あやかし奇談
第一章 物の怪の花嫁御寮
20
「快楽だけを感じ取るが良い」
巴はまだ幼い。身体の快楽というものが心とは別だということさえも分からず、ただ怖いと泣いて訴えるしか術を知らないのだ。
憐れだと、可哀想だと思うものの、八玖叉は巴を泣かせたかった。もちろん、痛みではなく快感のためにだが・・・・・それが、もし
も苦痛の涙だったとしても、八玖叉にとっては甘い蜜となるかもしれない。
(我以外も、同じようなことを考えているし、な)
猪突猛進の慧と、精神的にも肉体的にも相手を追い詰めることを好む益荒雄。この2人よりは自分ははるかにましだと思い
たい。
「巴」
「んっ」
唇を合わせ、舌を差し入れ、怯える巴のそれを絡み取った。応えてはくれなくても、口の中に入るのを許してくれた時点で、も
しかしたら受け入れられているのかとも思ってしまう。
(そのように考えることが、愚かだと分かっているがな・・・・・)
巴は自分を、自分達をまだ愛していない。早く、一刻も早く、この身体だけでなく心まで、全て自分のものにしてしまいたかっ
た。
慧は唇を濡らす巴の精液を舌で舐め取った。
精を放ったばかりの巴の陰茎は力を失い、慧の手の中で柔らかく萎んでしまう。子供のもののような姿になったのをふっと笑って
見つめ、慧は再び陰茎を口に含んだ。
「!もっ、やめ、てっ!」
たて続けに追い上げられるのを怖いと思っているらしい巴は、唇に吸い付いている益荒雄を首を振って剥がし、慧に懇願して
きた。自分だけを見てくれる・・・・・そう思うと、自然に頬に笑みが浮かんでしまう。
「嘘をつくな、巴」
「・・・・・っ」
「お前のここは、ほら、もう新たな蜜を零し始めているぞ」
実際はまだ陰茎は萎えたままだったが、先ほど吐き出した精の残滓が残っていたのか、ぽたぽたと床に白い液が零れていた。
それに気がついた巴の顔は羞恥で鮮やかに赤くなり、その拍子に、ピクッと陰茎が揺れたのが分かった。
「どうした?こうして見られるのが嬉しいのか?」
「ち、ちが・・・・・っ」
「嘘をつくな。では、俺のこの指先を濡らしているものはなんだ?」
「・・・・・っ」
巴の陰茎を濡らす液を指に絡め、見せ付けるように口に運ぶと、巴は息をのみ、顔を逸らそうとした。
しかし、それを八玖叉が押さえ、頬に舌を這わせてどうなのだと問うている。
「あれはお前のではないか、巴」
「八、八玖叉さ・・・・・」
「泣かずとも良い。自身の快楽を認めよ、巴」
耳の穴にまで舌を入れ、ピチャピチャと音をたてながら愛撫を始める八玖叉に、慧は自分の楽しみを奪われたような気がして
面白くなかった。
(今、巴は俺しか見ていなかったのに・・・・・っ)
自分達三人の、花嫁。
その甘い身体を味わうのも三人だと分かってはいるものの、他の二人よりも己がより・・・・・と、思っても仕方が無いのではない
か。
いや、そう思っているのは慧だけではない。巴の唇を味わっている八玖叉も、蕾を可愛がっている益荒雄も、自分こそがと考え
ているのは分かっていた。
「・・・・・っ」
慧は巴の陰茎を再び手に握りこむ。
八玖叉の口付けのせいか、それとも蕾を嬲る益荒雄の指のせいか、また勃ち上がってきた陰茎に指を絡め、更なる快感を与
えようと扱き出した。
「あっ、んっ、やっ」
「・・・・・巴、この手は俺だぞ」
「や・・・・・ぁっ」
「もっと感じろ」
さらに、その双玉の中の精を全て吐き出させてしまおうと、慧は震える陰茎を口に銜えこんだ。
指先に感じるのは巴の陰茎から零れる液か、それとも慧の唾液か。
(それは、嫌だが)
益荒雄は男が好きなわけではなく、巴を愛しいと思っているのだ、他の男の、それも巴を挟んで睨み合う相手の唾液など気分
が良いものではない。
(・・・・・だが、そのおかげでこちらは柔らかくなってきたようだ)
認めたくは無いが、慧の陰茎への愛撫や八玖叉の口付けのせいで、巴の蕾は次第に綻び、今では益荒雄の指を二本ほど
含んでいた。
グチュ クチュ
「んあっ」
敏感な内壁を爪で引っ掻けば、面白いほどに巴の身体が跳ねる。
その動きに、陰茎を口に銜えている慧が睨んできたが、益荒雄は中を嬲る指の動きを止めなかった。
「熱いね、お前の中は」
「んんっ」
「早くこの中に入りたいものだが」
「益荒雄っ」
「まだだ、益荒雄」
言葉で言っただけなのに、八玖叉も慧も即座に文句を言ってくる。普段はそりが合わないくせに、こういう時の間合いは感嘆
するほどだ。
それでも・・・・・きっと、誰か一人が巴の意識を奪った時、残る二人は結託してそれを逸らそうとするはずだ。
自分も、何時その立場になるか分からないなと苦笑が漏れた。
「じゃあ、お前達も入れたらどう?」
「・・・・・大丈夫なのか」
「皆が入れるのは・・・・・」
「でも、巴の身体の中を味わうのはまだ当分先だろう?これくらいの楽しみは感じたいと思わない?」
