光の国の恋物語





プロローグ









 この世界に幾つかある大国の中でも、3本の指に入るだろう光華(こうか)国。
海も山もあり、緑に恵まれ、商工盛んなこの国は、光の国という別称も持つぐらい豊かな国であった。
現王は賢王としての誉れも高く、戦いよりも友好を結んだ方が得策という国々はかなりの数に及んでいる。



 そして、この国には、それぞれが皆母親が違う4人の皇子が存在していた。


 正妃が産んだ、皇太子である洸聖(こうせい)は25歳。
母親は貴族の出身だった。
黒髪に黒い瞳の涼しげな美貌の主、いずれこの国を担う洸聖は冷静沈着な、どこか冷めた目を持つ皇子だった。
頭はいいが、感情が乏しいのか喜怒哀楽がほとんど見られず、近々自分の許婚が国に来るというのに、婚儀の準備も全て人
任せにしているくらいだった。

 第二皇子洸竣(こうしゅん)は23歳。
国外の女を母に持つ彼は金髪に太陽の光の目を持つ陽気な性格で、女関係もかなり派手だ。
混血である自分には王位継承権はないと知っている彼は幼い頃から自由奔放だが、兄に対しては尊敬の念を抱いて忠誠を
誓っている。

 第三皇子莉洸(りこう)は19歳。
病弱な彼は兄達や弟よりもひと回り小さく華奢で、容姿の色素も薄く、人見知りが激しかったが、かといって大人しいというわ
けでもなく王宮の中を飛び回っている。
ほとんどを王宮で過ごしている彼にとっては自分の国さえ見知らぬもので、家族の愛情を一心に受けて暮らしていた。

 第四皇子洸莱は(こうらい)は16歳。
大人になりかけた危うい雰囲気を持つ彼は、黒髪に片方の目だけが碧という、不吉な兆候の象徴として生を受けた。
左右の目の色が違う王族は、いずれ王を討つ・・・・・。そんな迷信とも真実とも分からない言い伝えのせいで、10歳になるまで
離宮で育てられてきた。
王宮に戻ってきたのは、身体の弱い莉洸の遊び相手としてだ。



 それぞれが独特な性格と容姿を持つ兄弟だが、彼らはけして仲が悪いということはなく、むしろ年少の王子達は兄を尊敬し、
兄も弟達には愛情を注いでいた。



 そんな彼らの中で、今一番大きな出来事だといえば、皇太子である第一皇子洸聖の結婚だろう。
生れ落ちた瞬間から次期王となることを定められた洸聖には、5歳の時に許婚が定められた。
相手は北の国の奏禿(そうとく)の第一王女だが、これ程の大国である光華の王妃となるにしては、あまり裕福ではない国の王
女だった。
 事実、洸聖の許婚を発表した折は、自分の娘の方が釣り合うと、随分横槍が入ったものだが、現王はなぜか頑として聞き入
れず、許婚も変わることはなかった。
 洸聖自身は、相手の身分などはどうでも良かった。大事なのは国政で、妻は次代の王を産めさえすればいい。
 「兄様、明日、悠羽(ゆうは)様がいらっしゃるんですよね?」
 「・・・・・そうだったか?」
 「もうっ。兄様の花嫁ですよ?」
家族達しかいなければ、莉洸はまるで子犬のように元気だ。
 「・・・・・」
 「きっと、綺麗な方なんでしょうね〜、あ、もしかしたら可愛い方なのかな?」
 「可愛いならば莉洸に勝るものはいないし、美人というならば洸竣の上をいくものはいないだろう」
洸聖は書類に走らせていた視線を上げると、プ〜っと頬を膨らませている莉洸に僅かに笑みを見せた。
 「兄様ったら!竣(しゅん)兄様も文句を言ったら?」
 「俺は光栄だからな。兄上の選美眼は正しい」
 自分達の中に誰か他人が入ると何かが変わってしまう・・・・・そう感じる洸竣は実は洸聖の結婚にはあまり乗り気ではない。
無邪気に花嫁を憧れの口調で語る莉洸に呆れるばかりだ。
 「莱(らい)はどう思う?」
 「俺?一度も会ったことがない人だからな。どんな人だろうって思うけど」
 「何だ、皆もっと歓迎しないと!僕達の姉様になるんでしょ?」
 「まあ、20だからお前達よりも年上だな」
 「兄様!」



 莉洸の言葉の意味も分からないでもないが、洸聖も今まで一度も許婚である相手に会ったことが無く、何らかの感情を抱け
という方が無理だろう。
とにかく早々に子を作る義務を果たして、後は政に打ち込みたい。
花嫁も他に愛人が欲しいといえば許すつもりだ。
 「洸竣、悪いが明日の出迎えを一緒に頼む。あちらは供1人しかいないという話だ」
 「たった1人?」
 洸竣は眉を顰めた。
その理由が分かる洸聖は苦笑を零すしかない。
 「金が無いということだろう」
 「・・・・・呆れた。バカにされてないか?兄上」
 「他国の者が大勢入ってくるよりましだろう。相手がそれで良いというのならば文句を言う事も無い」
 「・・・・・」
確かに、花嫁の世話をする供がたった1人というのは少し・・・・・と、いうより、かなりおかしい。
光華ほどの大国に嫁ぐのならば、たとえ見栄であったとしても、後々は引き上げさせるつもりであっても、少なくとも20人は侍女
を連れて来ても当然な位だ。
それを、見栄も外聞も無く、必要最小限の・・・・・また更にその下をいくたった1人というのは、何か他に理由があるのではない
かと考えたいくらいだった。
 が、それを一々詮索するのも洸聖にとっては面倒なことで。
金が無い国ならば、それもありうるのだろうと無理矢理納得をしていた。
 「父上はどうなされた?」
 話を変えようと聞いてみると、洸竣はクッと笑みを漏らした。
 「8番目の愛人のもとだよ。今度は酒場の踊り子らしい」
 「・・・・・懲りないな」
 「俺、先に摘み食いしたけどね」
 「・・・・・洸竣」
 「一度だけだよ。踊っている時の方がよほど綺麗だった」
 「・・・・・」
 洸聖を産んだ王妃と死に別れて以来、父王は正式な妻を再び娶ることは無かったが、次々と妾妃を迎えている。
子供は今のところ自分達4人だけらしいが、あの父王のことで、後何人増えるかも分からなかった。
(欲にそれ程心を傾けられるものか?)
個人の問題ではあるが、問題は起こさないで欲しかった。