『』は外国語(英語他)です。
『ワアーーーーー!!』
凄まじい歓声と拍手が僕の耳に届く。
ああ、ちゃんと喜んでもらえたのだと、それだけで十分分かった。
(これでやっと・・・・・僕のものに出来るなあ)
割れんばかりの拍手と、まるで雨のようなフラッシュを浴びながら、僕は頭の中でたった今終わったばかりのショーとは全
然関係のないことを考えていた。
僕は朝比奈彩季(あさひな さいき)。
外見は高校生・・・・・それもよく見てってことらしくて、海外ではそれこそ中学生や最悪小学生に見られてしまうほどの
童顔なんだけど、これでも僕はもう直ぐ27歳になっちゃう立派な成人男子なんだよね。
父さんの仕事の関係で海外生活の長かった僕。
あんまり人付き合いは好きじゃなかったし、自己主張の激し過ぎる外国の人達と話を合わせるのも性格上出来そうに
なかったし、自然と家で1人、好きな絵を書いて過ごす時間が多かった。
絵を描くのはとっても好きで、中でも、空想の中の理想の自分に似合いそうな服を書いていくのが楽しくて。
小学生時代からずっとそれは僕の趣味みたいなものだったんだけど、僕が高校生の時、母さんが面白半分でデザイ
ンコンテストに僕のデザインを送っちゃって・・・・・なんか、たまたま偉い人の目に止まっちゃったみたい。
直ぐにそのブランドの担当者が僕の家までやってきて、是非専属契約してくれって言ったんだ。
僕としては、自分がデザイナーになるなんて全然想像してなかったし、そんな華やかな世界が自分に合うとも思わな
かったから直ぐに断わっちゃった。
でも、その担当者の人、結構粘って。
最初に会ったのは僕が高校2年生の時。
それから、大学に入学して20歳になるまでの約3年間、その人は一週間に一度、僕に会いに来てくれた。
話はデザインのことだけじゃなくて、僕の好きなぬいぐるみの話だってしたし、大好きな甘い物の話もした。
その人・・・・・カルロって言うんだけど、僕より8歳年上の彼は、外国人にいがちな押しの強いタイプじゃなくて、なんて
いうのかな・・・・・まるでお兄さんみたいな感じで僕と接してくれて。
ふふ、結局、術中に嵌まっちゃっただけなのかもしれないけど、20歳の誕生日を迎えた日、僕はカルロのブランドのデザ
イナーとして契約したんだよね。
デザインはそれまでの書き溜めたものが結構あって、それらをほとんど修正すること無しに新しいブランドとして発表す
ることになったんだけど・・・・・あんまり人付き合いの良くない僕のことを思ってか、それともあまりに子供っぽ過ぎる僕の
外見を考慮してか、新人デザイナー、《SAI(さい)》のプロフィールはシークレットにしてくれた。
そして、発表したデザインは・・・・・僕は売れるとか売れないとか、正直あんまり興味は無かったんだけど、カルロが想
像していたよりもかなり好評で、新人デザイナーのブランドとしては結構売れたみたいだった。
それから、大学を卒業すると同時にパリコレにもデビューして。
でも、僕自身は自分のデザインがどんな評価を受けているのかいまいちピンときていない。
色々な相手との交渉は、相変わらずカルロが表に立ってくれたし、デザイナーとしての収入の管理は母さんがしてくれて
いるので、僕は自分が好きな絵を描くことだけに没頭することが出来た。
ただ、やっぱりデザインを仕事とするようになって、ショーも手掛けなければならなくなってきて、モデルさんと接触する機
会は増えてきた。
小さい頃から海外暮らしが長かったから言葉に不自由することは無かったけど、みんな初対面は僕の外見に驚くみた
い。
ワオッて言って、呆然と僕を見下ろして(悔しいけど、かなりの身長差があるから)くるけど、誰もがみんな優しくしてくれ
た。
日本人よりも子供に親切にっていうのかあるんだろうな。
そのおかげか、僕はショーをやるのも、モデルさん達と話すのも楽しいと思うようになって、何時の間にかデザイナーとし
