1章 4月は出会いが盛りだくさん


          さん    最強!モモタロウ





 ふと気付くと、周りはかなり騒がしくなっていた。
小太郎と圭輔の関係は既に周知の事で(圭輔の小太郎へのアタック話は有名だからだ)格別驚く事ではなく、それよりも彼らの興味は今
日初めて姿を見せた真悟の方にあった。外部入学生が少ないので、興味津々なのだ。
加えて真悟ほどの容姿をしていれば、お近付きになりたいと思う生徒は大勢いた。
 そんな気配を敏感に察知した圭輔はさりげなく二人を教室の隅の方に誘導する。少しでもやましい視線から守ろうとしてだ。
 「あの、モモちゃ、桃・・・・・桃木先輩」
 「モモでいい」
 「ホント?いいの?」
 「俺もリンゴって呼ぶ」
 「うん!全然OK!」
 一方当の二人は圭輔の行動に一切気付くこともなく、まるで小学生が新しい友達を見付けたようなノリで楽しそうに話している。
感情表現が豊かで、すぐ顔に出てしまう真悟はもちろんだが、小太郎もくるんとした大きな目が楽しそうに細められているのが、長い間傍に
いた圭輔には直ぐに分かった。


 「ねえ、モモちゃん、聞いてもいい?」
 言葉数はかなり少ない小太郎だが、真悟は小太郎の優しさを感じ取っていた。繋いでいる手の温もりが、雰囲気が、小太郎の感情を
言葉以上に伝えてくるからだ。
だからこそ、真悟はどうしても分からないことを聞いてみた。
 「ホントに、浅野の彼氏なの?」
男同士ということもあるが、それ以上にどうして相手があの圭輔なのかと思った。
 「他にもいい人がいるかもよ?」
 「ケイがいい」
 「なんか、何時もふざけている感じだけど?」
 「ん」
 「あいつ、でかいよ?モモちゃんの方が襲われるかも・・・・・」
 「でも、あいつの方が弱い」
 「弱い?」
意味が分からなくて聞き返すが、小太郎はそれには答えなかった。
 「モモちゃん?」
 「それに、去年、5センチ背が伸びた。直ぐ追いつく」
 「追いつくって・・・・・」
 「早くしないと、あいつ泣く」
 「な、泣く?」
(あの浅野が?想像つかないんだけど・・・・・)
思わず聞き返した真悟に、小太郎はニヤリと笑った。その顔はドキッとする程男っぽく、真悟はああと気が付いた。
二人のうち、どちらが主導権を握っているのかを。
(絶対浅野の完敗だよ)
小太郎が相手では勝てないだろう。いや、圭輔は勝つ気はないのかもしれない。
 「モモちゃん、俺と友達になってくれる?」

じっと目を見つめて尋ねると、小太郎はこくんと頷いた。


 すっかり意気投合した真悟と小太郎は,まるで小学生のように手を繋いで歩き始めた。
 「モモちゃん、今日一緒に帰らない?俺この辺り全然知らないから教えてよ」
 「ん」
 「モモちゃんは寮?それとも通い?」
 「
家」
 「俺も。初めての電車通学なんだ」
 「同じ」
 「じゃあさ、方向が同じなら一緒に登校しない?」
 「ん」
 「・・・・・おいおい」
滑らかとは言い難い二人の会話に分け入った圭輔は、同時に二人の剣呑とした眼差しを向けられる。
 『うるさい』
見事なハモリに思わず苦笑する。この短い間によくも気が合ったものだと感心したが、このままだと自分の存在感が危うくなるので、圭輔は
ゆっくりと二人の手を離しながら言った。
 「こーちゃん、今日は俺とデートする約束でしょ?忘れちゃった?」
 思わずといった感じに立ち止まった小太郎は、真っ直ぐに圭輔を見つめて呟いた。
 「・・・・・忘れてた」
 「やっぱり。よっぽどリンゴの事が気に入ったんだな」
傍目には全くテンポが合っているようには見えないが、圭輔は小太郎が真悟を気にいるだろうと予想していた。圭輔自身もまだ数時間し
か、それも数えるくらいしか会話もしていないが、真悟の真っ直ぐな気性を小太郎が気に入るのは目に見えていた。
そして、どこまでもマイペースな小太郎を、真悟ならば理解するだろうとも。
(それでも、想像以上に仲良くなり過ぎだけど)
怒るというよりも微笑ましい気持ちの方が大きいが、恋人としての立場はきちんと主張しておいた方がいいだろうとわざと落ち込んだ顔をし
て言うと、素直な小太郎はかなり深く落ち込んだようだ。
 「ケイ、ごめん」
小太郎は直ぐにペコリと頭を下げた。誰よりも恋人の方が優先だと分かっているのだ。
 「浅野、ごめんっ。俺全然気が利かなくって・・・・・」
 そしてほとんど同時に、真悟も慌てて頭を下げた。
二人の真っ直ぐな謝罪に、圭輔の方が腹黒い自分の思惑に自嘲する。
やはり自分は小太郎には勝てない。
(おまけにリンゴにもな)
 「冗談だって。リンゴも一緒に行こ」
 「い、いいよ」
 「遠慮しなさんな。こーちゃんもリンゴと一緒がいいだろ?」
 「・・・・・」
少し躊躇ったが、小太郎は小さく頷いた。やはり知り合ったばかりの気の合う真悟と、まだ一緒にいたかったのだろう。
圭輔はポンポンと小太郎の頭を叩いた。
 「・・・・・それ、やめて欲しい」
 「いや?」
 「ケイより小さいと思い知る」
 「ああ、ごめん」
 「謝らなくてもいい。しないで欲しい」
 「ん」
 「・・・・・」
(うわ〜、ラブラブ)
 男同士だという事実をおいておけば、二人の会話や空気は恋人同士のそれだ。
今まで誰とも付き合ったことのない真悟でも十分分かったし、不思議と嫌悪感も沸くことはなかった。ビジュアル的にも違和感はないし(小
太郎にはかなり不服な理由だろうが)、小太郎自身をかなり気に入ったということもある。
不本意だが、圭輔のことも苦手に感じるが嫌いではない。
(なんか、遊ばれてる気もするけど)
しかし、小太郎と会わせてくれたことで帳消しだ。
 「な〜に百面相してるんだよ。ほら、お好み焼き行くぞ」
 「お好み焼き?」
 「そ。駅前に美味い店があるんだよ。ボリュームもたっぷりだし、うちの生徒の御用達」
 「へ〜、楽しみ♪」
 「・・・・・イカが美味しい」
 「モモちゃん、イカ好きなの?」
 「海老も好き」
 「俺も!」
まるで小学生の会話だ。
(まったく、いいコンビだな)