西原真琴、お誕生日のその夜です。
今回はエッチは無し(笑)。










                                                             
その夜編







 誕生日にはケーキ・・・・・。


そんな単純な答えしか出なかった自分が情けないが、海藤は用意をした甲斐があったと内心ホッとしていた。
泣かれたのには驚いたが、その涙はけして苦いものではなく、真琴の感じている喜びが海藤にもダイレクトに伝わって、こんな
風に泣ける真琴が愛しかった。
 「ゆっくり、温まったか?」
 「はい」
 食事が済んだ後、美味しい酒を飲ませてやろうと思っていたが、真琴は早くマンションに帰りたいと言った。

 「海藤さんに、早くくっつきたいんです」

街を歩く普通の男女の恋人同士とは違い、なかなか堂々と手を繋いで歩くことが出来ない真琴は、早く2人きりになりたい
と海藤に訴えた。
もちろん、海藤としてもその方がいいので、2人は早々にマンションに戻ってくると、そのまま一緒に風呂に入った。
 温かな湯気に包まれ、お互いの体を洗い合う。
それには多少の色っぽい雰囲気はあったものの、真琴は楽しくて笑い、嬉しくて泣いて・・・・・、海藤はそんな真琴の身体を
優しく撫で、軽いキスを何度も顔に贈った。
 今日の真琴は何時になく涙腺が緩く、ふとしたことで泣いてしまうので、可哀想なくらい目が腫れている。
 「痛くないか?」
 「大丈夫ですよ」
 「あがったら目を冷やそう」
 「そんなに赤いですか?」
 「ああ、真っ赤だ」
可哀想なのに、可愛い。
困ったように海藤は笑った。



 風呂からあがって、真琴の髪を乾かして、冷たく冷やしたシャンパンを一口だけ飲ませてやる。
直ぐにポワンと目元を赤くした真琴を抱き上げ、海藤はそのまま寝室に向かうと、そっとその身体をベットに横たえた。
 「する?」
 既に酔っているのか、真琴は普段ならば絶対言わないようなストレートな言葉で聞いてくる。
海藤はその隣に体を横たえながら、その身体を抱き寄せた。
 「しない」
 「しないの?」
 「今日は真琴とこうして一緒に眠るだけがいい」
 何時でも真琴を抱きたいという思いはあるが、今日はなぜだかそんな気は起きなかった。
ただ抱きしめていたい、それだけだ。
 「・・・・・海藤さんって、凄い」
 「ん?」
 「俺のして欲しいこと、言わなくても全部分かってる」
甘えるように海藤の胸に抱きつくと、何が楽しいのかクスクス笑った。
 「明日は寝かせるつもりはないがな」
 「へへ、エッチだあ〜」
 「真琴」
 「あのね〜、俺も、今日は、かいどーさんと、くっついてねたいんだあ〜」
次第に呂律が怪しくなる。
(あれぐらいでこれか)
本当に安上がりな酔っ払いだと苦笑してしまった。
 「抱いてもらうのも〜好きだけどお〜。俺はね、ただこーしてくっついてるだけでも幸せなの」
 「そうか」
 「そんな俺の気持ち、かいどーさんは知ってるんだね〜」
 「・・・・・お前が教えてくれた」
 「俺が〜?」



 人を思い遣ることも、無償な愛情を注ぐということも、真琴と知り合って、真琴を愛するようになって初めて知った。
自分の中に、こんな人間らしい感情があったということを、こんなに嬉しく思ったことはない。
(・・・・・手放せない、絶対に・・・・・)
 あの後、海藤は真琴に本来のプレゼントである包みを渡した。
それは、シンプルなシルバーのペアリングだ。
真琴を拘束したいという思いともう一つ、それには意味があった。
(多分、これを言うと受け取ってくれないだろうからな)
 リングの内側に刻まれている数字。それは貸金庫の数字だ。
貸金庫の中には海藤の資産を全て真琴に譲るという証書・・・・・が全て揃っており、海藤に何かあれば、海藤の資産は全
て真琴のものとなるのだ。
 真琴はきっと、いらないと言うだろう。
こんなものはいらないから、ずっと生きていて欲しいと言ってくれる。
その姿が簡単に思い浮かぶからこそ、海藤は自分の想いを全て形にして残したかった。
 「真琴」
 「ん〜?」
 「名前、違うぞ」
 「なまえ〜?」
 「俺の名前、こういう時には何て言った?」
 不思議と、酔っている時は酔っている時の記憶が残っているらしく、真琴は不思議そうに海藤の言葉を繰り返し、直ぐに
パッと顔を輝かせて言った。
 「貴士さん!」
 「ああ」
海藤が目を細めると、真琴も嬉しそうに笑う。
 「貴士さん、名前呼ばれるの好き?」
 「お前に呼ばれるのは好きだな」
 「ホント?俺も好きだよ、貴士さんに真琴って呼ばれるの。胸があったかくなって、ドキドキするんだ〜」
 「そうか」
 「だから、ほんとーはずっと貴士さんって呼びたいんだけど・・・・・あのね、特別な感じがするでしょ?2人きりの時しか名前呼
ばないの」
 まるで内緒話をするように真琴は海藤の耳元で囁いた。
 「だから、2人きりの秘密だからね?ね、わか・・・・・た?」
 「真琴?」
つい今しがたまで笑って話していたのに、次の瞬間には、真琴は海藤の腕を枕にして眠ってしまった。
 「・・・・・秘密か」
子供同士の約束のようだと思った海藤は、クッと笑みを漏らすとそのまま真琴を抱きしめる。
 「秘密にしなくてもいいんだがな・・・・・」
誰に知られても構わない関係だが、もう少しだけ2人だけの秘密の呼び名というのも面白い。
それでも出来るだけ早く何時でも名前を呼んで欲しいと思いながら、海藤は温かな真琴の身体を抱きしめてゆっくりと眠りに
落ちた。



                                                                    end




                                 





終わりました。
誕生日が大人しく終わった分、マコちゃんクリスマスは大変そう。頑張って!(笑)