江坂総本部長、誕生日のその夜です。
甘え
「ほら、静さん、約束を守って下さい」
優しい声が名前を呼ぶ。
普段、あまり物に動じないという自覚がある静だったが、さすがに直ぐにその言葉に従うことは出来なかった。
(本当に・・・・・しなくちゃいけない、かな・・・・・)
せっかくの誕生日だから、江坂の望むことは何でもしてあげたい。そう思ったのは嘘ではないし、確かに頷きもしたものの、静に
も羞恥というものがあった。実際にこの場になると、なかなか身体が動かない。
それでも、何時までもこうしてじっとしてはいられない。何とか気持ちに折り合いをつけた静は、小さく息をつくとゆっくりとベッドに
上がった。
セックスに関しては初めから江坂に丁寧に手ほどきを受けたので、快感を素直に拾うことが出来ていると思う。
江坂は自分と経験値も随分違うし、大人なので、こういった場合は彼の声や手に素直に従えばいいと分かっていたが、自分か
ら積極的に動くのはやはり恥ずかしかった。
静は自分に甘い。
こんな風に思いがけなく誕生日を祝ってくれる気持ちを利用して、江坂は普段なかなか言えない願いごとを口にしてみた。
もしかしたら嫌だと言われるかもしれないと思ったが、意外にも静は頷いてくれた。この好機を逃すつもりはない。
「自分で慰めるところを見せて下さい」
食事の前に囁いた言葉をどこまで本気に思っていたのか、食事中も、その後の片付けも、そして先に風呂に入る時も静の様
子は何時もと変わらないままで、江坂はどこかで拍子抜けしていたが・・・・・実際にこうしてベッドに上がると羞恥が高まってきた
らしい。
戸惑ったようにチラチラとこちらを見る眼差しはいつになく色っぽく、そのまま押し倒したい持ちになったが、江坂はこれ以上の楽
しみを感じたくてベッドの端に腰を下ろすと、じっと静が動いてくれるのを待った。
「・・・・・」
逡巡は、どのくらいだったか。
待つのはまったく苦にならなかった江坂は、やがてゆっくりとベッドの上で足を広げ始めた静の動きに注視する。
バスローブの合わせ目から2本の手を差し入れた静は、そのまま少し腰を上げて下着をずらし、ペニスを擦り始めたようだ。無音
の部屋の中に、チュクチュクと小さな水音が響き始めた。
「・・・・・んっ」
俯き加減のまま目を閉じ、綺麗な唇を噛み締める静。
手を動かすたびに細い肩も揺れ、それに合わせて押し殺せない声も漏れ始めた。間違いなく自慰をしているようだが、このまま
では江坂の目に見えない。
「バスローブの紐を解いて」
「・・・・・えっ」
焦ったように顔を上げた静の頬は僅かに赤く染まり、綺麗な切れ長の目元も濡れているように見えた。
「あなたの可愛らしいペニスが見えません」
「りょ、凌二、さっ」
「約束、でしょう?それに、今日は私の誕生日ですし・・・・・」
まるで万能の免罪符のような言葉だ。
動揺した様子を見せていたはずの静がおずおずとバスローブの紐を解き、合わせ目の前を開く。膝まで下ろされた下着の奥に、
少しだけ勃ち上がったペニスも見えた。だが、今のままでは少し中途半端だ。
「手伝いましょう」
恭しく静の足を取り、下着を脱がしてやった。拘束するものがなくなった両足を、江坂は遠慮なく大きく押し広げる。
薄い下生えの下の、薄い桜色をしたペニス。江坂は目を細めて笑った。
「続きを」
「んぁっ・・・・・あっ」
ペニスから零れる先走りの液で、竿を擦る静の手の動きはさらに滑らかになり、水音も大きくなった。
薄紅色だったペニスは、今やヌルヌルと明かりを反射するように紅色を増し、その下の愛らしい双玉まで濡らしている。
じっとその光景を見つめていた江坂は、視線を上げて静の表情の変化を見た。
「んっ・・・・・ふぅっ」
まだ完全には快感に浸りきっていないのか、眉間には小さな皺が出来ている。その頑固さに薄く笑うと、江坂はギシッと僅かな
音をさせながら前のめりになった。
「もう、随分濡れて来たようですね」
「や・・・・・っ」
「否定しても駄目ですよ。あなたのペニスは解放を願って、ほら、快感の涙が止まる様子が無い」
「りょ、りょ、じ、さんっ」
もう、許して欲しいと懇願するような眼差しを向けられたが、まだまだ、静の妖艶な姿はこんなものではない。
「ねえ、静さん、そのもっと奥に手を伸ばしてみてごらんなさい」
「あうっ」
そう言いながら、伸ばした指先で双玉の下からもっと奥、まだ固く閉ざされた蕾までをつっと撫でた。
