縁と月日は末を待て
26
ベッドに仰向けに倒した楓は、綺麗な瞳で真っ直ぐに自分を見上げてくる。
その瞳に笑いかけながら、伊崎はそっと唇を重ねた。何度も軽く、角度を変えて重ねていると、焦れたのか楓が腕を伸ば
して首に絡めてくる。ぐっと引き寄せられたことが嬉しくてくすぐるように唇に舌を這わせれば、躊躇いもなく可憐なそれが
開かれた。
「ん・・・・・っ」
甘い唾液を舌で舐め取りながら、舌を絡め合わせる。
もう、抑える必要などない。楓に想ってもらい、組長たちにも二人の関係を公表した解放感に、伊崎らしくもなく浮かれて
いた。
「・・・・・ぁ」
しばらくして唇を離すと、楓はどうしてと詰るような視線を向けてくる。そのあまりに色っぽい眼差しにこのまま次に進み
たかったが、その前に伊崎はこれだけは言いたくて楓の頬を宥めるように指先でくすぐった。
「楓さん」
「・・・・・なんだよ」
改まった雰囲気に、何か悪いことでも考えてしまったのだろうか、その表情が僅かに強張ったのがわかった。
誰もが認めるほどの美貌の主であるが、楓は素直な心根そのままに表情に気持ちが表れる。それが自分の前では特に
顕著だというのがなんだか特別な気がして、わざと怒らせたことがあるというのは楓には秘密だ。
しかし、今夜はからかうなんてつもりは毛頭ない。どうしても、ちゃんと言っておきたいことがあるのだ。
「あなたを、必ず幸せにしますから」
「・・・・・」
「どうか、ずっと・・・・・共に生きてください」
伊崎は楓の返事を待った。すぐに頷いてくれるのではないかと期待していたが、楓はじっと伊崎の顔を見つめたまま、唇
を引き結んでいる。
「楓さん?」
何か、今の自分の言葉で気分を害したのだろうか。記念すべき夜に不穏な空気にしてしまったかもしれないと内心危
惧した伊崎は、
「・・・・・っ」
いきなり両頬を引っ張られてしまい、情けない顔で楓を見返してしまった。
「・・・・・お前は馬鹿か」
「楓さ・・・・・」
「俺はっ、俺は、死んでもお前を縛るからなっ。ずっとずっと、お前にくっ付いていてやる!」
「・・・・・」
「わかったかっ!」
「・・・・・ええ」
伊崎は柄にもなく泣きそうになるのを必死で堪えた。
伊崎自身、ずっと共にいるという言葉は楓を縛るものだと思い、口にするのにもかなりの覚悟がいったが、楓はそんな伊
崎の考えを遥かに飛び越え、大きな愛を向けてくれる。
こんなに幸せでいいのだろうか。楓に出会い、愛された幸運を誰に感謝すればいいのか。
「恭祐っ」
楓はこんな会話の間も焦れたかのように伊崎の名前を呼び、両頬を引っ張っていた指で肩を掴んで引き寄せる。
もう、言葉はいらないだろう。
「愛しています」
「・・・・・っ」
そんな一言で真っ赤になる楓が可愛くて愛おしくて、伊崎は文句を言いそうに尖らせた楓の唇を再び奪った。
真面目な顔をして改まった伊崎を見て、楓はあり得ないと思うのに嫌な考えが頭の中を過ってしまった。
幸せでしかたがないというのに、人間というものはこういう時に限って落とし穴があるのではないかと疑ってしまうものら
しい。
そして、言われた言葉が、
「どうか、ずっと・・・・・共に生きてください」
だ。死んだら離れてしまうのかと腹立たしくなって、思わず文句を言ってしまった。
楓は自分の愛が相当重いのを自覚している。しかし、伊崎ならそれを受け止めてくれると、盲目的に信じていた。
他人が褒めてくれる容姿も、頭の良さも、全部伊崎が喜んでくれることを願って磨いてきたつもりだ。伊崎が不安だとい
うのなら、顔に傷を付けるのだって厭わない。
(でも、恭祐はそんなことは言わない)
人には見せない楓の卑屈なところも、我儘さえも、伊崎は丸ごと愛してくれている。そう、そんなにも楓のことを想ってく
れているくせに、生きている間のことだけを言うのが許せない。
「・・・・・ぁんっ!」
楓は伊崎に意地悪をするつもりで、わざと声を上げた。日向の屋敷内でのセックスではどうしても慎重になる男を脅す
