拓実&瑛編





 拓実(たくみ)はドキドキしながら瑛(あきら)と待ち合わせをした駅前に向かった。

 「・・・・・好きになっても・・・・・いいのかな」

心細げにそう言ってくれた瑛にキスをして、本当の意味で付き合いだしてからの初めてのデート。
思えば、以前は校外で会うことはなく、電話もメールも拓実から一方的にするばかりだった。
しかし、最近は用件のみの短いものだが瑛からもメールが来るようになったし、夜電話しても直ぐに切られることは無くなっ
た。
その変化だけでも嬉しかったが、今日は初めて瑛が外で会うことを了承してくれたのだ。
 「・・・・・っ」
(いた!)
 既に、瑛は約束していた場所にいた。
初デートに遅刻は出来ないと、拓実は約束の時間よりも30分近く早く待ち合わせ場所に行ったが、真面目な瑛はそ
れよりも早く来ていたらしい。
(・・・・・可愛いな)
私服の瑛を初めて見た。
明るい色のパーカーに、少し細めのジーパン。
女には見えないが、大人しく可愛らしい顔立ちは雑踏の中でも目立ち、チラチラと視線を向けてくるものもいる。
 「・・・・・」
 拓実は眉を顰めた。
今までは自分が連れて歩いていた彼女が振り返られて見られても自慢でしかなかったが、瑛のことを見られるとあまり面
白い気分ではない。
もう少し、不安そうな顔をして自分を待つ瑛を見ていようと思っていたが、このまま見ているのも我慢出来なくなって拓実
は足を踏み出したが、
 「あれ、瑛じゃん」
 「!」
それよりも一瞬早く、瑛の前には2人の男が立ちふさがった。
(堺と高松?)
 それは同じクラスの生徒だった。
成績が良いグループで、以前から瑛に頻繁に声を掛けてきた者の中の2人だ。
2人共どこかへ出かける途中なのか当然私服姿だったが、学校での真面目な制服姿とは違って幾分崩した今風の格
好で、道行く女達から視線を受けても平然としているところが遊び慣れているような感じがした。
 「1人?暇なら遊びに行かないか?」
 「あ、あの、僕は」
 「そういえば瑛と一度も遊びに出掛けたこと無かったよな。行こうぜ」
 駅前で人待ち顔で立っていれば連れがいることくらい頭のいい彼らには分かりそうなものだし、瑛自身断わりたがってい
るのもみえみえなのだが、それでも強引に連れて行こうとしている。
頭半分背の高い2人に見下ろされている瑛を見ているとまるで少女をナンパしているように見えて、拓実はカッと頭に血
がのぼってしまった。
 「瑛!」
 「!」
 「?」
 思わず声を出した拓実はそのまま3人の側に駆け寄ると、目を丸くして自分を見つめている瑛の肩をグッと自分の方へ
抱き寄せた。
 「瑛は俺と約束があるから」
 「お前と?」
突然現われた拓実を見て2人が訝しがるのも無理が無い。
拓実と瑛は教室でも一緒にいることがなく、女好きでチャラチャラした拓実と真面目で大人しい瑛には、どう見ても何の
共通点も見当たらないはずだからだ。
 「・・・・・瑛、本当?」
 堺が瑛の顔を覗き込むようにして聞いてくる。
そんな瑛の肩を抱く拓実の手の力は強くなって・・・・・瑛はチラッと拓実を見上げてから口を開いた。
 「・・・・・うん、本当」
 「・・・・・っ」
 「ごめんね、拓実と先に約束しているから」
はっきりと言い切った瑛は、少し恥ずかしそうに拓実に笑い掛ける。
 「ね、拓実」
 「・・・・・行こうか」
 呆然としている2人の目の前で瑛の手を握ると、そのまま拓実は歩き始める。
しばらく拓実は黙ったまま歩いていたが・・・・・やがて堺と高松の姿が見えなくなった頃、拓実は真っ直ぐ前を向いたまま
大人しく自分に手を引かれて歩く瑛に言った。
 「いいのか?学校で何言われるか分からないぞ」
学校一の遊び人の自分とというよりも、男同士でという噂が広がれば瑛にとってはマイナスだろう。
しかし・・・・・。
 「困るのは拓実の方だよ?遊んでくれる子、いなくなっちゃうかもね」
 「瑛・・・・・」
 「僕は、ちゃんと傍にいるから」
楽しそうに笑う瑛は本当に可愛い。
拓実はようやくこの手に大切なものを掴んだのだと自覚して、更にギュッと繋いだ手に力を込めた。





                                                                  end