人間に愛される天使と。
人間に忌み嫌われる悪魔。
悪魔は人間を堕落させ、暗闇の中に引きずり込もうとする存在で、天使は清らかな人間に自愛の精神を与える存在。
だが、光があって影があるように、影が無ければ光は輝かない。
悪魔は人間の喜びや楽しさなど、温かい正の気を好み、その正の気を吸われる事で楽しく嬉しい気持ちが減ってしまう人間は
悪魔は悪い存在だと思う。
天使は人間の憎しみや悲しみ、恐怖の気持ちを好み、人間が悪いことを思い付いた時や死ぬ間際に現れて、大量に心を占め
ているそんな思いを乱雑に喰らう。悪食なくせに、負の気を消し去ってくれる良い存在だと、人間は天使を良く思っている。
そんな認識の違いで、人間は天使を受け入れ、悪魔を拒絶してしまうのだ。
「はあっ、はあっ」
ライカは裸足で走っていた。綺麗に舗装されているはずのアスファルトの道も、裸足でいれば小さなゴミや石などが転がっている
のが分かる。
それでも、ライカは止まらなかった。
「美味そうなお前を、跡形も無く喰らってやろう」
そう言った天使にペニスを握られた時、ライカは本当に頭から食べられると思った。
天使がとても怖い存在だという事は同じ悪魔仲間からも聞いていたし、中には狩られてそのまま存在を消された悪魔もいると言
われた。腕力など無く、力も遥かに上の天使と出会ったならば、ともかく逃げろと教えられていたのだ。
自分が人間の気を食べてしまうように、この悪魔も自分の気を喰らって、そのまま自分という存在が無くなってしまうのではない
か・・・・・そう思ってギュウッと目を閉じたライカは、その瞬間死を覚悟した。
(俺、まだ500歳も生きてないのにい〜!!)
大人と言われる1000歳を超えたら伴侶を得る許しだって出るのに・・・・・ライカは、誰かと愛し合うという甘美な経験さえもせず
にこのまま消滅してしまうのかと自分の身を嘆いた。
「ん?」
その時、不意に天使が止まった。何かに気付いたように空を見上げ、続いてはあと溜め息を付く。
「全く、いいところで邪魔が入る」
「・・・・・っ」
(な、なんだっ?何があったっ?)
「ライカ」
なぜ急に天使が自分を喰らうのを止めたのか、わけが分からないと見上げるライカに向かい、天使は輝く金の目を細めて艶やかに
笑んだ。
「珍しい客人が来てしまった様だ。お前を喰らうのはもう少し後の楽しみにしよう」
そう言うと、
「ふうんっ・・・・・っ」
再度深くライカの口腔内を貪るように犯すと、息も絶え絶えのライカを置いて部屋を出て行ってしまった。
(全く、何時も私の邪魔をするな、あいつらは)
クラウディオは妙に勘の良い仲間達の事を思って眉を潜めた。
普段ならばどんな事でも気軽に話せる遊び仲間だが、こういった時・・・・・自分1人だけでこっそりと楽しみたいと思った時、まるで
示し合わせたかのように訪れてくるのは性質が悪い。
「おい、アルフレッド、ジョルジュ」
人間の目を惑わす仮の姿は既に解いてしまい、クラウディオは膝近くまでの緩やかに波打っている金髪をなびかせながら、寝室
から出た瞬間にその名を呼んだ。
すると、直ぐに2枚の金色に輝く羽が現れたかと思うと、光と共に2人の男が現われる。
「クラウディオ、可愛い悪魔を捕まえたって?」
「・・・・・相変わらず早耳だな」
