赤の王 青の王子 外伝
蒼の光
プロローグ
「うわっ、遅刻じゃん!」
駅での集合時間まであと15分程しかないのに、このまま走り続けても間に合うかどうかギリギリの線だ。
(ついてないよ俺〜)
今朝は朝から信じられないほどついていなかった。
両親は親戚の結婚式で昨日から留守にしており、頼みの綱だった目覚まし時計は止まっていた。
何時も乗る電車は事故の為かなり遅れて、バスも渋滞でノロノロ運転だった。
じれったくなってバスから降りて走り出すと、急に渋滞は解消されて乗っていたバスはスムーズに先に行ってしまった。
これ程ついてないと何かあるのかと思ってしまうが、元来前向きな性格の為次にしたのは走り続けることだった。
五月蒼(さつき そう)・・・・・まるで芸名のような名前だが、青々と茂る木のように大きく育てという立派な意味のある名前だ。
友達からは《あお》とあだ名で呼ばれているが、蒼という自分の名前を気に入っている。
18歳になった今、やっと身長が165センチになり(本当は164.6センチだが)、部活のおかげで多少筋肉が付いているものの、
華奢な姿態とあどけない容貌で、今でもよく中学生に間違われた。
しかし、ただの可愛い子で終わらないのは、猫のようにつり上がった大きな目に似合う気の強さと、抜群の運動神経、そして小さな
身体とは正反対の親分肌な性格のせいだった。
仲間が苛められていれば真っ先に助けに行き、卑怯な真似は絶対に許さない。一歩間違えれば暑苦しく嫌がられる性格だ
が、嫌味がないのは何時も全開に見せるやんちゃな笑顔のせいだろう。
今日も蒼が出場すると聞いて、多くの友人達が応援に来てくれることになっていた。選手が応援より後に会場入りとはシャレにな
らない。
重い道具を背負って走り続けているが、そろそろ足も腕も限界で、だんだん競技に出場するというどころではなくなってきた。
「あっ、バス!」
そこへ、数メートル先のバス停と、後ろから走ってくるバスがほぼ同時に見えて、ラッキーと叫びながら蒼はバスに乗り込んだ。
(・・・・・誰も乗ってない?)
7月に入ったばかりの土曜の朝、早朝とはいえない時間なのに蒼以外の乗客はいない。
一瞬、回送にでも乗ってしまったかと思ったが、前を見るとちゃんとした行き先が提示してあるし、何より運転手が乗せてくれたのだ。
「たまたまだよな」
一番後ろの席に座ると、はあと深い溜め息をつく。終点が駅なので、このまま後は揺られているだけだ。
「ふぁ〜・・・・・ねむ・・・・・」
ホッとしたのだろうか、途端に瞼が重くなっていく。
(着いたら起こしてくれる・・・・・か・・・・・な・・・・・)
急激な睡魔に勝てず、蒼は何時しか深い眠りに落ちていた。
それが、異世界に誘う運命とは知らぬまま・・・・・。
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