つもりだったが、なぜか今日の伊崎はそれで困る態度を見せない。
いや、かえって大胆に楓の身体を愛撫し始めた。
「ひゃぁっ」
パジャマのボタンを器用に外され、胸を大きく肌蹴られる。そのくせ、腕から袖を脱がせてくれないままなので、服が肌に
擦れてじれったい。
「きょ、すけっ」
名前を呼んでも、伊崎は尖った乳首を口に含んだままで、楓がして欲しいことをしてくれない。普段は驚くほど楓の意
図を読み取ってくれるくせに、肝心なところで・・・・・意地悪だ。
(自分、でっ)
脱がしてくれないのならば、自分で脱ぐだけだ。楓は胸に張りつく伊崎をそのまま、身体を捩って腕からパジャマを脱ご
うとしたが、横を向いて背中が浮いた拍子に、背後からするりとパジャマのズボンの中に手が入り込んできた。
「やぁっ?」
大きな手で形を確かめるかのように揉まれ、楓の身体は大きく反る。長い指が時折双丘の狭間に滑り込んでくるのに、
肝心の前には触れてくれない。乳首を食まれ、舐められて、もう恥ずかしいほど感じてしまっているペニスが勃ち上がり掛
けているというのに、放っておかれるのが苦しくてたまらなかった。
「ね、ねっ」
「・・・・・」
「ねっ、前、もっ」
くちゅくちゅと、唾液を絡ませながら乳首を弄り続けている伊崎は、楓の身体の上から覆いかぶさっている体勢だ。密着
している身体には楓の変化し始めたペニスが当たっているはずなのに、どうして触ってくれないのか。
「あぁ・・・・・んぅっ」
たまらなくなった楓は手を伸ばして自分でペニスを弄ろうとしたが、その直前に伊崎が手を掴んでしまった。
「は、なせっ」
窮屈な下着の中を、すでに先走りの液が濡らしてしまっているのだ。早く解放されたくて楓がじたばたと暴れると、ようやく
胸から顔を上げた伊崎が目を細めながら楓の顔を見下ろしてきた。
「お願いしてみてください」
「な・・・・・に?」
「下着を脱がせて、触って、て」
「・・・・・馬鹿っ」
「早くしないと、そのまま下着に射精してしまいますよ」
あながち冗談ではすまない状況で、楓に選択する時間なんて少しもない。伊崎とは何度もセックスをしたが、それとこれ
とでは羞恥の種類が違った。
「楓さん」
唆すように言う伊崎の言葉に誘われるように、楓は言葉を押し出した。
「お、願い」
「何を?」
「脱がして・・・・・直に、触って」
伊崎の手をとり、見せつけるように舌を出しながら指をしゃぶる。これが伊崎のペニスだと想像すると愛おしくてたまらず、
一心に舐めて、咥えた。滴る唾液が指から腕へと流れるのが見えた時、まるで宥めるように目もとに伊崎の唇が触れた。
そして、楓の唾液に濡れた手が下りて、楓のパジャマを下着ごと下ろしてくれる。
「・・・・・んっ」
途端に、外気に触れたペニスが反応してしまい、楓は小さく声を上げた。
「可愛く勃っていますね」
「な、なにを」
「甘い蜜も溢れていますよ」
恥ずかしいことを言うなと言いたかったが、次の瞬間熱くて滑った感触がして楓は息をのんだ。
かろうじてパジャマの上着を腕に引っ掛けた状態で、楓は無防備に裸身を晒していた。
伊崎は綺麗なその姿をもっとゆっくり鑑賞したかったが、こんなにも極上の獲物を前にただ見ているだけなんてできるはず
もなかった。
目に入ってきた濡れ光るペニスを、欲望のまま口中に含む。その途端、面白いように跳ねる細い腰を宥めるように撫で
ながら、伊崎は愛しい楓の分身でもあるペニスに愛撫を加えた。
「あぁ・・・・・やぁっ」
綺麗な楓は、こんな部分までも美しく、色も形も自身と同じものとはとても思えない。手触りも良く、いつまでも触れて
離したくないほどだ。
もちろん、その付け根にある双玉も忘れずに手を伸ばす。もう固く張り詰めているそれを手の中で揉みこむと、楓が切な
そうな声を上げた。
「・・・・・っ」
口の中に、熱い飛沫が迸る。たったこれだけでイッてしまった素直な身体を愛おしく思いながら、伊崎は口の中にあるも
のを飲み込んだ。
喉を鳴らしながら飲むと、不思議に蜜のような甘さを感じた。