「私達にも会わせてくれるよね?」
クラウディオと同じ様に、降りてくる悪魔を監視する為に人間界にいる仲間。
だが、やはり同じ様に数少ない悪魔の相手に退屈し、それなりに人間界での生活を楽しんでいる2人だ。
「ここ100年、私は悪魔に会ってないんだ」
そう言うアルフレッドは、天使には珍しい肩までの短い髪で、瞳も金と碧の左右違う瞳。
「私は120年だ。なあ、会わせてくれ」
ジョルジュはクラウディオと同じ位の髪の長さだったが、それは綺麗に真っ直ぐで、瞳は少しだけ暗い色の金色だ。
天上界でも、自分達3人の容姿や力は突出していて、本来なら悪魔の監視などという下っ端の天使がするような役はしなくても
いいのだが、堅苦しい天上界での暮らしを嫌った3人は示し合わせて人間界へと下りてきたのだ。
「私もまだ見付けたばかりで味わってもいない」
「少しも?」
「・・・・・高まった気は甘かったが」
「なんだ、それなら十分じゃないか。なあ、クラウディオ、お前は聞いたことが無いのか?なぜ神が悪魔を『誘惑の種』と呼び、悪
魔との交わりを禁じているのか」
「いや」
「それは、神さえも悪魔に心を奪われた事があるからだよ・・・・・いや、今現在も、か」
「神が?」
クラウディオは驚きはしたものの、違うとは言い切れなかった。神の側近として仕えていたこともあるアルフレッドならば、神の秘密
を知っていたとしてもおかしくは無い。
いや。
「アルフレッド、そのことで神を脅したのか?」
「脅したとは聞こえが悪い。ただ、お願いしてみただけなのだよ」
くっと楽しそうに笑うアルフレッドを性質が悪いとは思わなかった。何事も、利用出来るものはした方がいいとクラウディオも思う。
(アルフレッドのおかげで、私達も下に降りる事が出来たのか)
「それで?クラウディオ、お前の捕まえた悪魔を見せてくれるな?」
「・・・・・仕方ない」
神が今も心を囚われているという悪魔の事も気になっていたし、ライカの事も見せたくは無かったが、アルフレッドがこの話題を持
ち出したという事は恩に着ろということなのだろう。
そう思ったクラウディオがベッドルームを振り返った時、
「あ〜あ」
「どうして縛っていなかった?」
「・・・・・ライカ」
3人は同時にライカが逃げ出した事が分かった。
とにかくあの天使から逃れる為にと、ライカは何とか身体を動かして部屋の窓から外に飛び出した。
本来ならばそのまま羽が現れて、空を飛んで逃げる事も出来たのだが、今はどうしても身体に力が入らなくて数十メートルの高さ
から地面に下りるのが精一杯だった。
「くそっ、くそっ、くそっ!!」
逃げる事しか出来ない自分が情けなくて悔しかったが、あのまま食べられてしまったら愛する仲間や敬愛する魔王にも再び会う
ことが出来なくなってしまう。ライカは、ただ、あの建物から少しでも遠くに行かなければと、裸足で走る自分を驚いたように見る人
間達の視線など無視して、とにかく走り続けた。
(どうしよう・・・・・、どうしようっ、魔王様、助けてください!)
この日本には仲間がいない。誰に助けを求めていいのか分からないまま叫んだライカは、
「ひっ!」
いきなり伸びてきた手に腕を掴まれた。
「・・・・・男か?」
「・・・・・っ」
(に、人間、だな?)
