怒涛のように過ぎたなと思った。
新しく通う学校で、新しく知り合った2人の人物。
1人はまるでつむじ風のように現れて、あっという間に茅野の鉄拳という特別待遇を受けた。
もう1人はそよ風のようにするりと目前に現れた。穏やかな笑みを浮かべる大人びた少年は、どこか達観した眼差しをして
いたが、茅野や新田を見る瞳は純粋に楽しそうだった。
(茅野も気に入ったみたいだし)
もちろん芳樹も、こちら側に飛び込んできた2人を拒絶すうつもりはなかった。
ただし、茅野にとっての一番が自分であるとの前提があってこそだが。
 「面白そうな学校だったね」
 帰り道、茅野と肩を並べて歩きながら言うと、茅野も今日の出来事を思い出したのかプッと吹き出した。
そして、ふと、隣を歩く小林を見上げる。
 「また三年間の腐れ縁だな」
 そう言った茅野の笑顔を見た芳樹は、しみじみ自分の幸運に感謝した。
(全く、自覚のない男殺しなんだからな、茅野は)
強烈な個性を持つ茅野は、確かに始めは取っ掛かりにくい。
しかし、いったんその懐の中に入れば、これほど頼もしく、誠実で、かわいい相手はいなかった。
口が悪く俺様でも、茅野は仲間と認めた者の手は最後まで離さないし、信じ、引っ張っていく。
ガキ大将がそのまま大きくなったような茅野と、一緒に肩を並べて笑いたい。真っ直ぐな視線を向けてもらいたい。
そう思う者は実は多く、青木と並んで親友の位置に座った芳樹を羨む者達は数えきれないほどいた。
(この学校だって、結構受けた奴いたけど・・・・・)
 幸運の切符を手に入れたのは芳樹だけだった。
 「それにしても、今日は初日早々友達が出来て良かったと思わない?」
 「俺はお前と同じクラスって事が一番びっくりして、でも、良かったことだな」
 「茅野」
(また、俺の嬉しがること言っちゃって・・・・・)
 無意識で言ってくれるのが嬉しくて、芳樹の頬は自然と緩んだ。
 「でも、お前のフェロモンに、男が引っかかるとはなあ」
 「俺じゃなくて、茅野にだろ。二人ともそう言ってたじゃないか」
 「・・・・・まあ、なあ」
少し言いよどんだのは照れている証拠だ。
 「まあ、友達になりたいって言って来た奴に、やだっていうこともないだろ」
 「そうだね。個性的な感じだったし、面白いかもね」
 「お前に負けてないよな」
 「茅野にもね」
こんなふうに軽口がきけるのも限られた者だけの特権だ。
(ま、結果的にこの学校で良かったって事なのかな。日比野のことも全然気にしてないし・・・・・っていうか、知らないのかな)
 中2の時に起こった、かなり衝撃的な事件。当事者じゃない芳樹は、ただ傍にいることしか出来なかった。
今思い返しても悔しくて情けなかった日々。
それでも茅野は1人で立っていた。
肉体を傷付けられても、無遠慮な好奇の目に晒されても、真っ直ぐその両足で立っていた。
その強さが誇らしくて・・・・・辛かった。
 「小林」
 「ん?何?」
 「・・・・・いや。あ〜、明日から騒がしくなるかもな〜、特にあのチビ、うるさそーだろ」
 「茅野もそんなに大きい方じゃないんだから、チビなんて言えないだろ」
 「お前に比べれば誰だってチビなんだよ!」
 毒舌と同時に手が出る。
それでも笑っている茅野が眩しくて、芳樹は軽く瞬きをした。





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