「ジングルベ〜ル、ジングルベ〜ル、鈴が鳴る〜♪」
「べ〜、べ〜」
「あ〜、たかちゃん上手〜」
真琴はベランダに面したガラスにクリスマスの雪のシールをペタペタとはりながら、自分の足元で同じ様にガラスにクチャク
チャにしたシールをはりながら歌っている貴央を見下ろして笑った。
今日は12月23日。
本当のクリスマスには少し早いが、休日であるので皆の都合がいいだろうと、今日クリスマスパーティーをすることになった。
招待したのは綾辻と倉橋。
そして菱沼夫妻と、西原一家の、総勢大人11人と子供(真哉も含めて)2人の13人だ。
初めは、海藤と自分と貴央、そして綾辻と倉橋を呼んでのささやかなパーティーのつもりだった。
しかし、綾辻が、
「サンタさんは1人でも多い方がいいじゃない」
そう言って、菱沼夫妻にも声を掛けた。
もちろん彼らに異存はなく、直ぐに招待を受けるとの返事を貰い、そんな話を真琴がポロッと兄に話すと、身内である自
分達を呼ばないなんてと嘆き始めた。
西原家にとって、貴央は初孫であり、両親も祖父も、そして3人の兄弟達も貴央をとても可愛がってくれている。
去年はまだ生まれて半年ほどだったので遠慮もしたが、今年はぜひ一緒に祝いたい。
・・・・・そう、兄弟達が言っていると父親から笑いながら連絡が入り、それを海藤に相談すると、海藤は一緒に祝ってくれ
る人間を断わる理由は無いからと承諾をしてくれた。
思い掛けなく人数が多くなったのでどこかを借り切った方がとも思ったが、小さな子供がいるし、何より家庭での普通の
お祝いがしたいと思ったので、真琴は自分達のマンションでのパーティーを計画した。
菱沼夫妻からは、あと1時間ほどで着くという連絡があった。
西原家も知り合いから借りたワゴン車に全員乗ってもう直ぐやって来る。
兄達の勤めるパン屋と八百屋から、焼きたてのパンと新鮮な野菜も一緒だ。
綾辻と倉橋は酒と美味しいチキン、そしてケーキを買出しに行っていて、海藤は・・・・・。
「あ」
玄関のチャイムが鳴る。
「たかちゃん、海藤さんが帰ってきたよっ」
「かーどー」
「一緒にお迎えに行こうね」
貴央へのプレゼントを買いに出掛けていた海藤を出迎える為に、真琴は貴央を抱き上げて玄関へと向かった。
いったい、子供は何を欲しがるのか。
もう少し大きかったならば本人の欲しい物を聞いてということも出来るが、生憎まだ1歳半を過ぎたばかりの貴央には答え
る事はまだ出来ない。
海藤自身、子供の頃にクリスマスパーティーをして貰った記憶は無かった。
小学校の頃まで一緒に住んでいた実の両親はそんな行事を気に掛けるような性格ではなかったし、菱沼夫妻に引き取
られた頃には既に自我が確立していて、クリスマスパーティーなどしてもらう必要性を感じなかった。
実の両親よりは受け入れていたものの、やはり一歩引いて対してしまうのは仕方が無いだろう。
だからなのか、海藤は子供が欲しい物が分からない。
海藤が欲しかったのは、1人で生きていける力だったが・・・・・まさか貴央がそんな事を思っているはずは無いだろう。
真琴に愛され、周りに愛され、そして、自分も確かに愛している。
望んで生まれ、愛されている子供が、いったい何を欲しているのか、海藤はクリスマスが近付くにつれ、本当にずっと悩み
続けていた。
「お帰りなさい」
そんな自分を、真琴と貴央が出迎えてくれた。
2人の笑顔に、海藤は自然と笑みを漏らした。
「ただいま」
「プレゼント、決まりましたか?」
「・・・・・一応、な」
「あ、言わないで下さいね?俺も楽しみにしていますから」
