、2人からそれぞれ教わ
ることが出来た。
昔から、落ち着いていて、少しだけ意地悪な廉は思ったよりもエッチで。
面白くて、悪戯ばかり仕掛けてきていた壮は思いがけず優しくて。
それまで知っていた2人とはまた違った面を見せられ、大輝はどんどん2人に対する想いを深めていったが、よりどちら
がいいかなんていう比べ方はしたことが無かった。
「そ、そんなの分かんないよっ」
「どうして?もう数え切れないほどキスをしてきただろう?十二分に比較できる材料は与えているはずだが」
腕を組んだ廉は、理路整然と言い放つ。
「大丈夫だって。ダイ、感覚的でいいんだよ、こっちの方がいいみたいなって、な?」
「・・・・・だから、分かんない!」
どうしていきなりそんなことを言い出したのか分からないが、大輝にとって比べる対象は2人しかいないし、この先も2人
以外とキスしたり、エッチしたりする気は全くない。そして、恋人2人のキスは、同じように気持ちが良いのだ。
「・・・・・どうして、そんな話になるんだよ」
眉を顰め、上目づかいに交互に見つめると、廉と壮は視線を交わした。
「廉ちゃん、壮ちゃん」
「・・・・・夕べ、電話で話していて」
「なんだか、そんな流れになったんだよなあ」
「なんだかぁ?」
(そんなあやふやな言葉で説明するわけ?)
それで自分を責めるのかと、大輝は困惑から怒りへと気持ちが移行してしまった。
廉と壮にとって、大輝は子供の頃から大切で大好きな存在だった。
可愛くて可愛くて、愛しくて。誰にも渡したくないという気持ちは双子である兄弟に対しても同じだったが、結局大切な幼
馴染が手を取ったのは自分達2人ともだった。
今考えれば、これで良かったと思う。もしも大輝がどちらかを選んでいたとしたら、選ばれなかったもう1人は、多分この
先一生愛する者は出来なかったはずだった。
始めは幼い身体を強引に奪って、次には柔らかな心を懐柔して。
この正三角形の関係は上手くいっていると思っていたのだが・・・・・。
「はあ?そんなの俺に決まってるじゃん。どれだけ経験積んだと思ってるんだよ」
「お前の相手は軽い女ばかりだろう?私の相手はそれなりに経験を積んでいた」
「問題はセックスじゃないんだよ、キスだ、キス」
「私がお前に負けるはずがない」
いったい、何の話からそうなったのかは分からないが、どちらがキスが上手いかという話になって、キスをした時の大輝
の反応の良さをお互いに言い合っていたが、結局決着はつかずに、それならば当人に聞くのが一番だという結論になっ
た。
今まではお互いの女関係やセックスの良し悪しなどほとんど興味がなかったが、大輝を恋人にしてからは妙に気になっ
て仕方がない。セックスの良さで大輝がどちらかを選ぶことはないだろうが、より多くの愛情が向こうにいってしまわないか
と心配でたまらないのだ。
「分からないのか?」
廉が、眼鏡の奥から、馬鹿な子供を見るような目で見る。
「ダイには早かったか?」
壮が、呆れたような苦笑を浮かべている。
確かに自分は2人よりも10歳も子供だが、ちゃんと恋人として2人と付き合っているのだ。セックスまでしているくせに、
こんな時だけ子供扱いして欲しくない。
「そんなに言うなら調べてみる!」
大輝は憤然と立ち上がり、自分よりも背の高い廉の襟首を掴んで下を向かせると、そのままブチュッと音が出るような
キスをした。
「・・・・・んっ」
その瞬間は驚いたような廉だったが、直ぐに主導権を握るように舌を差し入れてきて、全く遠慮もなく口腔内を貪ってく
る。見掛けはノーブルな知的ハンサムなのに、こういう行為は少し荒々しかった。
「次は俺ね」
自分から仕掛けたのに、いつの間にか息も絶え絶えになってしまった大輝は、ようやく廉から解放されると直ぐに壮に
抱き寄せられる。
「壮ちゃ・・・・・むぅっ」
ゆっくり、ねっとり。
ワイルド系ハンサムな壮は、もっと粗野な愛撫をしそうなイメージだが、思いがけなく優しく愛撫をしてくる。
大輝は立っていられなくなってしまったが、その腰を壮はしっかりと支えてくれた。
「で?」
「どっち?」
壮とのキスを終え、力が抜けた身体をベッドに下してもらった大輝は、再び2人から交互に言われた。
しかし、大輝の返事は・・・・・。
「・・・・・分かんないよ。どっちも、上手いと思う・・・・・気持ちよくて。だってっ、だって、俺・・・・・2人共好きだし」
怒られるかもしれないが、大輝にとって2人のキスはどちらも比べようがなく、自分を愛しいと思ってくれる気持ちが強く
伝わってくるものだ。
(上手いとか、下手とか、分かんないよ・・・・・)
俯いてしまった大輝だが。
「ほら見ろ、やっぱり大輝はそう言うだろうと思った」
「何1人だけいい子になってんだよ、廉。俺だってダイは選ばないって言ったろ?こいつは俺達2人を選んだんだよ」
「・・・・・」
(な、何、それ・・・・・?)
今の話を聞けば、何だか2人に嵌められたような気がする。なんだかなあと怒りたいのに、安心する気持ちの方が大きく
て、大輝はほうっと溜め息をつくと、少しだけ驚かせてやれと、目の前で言い合っている2人に向かって言った。
「ねえ、今度はどっちがエッチ上手いか、試してみる?」
end