て今の位置についていた。
そんな海外でずっと暮らしていた僕が、蒋(しょう)を見つけたのはすっごい偶然だった。
次のショーで使うモデルの候補の写真を見ていた時、珍しく日本のモデルのプロフィールがそこにあった。
それまでは、自分が日本人でも日本人のモデルっていうか、アジア人のモデルはほとんど使った事が無くて、イメージさえ
も追いついていない感じだったんだけど。
蒋の写真を見て、ピンと、何かが僕の頭の中にひらめいた感じで。
絶対に彼を使いたいって、カルロに蒋のエージェンシーに頼んでもらった。
幸い、僕の名前は日本でも知られるようになっていて、蒋のボスも是非にと僕の話に乗り気だった。
僕はどうしても早く実物の蒋に会って見たくて、もしかしたら写真とのギャップがあるかもと不安で、とりあえず何とか時
間を作って日本へ蒋に会いにやってきた。
三浦蒋(みうら しょう)。
普通は、カタカナのショウで通るらしいけど、初対面から蒋はとても楽しい相手だった。
初めは僕だと気付かなくて、初対面の相手に何だか怖い顔をして話し掛けてきたけど、僕がデザイナーのサイだと知っ
た瞬間、本当に目を丸くして驚いてた。
何だか可愛かったな。
その時、ショウは僕より2歳年下の24歳で、モデルとしては6年のキャリアの持ち主だった。
日本人にしては珍しいほどに腰の位置が高いバランスのいい身体で、なのに、顔は東洋人特有のエキゾチックな感じ
で、写真で見た時以上に僕は彼が気に入った。
怒ったように僕を睨む顔なんか絶品で、怒っても僕がニヤニヤするから蒋は気味悪がってった。失礼だよね。
蒋は口は悪いけど面倒見はいいタイプで、日本にしばらく滞在することになった僕を自分のマンションに置いてくれるこ
とになった。
ほとんど初対面の間柄なんだけど、まあ、僕がデザイナーだからかなとも思ったけど。
蒋と暮らす日々は楽しかった。
日本の常識をよく分からない僕に、蒋は怒りながらも色々教えてくれた。それが媚なんか含んでいないことは、さすがの
僕にも分かっていたよ。
だからかなあ・・・・・蒋は、何時の間にか、僕の中でとっても大きな存在になっていた。
身体を触れ合わせたからというわけだけじゃない。
なんか、僕の心のどこか欠けた部分に蒋の存在がピッタリと収まったんだ。
それって、日本のコトワザで、《ワレナベニトジブタ》って言うんだっけ?ちょっと違うかな?
『サイ!今日のショウも素晴らしかったよ!』
『カルロ!』
僕は花束を差し出してくるカルロに飛びついた。
『ありがと!カルロの褒め言葉は何より嬉しい!』
出会った頃とは違い、カルロはかなり立場も上の人になって、自分でデザイナーを発掘することもなくなったみたいだけど
(そもそもそんな時間も無いくらい忙しいみたいだけど)、僕のショーには必ず顔を見せてくれるし、相変わらず僕関係の
仕事にはちゃんと目を通してくれているらしい。
デザイナーのサイは、カルロあっての僕なんだよね。
『試しに使った東洋人、かなり存在感があったな。サイが自ら日本に行った甲斐があったようだ』
『そうでしょう?ショウ!』
カルロの褒め言葉が嬉しくて、僕は振り返って蒋を呼んだ。
着替えているかと思ったけど、案外側にいた蒋は直ぐに僕達の側まで来ると、僕の肩を抱いてカルロに頭を下げた。
『初めまして』
『初めまして、ショウ。でも、僕は君のプロフィールは読んでいるし、サイからも君の話は聞いていたから、なんだか初め
て会うような気がしないな』
そうだっけ?僕、想像が出来るほどカルロに蒋の話をしたっけ?
「彩季、こいつ・・・・・」
「カルロは僕の優秀なパートナーだよ。僕の仕事は彼がいなくちゃ全然出来ない」
「・・・・・ふ〜ん」
・・・・・あ、何か機嫌悪い?
その理由が何なのか、蒋は僕が気付いていないと思っているだろうけど、僕は蒋が思ってくれているほど子供じゃないん
だよ?