「・・・・・分かった」
そんなに期待してもらっても困ると思ったが、貴央と顔を見合わせた真琴が楽しみだねと言い合っている姿を見ていると
何も言えなくなる。
仕事をしている時は考えたこともない困惑を感じながら、海藤は真琴の腕から貴央を受け取った。
「メリークリスマス!!」
「な、あ、綾辻さんっ?」
両手いっぱいの荷物を抱えてマンションに現れた綾辻は、赤い帽子と服というサンタの格好をしていた。
わざわざ白い顎鬚まで付けた綾辻の扮装に、貴央は目を丸くして固まっていたが・・・・・やがてうわ〜っと泣き出してしまっ
た。
「あら、やだ、たかちゃん!」
「・・・・・やり過ぎなんですよ、あなたは」
綾辻の後ろから現れた倉橋が呆れたように言い、泣いている貴央に微笑を向けた。
「こんにちは」
「かーちゅ」
「ええ、かつみ、ですよ」
「もうっ、克己ったら、たかちゃんにまで名前で呼ばせるのやめてよ〜」
「あなたがこの子の前で私の名前を呼ぶからでしょう、自業自得です」
あっさり言い切った倉橋は貴央を抱き上げ、そのせいで床に下ろした自分が持っていた荷物を眼差してさしながら続けて
言う。
「それ、持ってきてくださいね」
「もうっ、克己冷たい!」
「たーちゃん!じじだよ!」
「・・・・・じーじ?」
綾辻と倉橋がやってきて間もなく、菱沼夫妻が到着した。
玄関まで貴央と出迎えた真琴だったが、その姿に思わずあっと口を開けてしまった。
「どうした?たーちゃん、じじサンタだよ〜」
「サ、サンタ・・・・・」
「ブー、たかちゃんは年寄りは嫌いだそ〜です!」
「ユ、ユウ?お前も・・・・・」
綾辻はにやっと笑って、自分と同じサンタの格好をしている菱沼を見ている。
驚きから覚めた真琴も、綾辻と菱沼の格好を交互に見つめて思わず笑ってしまった。公私とも気が合うらしい綾辻と菱
沼だが、こういう時の発想も同じ方向へと向いているらしい。
(何だか、すごくらしいけど)
「なあに、辰雄さんったら、絶対に貴央君が喜ぶって言ったくせに。・・・・・本当に困った人ね」
「あ、涼子さん、今日はわざわざありがとうございます」
すっきりとしたパンツスーツ姿の涼子に真琴が頭を下げると、涼子はいいえと笑って言った。
「こちらこそ、ご招待ありがとう。今日は西原さんのご家族も来られるんでしょう?お母様の楽しいお話がまた聞けるのを
楽しみにしてたのよ」
「あ、いえ」
(もうっ、母さんったら、パート先の噂話ばっかりして〜)
外見はもちろん、性格も全く違うような真琴の母と涼子だったが、どうやら気は合うらしく、会った時は何時も話が弾んで
いる。その内容は真琴の母のパート先の噂話や失敗談が多いらしいが、それも涼子にとっては新鮮なようだった。
「なんだ、ユウと被っちゃったのかあ〜」
菱沼は白い付け髭を撫でながら、トナカイの方が良かったのかなと言っている。
そのポジティブな考えに、真琴はクスクスと笑い続けた。
そして、最後にやってきたのが西原家御一行だった。
何度かこのマンションにもやって来たことはあるものの、あまりの豪華さに気が引けるとよく言っていた。
しかし、今日は貴央の為のクリスマスパーティーだ。
「あ、来た!」
待ちかねた家族の来訪に、足早に玄関まで出迎えた真琴は・・・・・。
「メリークリスマス!」
「たかちゃん!クリスマスだぞー!」
「おおじじも来たぞー」
「な、なに、みんな・・・・・その格好?」
歳を取っていても背筋が伸びている、歳から言えば一番サンタに近い祖父を初め、2人の体格のいいゴツイ兄2人の、3
