俊輔&遥編
遥(はるか)はチラッと目線を向けた。
少し離れたテーブルに1人で座っていたサラリーマン風の男も、遥を見て微かに笑んだ。
身長もそれなりにあるし、身体もまあまあ鍛えている感じだ。顔も男っぽいし、歳も30歳を少し過ぎたくらいに見える。
(決めようかな)
遥はもう一度男を見てから、席を立って店を出た。
ごく普通のファーストフード店だが、こうやって当たりを引くことは多い。
「・・・・・」
「・・・・・」
そのまま先に遥が外に出た後、男も後を追うように店から出てくる。
少し歩いた先で男が遥の腕を掴もうとした時、
「・・・・・っ」
「先客有りだから」
いきなり現われた腕が遥の肩を抱き寄せる。それを見た男は眉を顰めながらも踵を返した。
「・・・・・あのねえ」
その顔を仰ぎ見た遥は、眉を顰めたまま溜め息をついた。
「いいかげんにしてよ、僕は君と寝るつもりは無いんだから」
遥はもう何度目になるかも分からない言葉を目の前の相手・・・・・越智俊輔(おち しゅんすけ)に向かって言った。
「どういうつもり?」
「どうって?」
「これで何回邪魔する気なんだよ。何時もいいところで出てきて、この一ヶ月、僕ちっとも遊べないんだけど」
「曜日別の彼氏がいるんだろ」
皮肉気に口元を歪める俊輔に、遥は溜め息混じりに言った。
「サラリーマンは転勤もあるし、しつこくなった相手とは別れたから、今はフリーなんだよ」
「それはいいことを聞いたな」
「何がいいこと?」
途端に笑う俊輔を見て、これだから子供は嫌なんだと遥は内心呟いた。
吉野遥(よしの はるか)は一見大人しくて真面目な、少し子供っぽい高校生の少年だったが、その実はかなり淫乱で
大胆で、曜日別に数人の愛人がいるくらいだった。
その対象は全て男で、遥は受身の立場なのだが、精神的には30を超えた男達と同等と思っている。嫌なことは嫌だとい
い、それでも相手が望むように甘えて見せる。
こんな遥を小学校から仲がいいお子様な小柴悠斗(こしば ゆうと)が知ったら卒倒するだろう。もちろん、大切な悠斗に
自分のこんな別の顔を見せるつもりは無いが。
そんな風に秘密の夜の遊びを謳歌していた遥は、一ヶ月ほど前男とホテルに行った所を高校の同級生、俊輔に目撃
された。
ただ、俊輔も女連れだったし、彼の女遊びは有名な話だったので、遥はそれほど見られたことを気にしなかったが・・・・・。
どういった気紛れか、それ以降俊輔は遥に付きまとっている。
今日のように遊び相手を見付けた時は必ず出てきて邪魔をする。
今俊輔に言った通り、4月を迎えて転勤した相手や、のめり込んで自分だけと付き合って欲しいと言ってきた相手と別れ
たりと、最近決まった相手がいなくなったので遥は欲求不満だった。
「・・・・・ストーカーなんて、越智君のキャラじゃないでしょう?君の誘いを待ってる子はいっぱいいると思うけど?」
とにかく、もう邪魔はさせられないと、遥はきっぱりと言った。
「僕、年上の人が好きなんだ。同級生や年下は問題外なんだよ」
「どうして?」
「どうしてって・・・・・大人はちゃんと遊びと割り切ってくれるでしょう?僕は本気の相手は重いんだよ」
すると、俊輔は少し考えるように黙っていたが、やがてにっと悪戯っぽく笑って言った。
「じゃあ、本気の俺を弄べば?」
「は?」
(何言ってるんだ?)
いきなり何を言い出したのかと、遥は俊輔を睨んだ。
後々面倒な事になる前にきっちりと断わっているのに、その言葉を逆手に取ったようなことを言われてさすがにムッとしてし
まう。
「そんな面倒くさいことしないよ」
「怖いんだろ」
「・・・・・」
「お前が俺に本気になることが怖いんだろう?」
「別に、僕は本気になりっこないよ」
「それなら全然問題ないじゃないか。お前は俺には本気にならないんだろう?俺の身体を使ってオナニーしてると思えば
いい。俺も今のところはそれでいいから」
「・・・・・」
何か・・・・・嫌な予感がする。
このまま俊輔の言葉に頷いて関係を持ったとして・・・・・。
(ちゃんと、割り切ってくれるのか?)
「あの」
「怖くは無いんだよな?」
たたみ掛けるようにして言葉を続ける俊輔に、遥は嫌だと言うタイミングを逸してしまった。
「じゃあ、さっそく試してみようぜ、俺達の相性」
「あ・・・・・」
手を繋がれ、どんどん俊輔の思う方向に引っ張られてしまう。
遥は今までの気楽で、欲望だけを満たす時間が変化してしまう気がしたが、それでも俊輔の手を振りほどくことが出来な
かった。
end