後編







 三浦はそのまま彩季を自分の部屋に連れて行き、少し乱暴にダブルベットの上に下ろした。
部屋の照明は点けた。自分達が何をしようとしているのか、彩季にしっかりと分からせる為だ。
 「逃げるなよ」
 「蒋・・・・・」
自分のプライベート空間であるこのマンションの中に女を連れ込んだことは今までなかった。生々しい欲望をここで解消
してしまうと、後々自分が寛ぐ場所が無くなるからだ。
しかし、それでも三浦は今彩季をここで抱くことしか思いつかなかった。
 「・・・・・」
 彩季は多少は驚いているようだったが、嫌だとか怖いとか、そんな雰囲気は少しも感じさせない。
ベットの上に横たわったまま、上からのしかかっていった三浦をじっと見上げてきていた。
(・・・・・やりにくいな)
 今までの話の流れから、今自分がセックスされようとしているのはさすがに分かっているはずだ。それなのに今までと全く
態度が変わらないのは彩季らしいといえばそうなのだが、少しはそれらしい空気を醸し出して欲しいと思う。
(いや・・・・・こいつにそれを期待するのが間違いなのか・・・・・)
 何時もの彩季が彩季だけに、その反応は諦めた方がいいかもしれない。
三浦は内心溜め息をつくと、そのまま彩季の細い首筋に唇を押し当てた。
(・・・・・甘い)
 果物を好んでよく食べるせいか、彩季の肌は確かに甘い味と香りがした。
思い掛けないその事実に、途惑っていた三浦の欲望に僅かに火がついた。
 「そのまま大人しくしてろ」
 「・・・・・うん」
素直に頷く彩季の服のボタンを外すと、真っ白い肌が露になった。
とても・・・・・26歳の男の身体とは思えないほどに肌理が細かく、赤ん坊のようにしっとりと手に馴染む優しい感触。
今まで誰の肌も・・・・・それこそ女だけではなく男も知らない未開のこの身体を今から自分が侵略していくと思うと、三
浦は無意識のうちに喉が鳴ってしまった。
(・・・・・嘘だろ)
 まだ彩季の肌を見ただけなのに、自分のペニスが僅かに反応しているのを感じて三浦は途惑った。
やりたい盛りを過ぎてからは余裕を持つことを知った三浦は、女からの愛撫を受けるまで自身を抑制出来る術を心得
るようになっていたはずだった。
それが・・・・・信じられない。
 「蒋?」
 何時まで経っても動こうとしない三浦を、彩季の方が不思議そうに見つめてくる。
チェリーのはずの彩季に主導権は渡せられないと、三浦は無言のまま淡い色の小さな乳首を口に含んだ。



 快感は普通に感じているようで、彩季は三浦の唇と手の愛撫に敏感に反応した。
耳たぶを噛んで首筋を舐めた時も、小さな乳首を摘んで捻った時も、思った以上に可愛らしい声を上げて身体を捻ら
せていった。
 「気持ちいいか?」
 「う・・・・・ん、きもち、い・・・・・っ」
 言葉で快感を確認するなど情けない男のすることだと思っていたが、なぜだか彩季には確認しながらでないと手を進
めることが出来なかった。
彩季は三浦の言葉に一々肯定を返し、自分からも三浦の首に手を回して自分の方へ引き寄せようともする。
その積極的な動きに更に手を進めてもいいのだと許可を得た気がして、三浦はそのまま片手で彩季のズボンのベルト
を外し、その隙間から手を差し入れて明らかな男の証を握ってみた。
 「あん!」
 「・・・・・っ」
(ヤバイ・・・・・っ)
 男のペニスを触っているという嫌悪感は全くなかった。
今までも同性からセックスへの誘いを受けたことはあったが、その時は同じモノをつけた相手に抱かれることは当然、抱く
ことも出来ないと思っていた。
 「彩季・・・・・」
 欲望を抑える為に、その名前を呼んでみる。
すると彩季は嬉しそうに少女めいた顔を綻ばせた。
 「蒋に名前呼んでもらうの、好き」
 「・・・・・!」
それがどういった意味の好きなのか・・・・・歳とは関係なく子供っぽい彩季にとって、それはきっと食べ物の好き嫌いとい
うのと同じようなレベルなのだろう。
多分、何時も一緒にいる、今もベットの下に転がっているウサギのぬいぐるみほどには好きではないのだろうと分かってい
るのに、なぜか勘違いしたくなる。
 「彩季・・・・・っ」
 思わず勃ち上がった自分のペニスを服越しに彩季の足に押し付けた時、
 「うわ!な、なんかいるよ!蒋!」
突然、そう叫んだかと思うと、彩季はぐっと三浦の身体を押し返しながら下半身の方を見た。
 「今っ、なんか変なの足にあたった!熱くって、ちょっとぐにゃっとした変なの!蒋!ちょっと見てよ」



