1章  4月は出会いが盛りだくさん


          よん    生徒会のくだものたち





 「うわ・・・・・なんだよ、浅野も一緒?」
 「なんだ、その顔は」
 朝一番に合わせた顔が顰め面な真悟を笑いながら、圭輔は隣に立っている小太郎を見下ろしながら言った。
 「恋人同士の貴重な朝の時間を分けてやってるんだぞ?少しはにこってしろ」
 「ふん!おはよ、モモちゃん!」
 「おはよ」
 昨日の今日ですっかり打ち解けた様子の真悟と小太郎は、今にも手を繋ぎそうな勢いでにっこりと挨拶を交わした。
小太郎との出会いは真悟にとってかなり嬉しいことで、昨日は両親や兄弟達を前に、小太郎がどんなに可愛いくて男らしいかを熱
く語ったくらいだ。(家族はそんな真悟を可愛く思って、デレッと見つめていたが)
 ただ、やはり圭輔との関係は真悟自身まだ納得がいっていないので言わなかった。
 「あ〜、モモちゃんと同級生だったら楽しかったのに〜」
 「うん」
 「あ、でも、お弁当は一緒に食べれる?俺2年の教室まで行くからっ」
 「待ってる」
勝手に話を進めていく2人を後ろから見つめながら、圭輔は内心溜め息をついた。
(これじゃ、こーちゃんとの2人きりの時間は減るな)
残念には思うものの、それとは別に楽しみも出来る。可愛い2人の可愛いじゃれあいは心が和むのだ。
(ま、リンゴは絶対安全パイだし)
それが圭輔にとっては一番大きな理由だった。
 「おい!浅野!何トロトロしてんだよ!置いていくぞ!」
 「あ、ごめん」
 何時の間にか考え事に没頭していて足を止めてしまったらしい。
圭輔は笑いながら、足早に2人の傍に行った。


 校門が見えた時、突然圭輔はあっと叫んだ。
 「総会がいるじゃんっ」
 「へ?総会?」
つられる様に視線を向けてみると、校門に数人の生徒達が立っていた。
 「あれ?」
 「そう。わが校自慢の三銃士さ」
 「何だよ、三銃士って?」
 「お前、昨日の入学式のこと、覚えてないだろ?寝てたんじゃないのか?」
 「ばっ、馬鹿!寝てなんかない!」
 「慌てて否定する方がおかしい」
 「・・・・・寝てはない」
 「ぼ〜としてただけか」
正直な真悟の態度に笑い、圭輔は簡単に説明してくれた。

 この学校の生徒会は、校則の制定や予算決定に至るまで、校内のほとんど全ての実権を握っていると言われるほど権限があっ
た。
その絶対的な権力の頂点が生徒会長なのだが、この学校の生徒会は少し変わった構図になっている。
まず、男子と女子はほとんど別だというほど独立しており、男子総長、女子総長がそれぞれ立ち、総会という組織を従えている。
学校全体の生徒会というのは、その男女それぞれの総会から選抜される形になっていた。
今年の生徒会長は男子総長が就くことになり、副会長に女子総長という形に収まっていた。

 「へえ〜」
 初めて聞くといった風に感心して頷く真悟の頭を、圭輔は軽く小突いて言う。
 「これって、昨日の入学式の時にも簡単に説明されてたし、貰った小冊子にも書いてたことだって。リンゴは気にしなさ過ぎ」
 「うう・・・・・」
確かにそう言われれば反論のしようもなく、真悟は軽く唸ってしまった。
 「で、今校門のとこに立っている眼鏡を掛けた奴、あれが生徒会長で、茶髪が風紀委員長、長髪なのが経理委員長だよ。男
子総会と、今年は生徒会の方も兼任しているってさ」
 「ふ〜ん」
 「ま、俺に言わせりゃ、『フルーツの森の住人』だけどな」
 「なにそれ?」
 またおかしなことを言い出した圭輔を怪訝そうに見つめたが、圭輔はニヤッ笑うと生徒手帳を取り出して、白いメモの部分に素早
く何かを書き込んで真悟に見せてくれた。
 「これ、何て読むと思う?」
どうやらそれは3人の名前のようだった。

   『柏木一期』
   『久遠武道』
   『大井玲二』

 「え?普通に読んでいいんだろ?え・・・・・と、かしわぎ・・・・・と・・・・・あれ?」
一番初めから詰まってしまい、真悟は助けを求めるように小太郎を振り返った。
その視線に、小太郎はトコトコと2人の傍にやってきて、手帳を見ながら簡潔に言った。
 「柏木一期(かしわぎ かずき)、久遠武道(くどう たけみち)、大井玲二(おおい れいじ)」
 「これこれ、こーちゃん、リンゴに甘過ぎ」
せっかくもっとからかおうとしたのにと言うが、圭輔に小太郎を責めるつもりはかけらもない。
 「ま、今こーちゃんが言った通りなんだけどさ、これって影ではこう呼ばれてるんだぜ」
 そう言うと、圭輔はそれぞれの名前の下に付け足して書いていく。

   『一期』イチゴ
   『武道』ブドウ
   『玲二』オレンジ

 「・・・・・あ、ホントだ」
思わず感心してしまうほど、ピッタリとツボにはまる呼び方だった。
 「女子部の連中なんか、こっちの総会の事を『フルーツバスケット』って呼んでるらしいぜ」
 「・・・・・お前、よくそんな情報知ってるなあ〜」
 「まあ、情報収集はある程度しとかないとね。ほら、女の噂話って案外馬鹿にならないし、味方に付けとくと何かと便利だ。あ、ち
なみに俺とこーちゃんのことも、向こうじゃ公認なんだぜ?」
最近の女子はそんなのが好きらしいと、真悟には全く不可解なことを言って笑う圭輔に、何をどう言っていいのか分からない真悟は、
結局何も言わないまま再び校門に目をやった。
(・・・・・い〜な〜、背、高くって)
 入学式で生徒会長は挨拶したはずだが、真悟は全く覚えていなかった。
しかし、遠目から見ても3人ともすらりと背が高いのが分かる。
近付くにつれ、その容姿も整っているのが分かると、
(天は二物を与えてるじゃんか)
思わず神様に恨み言を言ってしまいたい気分になった。
 「ほら、行くぞ」
 「・・・・・」
 小太郎が、口を尖らせている真悟の手を取った。
 「モモちゃん?」
 「人は人。リンゴはそのままがいい」
 「モモちゃん・・・・・っ」
真悟の胸中など覗いてもいないのに、小太郎は今真悟が欲しいと思っていた言葉をくれた。
嬉しくなった真悟は、そのまま小太郎に勢いよく抱きついた。
 「やっぱ、モモちゃんっ、俺の心の友!!」
 「うん」
 その時、
 「そこ、校門前で何を騒いでいる」
突然掛けられた威圧的な声に、真悟は小太郎に抱きついたままビクッと震えた。
(な、何だ?)
何時の間にか、すぐ目の前に、怜悧な美貌の主が立ちふさがっていた。