12
安斎に対する憎まれ口はもう癖なのかもしれない。
ここまで言うつもりは無かったのに・・・・・それも、自分から抱いて欲しいと言った相手に対して、少しはそれらしい雰囲気に持って
いかなければならないだろう。
だが、幼い頃から漠然と考えていた初めてセックスを経験するシチュエーションからあまりにもかけ離れているので、瑞希はどうして
も素直な感情で安斎と向き合えなかった。
「まあ・・・・・否定しませんが」
そんな瑞希の心の揺れを知っているのかどうか。
安斎は瑞希の言葉を否定せずに苦笑すると、そのままゆっくりとベッドの側まで歩いてきた。
「・・・・・っ」
自分よりもはるかに大人の身体が、目の前に徐々に近づいてくることに怖さを感じてしまった瑞希は思わず目を伏せてしまった。
「瑞希さん」
目を閉じてしまうと、余計に安斎の低く甘やかな声が脳に響く。
「あなたは、何も考えなくていいんですよ」
「・・・・・」
「子供に手を出す責任は大人にあるんですから」
「なっ?」
思い切り子供扱いされたような言葉に反射的に目を開けてしまった瑞希は、思い掛けないほど近くにある安斎の顔にコクッと息を
飲んでしまった。
怯える子供をいたぶる事が困るぐらいに楽しいものだとは思わなかった。
今更瑞希が男だから勃たないというようなデリケートな人間ではないし、依頼人の息子だからということも歯止めにはならない。
瑞希自身がかなり魅力的な存在というのも大きな要素だが。
(本当にこのまま汚してもいいのか?)
我が儘で、臆病で、傲慢で。
それでも、誰かを深く思いやることが出来る子供。
その相手が自分だったらどんなにいいかとさえ思うほどだ。
「瑞希さん」
名前を呼ぶだけで震える身体に、そっと手を触れてみる。
ビクッと肌が粟立ったのは、自分の手が冷たいせいではないはずだ。
「どうされたいですか?」
「え・・・・・どう・・・・・って?」
「優しくされたい?それとも・・・・・酷くされたい?」
自分が傷付く事を望んでいる瑞希に対してする質問ではないかもしれないが、安斎は瑞希自身の口できちんと言わせる為に聞
いてみた。
案の定、瑞希は最初顔を真っ赤にし、その次には見事に真っ青になって・・・・・唇を噛み締めている。
自分の気持ちは決まっているものの、それを口に出すのはかなり勇気がいるのかもしれない。
「瑞希さん」
更に追い討ちを掛けるように名を呼ぶと、瑞希はばっと顔を上げ、自分の着ていたバスローブの紐を解いた。
眩しいほどに白い肌が現れ、さすがの安斎も一瞬目を奪われてしまった。
「俺の答えは決まっている」
「・・・・・」
「酷くしろ」
「酷く?」
「今日の事を俺が一生忘れないように・・・・・この先、もしも俺が誰かと愛し合うことが出来たとしても、絶対に記憶の隅から消
えないように、俺の心と身体に傷をつけて欲しい」
「・・・・・了解しました」
潔い瑞希の言葉に、安斎は色っぽい笑みを浮かべた。
「ふむっ!」
いきなり唇を奪われ、瑞希は呼吸さえ出来なかった。
キス・・・・・いや、これはそんな可愛らしい表現など似合わない、これだけで愛撫と言えるようなものだった。
引き結ぶことも出来なかった瑞希の口の中に簡単に侵入してきた安斎の舌は、そのまま歯列から喉の奥にまで、口腔内の隅々
に舌を這わせていく。
怯えて縮こまっていた舌に強引に舌を絡ませられ、開いた口から安斎の唾液が流れ込んできて・・・・・混ざり合ったお互いのそれ
を強引に嚥下させられてしまった。
こんなキスなど知らなかった。
幼い頃に頬や額に落とされていた柳瀬の優しいキスなんか足元にも及ばず、面白半分にした女の子とのキスなんてただの子供の
お遊びにしか思えないような、濃厚で苦く・・・・・官能的なキス。
「・・・・・んはっ」
どれだけ口の中を弄られたか・・・・・ようやく解放された瑞希は、ゼイゼイと荒い息をついてしまった。
「これくらいで降参ですか?」
「・・・・・っ」
(くそ・・・・・っ!)