もう、そこまで先走りの液が伝え落ちていて、指先には滑った感触が残る。これをすべて舐め取ってやりたい衝動を覚えた江坂だ
が、もう少し静の一人遊びを見てみたい。
彼の官能を刺激するように、江坂は軽く蕾を押して刺激した。
「ここ、私が入れるように解してみてください」
「で、出来な、い・・・・・」
「どうして?ここを解さないと、奥の気持ちがいい場所を刺激してあげることが出来ませんよ?」
あくまでも、動くのは静だ。江坂は震える細い指先が自分の望むように動くことを確信していた。
そこを、自分で触れるのは猛烈な羞恥を伴う。
もちろん、江坂を受け入れることが嫌なわけではなかったが、男の身体で男のペニスを受け入れるということを、ここに触れると嫌
でも意識させられてしまうからだ。
(で、でも・・・・・)
「静さん」
少し熱っぽいように感じる声が耳元で誘惑するように囁いてきて、躊躇う静の指を無意識に動かしてしまう。
「・・・・・んっ」
ペニスを弄っていた手を、おずおずともっと下に移動して行く。眩暈がするほどに濡れた跡を辿ると、既に熱く熱を持ち始めた箇所
に当たって、静はキュッと唇を噛み締めた。
指が何度も蕾の表面を撫でるのは、その奥に入り込む勇気がないのだろう。
これだけ濡れていれば指1本くらい痛みはないはずだと分かっている江坂は、
「あっ」
静の手首を掴み、もう一方の手を指先に添えて、少々強引に爪先を蕾の中に押し入れた。
クチュッという水音と共に静の人差し指が三分の一ほど埋められて、息をのむような声が漏れ聞こえた。
「ほら、ちゃんと動かして解してくれないと、何時まで経っても私があなたに入れない」
熱く、湿って、熟れた、自分だけの秘部に、早くペニスを押し入れたい。江坂はバスローブの下から自身もペニスが勃ち上がって
いるのを知りながら、声音だけは何時もと変わらずに静を唆した。いや、何時もと変わらないはずは無いかもしれない、自分の声
はこんなに熱っぽいのかと、我ながら気恥ずかしく思ってしまうほどなのだから・・・・・。
「静さん」
「・・・・・んぁっ」
江坂の言葉に、静の指がゆっくりと根元まで入る。
「そう、中をかき回してみなさい」
「んっ、はぁっ」
ピクッと細い腰が揺れた。
「中は熱い?」
「りょ、凌二さんっ」
「締め付けて、うねっているでしょう?」
「や、だぁ・・・・・っ」
「その中で、私のペニスは何時も快感を貪っているんですよ。・・・・・今、あなたの中に入っている指を私のペニスだと思って、そ
う、ゆっくりと内壁をかいて、出し入れしてみて」
きっと、静も何時にないシチュエーションに熱に犯されているような感覚を覚えているのだろう。
グチュグチュと音をたてて指の動きは早くなり、江坂の指示を待たずに2本目を入れている。
「・・・・・気持ちが良さそうだ」
蕾を穿つ指と、ペニスを弄る指先。
だが、さらに可愛がって欲しいと訴えている箇所がある。
チュク
江坂は、目の前でチラチラとバスローブから見え隠れする尖った乳首を口に含んだ。
「んんっ!」
ビクビクと震えるその反応に密かに笑みを漏らした江坂は、そのまま歯で甘噛みし、舌で舐る。見る間に芯を持ち始めたそれか
らいったん顔を離すと、今度は反対側に。先ほどまで刺激していた方は手を伸ばして指先で捏ねた。
(これじゃあ、どんな風に弄っているのか見えないな)
密着しているので、下半身で静がどんな風に自身を弄っているのか見えなくなってしまったが、甘い香りを放つ身体にこのまま
手を伸ばさないということは出来ず、江坂は降参するという思いで今度は唇を奪った。
あれだけ恥ずかしかったのに、強制されなくても手を止めることが出来なくなってしまった。
唇は江坂のそれで覆われ、強引に舌を食まれ、口腔の中を舌で蹂躙される。
乳首は江坂の指に弄ばれ、もう痛いほどに尖っていた。
ペニスは自身の手で扱き、そのもっと奥の蕾にも自分の指は入り込んでいて・・・・・その倒錯的な光景に、静は眩暈がするような
羞恥と共に、身体の中から熱く広がっていく欲情に身を持て余していた。
江坂の腕の中で身体を開いて行く分には何の心配も躊躇いもなかったのに、その要因が自分にあるかと思うと素直に快感に
溺れきれない。
それでも、欲しいという欲求は後から後から湧いて来て、静は救いを求めるように江坂に眼差しを向けた。
濡れた瞳が自分を見つめている。
求められていることがそれだけでも分かり、江坂はそのままベッドに乗り上げ、あぐらをかいた。
「自分で、入れて下さい」
「・・・・・」