人ものサンタが広い玄関に揃っていた。
「たかちゃんにとっては、初めてはっきり分かるクリスマスじゃないか!たかちゃ〜ん、真弓おじちゃんでちゅよ〜!!」
「たかちゃんっ、俺っ、真咲お兄ちゃん、覚えてるかっ?」
「・・・・・兄ちゃん達・・・・・」
真琴は笑った。
ここまでサンタが揃ったら、もう笑うしかなかった。
すると
3人のデコボコサンタの後ろから現れた弟の真哉が、どいてと兄を押し退けて真琴と貴央の前に出た。
「まったく、兄ちゃん達、タカの教育に悪いだろ。タカ、真哉お兄ちゃんだよ」
「しーちゃ」
この中では一番歳が近いせいか貴央は真哉がお気に入りで、今もペチペチと真哉の頬を触って喜んだ。
「うん、そうだよ」
普段は3人の兄達以上に大人びた真哉だが、貴央を前にすると歳相応の可愛らしい笑顔を見せる。
その顔に、真琴も2人の兄もデレッとしてしまった。
「こらこら、玄関で話していたらたかちゃんが風邪をひくだろう?お邪魔させてもらいなさい」
そんな兄弟達を笑いながら見ていた父が言い、母も笑いながらポンポンと手を叩く。
「そ〜よ、母さんを早く座らせて頂戴」
これでようやく招待した全員が揃ったと、真琴は賑やかになりそうな時間に胸をわくわくさせた。
リビングに勢揃いした歳がばらばらのサンタ達。皆自分だけかと思ってした格好だろうが、他にも同じことを考えた者がい
るということをそこで知った。
盛大に笑った綾辻に触発されたのか、菱沼も真琴の祖父も笑い、2人の兄達も照れくさそうにしていた。
そして、始まったクリスマスパーティー。
やはり主役は貴央なのだが、同じ子供という括りで(本人は不本意かもしれないが)真哉も輪の中心になっていた。
特に涼子は素直で賢そうな真哉がお気に入りのようで、貴央だけではなく真哉にまでクリスマスプレゼントを渡してくれた。
「パ、パソコン?」
プレゼントにしてはかなり高額になるノートパソコンに、さすがに真哉はどうしたらいいのかというように父を振り返る。
父は穏やかな笑みを絶やさないまま、涼子に向かって言った。
「ありがとうございます、奥さん。でも、子供へのプレゼントにしては少し高額のような気がしますが」
「あら、今時の子供じゃ常識じゃないかしら。それに、これで真哉君には私のメル友になって欲しいの」
「・・・・・真君はどう?欲しい?」
「・・・・・欲しい、けど」
「じゃあ、こうしよう。来年から、お年玉とお小遣いの一部、そのパソコン代分減らしていく」
「西原さん、それじゃプレゼントにならないわ」
「それは、勘弁して下さい。うちは、この上の3人の子にも、今までこんな高額なプレゼントをしたことは無いんですよ。便
利なものだけど、働いていないこの子にとっては、それを手に入れるのにそれなりの苦労をさせないと」
「うん、そうですね。涼子さん、ここは西原さんの言葉通りにしたらどうかな?真哉君もそれでいいんだろう?」
「はい!父さんがそれでいいんなら。ありがとうございます」
きちんと頭を下げて礼を言う真哉に、最初は眉を潜めていた涼子も仕方が無いというように納得をした。
思い掛けない涼子の真哉へのプレゼントに驚いた真琴だったが、それほどに自分の兄弟を気に入ってくれてとても嬉しく
思う。
(何だか・・・・・嬉しいな)
「貴央君、どうぞ」
それまでパーティーの準備を綾辻と共にしていた倉橋が、生真面目な顔をして貴央の前に膝を着くと大きい包みを差
し出した。
カラフルなサンタ模様の包装に、グリーンのリボン。