どうやらそれは人間らしく、ライカは心底安心した。天使ではないのなら逃げる事など容易いはずだ。
「美人だと思ったんだけど・・・・・まあ、男でもいっか」
まだ若い人間の男は、どうやらライカを女だと思っていたようだ。しかし、女でなくても十分に美しく、まるで誘うような芳香を全身か
ら漂わせているライカに対し、何やら怪しい目を向けてくる。
「裸足で走って、誰かから逃げてきたのか?だったら俺が匿ってやるぜ」
「・・・・・」
(不味そう・・・・・)
とても温かい気を持っているとは思えなかったが、今の弱りきった身体には少しでも多くの気が必要だ。
ライカは諦めて、男に向かってにっこりと笑い掛けた。それだけで男の気が高まったのが感じ取れる。
「ど、どうしたんだよ、急に・・・・・」
「・・・・・」
(ここでいいか)
丁度男がライカを引きずり込んだのは薄暗い建物の影だ。
じいっと男の目を見つめていると、その動きが硬直したように止まる。ライカは手を伸ばして男の首を抱き寄せ、そのまま首筋に牙
を立てようとした。
「そんな汚いものに触れると穢れるぞ、ライカ」
「うわあぁぁぁ!」
今この瞬間まで、全く感じなかった気が、まるで洪水のようにライカの身を巻き込み、飲み込む。
ライカはただ悲鳴を上げて、自分の腰を捕まえている、何時どうして現れたのか分からない男を信じられないというように見つめた。
「お、おまっ、お前!」
そこにいたのは、本当に数十分前に自分が気を食べようとした正の気をたっぷりと感じさせる成功者の姿・・・・・悪魔のライカの審
美眼でも極上と言える容姿の男。
今思えばどうして声を掛けたのか、後悔しても仕切れないほどの天使、だ。
「ど、どうし・・・・・」
「ずっと見ていたが、お前はあんな不味い気でも食べられるのか?」
「・・・・・そ、そんなの、俺の勝手っ」
「可愛い君がみすみす穢れるのは見たくないしね」
「そうそう、少しは選んだ方がいい」
「なっ、何なんだよっ、お前達!」
憎らしい天使の背後には、更に思わせぶりな笑みを浮かべている2人の男が立っていた。
(こ、こいつらも、天使だ)
黒髪に少し灰色掛かった金色の瞳を持つ、まるでモデルのように派手な容貌の男と。
もう1人は薄い栗色の髪に金と碧の瞳を持つ、冷たく整った容貌の男。
見た目は完璧な人間の姿だったが、その2人共に持つ凄まじい気が天使のものだと直ぐに分かったライカは、もう早く逃げ出したく
てたまらなかった。
「放せ!馬鹿!」
「汚い言葉だな」
「しかし、確かに容貌は美しい」
「クラウディオの審美眼に引っ掛かったのだからな」
「な、なんだよお!」
あの、自分を喰らおうとした天使だけではなく、この2人の天使も口々に勝手なことを言いながらライカの身体に触れてくる。
細くしなやかな指・・・・・しかし、ライカの指よりもかなり大きくしっかりとしたそれが、ライカの服のボタンを次々と外し、抵抗してい
るはずなのに呆気なく服が脱がされていった。
「ほお〜、白いな」
「肌も、羽根のように柔らかくて滑らかだ」
「おい、あまり触れるな」
「いいだろう、減るものではないし」
「そうだぞ、クラウディオ、独り占めはずるい」
「や、やめろ!」
たとえ人間にでも、こんなふうに弄られる自分を見られるのはとてつもない羞恥を感じる。
動転している今のライカは、天使達が気で自分達の姿(ライカも含めて)消していることが全く分からなかった。
ライカが小汚い若い人間に手を掛けたのを見た瞬間、クラウディオの胸の中に生まれたのは紛れもない独占欲だった。
何にも執着しない天使。たとえ、快楽の為にどんなに素晴らしい身体を手に入れたとしても、それを同じ天使仲間に触れられて
も嫌だと思うことは無く、むしろ共有する事が当然だと思っていた。
しかし、ライカに人間が触れるのは面白くなかったし、仲間といってもいいアルフレッドとジョルジュがライカを玩具にするのも楽しく
ない。
(・・・・・この悪魔は私のものだしな)
「おい」
「なんだ?クラウディオ」
「何が言いたい?クラウディオ」
そんなクラウディオの考えがまるで全て分かっているかのように、口元に笑みを浮かべたまま2人は問い返す。
「・・・・・」
触るなと言うのは簡単だが、そう言ったら後が煩い。
クラウディオは手を伸ばしてライカの細い顎を取った。
「私の味見がまだだ。お前達は少し遠慮してくれ」
「ふ〜ん」
意味深に笑うアルフレッドとジョルジュの視線を無視し、クラウディオはそのままライカの唇を奪った。気持ちは不愉快なままだった
が、味わうライカの唇は先ほど感じたのと同じ様に甘い。
「んっ・・・・・」
「芳香が凄いな」
「ああ、甘くて心地良いな」
クラウディオの口付けで感じてしまったライカの身体から零れる甘い気は、天使にとってはとても甘美なものだ。
それまではクラウディオをからかうことの方に気持ちを向けていたアルフレッドとジョルジュは、ライカの身体の方へと興味のベクトルを
傾けた。
唇はクラウディオが塞いでいるので、アルフレッドは剥き出しになってしまった胸の小さな飾りを口に含む。
白い肌に淡い色の飾り。色合いの妙ももちろんだが、驚くほどにその肌は甘かった。
(まるで蜜で出来ているようだ・・・・・)
アルフレッドも今まで悪魔をその手に抱いた事は無く、『誘惑の種』と呼ばれるほどの悪魔の身体がどんなものなのか実は知らな
い。
そんなアルフレッドにとっても、ライカの身体は今までその腕に抱いてきたどんな天使や人間よりも魅惑的に思えた。
ジョルジュは、上半身をクラウディオとアルフレッドが攻めていたので、軽く下半身に触れて穿いていたはずのジーパンを消し去っ
た。すんなりと伸びた細い足に触れると、驚くほどに手触りがいいことが分かる。
(これは・・・・・)
ビクビクと震える身体を押さえ込み、その身体の奥深くを味わったらどれほどの快楽を感じる事が出来るだろうか。
ジョルジュは足に唇を寄せると、つっと舌を這わした。
(なっ、何なんだよ、こいつらっ!)