(な・・・・・に、言ってるんだ?)
 「・・・・・」
 彩季が何を言い出したのか、三浦は一瞬動きを止めてしまった。
 「・・・・・彩季?」
 「早く!早く見てよっ、蒋!」
 「・・・・・今、俺達が何してるのか・・・・・分かってるか?」
 「分かってるよっ、セックスでしょ!そうじゃなくって、このベットに何かいるの!」
・・・・・正直に言えば、彩季がここまで子供だとは思わなかった。
自分からセックスをしてみたいと言い出したし、同性に迫られたこともあると言っていた。
今この瞬間も彩季の小ぶりなペニスは三浦の愛撫で勃ち上がっていて、そこから考えれば自分の足にあたっているもの
が何かは分からないはずがないのだ。
 「・・・・・彩季、これは俺の、だ」
 「何っ?蒋はベットで何か飼ってるのっ?」
 「違うってっ」
何だか物凄く馬鹿馬鹿しいことをしている感じがするが、三浦はここで止められるのも我慢が出来ない気がして、彩季
の身体の上から自分の身体を起こすと、そのままパジャマを引き下ろした。
モデルを始めてからは家の中ではもちろん、出来る限り下着は履かない様にしているので、直ぐに彩季の目には自分の
下半身が見えたはずだ。
 「!!」
明るい照明の下、勃起した三浦のペニスを見て、彩季の大きな目が更に見開かれる。
 「・・・・・これ、蒋のおちんちん?」
 「見て分かるだろう」
 「どうしてこんなにおっきくなってるの?何時もと全然違うよ?」
 「普通からこんなに大きくしてたらタダの変態だろーが!これは、俺がお前に欲情している証なんだよ!」
 「・・・・・欲情?」
 「お前を抱きたいって思ったからでかくなったの!!」
 半ば自棄になって叫んだ。
ここまできてしまえば、もうこの続きを・・・・・セックスをしようという気も失せてしまった。
しかし、彩季の身体に欲情したことは、本人に嫌でも分からせてしまいたい。今夜何もなくても、この先自分が彩季に
手を出してしまう危険性は格段に大きくなってしまったからだ。
 「・・・・・僕を抱きたいから・・・・・?」
 「悪いかっ!」
(そもそもお前がセックスしたいとか言い出したんだろっ)
 眉を顰めた三浦は、滑稽だと思いながらパジャマのズボンを上げ様とした。
その瞬間、
 「蒋!!」
 「うわっ!」
いきなり飛びついてきた彩季の身体を完全に受け止め切れなくて、三浦は仰向けのまま彩季と一緒にベットに倒れて
しまう。
そのまま彩季は三浦の腰に乗り上げた格好で、ちゅっちゅっと子供のようなキスの雨を三浦の顔の上に降らせた。
 「お、おい、彩季っ」
 「凄いよ!蒋は僕を愛しちゃってるんだ!!」
 「・・・・・は?」
 「愛しちゃってるから、こんなにおちんちんを大きくしたんだよ!だって、男って好きな相手とセックスしたくなったら大きくな
るんだよねっ?」
 「・・・・・あー、いや・・・・・」
(別に好きじゃなくったって、男の生理は・・・・・)
思わずそう言いそうになった三浦だが、キラキラしている彩季の目を見ていると迂闊に物が言えなくなった。
それに、考えれば今まで男相手にセックスなどしたいと思ったこともなかった三浦が、彩季相手には欲情してしまったの
だ。
いくら外見は少女めいていても、彩季にも自分と同じモノがついている。それに触れた時でさえ嫌悪ではなく興奮を感
じた自分は、既に自覚が無いままに彩季を好きになっていたのかもしれない。
 「・・・・・そうなのか?」
 呆然と呟く三浦を満面の笑みで見つめていた彩季は、再びあっと叫んでベットから飛び降りた。
 「おいっ」
乱れた格好のままどこに行くのかと焦って後を追えば、彩季は自分にあてがわれた部屋に駆け込んで、ベットの上に投
げ出していたスケッチブックを開いて猛然と何かを書き始める。
何が何だか分からないまま三浦がそっと覗き込むと、紙の上にはたちまち一着の服が書きあがっていった。
 「・・・・・彩季?」
 「蒋に愛されてるって思ったらピンと来ちゃって!やっぱりセックスって凄いよ!」
 「・・・・・おい」
 「邪魔しないで!このまま僕が止まるまで放っておいていーから!」