「・・・・・きょう、すけ」
射精したばかりの楓は呆然とした様子でこちらを見ている。わざと見せつけるように汚れた唇を舌で舐めると、白い頬が
鮮やかに染まるのがわかった。何度もしている行為だが、いつまで経っても慣れないらしい。
「・・・・・飲むな、馬鹿」
「すみません」
「・・・・・」
「でも、勿体ないですし・・・・・美味しいですから」
「!」
枕が飛んできて顔に当たったが、まったく痛くなかった。それどころか、子供っぽい楓の反応が可愛くて、伊崎はつい
からかってしまう。
「楓さんも、私のを飲んでくださるじゃありませんか」
「そ、それはっ」
「楓さんばかりずるいです」
「俺はいいのっ・・・・・やっ、ちょっと!」
我儘な楓の声を聞きながら、伊崎は再びペニスへの愛撫を再開した。射精したばかりのペニスは柔らかくなっていたが、
伊崎が歯で擦るとすぐに硬くなり始めた。先端からは残った精液と共に先走りの液が滲みだしてきて、伊崎は唾液と共に
それを竿の部分に擦りつけるように舌を這わす。舌には、ピクピクとペニスが脈動するのが伝わった。
竿を伝って流れた淫液は双玉を濡らし、その奥まで伝って落ちている。伊崎はペニスを咥えたまま、手を伸ばして液を
狭間に塗りつけた。
「・・・・・ぁ・・・・・あんっ」
感じている楓の声を聞くだけで、何もしていない自身の身体も昂る。その時になってようやく、伊崎はまだ自分が服を着
たままだったことに気づいた。どうやら、楓の身体を味わうことに夢中になっていたようだ。
素肌で抱き合いたいと青臭いことを思いながら、伊崎はいったん身体を起こした。名残惜しげに楓のペニスを口中から
出すと、つっと唾液が繋がっているのが見える。淫猥なその光景に、伊崎は自分の中の獣欲に火がついたのがわかった。
「な・・・・・に?」
突然放り出された形の楓は、責めるように伊崎を見ている。その綺麗な瞳の中にも、隠しきれない情欲があった。
「少しだけ、待っていてください」
「・・・・・」
楓に宥めるように言って自身の服に指を掛けると、伸びてきた手が重なってくる。身体に力が入らないだろうに、楓が必死
に腕で上半身を持ち上げていた。
「俺が、する」
今の楓では、ボタン一つ外すのも大変だろう。しかし、伊崎はそんな楓の気持ちが嬉しく、おとなしく彼に任せるため腕
を下ろした。案の定、楓は思うように指先が動かないらしく、眉間に皺を寄せてしまう。それでも、「もうやめた」などと言うこ
とはなく、時間を掛けながらもボタンをすべて外して上半身を裸にした。
次に楓が手を伸ばしたのは下肢だ。ベルトを外し、ファスナーを下ろして・・・・・なぜか困ったように顔を上げる。
「どうしました?」
「・・・・・なんでもない」
楓の目には、既に下着を押し上げているペニスの存在がわかったのだろう。平然な顔をして、欲望は牙を剥いている自分
自身の滑稽さに呆れる。
楓はなかなか決意ができなかったらしいが、いつまでもそのままでいるわけにはいかないと思ったのか、唇を引き結んで
下着をずらした。
「わぁっ」
その途端、飛び出たペニスに驚いて身を引き、ペタンと尻もちをついている。ここまでしてもらって、伊崎は後は自分ですべ
てを脱ぎ棄てた。
勃ち上がったペニスは楓のものとは似ても似つかないグロテスクな様相で、早く自分だけの最上の場所に押し入りたいと
先走りの液を滲ませている。もう手で支えなくても十分で、伊崎は再び楓の身体に覆いかぶさった。
「・・・・・あっ」
楓のペニスに自身のそれを擦りつけて腰を揺すると、楓が咄嗟に腰に手を伸ばしてくる。言いようのない感触に身を震
わせているらしい。
(可愛い)
可愛くて可愛くてたまらない。
こみ上げてくる感情のまま伊崎は楓の身体を抱きしめた。滑らかな肌と直に触れ合うと、さらに下肢がいきり立つ。単純
な男の性に逆らわないまま、伊崎は楓の身体を貪った。
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