天使が実は悪食で、快楽主義だということは聞いた事があったが、こんな風に一匹の悪魔を3人がかりで喰らおうとするほどに
飢えたら何をするのか分からないとは思わなかった。
「おっ、お前らなんかっ、神の僕じゃないだろ!」
「ん?」
「どうして?」
「そう思う?」
「こ、こんな風に、たかが一匹の悪魔を弄りながら喰らうなんて・・・・・っ。死んだら絶対に呪ってやる!!」
悪魔は死んだらどうなるのだろう。それはライカも知らないことだ。それでもこんなにも恨めしい気持ちを残したまま、消滅する事は
どうしても嫌だった。
・・・・・しかし。
半泣きになりながらそう言ったライカを見ていた3人の天使は、なぜか急に声を出して笑い始める。
その笑い声に、ますます馬鹿にされたような気になったライカだが、口付けを解いたクラウディオがお互いの唾液で濡れたライカの
唇をゆっくりと指で撫でながら、妖しく響く声で言った。
「喰らうというのは、お前の存在を食うという事ではないよ」
「な、なに?・・・・・ひゃあ!」
アルフレッドが、自分が舐め濡らしたライカの胸の飾りを爪先で軽く摘んで続ける。
「お前のその身体に、尊い天使の精を注ぎ込むのだよ」
「セ、セイッって・・・・・やだっ」
そして、足の付け根まで意味深に指を滑らせたジョルジュが、2人の言葉をまとめるように言った。
「甘い甘い悪魔の身体を、天使の私達が抱くんだよ。ライカ、我らのような高位の天使の精気を注ぎ込まれるのだ、光栄に思
うのだな」
言われたことがなかなか理解出来ないのか、ライカの顔に浮かんでいるのは濃い戸惑いだ。
それでも、クラウディオはこれ以上説明する必要は無いと思った。言葉にしなくても、その身に何が起こるのかはもう直ぐ分かる事
だ。
(アルフレッドやジョルジュが邪魔だが、こうなっては仕方ない)
他の天使ならまだしも、この2人ならばライカを共有する事も認めなければならないだろう・・・・・いや、あくまでもクラウディオのも
のであるライカを、2人に味見させてやるだけだが。
「ライカ、もう逃がさない」
怯えるライカを見つめながら、クラウディオは艶やかに笑む。
しかし、優位に立っているはずの自分達の方が余裕が無いことを、クラウディオは・・・・・いや、3人の天使達は自覚していた。
悪魔の誘惑に、天使は必ず陥落する。
これ程に魅力的な存在である悪魔を拒絶する事は、たとえ神でも出来ないのではないかと思う。
(ああ、だから『誘惑の種』なのか)
自嘲するように笑ったクラウディオは一刻も早く甘い身体を味わう為に、そのままライカの身体を抱き上げて空に浮かんだ。
end
天使×悪魔 第2弾です。
今回は他に2人の天使が現われましたが、4○にはなっていません。
結局、まだ何も無いままなんですが・・・・・この先はあるのでしょうか(笑)。