まだまだと言い返したいくらいなのに、言い返した後の事を考えると怖い。
瑞希は唇を噛み締めると、プイッと安斎から目を逸らした。
「どうしました?口が利けないほど感じたんですか?」
「へっ、変なこと言うなよ!」
「変なことじゃないですよ。これも、十分前戯の一つです」
「・・・・・」
口ではとても勝てないと思った瑞希は、もう安斎に言い返すこともしなかった。
すると、安斎は瑞希の耳元で笑い掛けながら、そのままむき出しの胸に手を触れてきた。
「くっ・・・・・」
「私がレイプしているわけではないんですよ?少しは気持ちの良さそうな声を出したらどうです」
「き、気持ち良くなんて、ない!お前、下手なんじゃないのかっ?」
変な声が出そうになって、瑞希は焦ってそう言った。
すると、さすがに下手という言葉は心外だったのか、安斎は口元を皮肉気に歪めた。
「それなら、本気を出させてもらいましょうか」
挑発などと言う高等技術ではないことは十分分かっているが、安斎は予想外に瑞希に言われた言葉を気にしている自分がい
た。
(全く、無自覚なのが怖いな)
酷くしろと言われたものの、初心者である瑞希を労わることは十分出来るだろうと思っていた。
それが、まだキスの段階でこんなにも煽られるとは思わなかった。いや、それこそ、瑞希は意識していないのかもしれないが。
「・・・・・」
「ん・・・・・っ」
ゆっくりと耳たぶを口に含むと、舐めている音を聞かせるようにねぶる。
首を竦めて息を飲む瑞希を観察するように見つめながら、安斎はそのまま身体の線を確かめるように胸元から腰まで手を動かし
た。
18歳・・・・・既に大人の男へと変化をしているはずの身体。もちろん、瑞希の身体も女のように柔らかではなかった。
しかし、若木のようにしなやかな身体は今時の子供らしく手足も長くて、薄い肌はとても感度が良さそうだった。
その証拠に、安斎が身体のどこに触れても、瑞希はビクビクと身体を震わせている。
「どこが気持ちいいのか、私に教えてください」
「そ、そんなのっ」
「ん?何です?」
「・・・・・ふぁっ!」
まだ自分が優勢だと思っている子供に思い知らせるように、安斎はいきなり瑞希のペニスを掴んだ。
先程のキスだけで既に半勃ちになっていた瑞希のペニスは、男の骨ばった手に掴まれて一瞬勢いを失ってしまったが、安斎は慌て
ずそのまま手を動かし始めた。
男を抱いたことは正直言って・・・・・ある。
しかし、それは最後までしたわけではなく、お互いにお互いのペニスを手で愛撫し、相手が安斎のペニスを口で愛撫をしてくれたと
ころまでだ。
相手が男だから、女だからというわけではなく、抱きたいと思った相手ならば安斎は躊躇わなかった。
もちろん、職業上、敵対する相手が・・・・・ということもあったが、最終的に安斎は全ての相手を自分の手の内にしていた。
「・・・・・んっ、んあっ、あっ」
そんな安斎の手に掛かれば、まっさらな身体の瑞希が翻弄されるのも無理は無い。
力無くうな垂れていたペニスは安斎の手淫でたちまち勢いを取り戻し、先走りの液を零し始めた。
「どうしました?触れているのは私の手ですよ」
「や・・・・・あ!」
「自分1人気持ち良くなってどうするんです?」
「き、気持ち、よく、ない!」
「それなら・・・・・今私の手を濡らしているのは何でしょうね」
言葉でどんどん追い詰めていく。
安斎は、瑞希の心が次第に露になっていくのが楽しかった。
(こいつ・・・・・っ、やっぱりサドだ!)