その言葉に静は躊躇わなかった。もはや早く熱を鎮めて欲しいと思っているのか、江坂の肩に両手を着いて腰に跨り、尻を揺
らして江坂のペニスを蕾に誘う。
確かまだ指は2本しか入れていなくて、十分解れているとは言い難かったが、後ろ手に回した手が鍛えずに既に漲っていた江坂
のペニスを捕らえてそこに押しあてた。
「ゆっくり」
「ん・・・・・はっ」
ヌプッという音をたて、先端部分が蕾にめり込んだ。
欲しいという気持ちとは裏腹に、まだ慣らしが不十分なそこは早速軋むような痛みを感じさせているのか、目の前の静の眉はひ
そまり、唇が噛みしめられる。
「・・・・・っ」
肩を掴む指の爪が食い込むほどに力が入ったのが分かったが、江坂は目の前の頬に軽くキスをしながら優しい言葉で促し続
けた。
「もう少し、先端が入れば楽ですから」
「は・・・・・あ・・・・・くっ」
「ほら、ゆっくり飲み込んでくれている」
「ふあっ!」
次の瞬間、きついほどの締め付けがペニスの先端部分をぬるりと飲み込んだかと思うと、静自身の体重でそのまま根元まで一
気に蕾に含まれた。静の苦しげな、それでいて満足な色に染まった声が上がる。
(まだまだだ)
「ほら、もっと私を感じさせて下さい」
肩に額を押し付け、挿入の衝撃に耐えている静の腰を掴んだ江坂は、ズリュっと竿の大部分が蕾から出てしまうほど身体を持
ち上げてしまった。
「ひゃあぅ・・・・・っ!」
「自分で動いて見せて」
「や、ま、待、って・・・・・っ」
荒い息が整わない静に、駄目押しのように耳元で囁いた。
「静」
「・・・・・っ!」
特別な時だけの呼び方。きっと、平静に見せ掛けている自分が興奮していることなど、身体の奥深くに飲み込んだペニスの熱で
静にも伝わっているはずだ。
もっともっと、静に求められたい。
静から、抱きしめて欲しい。
心だけでなく、この身体まで愛して欲しくて、子供のようにねだった。
「・・・・・はっ、あ・・・・・ぁっ」
そんな我が儘な自分の希望に応えてくれるかのように、静はまだ苦痛の方が大きい行為を続けてくれる。
細い腰を揺らし、あの小さな蕾を目一杯広げて、自分のあさましい欲情を全て受け止めようとしてくれた。
「・・・・・っ」
愛しくて、愛しくて。
いっそ壊して、自分以外の誰もその姿を見ることが出来ないように全てを食らってしまいたい。
そんな凶暴な感情に支配された江坂は次の瞬間、
「あぁぁ!」
体勢を変え、静の背中をシーツに押しつけ、腰を抱えて激しく抽送を繰り返す。もう、この感情が鎮まるまで、華奢な身体を離
すことは出来ない気がした。
どのくらい、濃密な時間を過ごしただろうか。
健気に自分の欲情に付き合ってくれた静の身体が、不意に腕の中で力を無くした。
「・・・・・っ、静・・・・・?」
(・・・・・落ちたか)
あまりに激し過ぎた情交に気を失ってしまったらしいが、いまだペニスを含んでいる内壁は無意識のまま蠢き続け、江坂はクッ
と口の中で息を殺す。
「・・・・・すみません」
自分ではまったく意識していなかったくせに、《誕生日》という免罪符で、ここまで無茶をしてしまったことを、一応口先だけでも謝
罪してみた。それでも、当然ながら静の反応はない。
さすがに、このまま行為を続行するほど鬼畜ではなく、静の身体を労わってやるためにも中からペニスを抜き出す。
何度放ったかも分からない精液が、まだ閉じきれない蕾からとろりと零れ落ちる様はとても卑猥なのに、それとは対照的に目を閉
じている静の顔はとても綺麗で・・・・・少し微笑んでいるかのようだ。
「・・・・・あなたが甘やかすのが上手だから、私が図に乗るんですよ」
このまま行けば、もっともっと、自分の静に対する欲求は膨らんでいきそうだが、そこは自身でコントロールするしかないかもしれ
ない。
何時も無意識で誘って来る静も悪いのだと変な理屈を考えた時、なんだかおかしくて苦笑が漏れた。
(私もまだまだガキだな)
思いがけなく祝ってもらい、暴走してしまった誕生日。
来年はどんな我が儘を言おうかと初めて考えながら、江坂は意識の無い華奢な身体を抱き上げ、バスルームへと向かう。
「・・・・・」
その時、偶然なのか眠っているはずの静が自身の胸にすり寄ってくるのを感じて、江坂は立ち止ると露わになっている額に唇を
押し当てて呟いた。
「ありがとう、静」
初めて幸せだと感じた、誕生日の夜だった。
end
まだ、何か中途半端なような気がしますが(汗)。
江坂さんにとってはとても幸せな誕生日の夜だったはず・・・・・。