あやかし奇談
第一章 物の怪の花嫁御寮
19
巴の頭の中はまだ混乱していたが、それでもこの場はこのまま帰ることが出来ると思っていた。
自分の動揺を目の前の三人は感じているようだし、今まで・・・・・16年間も待ってくれたくらいで、これからしばらくの間など彼ら
にとってはあっという間の時間だろうと思っていた。
その間、何とか鍵にならない方法を、彼らの花嫁にならなくても良い方法を考えようと思っていたのに、今ここでこんな風に唇を
奪われ、身体をまさぐられている自分の状況が、巴には直ぐに受け止められないものだった。
「んっ」
チュク
口腔の中を思う様に暴れまわる益荒雄の舌。
普段は一番親しみやすい雰囲気で、どこか達観している風にさえ見えるのに、実は彼が一番性質が悪いのではないかと巴は
感じている。
今だって、巴がこんなことをしたくないと分かっているくせに、益荒雄はどんどん巴の官能を高めるために動いているのだ。
(い・・・・・やだっ)
舌を吸われ、歯列まで舐められ、唾液を注がれてしまう。
何度交わしても慣れない濃厚なキスに翻弄されながらも、何とか益荒雄の肩を掴んで引き離そうとしていると、突然カチャカ
チャという音と共に下着ごとズボンを脱がされ、冷たい床に素肌が直接触れるのが分かった。
「んんっ!」
(やめろっ!)
薄暗い中、幾つもの視線を下半身に感じて、自身のペニスが反応しそうになるのが分かってしまう。
誰かに見られて喜ぶなど変態だと思うのに、それでも、そうされることに心ではなく身体が慣らされてしまったのは事実で、巴は時
間を稼いだと喜んだ自分を馬鹿だと思うしかなかった。
「巴のここは俺が可愛がる」
八玖叉より先に、慧は巴の陰茎に手を伸ばした。
ほっそりと、淡い色をしたそれは、既にかなり力を持ち始めているのが分かる。嫌だと口では言いながら、巴の身体が自分達を
受け入れているという分かりやすい証だ。
「巴・・・・・」
過去、数え切れないほどの人間やあやかしの女を抱いてきたが、その誰にも高揚する思いなど抱いていなかった。
元々、あやかしは人間以上に欲望に忠実だ。肉欲も、残虐さも、隠すことなく露にしてぶつける。だからこそ、あやかしと交わっ
た者達はその快感の深さに我を忘れ、やがて本能だけで動くようになり、飢餓感を持って色情魔になったり、もだえ死ぬ者も多
い。
本能だけで動くあやかしは、それこそ無心で相手を貪るが、慧はどんな時も我を忘れたことなど無く、狂っていく女達を冷静に
見ていた。
もちろん、肉体の快感は感じるものの、そこまで無になれないというのが正直な所だったが、巴を前にしてしまうとそんな今までの
自分が全て消えてしまうほどに、ただ目の前の存在を欲して昂ぶった。
多分、もう巴に狂っているのだと思う。そうでなければただの人間を、いや、幾ら鍵になる相手とはいえ、ここまで焦がれることは
無いはずだ。
ヌチュ クチュ
「や、やっ」
口からは拒絶の言葉を吐きながら、巴の陰茎からは既に快感の液が滲み出てきた。手の平に脈打つものも擦りあげるごとに
硬くなり、早く可愛がってくれと慧を誘惑してくる。
「ふむっ」
「ふやぁっ」
益荒雄に口腔を犯されているのでくぐもった悲鳴になったが、それも快感を感じてのものだと分かり、慧は唇で淫らな水音をた
てながら巴の陰茎を扱き始めた。
口の中にすっぽりと収まるほどの大きさは微笑ましく、その下の双玉もコリコリと手に楽しい感触を伝えてくれる。
巴の快感を直に感じることが出来るこれを他の者に渡すことなど考えられず、慧は一段と激しく先端を吸って、
「・・・・・っ!」
呆気なく口の中に放たれた甘い精液を、喉を鳴らしながら残滓まで飲み干した。
唇を益荒雄に。
陰茎を慧に。
それぞれはとてもまだその部分を放す様子は無く、八玖叉は眉を顰めながら巴の片足を持ち上げるようにして開いてみせた。
「ひんっ!」
「・・・・・お前は、こんな場所まで本当に愛らしい」
「んっ、んんーっ」
「甘い蜜が陰茎を伝って、ほら、もうこの蕾にまで垂れてきている」
食らうほどの勢いで巴の陰茎を口に含んで愛撫を施している慧だが、その唾液や先に零れていた液が陰茎を伝い、双玉を
濡らしてから奥の蕾まで届いている。
淡い色をしているそれを、八玖叉はそっと指先で撫でた。
「!」
面白いほどに大きな反応を見せる巴は、濡れた眼差しを八玖叉に向けてくる。
【止めて】
巴の思いは、その眼差しからでも分かった。
益荒雄に口腔を支配されているのでまともな言葉は出せない。これ以上は止めて欲しいと思っているのだろうが、それはとても
無理な願いだ。
「益荒雄や慧だけがお前を可愛がり、我だけが許せぬとは言わぬな?」
「んーっ!」
「安心しろ、巴。今はまだ最後までお前を抱かぬ。その狭く、温かいお前の身体の内に入りたいのは山々だが、このままでは
お前の心が壊れてしまいかねない」