倉橋がどんな顔をしてこれを買ったのかと想像するだけで、真琴は胸が詰まって・・・・・頭を下げた。
「ありがとうございます、倉橋さん」
「いえ、私と綾辻からです。私1人だと、何を買っていいのか分からなくて・・・・・」
「ああ、綾辻さんも、ありがとうございます」
(何買ってくれたんだろ)
親の特権のようにウキウキしながら包装を解いた真琴は、中から出てきた帽子とマフラーと手袋に歓声を上げた。
「可愛い!」
「手編みなのよ。素材もいいし、手触りも最高にいいから。これからの季節の散歩のお供にどーぞ」
「はい!」
高い物は受け取らない。
予め真琴にそう言われていたので、海藤は2人にそう伝えた。倉橋も綾辻も返って何を贈っていいのか迷っただろうが、日
頃使えそうな可愛らしいそれに、真琴はとても喜んでいるようだ。
ブランド物に疎い真琴は、それが外国製のかなりいい品というのは分からないだろうが、海藤もこれくらいは受け取ってい
いだろうと思う。
その一方で、涼子の暴走に苦笑を零した海藤は、目の前に広がる光景を感慨深げに見つめていた。
ほんの数年前まで、こんな時間を自分が過ごすとはとても想像が出来なかった。真琴と出会って、2人の間に貴央が生
まれて、そして・・・・・こんなにも世界が広がった。
今だ途惑ってしまうことも多いが、嬉しいことに変わりは無い。
「かーとーしゃー」
真琴の言葉を真似て、「海藤さん」と言い出した貴央が、かなりしっかりとした足取りで海藤のもとに近付いてきた。
パタッと膝の上に倒れ込んでくるのは、貴央が自分で見付けた新しい遊びらしい。
「貴央」
「しゃーたー」
「たかちゃん、海藤さんにもサンタさんになって欲しかったのかな」
真琴が笑いながら言っている。
しかし、ここにはもうサンタが5人もいるのだ。
「贅沢だぞ」
そう言うと、海藤は貴央を膝に座らせ、傍に置いていた紙袋の中から靴を取り出した。何にしようかと迷ったあげくに選
んだのは、散歩に行く靴だ。
既に立ち上がることが出来て、今は何度も倒れそうになりながらも部屋の中ではかなり歩けるようになってきた。
子供の成長というものは早いなと、毎日が感心する思いだ。
他からも何足か靴を貰っているが、初めて外で、地面を歩く時は、自分のプレゼントした靴を履いて欲しい。
そう願いながら靴を履かせる海藤を隣で見つめながら、真琴は良かったねと貴央の頬を突いていた。
「カッコいい靴だね、たかちゃん」
「くっく」
「そうだよ、くっく。今度3人でお散歩行こうね。ね、海藤さん」
「ああ。今度天気がいい日に行こうか」
3人で、並んで歩く。ただそれだけのことでも、きっと今までに感じたことの無い思いを抱けるような気がした。
「今日はたくさん来てくれて、本当に嬉しいね、たかちゃん」
自分と海藤と貴央。この3人だけが家族だと思っていたが、それだけではないのだということがよく分かった。
綾辻も倉橋も、菱沼夫妻も、西原家の一家も。皆が一つの家族だと思うと、それだけで楽しさや嬉しさが何倍にも膨ら
む気がした。
「なんだか、俺もプレゼント貰った気分」
何人ものサンタが笑っていて、それを冷やかす者がいて。
それでも皆笑っている。
「メリークリスマス、たかちゃん」
「まーこ」
まだパーティーは始まったばかりだ。
楽しい時間はまだまだ続きそうだと、真琴は海藤の膝から立ち上がって自分に手を伸ばしてくる貴央の身体を、笑いなが
らギュウッと抱きしめた。
end
マコママのクリスマス。
一歳半にもなれば、結構反応があるのではないでしょうか。
大勢のサンタに囲まれて、きっとたかちゃんはご機嫌です。