ぷろろーぐ
そのなはリンゴ
「へ〜、でっかいガッコだなあ〜」
目の前にそびえ立つ古めかしい門の前に立つと、真悟はポカンと口を半開きにしたまま呟いた。そんな無防備な表情はまるで小
学生のように幼い。
今日からピカピカの高校1年生になる青葉真悟(あおばしんご)は、3月31日にやっと15歳になったばかりの、平均より低めの
身長と、女の子のように軽い体重がかなり気になっている少年だ。
特に緊張しても恥ずかしくても直ぐに赤くなってしまう頬が嫌いだった。この頬と名前の『真悟』にかけたのか、あだ名さえも『リンゴ』と
いわれていたのだ。
それは十分愛情と親しみを込めたものだったが、当の本人だけは気付かずにおかんむりだった。
高校の入学試験は学園の中等部の校舎で行われたので、いい意味大物、悪い意味で大雑把な真悟は、奇跡の合格が決
まってから今日まで下見に来ようともせず(遊びまわていた)、実際に高等部校舎を見るのは入学式当日の今日という有様だ。
「良かった、母さんを止めて。誰も親連れなんていないじゃん」
自分と同じ新入生と思われる誰もが一人、もしくは友達連れで歩いている。
『真ちゃんの晴れ姿が見たいんだもん!』
と、言い張った母や、
『パパもパパも、会社なんて休んで真ちゃんの雄姿をみたいよ〜』
と、なぜかゴネまくった父や、
『俺だって行きたいよ!可愛い真に虫がつかないか確認したい!』
『中坊の俺よりちっこいんだもんな〜。俺だって真兄心配だよ』
と、真悟の理解出来ない言葉を言い募っていた兄や弟を、やっとの思いで言い含めたのは正解だったと、真悟の頬に会心の笑み
が浮かぶ。
「・・・・・?」
その途端、ザワッと周りの空気が変わった気がして辺りを見回したが、周りには同じような学生がいるだけだ。
視線を向けられている気もしたが、真悟が振り返ると皆パッと目を逸らす。
(感じ悪いなあ)
真悟はプンと頬を膨らませた。
正面玄関入口のクラス分けの掲示板を見上げている時も、真悟は不可解な視線を感じたままだった。
(寝癖、ついてなかったよなあ〜?)
首を傾げる真悟は、全く解っていなかった。
(朝、鏡見たし・・・・・)
ここが共学という名の、実質男子校のようなものであることを。
「ま、いっか」
掲示板を見上げるその横顔が、少女のように可愛らしく整っていることを。
(早く友達できるかな?同じ中学の奴いないし、一人じゃ淋しいよなあ)
そんな自分の容姿が、異性ではなく、より同性を惹きつけてしまうことを。
「あ〜!リンゴのホッペじゃん♪」
そして、新しい出会いがあることを・・・・・。
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