人形のように言いなりになる巴も、壊れて反応がなくなってしまう巴も、自分達は望んでいない。今のままの、様々な感情を
心のうちに秘めている巴がいい。
(我に背くお前も、愛らしいと思っている)
「・・・・・」
八玖叉は身を屈め、巴の内腿に舌を這わせると、カプリと甘噛みをした。その瞬間巴の身体は敏感に反応し、慧が不服そ
うに睨んでくる。
八玖叉が巴を感じさせたのが面白くないのだろうが、この身体は三人のもので、巴を感じさせる権利は当然のごとく自分にもあ
るのだ。
八玖叉はそんな思いを慧に見せ付けるように、再び白い内腿を舐めながら、
ヌプ
「!」
長い爪に気をつけて、巴の肛孔に指を一本差し入れた。
(初な反応だ)
「・・・・・っ」
いきなりビクッと身体を揺らしたかと思うと、巴の口腔内を我が物顔に舐っていた益荒雄の舌が噛まれてしまった。
(・・・・・八玖叉め)
それは食いちぎられるほどの強いものではなかったものの、切れてしまった。
「んはっ、はっ、はぁっ」
仕方なく一度顔を離せば、途端に荒い息をしてしまう巴。まだ口付けの仕方さえ慣れていない様子は愛らしくていいが、せっ
かく甘い唾液を啜っていたのに邪魔をした八玖叉には文句を言わなくてはならない。
「八玖叉」
「・・・・・」
名前を呼べば、巴の内腿を飽きずに舐めている八玖叉が視線だけを寄越してきた。その指は、既に巴の肛孔内に侵入して
さえいるようだ。
(全く、一番生真面目な顔をして、一番手が早いんだからな)
「少し、独り占めし過ぎじゃない?」
「・・・・・どこがだ」
「その手と、舌が触れているところ。私も触れたいんだけれどね」
「お前は巴の唇を犯していただろう。我は一番最後だった」
確かに、赤く震える巴の唇を犯したくて一番初めに奪ってしまったのは自分だ。震える睫毛も、紅潮する頬も、しっかりと肩を
掴んでくる白い指先も、何もかもが益荒雄の目を楽しませてくれた。
しかし、巴の肛孔は皆が平等に可愛がる場所ではないか。少しでも早くその場所で快感を覚えるように開発し、快楽に蕩け
させるのが八玖叉だけだとは面白くない。
「場所、変わる?」
「・・・・・お前は本当に我が儘な奴だな」
「でも、八玖叉は頷いてくれるだろう?」
「・・・・・」
「赤子のように巴の陰茎に吸い付いて離れない誰かさんとは違うものね?」
八玖叉の眼差しが慧に向けられた後、大きな溜め息をつきながらも場所を譲ってくれるのは確信していた。巴への恋情を自
覚している自分達の中で、八玖叉はあやかしとも思えぬほどに理性的な男なのだ。
「ふふ、巴、今度は私が可愛がってあげるよ」
「や・・・・・も、やだ・・・・・」
口を解放された巴はそんな可愛くないことを言ったが、直ぐに八玖叉がその唇を塞いでしまう。
クチュクチュと舌が絡み合う淫猥な水音を聞きながら、益荒雄はゆっくりと顔を巴の秘部へと近づけた。
「慧、あまり疲れさせないようにね」
グチュ ジュル
口から陰茎を出さないまま、慧は視線さえも向けてこない。どうやら益荒雄の助言を聞き入れる気は無いらしい。
一番本能に忠実な慧を説得するのは無駄だろうなと早々に諦めた益荒雄は、濡れてほの赤く光っている肛孔を指で擽った。
「むぅっ!」
「動かないで、巴」
「うぅっ」
「暴れたら、爪でここを裂いてしまうよ」
つっと何度も指の腹で撫で上げると、巴の身体は強張ったように動かなくなる。どうやら自分の声は耳に届いたようだなと笑っ
た益荒雄は、
クチュ
そのまま慎ましやかに閉じていた肛孔に指を差し入れ、いきなり内壁を爪で引っ掻いた。
「!」
「ふふ」
(可愛いねえ、巴は)
「暴れたら、爪でここを裂いてしまうよ」
(さ、裂くって・・・・・っ)
益荒雄の言葉に、巴は一気に血の気が引いてしまった。
彼が本当にそんなことをするのかどうか全く予想はつかなかったが、それが出来るほどに鋭い爪を確かに持っていたのを知ってい
る。怖くて、堪えきれずに涙を零してしまったが、
「・・・・・・っ」
その涙を、つい今までキスをしていた八玖叉が舐め上げた。
「泣くな、巴」
「お、俺・・・・・、お・・・・・っ」
「・・・・・」
逃げることが叶わないのならば、いっそ痛みだけを感じていた方がましだと思った。男が、いくらあやかしとは言え自分と同じ身体
を持つ相手に悪戯されてこんなに感じてしまうなど、口から出てくる拒絶の言葉があまりにも嘘っぽく感じてしまうと。
それなのに、いざ本当に痛みを与えられると言われてしまったら、こんなにも怖くて、手足の先まで凍えてしまって・・・・・。
「も・・・・・やだ・・・・・」
「巴」
自分がどうしたいのか、どうなってしまうのか、考えたくもない。逃げ出したくてたまらなくて、思わず弱音を吐く巴を宥めるように、
八玖叉がペロッと唇を舌で舐めてきた。
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