 廊下に追い出されてしまった蒋ははあ〜っと深い溜め息をついた。
 「・・・・・あんなの、前戯でもないって・・・・・」
デザインのこと以外、本当に何も知らないような彩季と自分がこれからどうなってしまうのか・・・・・三浦は考えるのが少
し怖かった。
もう、今までのように、少し変わった子供のような男という目で見ることはとても出来ないのが分かっているからだ。
どんなに子供っぽくても彩季の身体は十分三浦をその気にさせることが出来るし、あまり頷きたくはないがあの変わった
性格も可愛いと思い始めているのだ。
 「・・・・・マジか・・・・・」
自分が恋愛に溺れるようなタイプではないと思っていたが、今熱心にデッサンしていた彩季を押し倒したいと思っている
自分が確かにいる。
 「・・・・・くそっ、負けねーからなっ」
 どんなに高名なデザイナーでも、服を脱げばただの男だ。
ただの男相手に自分が負けるはずがない。
(覚悟しろよ、彩季)
欲しいと思ったものはどんなことをしても手に入れる。
それは地位や名声だけではなく、恋愛でも同じことだった。








  − 一年後 −




 本来は秋に行われるはずだったショーは、様々な方面からの熱い要請で少し早められて行われることになった。
会場準備だけでも億の金が掛かっているというのに、彩季の表情は何時もと変わらない。
意外にも語学が堪能で、様々な人種のモデル達相手に各国の言葉で普通に会話しているのを見ると、改めて彩季
が今一番着てみたいデザイナーとしてモデル達から一番支持を受けているというのがよく分かる。
しかし、人一倍小柄な彩季が190を超すモデル達の中にいると本当に子供のようで・・・・・三浦は面白くないというよ
うに眉を顰めた。
 「彩季!」
 自分よりも有名なモデル達。
だが、自分は彼らよりも遥かに彩季と親しいのだと見せ付けるようにその名を呼ぶと、ひょいっと振り向いた彩季は子供
のように手を振って笑った。
 「後で行くから、もう少しロビンと大人しく待ってて!」
 「・・・・・はいはい」
 苦笑を浮かべた三浦は、自分のイスの横にチョコンと座っているウサギのぬいぐるみを振り返る。何時も腕に抱いてい
ないと不安だと言っていたそれを、彩季は託すぐらいは三浦を特別に思っているようだ。
(ショーが終わったら覚悟しろよ、彩季)
 今日この日のショーの為に、三浦は彩季を最後までは抱いていない。彩季に大きなショックを与えない為だ。
それでも、それ以外の行為は一緒に住んでいる特権として楽しんでいたが、それも今日で解禁だった。
どうやって彩季を喜ばしてやろうかと思っていると、目前に迫っている大きなステージへの不安も無くなっていた。
 「蒋!」
 彩季が呼んだ。
幕の向こうから聞こえていた、観客のざわめきも静まり返る。
 「楽しんできてねっ?皆を蒋の魅力でノーサツしてきてよ!」
 「了解」
(意味分かってんのか?)
 三浦はステージの中央に立った。今日のメインは自分で、初っ端から登場する。
自分を一番魅力的に見せてくれる彩季の服を着て、彼が言ったように客を虜にしてやろうと思う。
 「・・・・・!!」
パッと照明が当たった。
眩いほどのフラッシュを全身に浴びながら三浦はその唇に不敵な笑みを浮かべると、彩季の服の魅力を存分に見せ付
けるようにゆっくりとステージを歩き始めた。




                                                                end




                               






気難しい世界的トップモデル(でも受けには甘い)×ゴスロリ美少年(常にヌイグルミ持ち)こちらも世界的に有名なデザイナー。

後編です。消化不良ですか?(笑)。

一応この後に、彩季の視点からの話「さいきのかわいいこ」をアップする予定。もう少しだけ進んだ2人が見れるはずです。