天使&悪魔編
「誰に最初に食われたい?」
黒髪に少し灰色掛かった金色の瞳を持つ、まるでモデルのように派手な容貌の男が言う。
「私だろう、ライカ」
次に言ったのは、薄い栗色の髪に金と碧の瞳を持つ、冷たく整った容貌の男が言って。
「何を言っている、アルフレッド、ジョルジュ。ライカを最初に見付けたのは私だ。お前達に見ることは許すが、味わうことま
では許すつもりはないぞ」
最後に傲慢にそう言ったのは、膝までの波打つ金髪に、耀く金色の瞳をした男だ。
「・・・・・」
三人三様ながら、誰もが煌びやかで圧倒的なオーラを持っている男達。
しかし、目の前にいる男達は人間ではない。そして、言われている自分自身も人間ではないのだ。美しい正義の味方と
いわれる天使の言葉にも、直ぐに頷くことなんて絶対にしない。
「馬鹿言うなよ!誰が天使なんかに屈するかって!俺は悪魔なんだぞっ!」
敵対する存在に簡単に唇を許すなど、悪魔にとっては身体を交えること以上に重い意味があるのだ。そんなに脅されて
も絶対に頷くものかと、ライカは目の前の天使達を睨んだ。
人間界の、日本という場所にいたライカ。人間の、美味しい正の気を味わおうとして声を掛けたのが、何と人間に身を
やつした天使だった。
直ぐに逃げようとしたのだが・・・・・まだ500歳にも満たない子供のライカは、圧倒的な天使の力にそのまま屈服をさせら
れて、好き勝手に身体を悪戯されてしまった。
そのまま食べられてしまうかもしれない・・・・・悪食だという天使の腹に収まってしまう自分を想像してライカは怖くてたま
らなかったが、悪魔の王サタンに恥ずかしくないように、命乞いだけはしないつもりだった。
その時、なぜか目の前の天使の手が止まってしまい、更に天使が増えてしまって・・・・・今、ライカは3人の天使に誰の
手を取るのかと問い詰められている真っ最中だった。
「私はこの中でも一番優しいぞ。お前が快感に蕩けるように、優しく優しく愛してやろう」
悪魔に向かって優しくと言うなど、嘘吐きの天使の言うことなど信じられない。天使が言う優しさと、ライカの感じる優し
さは、絶対に同じではないはずだ。
(その目が切り裂いてやるぞって笑ってるの、ちゃんと見えてるんだからな!)
「おいっ、天使!俺はなっ」
「天使というのは私達の総称だ。お前を最初に見付けた私は、クラウディオだ」
「そして、私はアルフレッド」
瞳の色が左右違う天使が言う。
「私はジョルジュ。覚えたか、頭の悪い子悪魔」
暗い金色の目をした天使・・・・・ジョルジュの馬鹿にしたような言葉に、ライカはますます感情を荒立ててしまった。
「俺は頭は悪くない!」
「ああ、そのように喚きたてて」
「馬鹿な悪魔は騒ぎ立てる術しか知らないのだろう」
「そんな愚かなところが愛らしいだろう?人間に扮した天使をそうとは分からず、誘いの言葉を掛けてくるくらいなのだから
な」
「・・・・・っ」
そう、それが全ての間違いの元だった。
人間の喜びや楽しさなど、温かい正の気を好む悪魔。ライカの目にはかなりの成功者に見えた人間が、まさか天使だと
は思わなかった。
しかし、今反省したとしても始まらない。ライカは一刻も早くこの場から逃げ去り、魔界へと逃げるつもりなのだ。
(に、逃げるなんて嫌だけどっ、どうしても仕方ないし!)
