相馬&紘一編





 日曜日の午後、牧野家では最近恒例の光景が広がっていた。
 「兄ちゃんっ、俺今度の日曜バスケの試合なんだ!絶対に見に来てくれよっ?」
 「そうか、凄いな、絶対行くぞ」
 「兄貴、来週の進路相談、来れるよな?兄貴が恥かかないように成績バッチリだから」
 「紘也(ひろや)は頭がいいからな〜。俺も鼻が高いよ」
 「紘一さん!俺、先週一週間で500万あげたんだぜ!」
 「よくやった、ソーマ。お前はやれば出来るんだから、これからも頑張れよ」



 24歳の牧野紘一(まきの こういち)の職業はホストだ。
『DREAMLAND』 という店のNo.1である紘一は繊細な容姿をしていながら、性格は真面目で熱血漢だ。
仕事には厳しいが面倒見がいい紘一を慕ってくれる者は数多い。
皆紘一の一番になりたがっていたが、嫌われるのを恐れてなかなか踏み込めない者ばかりで、そんな中掟破りの実力行
使に出たのが『ROMANCE 』の現No.1、相馬達矢(そうま たつや)だった。
 街で紘一を見掛けて、追いかけるように同じホストになった相馬は、なかなか自分の思いに気付いてくれない紘一に
焦れて犯してしまった。
多分、もう許してはくれないだろうとどん底まで落ち込んでいた相馬を紘一が許したのは、抱かれてしまったことで相馬の
本気というものに初めて気付いたからだ。



 全てをリセットしてもう一度始めようと言った紘一の言葉に頷いた相馬は、それ以来本当に紘一には指一本触れな
い・・・・・と、言いたいところだが、スキンシップはそれまで以上に激しくなった。
紘一の方も一度セックスまでした仲だからなのか、以前ほどには気にしなくなり、それに・・・・・。
 「兄貴、今日は外で夕飯食おうぜ!」
 「あ!俺も賛成!」
 弟二人がそう言うと、
 「紘一さん、俺いい店知ってる!何が好き?鮨?焼き肉?中華?イタリアン?」
 「ば〜か!兄ちゃんはファミレスのハンバーグが好きなんだよ!」
 「お前、俺の方が年上だそ!」
 「・・・・・お前達、喧嘩するなよ」
中学生の下の弟と大学生の相馬が真剣に言い合いをしている姿を見ていると、まるで弟が3人になったような気さえして
いた。



 結局、4人で食事に行くことになるのも最近の恒例だ。
財布や携帯を持ってくると弟達が部屋に行くと、不意に相馬が紘一を振り返った。
 「紘一さん」
 「ん?」
 「・・・・・」
 「どうした、ソーマ」
最近、この名前をよく言ってるような気がする。前は苦々しい響きをしていたものが、心なしか甘い響きになっていることを
紘一も自分自身で感じていた。
 「俺のこと・・・・・ちゃんと考えてくれてるんだよな?」
 「ん?」
 「俺、弟じゃないよ」
 「・・・・・」
ソファに座っている紘一を上から覗き込んでくる相馬の顔は、つい先程まで弟達と言い合いをしていた子供のような表情
ではなく、思わずドキッとしてしまうほどに男の顔だ。
(な、何ドキッとしてるんだ、俺は・・・・・っ)
リセットするというのは、相馬がしたことを全部水に流してやるという意味で、けして紘一の相馬に対する思いを考え直す
という意味ではないはずだ。
 「紘一さん」
 「・・・・・」
(さすがNo.1を張ってるだけのことはあるな)
甘えるように、タラシこむように、その眼差しと声を紘一相手にまで駆使する相馬が憎らしい。本当にこいつは自分よりも
5歳も下なのかと思ってしまう。
それでも、どうしてか視線は逸らせなくて・・・・・。
 「兄貴!」
 「兄ちゃん!」
 「・・・・・っ、お、遅かったな、行くぞ!」
(い、今、キスしそうになった・・・・・?)
拒もうとしなかった自分が信じられなくて、紘一は怖いこの考えを振り切るように頭を振った。



 早足に先に行く紘一を見て、相馬は口元に笑みを浮かべる。
年上で、ホストで、それなのにとても素直で可愛い人。
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 紘一の左右の腕を取り、チラッと相馬を振り返って睨んでくる2人を見ても、以前ほどは焦りは感じなかった。
(俺はお前達と違う・・・・・弟じゃないんだよ)
内心でそう呟くと、相馬は軽い足取りで3人の後ろに続いた。





                                                                  end