益荒雄の誘いに、慧は直ぐに動いた。
慧のために一本引き出した益荒雄の指の代わりに、慧の指がぬぷっと蕾の中に入り込む。同じ二本だというのに、別の者の指
だからか、巴の中が先程よりも強く締め付けてきた。
「・・・・・熱い」
溜め息のように漏らした慧の言葉に、まだ躊躇っていたような八玖叉も動く。
「巴、力を抜け」
「こ、こわ・・・・・怖いっ」
「お前を傷付けることだけはしない」
「・・・・・」
(ふふ、よく言う)
一度理性を解放させれば、一番獣になってしまう八玖叉の言葉に笑みを漏らしながら、益荒雄は既に入っている指に沿わせ
て入り込んでくる三本目の指と、
「ひ・・・・・っ!」
さらに蠢く内壁の感触に、うっとりと目を細めていた。
巴は重い足取りで、何時もの神社へと向かう。
「・・・・・どうなるんだろ、俺・・・・・」
(このまま、お化けになっちゃうのかな・・・・・)
そう言えば、きっとあの三人は自分達はお化けではなく【あやかし】だろうと言うだろうが、巴から見ればその2つの違いはよく分か
らない。
どちらにせよ、人間ではないという大きな前提があって、自分がそこに引きずり込まれようとしているのは確かで・・・・・いや、も
しかしたらもう、半分以上は染まっているのかもしれない。
(あんなエッチなことしちゃって・・・・・)
あの日、久し振りに三人に散々身体を嬲られた巴は何時の間にか気を失ってしまい、気がつくと自分の部屋のベッドに横た
わっていた。
枕元には、あのことが夢ではない証のように三人のあやかしが立っていて、
「大丈夫か、巴」
「気持ち良過ぎて失神しただけだよね?」
「気をやり過ぎた。ゆっくりと休むが良い」
三人はそれぞれ好き勝手なことを言い、オマケのように巴に濃厚なキスをしてから姿を消した。
彼らにダメ押しのようなキスをされたことよりも、自宅まで知られていることがショックで・・・・・生まれた時から鍵となる運命の巴の
居場所を知っているのも当たり前なのかもしれないが、それでも巴はしばらく呆然として、頬に涙が伝っていることにも気がつか
なかった。
本当は家から出たくなかった巴だが、それでも何時もの生活を崩したくなくて、足を引きずるように翌日なんとか学校に行った。
そこには、普通の友人の顔をして須磨、いや、弥炬がいた。彼の正体を知ってしまっている巴は、一瞬、どうしていいのか分から
なかったが、そんな巴に向かって何時ものように笑みを浮かべながら近付いてきた弥炬は耳元で囁いた。
「随分可愛がってもらったんだな。あいつらの匂いが染み付いているぞ」
「!」
(嘘だ!)
あんなに何度も身体や髪を洗ったというのに、彼らの匂いが残っているなどとは信じられなかった。
しかし、目を見張ってしまった巴に、弥炬は笑みを深める。
「俺も、諦めていないから」
「・・・・・え?」
「巴みたいに美味しそうな奴は初めてなんだ。あんな奴らにくれてやるなんて勿体無い」
覚悟しとけとポンッと肩を叩かれた巴は、そのまま別の友人のもとに行く弥炬を呆然と見送るしかない。既に三人もの厄介な
男達がいるというのに、これ以上相手になど出来ないとあげかけた悲鳴は、そのまま口の中に収められた。
「・・・・・っ」
赤い鳥居の前には、何時も出迎えの一人だけがいるはずなのに、今日はなぜか三人勢揃いだ。
「よお」
「顔色はいいな」
「身体は辛くないか」
彼らの言葉は耳に届くものの、巴はどうしても怯えが先に立ってしまい、今も自分の身を守るように鞄を抱きしめながら視線を
動かした。
「ど、どうして、三人がいるんですか?」
自分が今日約束を破ると思ったのかと訊ねたが、なぜか三人はそれぞれ顔を見合わせた後、益荒雄が笑いながら言った。
「皆、譲らなかったから」
「え?」
(だって、何時もは・・・・・)
「当たり前だ。あんなに可愛い巴を見た翌日、一人だけを寄越せば暴走しかねないだろう」
「その可能性が一番あったのはお前だけどね、慧」
「益荒雄も、すました表情で一番良いところを取る」
「益荒雄も八玖叉には言われたくないんじゃないか」
「・・・・・」
それぞれが他の二人に思うことがあるようだが、それでも巴に伸ばしてくる三つの手は止まることはない。
「「「巴」」」
どうして、彼らは愛おしげに自分の名前を呼ぶのだろう。たかが鍵という、それだけの存在である自分を、花嫁にしてまで何の
意味があるのだろうか。
「「「行こう」」」
この鳥居をくぐってしまえば、昨日ほどではなくてもまた淫らな時間を過ごすことは確実だ。
嫌だと思いながら、それでも巴の足は前へと踏み出す。
愛されることを知ってしまった身体は、何も知らなかった頃に戻ることはもう・・・・・出来なかった。
第一章 物の怪の花嫁御寮 完
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