絶対的に適わないというのは肌で感じて分かる。逃げることは情けないが、ライカは早く優しくて温かい仲間の傍へと帰り
たかった。
「おっ、俺は、美味くないぞ!」
「・・・・・美味くない?」
「お前らの腹を満たすことは、情けないが叶わないはずだ!さっさと俺を解放しろ!」
そこまで叫ぶと、ライカはハアハアと荒い息をついた。
言いなりにならない悪魔などペットにもならないだろうし、自分のように痩せている身体は美味くないと、早く見切りをつけ
て解放して欲しい。
「ははは、今の言葉を聞いたか?何と愛らしく吼えているんだろう」
「全く、こんなにも生きの良い悪魔は初めて見たぞ。クラウディオ、味見だけでなく、私にこの悪魔を譲ってくれ」
「ジョルジュ、私もこの悪魔が欲しい。抜け駆けはしないでくれ」
「お、おいって!俺の話を聞いているわけっ?」
自分の訴えなど全く耳も貸さず、好き勝手なことを言い合っている2人の天使に向かい、話を聞けと再びライカは喚い
た。
(私が見付けた獲物を、そのまま手放すとは・・・・・思っていないだろう?)
気心が知れた2人の仲間は、クラウディオの独占欲の強さも良く知っているはずだ。
どうでもいい人間ならば幾らでも譲るが、久し振りに見付けたこんなにも美味しそうな悪魔を手放すなど・・・・・いや、誰
かと分かち合うなど、天使ならば考えもしないことだ。
「ライカ」
「なんだよ!」
興奮しているのか、自分に向かって強気な態度を取る様も、まるで小動物が吠え掛かってくるようで見ていて楽しい。
クラウディオは口元に笑みを浮かべたまま、その細い身体を抱きしめた。
「うわあ!」
「耳元で騒ぐな」
「はっ、離せよ!」
「なぜ?私のものを何時、どのように愛でようとも自由だろう?」
「も、ものっ?」
所有物扱いをされたことに顔を真っ赤にして憤るライカの向こう側では、アルフレッドとジョルジュが面白くなさそうに眉を
顰めている。
楽しいことを分かち合う天使はいないということを知っているくせに、どうやら2人共ライカのことをかなり気に入ってしまっ
たようだ。
(本当に・・・・・私が一番最初に見付けて良かった)
もしも、他の天使が先にライカを見付けていたとしたら、クラウディオはどんな手段を用いても自分のものにしたはずだ。
もちろんそれは、ここにいる2人も同じだろうが・・・・・。
(私を怒らせることはないだろう)
楽しみを分かち合ってきた遊び仲間だとはいえ、クラウディオの方が2人よりも位が高い。それをひけらかすのは無粋だ
とは思うものの、今はそんなことも構わなかった。
「味見も、共に楽しむのもお断りだ」
「・・・・・」
「・・・・・」
頬に笑みを湛えながらきっぱりと言いきったクラウディオに、他の2人の天使は顔を見合わせている。
(な、何だ?)
その場に流れる剣呑な雰囲気に、クラウディオの腕に抱かれたライカは身体が硬直してしまった。この3人の力がぶつかっ
てしまったら、いったい自分はどうなってしまうのだろうか。
(そ、それこそ、木っ端微塵になって・・・・・っ!)
「・・・・・この場はしかたがない、か?」
「クラウディオは飽きっぽいしな」
やがて、2人の天使が溜め息混じりにそんなことを言い出した。
飽きっぽいのならば、今この場で飽きてくれと叫んでいるライカの心の声に気付いているのかどうか、クラウディオはにっこり
と艶やかな笑みをライカに向けてくる。
「では、ライカ。私達の関係を2人に見てもらおう」
「いっ・・・・・うぐっ」
嫌だと言う言葉は呆気なくクラウディオの口の中に飲み込まれてしまった。
淫らな欲情など全く無いというような、冷たく整った顔をしているくせに、ライカの口腔の中を我が物顔に陵辱する舌はあ
まりにも巧みで・・・・・。
「あ・・・・・んっ」
快感に弱い悪魔のライカは、たちまちクラウディオの手管に翻弄されて甘い声を上げ、思う様ライカを喘がせているクラウ
ディオの満足そうな顔を2人の天使が羨ましそうに見ていることにも、全く気付くことが出来なかった。
end