男にペニスを弄られて感じてしまっている自分が情けなくて、瑞希は目尻に涙を溜めながら、どうしても漏れてしまう自分の喘ぎ
声を絶望的な思いで聞いていた。
本当は、もっと自分を律することが出来ると思った。
セックスなど、女に突っ込まなければ快感など感じないと思っていた。
それなのに、今瑞希の身体は安斎の手管に完全に嵌まってしまっている。キスをされるだけでも感じ、今はペニスを弄られて勃っ
てしまっている。
自分の身体がこんなにも快感に弱いのかと、瑞希は情けなくて・・・・・悔しかった。
「瑞希さん」
安斎は何度も瑞希の名前を呼ぶ。
そのニュアンスは時々で違っていて、今までのビジネスライクな話し方しかしなかった男の意外な面が見えた気がした。
何の為に、安斎は瑞希を抱いてくれるのだろう。
幾ら瑞希が頼んだとはいえ、瑞希が安斎の依頼人の息子だとしても、男の・・・・・それも、安斎からすれば何の面白味も無い子
供の身体をなぜ抱く気になったのだろうか?
「やっ、やっ・・・・・怖いっ」
湧き上がってくる快感が怖い。
しかし、どんなに訴えても安斎は愛撫を止めてはくれず、
「ふ・・・・・あぁ!!」
瑞希はそのまま安斎の手の中で精を吐き出してしまった。
瑞希の精液で濡れた指を、まるで見せ付けるように目の前で舐めて見せた。
射精の後の虚脱した表情をしていた瑞希は、その安斎の行動にじんわりと顔を赤くする。
「そんなの・・・・・舐めるなっ」
「どうして?せっかくあなたが吐き出したものなのに?」
「ふ、普通、そんなの舐めないだろう!」
「子供ですね、瑞希さん」
「・・・・・っ」
禁句である《子供》というカードに敏感に反応した瑞希は、ムキになったように身体を起こして安斎を睨みつけた。
「横になれよっ」
「え?」
「こ、今度は俺がする番だからっ」
「・・・・・」
(順番ってわけじゃないと思うけどな)
それでも瑞希がせっかく自分から行動しようとしているのだ。安斎はもちろん止める気は毛頭無かった。
「経験無いですよね」
「男のなんか触ったことあるかよっ」
「そんなあなたが、どちらでしてくれるんです?」
「え?ど、どちらって?」
「手か・・・・・口か」
「!」
瑞希は自分以外の大人の男のペニスを口に含むことはおろか、手で触れたことも・・・・・いや、もしかしたら見たことも無いのか
もしれない。
父親は不在がちだし、側にずっと付いていたであろう柳瀬も自分の心を押し隠す為に、物心着く頃から風呂にさえも一緒に入っ
ていないだろう。
学校の行事などで同世代のものは見ているかもしれないが、大人の男の欲情した状態のペニスなどきっと初めて見るだろう。
とても手で触ることさえも出来ないと思うが、安斎はせっかくやる気になっている瑞希に最初から無駄だとは言わず、ゆっくりと自分
の纏っていたバスローブの紐を解いた。
「ひ・・・・・っ」
瑞希が悲鳴にも似た声を出す。
「どうしました?今からこれを愛撫してくれるんでしょう?」
「こ、こんなの・・・・・っ」
言ってしまったことをどう取り消そうとしようか、瑞希が混乱していることが丸分かりで、安斎は喉の奥で笑ってしまった。
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ボディーガード×お坊ちゃま。第12話です。
色っぽいシーンなのに、あまりそう見えない(苦笑)。このシーンは次回も続きます。