蒋に聞かれた時。
僕は女はもちろん、男とも関係が無いようなニュアンスを伝えたけど。
この容姿のせいで言い寄ってくる男はそれこそはいて捨てるほどにいた。
中には僕の才能を愛してくれた人もいたし、手が触れるだけでも顔を真っ赤にする人もいたけど、ほとんどの相手はセク
シャルな意味で僕を欲しがっていた。
無知だった僕に、色々忠告してくれたのはカルロだ。
そして。
僕はそのカルロと、最後まではしなかったけど、途中までの・・・・・お互いが快感を吐き出すまでの行為はしたことがあっ
た。
カルロが僕を好きだと言ってくれ、僕も彼を好きだと言ったんだけど・・・・・僕は、LikeとLoveの違いをよく分かっていな
かったみたい。
触れられるのは気持ちが良かったし、キスだって、挨拶のようなものだと思っていたけど、カルロの指が僕の後ろに触れた
時、どうしても受け入れがたくて彼を突き飛ばしてしまったんだ。
大人な彼は、それ以降セクシャルな意味を含んでは僕に触れない。
親愛の情を示すキスを頬にしてくれても、唇にキスをするようなことは無い。
彼を傷付けてしまったことを後悔してもしきれなかったけど、今僕は本当に誰かを欲しいという感情が分かったので、中
途半端な態度は取らない方がいいと思う。
ごめんね、カルロ。
「蒋」
「・・・・・」
僕が彼の腕を掴むとさすがに大人気ないと思ったのか、流暢な英語でカルロと会話を始めた蒋にホッとして、僕はチ
ラッと周りに目を向けた。
あ〜、やっぱり、蒋は見られてる。
デザイナーの僕と、有名なブランドのプロデューサー的立場のカルロが目を引くのは十分分かるけど、蒋だってかなり視
線を惹くんだよね〜、ほんと。
身長だって身体のバランスだって外国人に引けをとらない上に、エキゾチックで色気のある蒋を、コレクションのショーの
途中でも口説こうとしている人間はかなりいた。
それこそ、女も、男もだ。
蒋は僕のことばかり心配してるけど、自分の身だって危険だってこと、ちゃんと分かってるのかなあ。
蒋は妙に鈍感なとこがあるから、僕が気を付けてあげないとね。
『サイ、またな』
『うん』
カルロは何だか笑ってたみたい。
多分、僕と蒋のことに気付いたんじゃないかな。
「おい、彩季」
「え?」
あ、なんか、こんなとこで名前を呼ばれるのって新鮮な感じがしちゃった。
「お前、あいつと・・・・・」
「何?」
「・・・・・いや、何でもない」
「変なの」
本当に変だよ、蒋、すっきりしないよ。僕とカルロのことが気になるんだったらはっきり聞いてくれたって全然いいのに。
そうしたら僕、ちゃんと蒋に説明するのに・・・・・蒋がそうあって欲しいと思う事実を。
なんだか、可愛いな、蒋は。
僕より年下って言うことだけでは無しに、僕よりもずっと恋愛経験や、肉体の成熟度は高いはずなのに、それでもこんな
風に妬きもちを焼くなんてホントに可愛い。
「彩季」
「ん?何、蒋」
「・・・・・俺が、お前を欲しがったっていいんだよな?」
口調だけは自信たっぷりなのに。
駄目だよ、蒋、目がお願いの目になってる。
「当たり前だよ、蒋。だって、蒋は僕を愛しちゃってるんでしょう?」
「え?」
「違うの?」
「ち、違わない」
「だったら、僕も蒋をちゃんと愛しちゃってるよ」
僕は笑いながら背伸びをすると、少し途惑っているような蒋の唇に・・・・・頬ではなく唇に、ちょんっと触れるだけのキスを
した。
ショーが終わったばかりのごった返したステージ裏でするキスなんて誰も見咎めないのに・・・・・あ、もしかして蒋、顔を赤
くしてるのかな?
言ったら絶対ヘソを曲げそうだから言わないけど。
「ね、蒋、もう解禁だね」
やっとコレクションも終わって、僕は短い休みが取れる。
蒋も、多分今回のショーの成功でこれからバンバン仕事が入るだろうけど、何日間かは僕に合わせて休みを取ってくれ
るはずだ。
だったら、なかなか出来なかったセックスも、ようやく最後まで出来るはず。
「いっぱい、愛してね、蒋」
「!」
耳元で囁けば、精悍な蒋の面差しが今度こそはっきりと分かるほどに赤くなった。
それでも、ちゃんと僕を抱きしめてくれて、当たり前だと囁いたのは・・・・・うん、合格。
早く蒋に抱いてもらって、蒋を全部僕のものにするのが待ち遠しい。
だって、こんなにカッコよくて可愛い男、他の誰にも取られたくはないもんね。
end
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気難しい世界的トップモデル(でも受けには甘い)×ゴスロリ美少年(常にヌイグルミ持ち)こちらも世界的に有名なデザイナー。
今回は受け側、彩季の視点です。ただのポヤポヤちゃんじゃなかったですね(笑)。
でも、一人称って難しい・・・・・。