ふわふわの気持ち


                                                兄達の気持ち







 石川瑛(いしかわ あきら)には二人の弟がいる。
一人は高校3年生の和希(かずき)。客観的に見ても美人だと思える程整った容姿をしているがその性格は悪
魔のように捻じ曲がっている。
妙に潔癖で、次から次にと女と付き合う瑛を嫌悪しているようで、衝突したのも一度や二度ではない。
容姿からは想像出来ないほど腕の立つ和希との兄弟喧嘩は、どちらかが床に沈む前に末っ子の朋(とも)が止め
る。
 朋は今年中学2年になったが、その歳には思えない程幼い。
大人しく、我慢強い朋は、いつも控えめに微笑んでいる。
 まだ朋が幼稚園の頃、帰ってきて一晩中泣き続けたことがあった。
家族がどんなに理由を聞いても絶対に答えてくれなかったが、翌日、朋と同じ幼稚園に行く弟がいる瑛の友達が
教えてくれた。
両親や兄弟と容姿の違う朋を、周りが貰い子だと苛めたと。傍にいた保育士も止めるどころか一緒になって笑って
いたと聞いた時、瑛の全身は怒りで一杯になった。
家族がどんなに朋を大切に思い、愛しているか、同じような経緯で理由を知った和希とともに幼稚園に乗り込ん
だくらいだった。
 連絡を受けて駆けつけた両親も、兄弟の話を聞いて憤慨し、直ぐに幼稚園を移った。自分達の言葉を信じ、
深く愛してくれている両親を、瑛達兄弟も尊敬し、愛した。
 大学進学を機に一人暮らしをしようとしたが、朋に泣きつかれてあっさりと止めた。女遊びも決して朋には知られ
ないようにして、その愛情と尊敬のこもった目をずっと向けてもらおうと思っている。
 どちらにしても、ただ生理現象で抱く女達は朋の代わりなのだ。




 石川和希には兄と弟がいる。
女癖の激しい兄の瑛は、悔しいが和希がこうなりたかったという男らしい容姿の持ち主だ。
女顔の自分は幼い頃から痴漢に(それも男に)遭っていて、心配した両親が小学校に上がる前から武道を習わ
せてくれ、今では幾つもの段を持っている。
 中学の頃にはファンクラブや親衛隊などがごっそりと張り付いていたが、そんな外見にだけに群がってくる人間には
一切興味がなく、和希の視線は全て家族に向けられていた。
仲がよく、子供を思いやる両親は和希の理想で、兄の瑛も、理解出来ないが嫌いではない。
 そして、末っ子の朋。
兄も知らないでいる秘密を、和希は小学3年の時に知った。
母親は朋の生まれる半年前から実家に帰っていて、その間家には父方の祖母が世話をしに来てくれていた。
母親が戻って来た時、既に生まれた小さな朋を腕に抱いており、和希と瑛は新しい兄弟に直ぐに夢中になった。
競うように二人で可愛がり、朋が幼稚園で苛められた時も、二人で怒鳴り込んでいったくらいだ。
 両親は直ぐに別の幼稚園に変えさせ、朋にも笑顔が戻った頃、深夜トイレに起きた和希は両親の秘密の話を
聞いてしまった。
朋は母親の妹の子供だと・・・・・。
頭の中に、アルバムで見たことのある叔母の顔を思い浮かべた。華やかな母とは正反対の、控えめな笑みを浮か
べていた・・・・・朋にそっくりな。
 どういう理由からかは分からないが、朋は母親の妹の子で、和希と瑛にとっては従兄弟だ。
しかし、戸籍上は両親の実子で、兄弟の弟だ。
 ショックは一時だった。
性別など関係なく、自分の愛情を向けている相手が実の弟ではなく、従兄弟であっても何の問題もない。
愛しいと思えるのは、朋しかいないのだ。




 二人の兄に愛されている弟は、今はどちらも選ぶことなく、二人の間で安心したように眠っている。
いい歳をした男の兄弟がこうして一緒に寝るのも、三人にとっては何の問題もない。
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 まだ眠ることもない二人の兄が、末っ子を挟んで視線を交わす。
お互いがどんな思いで朋のことを見つめているのか、兄弟だからこそ嫌というほど分かっていた。
(それでも・・・・・)
(絶対に・・・・・)
この温もりを、誰かに独占させることは絶対に出来ないのだ。




                                                              end